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女子高生としゅりけんと折り鶴と

作者: 神無月 愛

遊森謡子様企画、春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。


●短編であること

●ジャンル『ファンタジー』

●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』


詳細は遊森謡子様の3/20の活動報告

http://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/126804/blogkey/396763/


まとめサイトは

http://shinabitalettuce.xxxxxxxx.jp/buki/index.html

こちらも良かったら見てみてください。

「どうしてあたしなのよ! あたしなんて全然そういうキャラじゃないのに。どうせならすっごい美人とかナイスバディとか運動神経良い子とか選べばいいでしょ!」

 あたしはここ数日、ずっと怒っていた。もう怒るのにも飽きてきたけど、ここで諦めたら何かに負ける気がするからヤダ。

「まあまあアヤノ、そう怒るなって。召喚なんて滅多に経験できるもんじゃないぞ?」

「当り前よっ! んな手軽にポンポン召喚されてたまりますか!」

 あたしの名前は折紙辺(おりしべ)絢乃(あやの)、16歳。この世界に召喚される前は、ふつーに東京で女子高生なんぞエンジョイしていた。というより、やっと入学した高校に馴染んで楽しくなってきたトコだったのよ! 帰る方法は……とりあえず目的である魔王退治を済ませないとどうにもならないらしい。つまりしばらくは帰れない。あたしの高校生活を返せー! これも、あたしの不機嫌に拍車をかける一因になっている。このパーティーで旅に出てから九日間、道中でも宿でも野宿だろうと仏頂面を崩してない。そろそろ自分で自分の根気に呆れてきた。

「アーヤーノー、頼むから機嫌直してくれよぉ。」

 そして、そんなあたしの不機嫌による被害を一番受けているのがこの男。情けない表情で、なだめすかすようにあたしの顔を覗き込むキーン・ナディウス。立ち位置、勇者。とは言うものの……今のところまだ戦闘の機会がないので(ありがたい事なんだけど)、いまいち勇者っぽくない。他の面々は、機嫌が直るまで放っておこうという事になったのかあたしをあまり構わないのだけど、彼だけは何だかんだとあたしにちょっかいを出しては八つ当たりされてる。あはれ。これも勇者、というかパーティーの一応トップとしての責任感なのかな。

「なあ、俺らに対して怒ってるわけじゃないよな? 仲間として、一緒に戦ってくれるよな?」

 キーンはそう言うと、さらに眉尻が下がって情けない表情になった。確かに彼らに怒るのは筋が通らないと自覚してはいるので、不承不承頷く。

「……分かってるわよ、あなた達が悪いんじゃない事くらい。けど、戦えって言ったって、あたしに何が出来るって言うの?」

「……。」

 だって、あたしを召喚してこのパーティーに加わらせた神官のおっさんってば、あたしにどんな戦闘能力があるのか具体的に説明してくれなかったんだもん。「そなたが名に冠する物が、そなたの武器となろう」ですって。名に冠する物って何よ。絢とか乃とかって字はまあ関係ないだろうな。あとは苗字、おりしべ……ん? (おり)()()……まさか。

 あたしはふと思いついて、召喚された時に持っていたショルダーバックを荷物の底から引っ張り出す。あの時はちょうど友達の家へ遊びに行く途中で、結構いろいろなものが入ってる。その中から、15センチ四方の四角いものを取り出した。突然のあたしの行動に、キーンもみんなもきょとんとしてる。

「なんだ、それ? 君の故郷の……トウキョウとかいう国のものか?」

「東京は国じゃないわよ、キーン。これは、折り紙って言うの。あっちじゃ子供の遊び道具よ。」

 そう言いつつ、買ったばかりだったいろがみの袋を開けて数枚選ぶ。あたし、折り紙遊びは得意で、その友達の弟妹にいやに懐かれちゃったのよねー。奈美ちゃんに昇くん、ごめんね、絢乃おねーちゃんが色々作ってあげるって約束、守れなくて。

