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リアル
作:カトラス


 僕は王子であって、勇者でもある。でも、それは……現実世界の話では無い。

 僕がリアルでない世界にどっぷりつかってはや3年。
 そのリアルでない世界とはオンラインネットゲームであった。ゲームの世界では歳は14で、誰もがうらやむ容姿をしていて、職業は王子様。数々のモンスターやドラゴンを打ち倒してきた。城下の民衆は、僕の功績を称えて勇者様と呼んで、僕が街を通るたびに平伏する。先日の戦いにおいても、不死魔王と呼ばれていた化け物を、我が体に宿りし、剣と魔法によって打ち倒し、隣国の姫を助けだしたばかりである。いまでは、その姫は、僕の婚約者でもある。全てが順風満帆な日々。しかし……それはリアルで無い世界でのお話。

「隆志君、今日から学校にいってちょうだいよ」
 ゲームの世界では夜中なのに、現実世界では早朝。母親が僕の部屋越しで学校に行けと催促してくる。
 一気に現実世界に引き戻される嫌な瞬間。
「ママ、ちょっと熱があるみたいなんだよ、それにお腹も痛いし――学校休もうと思うんだ」
「何ぃ、言ってるのよ、隆志君。ママと約束したでしょ――3学期から学校行くってぇ」
 そうであった。すっかり忘れていたが、母親と3学期になったら学校に行くと約束していたのだった。
 とりあえず、今日だけは学校に行くかぁ、僕は勇者なんだ……約束は守らないとな。
「わかったよ、ママ。支度して学校に行くよ」
 僕の学校に行くという言葉を聞いて、母親は安心したのか、すぐに下の階におりていく音が聞こえた。
 学校に着いたら、すぐに先生に体調が悪いといって、保健室にこもったらいいしなぁ。そう思って、僕はひさびさに大嫌いな学校に行く事にした。
 
 僕の名前は現実世界では、田中隆志といって実に平凡な名前。あっちの世界ではラインハルトというかっこいい名前なのだが……歳は17で都内の男女共学の私立高校に在籍している。僕は入学当初から、同級生に激しいイジメを受けていたので、学校が大嫌いであった。それが、原因で学校にはほとんど行っていない。
 でも、今日だけ、今日だけは学校にいこう。王子たるもの、約束を守らないと民衆はついてきてはくれないのだから……
 現実世界の僕は実にひ弱だと感じる。なぜなら、学校に行くまでのモンスターのいない平穏な道を歩くだけで、もう肩で息をしている自分がいる。あっちの世界では、何日もかけて邪悪なモンスターのいる道なき道を歩いても全く疲れないというのに……なんとも、情けない。こんな、ひ弱な僕を見たら、軍師で友でもある、ランスロットは一体なんて思うだろうか? 「ラインハルト様、ここは我慢の時ですぞ!」と涼しい顔でさらりといってくれるだろうか? そんなことばかり考えて、僕は学校目指して歩いている。
 そして、ようやく学校の邪悪な門が見えたときには、朝礼開始5分前を知らすチャイムが鳴ったと同時であった。

 遅刻してなるものかと、僕は急いで教室に入った。クラスメート達の視線が僕に集中している感じがする。
「あいつ、死んだのじゃなかったのか? 何しにきたんだぁ! 相変わらずキモイね! 後で遊んでやろうよ」と言う、クラスメートのヒソヒソ声が聞こえてくる。特に「後で遊んでやろう」が僕の脳内に危険信号を送っているように思えた。
 僕は自分の席に座った。久々に見る机には心ないクラスメートが書いたのだろう。
「死ねぇ、キモイ、デブ眼鏡」って書かれている。隣の席の女子は嫌なものでも見るような顔をしていた。
 やっぱり学校なんかにくるんじゃなかった。さっさと先生に体調不良を訴えて――早く家に帰ろう。

