第八話:初めての探険
翌日。
空は昨日の嵐が嘘のように晴れ渡っていた。
いつものように朝礼を終え、みんなが仕事に掛かろうとしたとき、ペラップがみんなを引き止めた。
「えー……みんなに伝える事がある。
ここから北東に行ったところに『キザキの森』という森があるのだが………その森の時の歯車が、何者かに盗まれてしまったらしい。」
………え?
周りがざわめいた。
「一体……誰がそんなことを?」
振り絞るようにヘイガニが言った。
「わからない。
だが、キザキの森は、時が止まってしまったらしい。」
「時が、止まった、だと!?」
みんな驚きを隠せない。
ペラップは、静かに話している。
「時が止まったキザキの森は……風も吹かず……雲も動かず……葉っぱについた水滴すら落ちない……」
いつもは騒がしいくらいなのに、今はとても静かだった。
「既にジバコイル保安官が、調査に乗り出している。不審な者がいたら、知らせてほしいとのことだ。
伝える事は以上だ。
それじゃあみんな♪仕事に掛かれ♪」
『おおーっ!!』
時の歯車を盗んで、一体何をするつもりなんだろう?
「ああ、お前達。ちょっと来い。」
思案していると、ペラップに呼ばれた。
何だろう?
「お前達、ギルドにもだいぶ慣れたな。特にこの前のスリープの件は見事だったぞ♪
そこでリリーフ、今日はお前達に、初の探検隊らしい仕事をやってもらう♪」
「ホント!?やったぁ!!」
驚き、そして嬉しさに声を上げたのは、臆病だけど探険大好きのカズキだった。
「ヒナタ、地図を出してくれ。」
「はい。」
私は地図を広げた。
ペラップは翼である場所を示した。
そこは地図で見るかぎり、何の変哲もないただの滝だった。
「この滝は一見普通に見えるのだが、実は何か秘密があるのではないか、という情報が入った。
そこで、お前達にこの滝を調査してほしいのだ。
目的はわかったな?」
「はい!」
「よし♪それじゃあ頑張ってくれ♪
……おや?どうしたカズキ?震えてるのかい?」
「……………」
見るとカズキは、身体を震わせ、涙まで流していた。
「だ、大丈夫かい?」
「……うん、大丈夫。武者震いだよ。僕、初めて探検隊の仕事が出来るんで……感動してたんだ…。
うう……僕、なんか凄くワクワクしてきたよ!
ヒナタ!頑張ろうね!!」
「え、あ、うん……」
完全に自分の世界に入ってるよ……ま、わからなくも無いけどね。
「ここが、ペラップに言われた滝よね?」
カズキを自分の世界から連れ戻して、さっそく滝を調べに来た。
「その筈だよ。でも周りには何も……イタッ!?」
「?!大丈夫カズキ!?」
「う、うん。でも、あの滝凄いよ。近づくだけで吹き飛ばされそう……。
ヒナタも気を付けて。」
「うん……、っ!?」
バシュッ!!
カズキの言うとおり、吹き飛ばされてしまった。
「(凄い勢い、ちょっと触っただけなのに……)
これじゃあ迂闊に近付けない……っ!?」
ぐわん……
「(め、目眩?ま、た……)」
キーーーン!
見えたのは一匹のシルエット。
そのシルエットは、この場所にいて数歩下がったと思うと、滝に突っ込んで行った!
滝の中は洞窟になっていて、シルエットはそのまま進んで行った。
シュピン!
そこで映像が途切れた。
あのシルエット、もしかして…。
「ヒナタ、どうしたの?」
私は目眩のことを話した。
前の事もあり、今回はすぐに信用してくれた。
「なるほど………それで、ヒナタはどうしたいの?
やっぱり行ってみたい?」
「う〜ん………」
あの目眩が本当なら、確かに行ってみたい。
でも、もし滝の裏がただの壁だったら……私達は滝壺に真っ逆さまだ。怪我だけじゃ済まないかもしれない。
でも、行動を起こさなければ、何も変わらない。
ちょっと危険でも、ここは!
