15.求婚
年の瀬も迫ってきた頃、新一は両親が出かけた時を見計らい(というか、両親が気を遣ってふたりで出かけたのかも知れないが)、口火を切った。
「蘭さん、仕事は決まったのか?」
「ああ、まだ。業種にはこだわらないし、もう少しのんびり高校生活しようかと思って。
新一さんこそ、アメリカ行き決めたの?」
「──いや。オレは最初から、アメリカに行く気はないよ」
その答えに、蘭は目を見開いた。確か、前に尋ねたときは……。
「…意地悪したの?私が困るようにって?」
「違う」
苦笑まじりに答えてから、新一はまっすぐに蘭を見つめ、また口を開いた。
「賭けの、一つだったんだ」
「賭け……?」
「オレがアメリカに行くかもしれないって仄めかせば、蘭さんも、少しは心配になるかもってな」
新一の顔が心なしか赤いことに蘭が気付いた、次の瞬間だった。
「……オレ、蘭さんが好きだ」
すぐさま、蘭の頬が赤く染まる。しかし、話はそれで終わらなかった。
「高校卒業したら、結婚してほしい」
「……え……」
予想もしない言葉の連続に、蘭はしばし沈黙した。あちこちうろうろと視線をさまよわせ、口を開くも、言葉が出てこない。
「もちろん、蘭さんが嫌だっていうなら、無理にとは言わない」
ここで、新一の顔がいたずらっぽくなった。
「けど、オレ昔から欲しいものは何でも手に入れるたちだから、振り向いてくれるまで、これからも口説くと思うけどな」
いつから恋していたかは、よくわからない。
ただ、きっとあの時からだと思う。転寝する彼女の目に、涙を見たあの日。
──彼女にだけは、泣いてほしくない。そう思ったのだ。
「…で、でも、優作さんや有希子さんが何ていうか……」
あのふたりは蘭を気に入ってはいたが、息子の嫁となれば話は別のはず。が、新一は心配を粉砕した。
「ああ、それは問題なし。そもそも、アメリカ行きにオレを巻き込んだのは、蘭さんとの事を見かねてのことだから」
生来、ほとんどのことには要領の良すぎる息子のあまりの奥手さに、『新一がアメリカに行くかもしれない』と、有希子は蘭に吹き込んだのだ。
新一には最初から、行く気はなかった。何の約束もしていない蘭を置いてアメリカになんか行って、戻ったら彼氏がいた、なんて事になったら、後悔を通りこして笑えない事態になることうけあいだ。
問題は、蘭の気持ちのみ。そして──それは蘭自身、つい最近まで気付いていなかったことだ。 |