 ほどなくして、担任の教師が教室に入ってきた。すぐに出席確認の点呼が始まる。
「田中隆志」
 小さく僕は「はい」と返事をした。
 その返事を聞いて担任は、
「おまえ、生きていたのか? めずらしいなぁ」
 教室がドット沸いた。クラスメートの笑い声が痛い。
 点呼が終わると、担任から校長先生の全校朝礼があるので、体育館にすみやかに移動するようにと指示があった。僕は、体調不良を担任に訴えるタイミングを逃してしまった。朝礼が終わってから担任に言おう。
 体育館に向かう為、廊下を歩いていると、クラスメートの一人が僕の後ろ足を蹴ってきた。後方から悪意のある笑い声が聞こえてくる。
「早く歩けよぉ、デブ眼鏡」
 くそぉ〜、早く家に帰りたい。そうしないと……

 僕はクラスメート達と体育館に整列させられた。整列させられても、後ろの生徒は僕の足首をこつこつ蹴ってくる。
「くせぇーよ、デブ眼鏡。フラフラしてんじゃねぇぞぉ!」
 それでも、僕は勇者だから、我慢した。
 追い討ちをかけるように、どうでもいい校長の長い話。僕はなんだか、立ちくらみがしてきた。前で整列しているクラスメートの姿がユラユラぼやけている。ダメだぁ、立ってられないと思ったとき、視界が突然暗くなった。

 気がつくと、僕はベッドで寝ていた。すぐに、ここが保健室だと分かるのに、さほどの時間はかからなかった。
「田中君、大丈夫ですか?」
 保健室の先生が意識が戻った僕に話しかけてきた。
「あのぉ、先生――僕はいったい?」
「朝礼中に突然倒れたのよ、恐らく貧血でしょうね。校長先生の話――長かったから……」
「そうだったのですか?」
「そうゆうことです!」先生は笑顔で言った。
「もう、顔色もよくなったし、気分がいいなら、教室に戻っていいわよ。今日は授業は昼までだし、といっても、もうお昼ね」
 保健室の壁に掛かっている時計の針は11時40分をさしていた。
 僕は時計を見て嬉しかった。もうすぐ、帰れる。
 こんなぁ、嫌な学校ともまもなくオサラバ出来る。
「先生、ありがとうございました。まだ、少しフラフラするので――チャイムが鳴ったら戻ります」
「はーい。ごゆっくりどうぞ」
 僕は授業途中に教室に戻ることが嫌だったので先生に嘘をいってもう少し、ここにいることにした。