「……行く。ここにいても意味ないし……初めての探険をここで終わらせたくないしね!」
「……そっか。うん、わかった!
ちょっと……いや、かなり怖いけど、勇気を出して行ってみよう!あの滝の中へ!!」
「カズキ……。ありがとう!」
私達は数歩下がる。
「カズキ、あの滝は勢いが凄い強い。思い切り行かなきゃ突破できない。
本気で行こう!」
「うん!
(怖いけど、ヒナタもいるんだ!勇気を出さなきゃ!!)」
「行くよ……、3、2、1………それ!」
滝の中へ突っ込んで行った。
「うわぁ!!」
ごろごろごろ……どかっ!
「痛ァ……鼻打った……」
「うう…、ここ、どこ?」
見回してみると、目眩で見たあの洞窟だった。
「洞窟?じゃあ、やっぱりヒナタは正しかったんだ!やったぁ!!」
「カズキ、信じてなかったの?」
「え?そ、そんな事ないよ!さ、早く行こ!」
「(流された……)」
私達は洞窟の奥へ進んで行った。
…それにしても、目眩で見たあのシルエット……。
あれは………いや、カズキには黙っておこう。
シルエットが誰なのかは……
洞窟の中は、滝の裏からか水タイプが多かった。
カズキは相性が悪いので、湿った岩場と同じ要領で進んで行った。
しかし、湿った岩場より階数が多く、少し苦戦したが……
しばらく進むと行き止まりになった。
しかし、周りには大小さまざまなたくさんの宝石があった。
「うわぁ〜!凄いね!!」
「うん!…あっ、あそこに大きな宝石があるよ!」
カズキがさす方向には、とても大きい宝石が壁に埋め込まれていた。
「こんな大きな宝石見たことないよ!!」
「ホント!凄いお宝ね!!」
普段冷静な私でも、さすがにテンションが上がった。
「これ持って帰ったら、みんな驚くだろうね!」
カズキは宝石を引き抜こうとした。
「う〜〜〜ん!う〜〜〜ん!」
「頑張って、カズキ!」
カズキは思い切り引き抜こうとするが、ビクともしなかった。
「はぁはぁ……。
駄目だぁ…。ヒナタ、バトンタッチ。」
「えっ、わ、私!?」
♂のカズキが抜けないのに、♀の私が抜けるわけ無いでしょ!と思ったが、やらないよりはマシか、と思い、宝石にツルを巻き付けて引き抜こうとした。
「(ぐっ……か、硬い!全然動かない!)
はぁはぁ……。無理、動かない…。」
「ヒナタでも駄目かぁ……
……いや、諦めなければなんとかなるよ!もう一回やってみるね!」
カズキは、また引き抜こうとし始めた。
「(頑張るねぇ。でも、全然動かないよね……っ!?)」
ぐわん……
「う……(これは……あの目眩?)」
キーーーン!
見えた映像は、先程のシルエットだった。
シルエットは宝石を見つけると、引き抜こうとした。しかし抜けない。
するとシルエットは何を思ったか、宝石を押した。
カチッ!
そんな音がした。しかし何も起こらない。
ところが、突然地響きが起こった。そして同時に、津波が押し寄せてきた!
シルエットは逃げようとしたが、逃げ切れずに流されてしまった。
シュピン!
今のって……罠!?
「う〜〜〜ん!
だあーもう!引いて駄目なら、押してみろ!!」
カチッ!
カズキは苛立って宝石を押した。……って!
「カズキ!それ押しちゃったの!?」
「えっ?駄目だった?」
地響きが始まった。
「え?ええ?」
カズキはまだ状況がわかっていないようだ。
「逃げるわよカズキ!!」
「な、なんで?!」
「説明してる暇はなーーーーい!!!」
そんな事をしてるうちに津波が来てしまった。
「津波ィィィィィ!!?」
「うわあぁぁぁっ!!?」
私達は、津波に呑み込まれてしまった。
津波に呑まれ少しすると、上に吹き上げられた。
「落ちる〜〜!!」
バシャーーーン!