 取り出した二枚を手早く折って、二つでワンセットとなる対称の形のパーツを作る。んで、組み合わせたら……

「しゅりけん完成!」

 これが、男の子には一番うけるのよ。よく作るものだから、作り方暗記してる。

 それを目の前にかざすようにして、あたしを囲んで成り行きを見守ってるキーン以下五人に説明する。さっきまで怒ってた事なんて今はどうでもいい、ちょっと忘れておく事にした。

「あたしのいた国……日本に昔いた、忍者っていう人たちが持っていた武器の形を模したおもちゃ。ホンモノは鉄……なのかな、何か金属で出来てて、ここが刃になってて、投げた先のものに刺さるの。」

 我ながらかなり大雑把な説明だと思うけど、あたし自身よく知らんのだから仕方ない。

「投げて使うのか?」

「うん、こんな感じで。」

 手首のスナップ利かせて、フリスビーのように投げてみる。紙とは言えそこそこ重さのある手裏剣は勢いよく飛んで、

 近くにあった木に突き刺さった。

「ええ!?」

 嘘でしょ!? 思わず叫んだ。ちょっと待て、何が起こったの? 折り紙が木に刺さるなんて、聞いた事ないぞ。妙に感心してる五人は放っといて、そっとその木に近付く。うん、ガッツリと結構深く刺さってる。そっとつまんで引き抜いてみると、破れることもなくそのままの形で抜けた。

「硬い……?」

 見た目は変わってない。特に考えずに紙を選んだ所為で、赤と黄緑というユカイな色合いのしゅりけん。見るからに紙製と分かるシロモノだ。にも関わらず、両手でつまんでも曲がらない。金属としか思えない指ざわり。

「ちょ、ちょっとアヤノ。」

 キーンが遠慮がちに声をかけてきた。

「な、何?」

「それ、俺もやってみてもいい?」

 ……えーと。

 子供か、あんたは。興味津々で、目がキラッキラしちゃってるよ。ほんとにこれが20代後半の男の顔か。でも……、ちょっとかわいい。

「はい、いいよ。自分の手に刺さないようにね。」

 ついうっかり子供相手の注意をしてしまった。けど、赤と黄緑のしゅりけんを受け取ってはしゃいでるキーンはまるで小学生のように見えてくる。ガタイは立派に大人なんだけど、どうしたもんかな。キーンは先刻あたしがやって見せたようにしゅりけんをつまんで投げる。あたしより明らかに速い腕の振りで投げられたしゅりけんはそのままのスピードで飛び、今度も同じ木にぶち当たる。けれど。

「あれ?」

 キーンが間の抜けた声をあげると同時に、しゅりけんはポトっと地面に落ちた。あたしも目を丸くして、いそいでそのしゅりけんを拾い上げる。

「え……。」

 思わず絶句。しゅりけんは、紙に戻っていた。両手でつまむと簡単に曲がる。木にぶつかったからだろう、一つのとんがりの先がひしゃげていた。さっきまで硬かったことが嘘みたいな、ただの折り紙のしゅりけんだった。

「どういう事?」

「それ、わたくしにもちょっと見せてくださいませ。」

 あたしの真後ろにいた少女・エレサがそう言って、あたしの手からしゅりけんを引っ手繰った。彼女は、言ってしまえば魔法使いってやつ。もっとも守護魔法と治癒魔法が得意で、戦闘要員ではない。まだ12歳の女の子だもん、当り前か。エレサはしゅりけんをじっくりと調べると、おもむろに呟いた。

「アヤノさん、硬化魔法を使えましたの?」

「は? こうかまほう?」

「ええ。でも普通はそう簡単に使えるものじゃありません。膨大な魔力と、とっても長い呪文が必要なんですもの。それなのに、呪文もなしにそんなやすやすと……」

 綺麗に済んだエメラルドグリーンの瞳を見開いて、あたしの指先を穴があくほど見つめるエレサ。みんなの視線も集まり、あたしもつられて自分の手をまじまじと見る。この手で、戦える。あたしのこの手で、武器を生み出して。