 午前の授業の終了を意味するチャイムが鳴った。
 僕は、再度保健室の先生にお礼を言って教室に戻ることにした。
 教室に戻ると、クラスメート達は帰宅の準備に取り掛かっていた。
 誰も僕が教室に戻ったことなんて、気がついていないようだ。この間にサッサト家に帰ろう。そう思ったとき、クラスメートの一人が僕に気づいた。
「おーい、みんなぁ〜。デブ眼鏡が戻ってきたぞぉ!」
 教室にいた10人ほどの視線が僕に注がれる。僕の事をデブ眼鏡呼ばわりするこいつは、金子といって、入学当初から、僕の事をいじめる嫌なやつだ。顔は、あっちの世界でゴブリンと呼ばれているモンスターにそっくりで、歯並びの悪い汚い顔でニタニタ笑っていやがる。体育館で、僕の足を蹴った憎い奴。デブ眼鏡という、嫌なあだ名をつけたむかつく奴である。金子の声を聞いて、舎弟の木村が帰ろうとする僕の前に立ちふさがる。
「デブ眼鏡ちゃん、せっかく学校に来たのだから、俺達と遊ぼうよ! そうだぁ、お前ぇ、2学期ほとんど――俺達が勉強教えてやるよ!」
 木村の声を聞いて、話に聞き耳をたてたクラスメートが僕の周りを取り囲んできた。
「面白そうね」
 女性徒の一人がハシャイデいる。
「何ぃ、教えてあげるの?」
「そうだなぁ、マスターベーションでも教えてやるかぁ!」
「え? それってシコシコ? 自慰のことでしょう。面白そう、見たい、見たい!」
 金子が得意の腕力で、僕を教室の端においやる。
「おい、デブ眼鏡。シコシコ教えてやるから……早くズボン下ろせよ!」
「嫌、いやぁだよ、金子君」
 僕は些細な抵抗を見せたが、全く無意味であった。
「そっかぁ、おまえ、シコシコのやり方知らないのだなぁ? おい、木村ぁ、掃除用のビニ手持って来いよぉ! それで、お前がしごいてやれよ!」
「えぇ? 俺がやるの、金ちゃん勘弁してよ」
「いいから、早くビニ手もってこいよ。それで――お前がしごいてやれぇ、じゃないと……」
「ったく、あいよぉ、あんちゃん」
 金子の言うことは絶対なのだろうか? 急いで木村がビニ手をもってきた。
「おい、吉岡ぁ。デブ眼鏡を押さえつけておけぇ!」
 金子は隅で見ていた吉岡に僕を押さえつける指示をした。僕を羽交い絞めにする吉岡。
「面白そうなことやってるよ」
 噂を聞きつけてか? 隣のクラスからも、このイジメショーを見物しに生徒が集まってきた。
「お集まりのみなさん。これから、田中君いや、デブ眼鏡がシコシコを披露してくれますよ! 女性徒の方は目を背けないでね――滅多に見れないショーの始まり、始まり」
 僕を取り囲んでいる生徒達から拍手が巻き起こる。
「さぁ、木村ぁ、デブ眼鏡君のズボンを下ろしてあげなさい」
 僕のズボンのベルトを緩めると、一気に木村はズボンを下げた。女性徒からは歓喜とも悲鳴ともとれる声が漏れた。
「うひゃひゃひゃ、今時白のブリーフかよ」
 金子は下品な笑い声を上げている。
「パンツも早くおろしてやれよ」
「あいよ、あんちゃん」
 木村は僕のパンツをくるぶしまで下げた。
「キャァァー」興味深げに見ていた女性徒達から悲鳴が上がった。
「見てみろよ――こいつ皮被ってやがるぜ! ウキャキャキャ」
 みんなの悪意のまなざしが、僕の下半身に注がれる。もう、死んでしまいたい気分だ。
「さてと、木村ぁ、そいつのナ二をビニ手でしごいてやれよ。こいつは、自分でしごきたくても両手をおさえられてるから自分でしごけないからなぁ――しっかり皮もむいてやるんだぞ!」
 木村は右手にビニ手を装着すると、容赦なく僕のナ二を上下にこすりだした。
「女性の方はもっと近くにきて見てやってくださいな、そのほうがデブ眼鏡も興奮するから」
 何人かの女性徒は僕が下半身を露出された時点で逃げていったが、このショーを金子が提案した時に「見たい、見たい」と金子を煽った女子は、僕の下半身の間近に顔を寄せた。
「うわぁ、なんかぁ、先っぽ濡れてきたよ、こいつ……」女性徒はおおげさに驚愕の表情を見せていた。
 僕は頭の中の自分に自問自答する。
 何でぇ、王子で勇者でもある僕がこのような憂き目にあわないといけないのだろうか! 昨日までのあっちの世界での僕は神に祝福されていたのだろう。ランスロットよ! 僕の頭の中でランスロットが答える。
「これは、きっと悪夢でございますよ! でないと……あまりにも……酷いでございます」
 悪意に満ちたショータイムは、いよいよ僕の意思とは裏腹に終盤をむかえようとしていた。金子の思惑通りに僕のナ二は女子に見られているという恥辱的状況に不肖にも敏感に反応することになり、木村の一定に繰り返される上下運動に我慢できなくなり爆発してしまった。
「キャァァァー」
 女子の悲鳴が全てを物語っていた。
「汚ねぇなぁー、こいつ」
 発射と同時に僕の周りに集まったギャラリーは、一目散に蜘蛛の子をちらすように逃げていった。
 教室に残っているのは、僕と金子と木村に吉岡の4人だけだった。
「楽しませてもらったよ、デブ眼鏡ちゃん。明日もちゃんと学校こいよ、もっと面白いこと考えておいてやるからさぁ」そう言って、金子は僕の肩をポンと叩くと鞄を持って教室から出て行った。後を追うように取り巻き2人も教室から出ていった。
「おまえ、サイコーだな」と捨てセリフを残して。

