幸せの装置
産まれたばかりである自身の子供を連れ、鈴木博士は友人である田中博士の研究所を訪れた。迎え入れた田中博士が言った。
「やあ、今日はよく来てくれたね。お子さんも産まれたばかりだというのに、本来ならこちらから伺うべきなのだろうが…」
「気にしないでくれ。君も色々と忙しいのだろう。何でも、最新の装置の研究に時間を取られているとか…。実は、今日来たのは、その装置を見てみたくて訪れたというのもあるんだ」
正直な鈴木博士に、田中博士は笑いながら、
「なるほど、では丁度良い所に来たな。今しがた、その装置の試作機が完成した所なのだ」
と、何やら銀色の装置を机の上に取り出した。田中博士が装置の説明に移ろうとした瞬間、突然装置がけたたましく、「ビービー」と音を発した。
「おいおい、一体何だというんだ。これは何の装置なんだ?」
「驚かしてしまいすまない。これは、人間の幸福を感知する装置だ。この装置の傍にいる人間の幸せを感知して、音で知らせてくれる。きっと、子供が産まれたばかりの君の幸せを感知したのだろう」
そんな田中博士の説明に、鈴木博士は満面の笑みになり言う。
「それは素晴らしい装置だな。確かに僕は今幸せだ」
それからしばらくの時間、鈴木博士は田中博士と談笑すると帰っていった。鈴木博士が帰った後、田中博士は一人呟く。
「あんな幸せな人間を前に、迫っている死期を感知する装置などと、説明出来る訳がない」