5.突然の、涙
夫妻がなぜ自分のような家政婦を雇ったのか、蘭は最初の1週間で痛感した。
家主の優作は大抵書斎にこもっていて、それ以外では取材や打ち合わせといって出かけていく。
夫人の有希子は、朝早くに出かけていって夜に帰宅というパターンが多い。それでもオフの日には夫と息子の食事など用意していたというから、相当パワフルな女性だ。それだけに、蘭に1番感謝の言葉をくれるのも、彼女だった。
そして1番ひどかったのが、息子の新一だった。生活パターンという点では、有希子の方がはるかに規則正しい。同じ高校に通っていながら、なぜこれを知らなかったのか悩むほどだった。
ひとたび捜査に加われば、まさに寝食を忘れる。そして帰宅が深夜になることも珍しくないので、蘭は夜食だけ作って先に寝るようになった。知名度も社会的信用もある彼と違い、学校には毎日ちゃんと行かないと、日数に影響が出る。
ひと月もたつと、さすがに新一も慣れた。さすがに真っ暗ということはないが、灯りを抑えてある家に帰り、リビングでさりげなくラップにくるまれた皿を見つけると、(仕事のマメさへの)呆れ半分、感謝半分で、自然と笑みがこぼれる。
そしてふと、彼女にあてがってある部屋を見て、灯りがついているのに気付いた。
「あれ?まだ起きてたのか」
一応ノックして、声をかける。
「宿題か?蘭さ……」
言葉は途切れた。そして、また口許が緩む。
蘭は、問題集とノートの上に頭を乗せ、転寝していた。
「んなとこで寝てると、風邪ひくよ」
小さめに声をかけながら軽く彼女の肩を揺らした新一は、ぎょっとした。
彼女の目が、スタンドの淡い光に反射して、光っていたから。
それはまごうことない、涙だった。 |