 僕は、一人教室に取り残された。一人になったとたん、涙がこぼれだした。
 ちくしょう、ちくしょう。僕がいったい何をしたんだっていうんだ。ひさびさに学校にきただけだろう。
 もう、死にたいよ、死にたい。僕なんか、生きていたって……一生イジメられるだけなんだ。だから、いっその事……
 そんな時、ランスロットの声が頭の中で響いた。
「ラインハルト様、死ぬなんて、情けないこと、おっしゃらないで下さいませ。たかが、ゴブリンどもに一度敗北しただけでございます。やられたら、やり返すのです。今までの戦いのように……」
 ランスロットの言う通りだと思った。
 今までの試練に比べたら今日の出来事など、取るに足りぬことなのだ。
 ありがとう、ランスロット、いや我が友よ!
「礼にはおよびませぬぞ、ラインハルト様。来るべき日のリベンジの為、城に帰って支度をしましょうぞ!」
 僕は頬を伝わる涙をふりぬぐうと、鞄を持って帰宅する、いや帰城することにした。
 帰城途中、来るべき日のゴブリンとの戦いの為に量販店に立ち寄り、武器装備の支度を整える事に僕はした。量販店で鉈やハンマーなどの武器を買い揃えて、僕は帰城した。

 帰城すると、母親が出迎えてくれた。
「隆志ちゃん、学校どうだった?」
「うん。みんな、いい奴ばっかりで楽しかったよ、ママ」
「やっぱり、学校っていいものでしょう。ママ安心したわぁ」
「ママ心配しなくていいよ、宿題あるので部屋に篭るけど心配しないでね」
 僕は部屋に戻ると、早速パソコンを起動させた。見慣れた画面がすぐにモニターに写しだされる。画面内の指示に従いセーブデーターをロードさせる。画面内に美男子の僕がランスロットを従い現れる。ここでは、もう誰も僕の事をデブ眼鏡とは呼ばない。会う人々が王子様とか勇者様とか言って平伏する。僕は神殿にいって転職する事にした。なぜなら、今の勇者の職業では、さきほど量販店で買った鉈やハンマーなどが装備出来ないからだ。これが、装備出来る職業は……バーサーカー(狂戦士)のみである。レベルはマックスに近い状態なので、ものの数分で僕はバーサーカーに転職した。
 バーサーカーに転職した僕は、新しい職業に早くなれる為に武器を装備して街の外に飛び出した。都合のいいことに、レベル7のゴブリン兵が現れた。僕はゴブリン兵の頭に容赦なく鉈を振り下ろす。ゴブリン兵の脳天からは緑色の液体が飛び散った。突き刺さった鉈を勢いよく脳天から引き抜くと、ゴブリン兵は脳天から緑色の血しぶきをあげて、もがき苦しみながら絶命していく。画面にはEXPの文字が躍っていた。
 しかし、ゴブリンは弱っちいモンスターだと、この時、僕はつくづく思った。こんな弱い奴に今日学校でやられたと思うと情けなくて、また涙が流れた。よし、明日リベンジしてやるぞ!
 僕はそれから、数時間ほどゴブリン兵をなぶり殺すと宿屋にいって明日の決戦の為、休息をとることにした。セーブしますか? 勿論「はい」である。

 すぐに、次の朝が訪れる。バーサーカーになった僕を止める事は、もはやままならぬ。それは、パラディンのランスロットでさえ難しいことであった。無敵の力を得た僕は、鞄に武器を忍ばせて、悪の巣窟に単身乗り込むことにした。
 悪の巣窟にたどりついた僕は、僕の席に取りついているゴブリン金子一団を発見した。
 むこうも、僕の姿を見るなり、ニタニタ笑いながら慣れ慣れしく話しかけてくる。
「デブ眼鏡ちゃん、今日も楽しく遊びましょう」
 僕は鞄から鉈を取り出すと、ゴブリン金子の首筋に鉈を振り下ろした。鈍い音がして、金子の首半分が垂れ下がっている。切り口の首下からは、大量の血が噴出している。
「キャァァァー」
 昨日と同じく女子の悲鳴が教室内に木霊した。床に倒れた金子はピクピク痙攣していた。
 次に倒れて痙攣している金子の横にブルブル震えて腰を抜かしている木村の脳天に鉈を振り下ろす……
 続けて吉岡に――昨日、僕のことをバカにした魔女に……
 
 僕の体は殺戮の快感にうち震える。
 この瞬間、リアルの世界で…… 僕は勇者になったのだった。      了。














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