16.花の行方
受験を間近に控えた頃、蘭は友人を引き連れ、新一のクラスを訪れるようになっていた。
「最近は、呼び出し少ないわよね。やっぱり受験ってことで、気を遣ってるのかしら」
さすがに、受験生をあちこち引っぱりまわす訳にはいかない、ということか、最近は協力要請も減って、新一も『普通の受験生』に近い生活になってきた。
「別に、受験勉強より実際の事件の方がずっと面白いから、構わねーんだけどな」
新一の不謹慎な台詞にあわせるように始業ベルが鳴り、蘭は園子とともに自分のクラスへ戻った。
「にしても、本当に大学受けないの?奨学金だってもらえるだろうに……」
「いいよ。大学に行かなくたって、働き口ぐらいあるし。それより、卒業したら、園子にも会えなくなっちゃうね」
すっかり親しくなっていた彼女に、蘭は寂しそうにもらす。
とたんに、背中をバシンとたたかれた。そして見えたのは、いつもとまったく変わらない、親友の笑顔。
「落ち込むことないって!ちょっとぐらい離れたって、友達は友達なんだから!それに、なにも一生会えなくなる訳じゃないしさ」
「え……?」
丁度席に到着したので口をつぐんだ蘭は、今のその言葉を反芻した。
「……もしかして……」
玄関を入ると、見慣れたヒール靴が目に入り、新一は少々驚いた。
(……珍しいな。この時間に帰ってるなんて)
「母さん?どうかしたのか?」
リビングに入るなり声をかけた息子に、有希子はいきなり口をとがらせた。
「もう新ちゃん、いつまでかかってるのよ?」
「はぁ?」
「早く蘭ちゃん口説かないと、手遅れになるかもしれないわよ?」
「……、…っ!?」
一瞬ポカンとした新一だが、その意味を察するや、真っ赤になった。
「いっ、いきなり何だよ!つーか、本当にそのために、アメリカ行き決めたのかよ!?」
「あら、もちろん違うわよ。ただ、いいチャンスになるかもって思ってね、優作とふたりで決めたのよ」
焦る新一に、余裕の顔で返す有希子。海外移住なんていう決断を、息子に相談せず決定するところが、この夫婦の浮世離れしたところだ。
「とにかく、早い所口説いちゃいなさいよ!じゃないと、大事な花が折れたり、誰かに取られちゃうかもしれないんだから」
言い放つと、まことに珍しく夕食の準備を始めた有希子。新一は、そっとため息をついた。
「……普通、親が率先してすることか?」
自分の奥手さはこのさい棚に上げて、ぶつぶつ言いつつ、自室に引き上げる新一だった。 |