13.翳った空模様
「新一さんは、やっぱり東都大学なの?」
さして興味もなさそうに大学の偏差値リストを見ていた新一は、その声に顔を上げた。
「…来てたなら、声ぐらいかけてくれよ」
「かけたじゃない、今」
「……そうじゃなくて」
挨拶ぐらいしろよ、という言葉は出るまえに消えた。一応、蘭とはすでに挨拶しているのだ………家で。
受験を控えたこの時期には、ふたりはもうすっかり、公式にも『友人』になっていた。
あの時以来、過去からふっきれた蘭は、自分を広げることに精を出し、今度こそ友人を増やしていた。そして新一も引っぱりこみ、前以上の人気者にしていた。
「蘭さんは受けないのか?大学」
「ええ」
蘭は苦笑した。
「元々、高校も通う気なかったし。ちゃんと就職して、自活するつもり」
新一の顔がわずかに歪んだことに気付かず、蘭は次の授業のため、教室に戻っていった。
教諭が入ってきて、生徒が慌しく席につく中、新一はぼそりと呟いた。
「……まったく」
本当に全然気付いてねーのかな、あいつ。
彼女とクラスがまた離れ、合間にしか顔を見られないことを悲しむべきか、今のこの顔を見られずにすむことを喜ぶべきか、しばし悩む新一だった。
「ただいま帰り……あら?」
いつも通りにスーパーに寄って買い物を済ませた蘭は、玄関を入るなり聞こえてきた声に首を傾げた。
声の主である新一は、彼女の帰宅にも気付かないようだった。よく見れば、相手は優作だ。
「だから、何でそんないきなり……!」
「あ、あの……」
おずおずとした蘭の声に、ようやく振り返った新一は、一瞬固まった後、目をそらす。
「ああ、お帰り蘭さん。夕食の支度を頼むよ。そこの新一は、気にしなくていいから」
至って温和な優作に従い、蘭は新一を気にしつつ、台所に向かった。それを合図に、優作は新一の横を通りすぎて一言言うと、書斎に入っていった。
「まあ、時間はある。考えておけ」
「あの、何かあったんですか?」
うつむいたままの新一に、遠慮がちに問う。新一は目をそらしたまま、唸るように言った。
「…言ったろ。家でも二人だけの時は、敬語使うなって」
蘭は工藤邸では、常に敬語だった。学校では砕けた口調だが、それは学校では『友人』だからだった。未だに、家政婦云々の件は伏せていたから。
「……悪い。今ちょっと混乱してっから。落ち着いたら、話す」
夕飯いらない、とだけ言うと、新一は自室に去っていった。 |