「キーン!」

「なっ、何?」

 あたしは、ちょっと怯えたようなキーンにほとんど掴みかかるような勢いで、目を輝かせて叫んだ。

「この世界で、どうやったら紙を手に入れられる?」


 それからというもの。あたしは、勇者キーンや魔法使いジェスについで、このパーティーの三大戦闘要員になった。

 キーンに教えてもらったところで紙を買い占めて、あたしが作ったのは手裏剣と、紙を切り抜いた大きな剣の形。紙の剣でも結構威力あるのね。そういえばよくノートやプリントの端っこで指切っちゃったりしたなあ、なんて思い出したりして。必要な時だけ硬くして、長いから普段は折りたたんでイン・ザ・バッグ。持ち運びが簡単でいいわよぉ。手裏剣も、紙ならショルダーバックに無造作に入れといても自分の指傷付ける心配ないもの。そそっかしいあたし向きの武器だわ。

 それと、意外と一番使えたのはなんと折り鶴! これは硬化魔法じゃなくて、自分の意思で飛んでって、偵察と報告までしてくれちゃう。いい子で可愛くて、あたしやエレサはほとんどペット扱い。生き物ではないけど。魔物集団vsパーティーで戦ってる時には伝令の役割も出来るから、一人に一羽作ったの。キーンや男性陣もみんな名前付けて可愛がってくれた。

 その他にも色々試してみたけど、あたしの能力(ちから)が使えるのはやっぱり紙だけみたい。ちっ、他の物にも使えたらまた武器の幅広がったのにぃ。まあ無いものねだりしても仕方ないか。

「それだけでもすごい事ですわよ、アヤノさん。それに、嬉しいです。わたくしもこうしてお役に立てるのですもの。」

 治癒魔法が得意で薬草に関する知識も豊富なエレサが、愛用の大鍋を火にかけてかきまわしつつ言う。彼女が今作っているのは、薬ではなく毒。薬になる原料が毒にもなるってのは面白いとは思うんだけど、化学の実験みたいであたしの頭には全くついて行けない。エレサに作ってもらっているのは、睡眠薬と致死性の毒の二種類。紙に染み込ませて、しゅりけん作り置きするの。傷口から体内に入って効くタイプの毒だから、普通に触っても安全ってわけ。今まで怪我の治療や武器の補強といったバックアップしか出来なかったエレサはこういう面に能力を発揮できてよっぽど嬉しいらしい、ノリノリで薬を調合してくれてる。

「アヤノさん、こんなの如何ですかしら。いつもの麻酔薬よりニガハィウを多くしてパユーリェの花弁を加えてみましたの。どんな大きな魔物でもたっぷり二時間はシビレますわ!」

 余談だけど、この世界の薬草名はどう頑張っても聞きとれない。日本語との共通の概念がないので、あたしが髪飾りのように着けてるロィーリヴの葉(魔法がかけてあって、翻訳機みたいな役割をしてくれてる)が変換してくれないのだ。つまり、これを外すと他の言葉も何一つ聞き取る事すら出来ない。

 まあそんな事はいいとして。パーティーの男どもも震え上がるエレサの技術のお陰もあって、あたしの武器はかなりの威力を発揮した。鶴たちは戦闘の合間を縫って飛んで、伝令したり敵を突っついたり。手裏剣のコントロールも短期間でほとんど百発百中になったし、当たりさえすればこっちのもの。毒の力を借りてない剣だってザコは一撃必殺、真っ二つよ。魔王らしき敵も意外なほどあっさり倒して、もとの町に戻った頃にはあたしは女戦士としてすっかり有名になっていた。このあたしが女戦士なんて! いやはや、噂って怖いものだわ。ま、嘘じゃないし、悪くない気分だけど。

「兎にも角にも、ホッとしたー。正直生きてここに帰れると思ってなかったもの。」

 最初にパーティーのメンバーとあった宿屋で荷物を下ろして、あたしはちょっとした冗談のように軽いノリで言った。周りもちゃんと冗談と受け取って笑っている。あたしは特に何にも考えず、ふと思ったことを呟いた。

「これで、あたしもめでたく元の世界に帰れるのかな。」

 言った直後。言うんじゃなかったと後悔した。喋っていたキーンとジェスが、急に黙り込む。みんなと、旅の間にすっかり仲良くなっていたもんね。あたしだってちょっと寂しい。

