12.親子の対話
「終わったな」
音もなく、リビングに入ってきた父に、新一は静かに振り返ると、うなずくかわりに瞳を伏せた。
「…なんで、オレに任せたんだ?父さん」
彼女の心の闇には、新一よりも優作のほうが早くから気付いていた。12年前の火事の詳細も、蘭がいた孤児院の場所も、調べたのは優作。しかし、彼はその情報をまるごと新一に渡し、手を引いた。
──彼女の心、お前が開いてみせろといわんばかりに。
「お前のほうがいいと思ってな。俺のは、ただの興味本位だから」
「………」
彼女の心を開くのは、優作ではなく、新一であるべきだと。新一が純粋に彼女を助けたいと思っていたことぐらい、とっくに気付いていたから。
「…こういうのは、父さんの方がうまく言葉を選べたと思うけど」
新一がいつもやっているのは、犯罪を暴き、問い詰めること。慰め、救いあげるのは、正直専門外だ。
「しかし、俺がどう言葉を使っても、結局は野次馬の延長だからな。お前は違う。…わかっているだろう」
「………」
新一は、少しだけすねたように父を見た。……そう、もうわかっている。自分が、なぜ彼女の悪夢を振り払うことにこだわったのか。
そして、目を泣きはらして真っ赤にしながら、しかし穏やかな顔で眠る蘭に、目を移す。
「……もう、過去の幻影なんか見せたくねーな……」
ほとんど囁くようにつぶやいた声は、それでも物音一つない静かなリビングに響いた。優作は黙って新一に背を向けると、自分の寝室へと消えた。
だから、彼が「父親の顔」で微笑んでいたことに、新一は気付くことはなかった。 |