「……ごめん。」

「いや、こっちこそ悪かった。もう、旅は終わったんだ。元の世界に帰ることが、アヤノにとって良い事だからな。」

 優しく笑って肩を叩いてくれたジェス。いつも本当のお兄ちゃんみたいに優しくしてくれて、大好きだったよぉ。思わず泣きそうになる。なんだか……帰りたくないな。

「その事なんですけど、アヤノさん。わたくし、ひとつ気になる事がありますの。」

「何? エレサ。」

 振り向いてみたら、エレサは眉間にしわを寄せて何か考え込んでいた。そういえば彼女、ここへの帰り道ずっと口数が少なかった。あたしと彼女はとっても仲良くなってたし、見えてきた別れが寂しいのかとばかり思ってたけど。

「最後の戦いの時、魔王と思っていた一番大きな魔物が、事切れる直前に何か言いましたでしょ。ほとんど聞き取れませんでしたけど……。僅かに聞き取れた音を再現して増幅して、繋ぎ合わせてみたんです。」

「そんな事できるの?」

「ええ、時間は掛かりましたけれどね。そうしたら……」

 エレサが取り出したのは、オルゴールのような小さな箱。彼女のお手製で、仕組みは分かんないけど色々と音のデータ(?)が保存されてる。もっぱらの使い道はキーンなどの失言を録音してからかって……っていう魔力の無駄使いばかりだったんだけど、今回はちゃんと役に立ったんだ。エレサが箱の中をいじると、雑音も何も無い聞きやすい音声が流れてきた。毎度ながら、魔法ってすごい。

『…マオウハ…マダ、イキテイル。ココニハ…イナイ……』

「魔王はまだ生きている、ここにはいない!?」

 キーンが聞こえた言葉をそのまま繰り返す。全員、驚きに目を見開いた。ジェスは頭を抱えた。

「何てこった……あいつは魔王じゃなかったのかよ!」

「って事は、あたしはまだ帰れないのぉ?」

 あたしも叫ぶ。確かに、魔王にしちゃやけにあっさりした敵だとは思ったけど……。せっかく、ラスボス倒せたっていい気になってたのに! 中ボスじゃ、あたしの能力も大したことない感じじゃないの。

「またこれで振り出し、ですわね……」

 エレサもしゅんとして俯いてしまう。そうだよね、せっかく頑張ってきたのに。

「また、旅に出なきゃな。」

 そう言うキーンが嬉しそうで、あたしは思いっきり睨み付けてやった。気付かないキーン。鈍いんだから。

「魔王を倒すのが、俺達の使命だ。何度ふりだしに戻ったって、また始めなきゃならない。」

「分かってるわよ、そんな事。」

「俺はこのメンバーが好きだ。だから、嬉しいんだ。もう一回みんなで旅ができて。」

 満面の笑みで言い切るキーン。勇者って言うのは伊達じゃない、むちゃくちゃ強い彼にとって、魔王討伐って言うのはただの旅の口実みたい。そんな楽なもんじゃないのに。けど、この笑顔みてたら、考えるのが馬鹿馬鹿しい気分になってきちゃった。

「このノーテンキ勇者が。帰れないんじゃしょうがないもの、付き合ってやろうじゃない。」

 あたしはキーンの頭をどついて笑った。まだみんなといられることが、少なからず嬉しかったから。

 この調子じゃ、日本に帰るのはかなり先の話になりそうね。

あんまり武器がメインの話になりきれなかったような…

お粗末さまでした。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんばんは、遊森です。 このたびは武器っちょ企画にご参加いただき、ありがとうございました! 「手裏剣ならソラで折れる、折れるよ! 私もこの世界にトリップしてもやっていけるかもー!」と思いなが…
[気になる点] ”しゅりけん”はなぜ手裏剣ではないのでせう。 [一言] という与太話はさておいて、読ませていただきました。  読みながらふと、「紙で手を切ったことあるなあ」などと思ってしまいました。…
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