うぅ……あれ?温かい?
「ここは、一体……?」
「ちょっと貴方達大丈夫?貴方達上から降ってきたのよ?もうビックリしたわよ!」
降ってきた?私達が?
………ああ、そうだ!
私達津波に流されて……噴き上げられたんだっけ……
「ここは、どこ?」
「ここは温泉よ。」
「温泉!?」
「そう。ここは温泉じゃ。」
後ろから声が聞こえた。
振り返ってみると、ゆっくりとした足取りで一匹のポケモンがやってきた。
「この温泉は肩凝りなんかによく効くでの、たくさんのポケモン達が訪れるんじゃ。」
「コータスさんは、トレジャータウンの長老さんなんだよ。」
近くにいたヒメグマが言った。
よく見ると、トレジャータウンにいる、ヒメグマやリングマがいる。
「ほっほっほ!気軽に呼んでくれてかまわんよ。
お主達、地図は持っておるか?」
「え、ええ。あります。」
私はバックから地図を取り出した。
「ほれ、ここが温泉じゃ。」
トレジャータウンから見て東南東、滝から見て南東の場所。そこに温泉があった。
「ここ!?相当流されちゃったね、僕達……」
「なんと!お主達、そんなところから流されてきたのか!?
大変じゃったのぅ……、ここでゆっくり休んでいきなされ。」
「ありがとう。そうするよ。」
仕事中、とも思ったが……いいよね!
私達は、しばらく温泉に浸かっていく事にした。
ゆっくりと温泉に浸かった私達は、ギルドに戻りペラップに報告した。
「フムフム……なるほど。
つまり、滝の裏には実は洞窟があって、そこの奥には大きな宝石があり、そこを押すと罠が作動して、なんと温泉まで流された……。
と言う事!?」
「はい。」
「残念ながら、宝石は取ってこれなかったけどね……」
悔しそうに言うカズキ。
正直私も悔しい。
初めてだったから、と自分を立て直そうとしても、目の前に宝があったのに……何も持って帰れなかったんだから……。
「いやいやいやいやいやいや!!そんな事ないよ!
これは大発見だよ!!」
「え………」
「ホント!?」
大発見なわけない。プクリンから聞いてないの?
「ホントだ♪だって、あそこの滝の裏が洞窟だったなんて、今まで誰も知らなかったんだからな♪」
あの時見たシルエット……。
あれは、間違いなくプクリンだった。
ということは、ペラップは聞かされてないのか?
言うべきだろうか?
「そっかぁ!発見かぁ!!」
「いや〜、ホントに凄い発見だよ!
早く親方様に知らせなくては♪」
「あ、あの……」
「ん?どうした、ヒナタ?」
「い、いえ!なんでも……」
「?そうか。」
言わないでおこう。
カズキをガッカリさせたくないし……。
ずっと笑顔でいてほしいから!
その後私達は、夕飯を食べ、部屋に戻った。
「(今日は疲れたなぁ……早めに寝よう……)」
「今日はいろんなことがあったね。」
窓から星を眺めながらカズキが言った。
「でも、探険できて凄く楽しかったよ!
そりゃあ、少しはガッカリしたけどさ……初めての探険で、ホントにワクワクしたんだ!
やっぱり探検隊になってよかったって思うよ!」
カズキは、目線を外から私に移し、笑った。
私も連られて笑ってしまう。
カズキは、遺跡の欠片を取り出し、前に置いた。
「そしていつかは、この遺跡の欠片の謎を解く。それが僕の夢なんだ。
もし本当に夢が叶ったら……僕、もう嬉し過ぎて死んじゃうかもね!」
「死んじゃうなんて大袈裟ね〜!」
「ハハハハハハ!!」
「ふふふっ!」
「……でも、ありがとう。」
「え?」
「こうして探険が出来るのも、ヒナタのおかげだよ。
本当にありがとうね!」
カズキ……ありがとうは、こっちの台詞だよ。
記憶をなくして倒れていた私を、何者かもわからないのに助けてくれた。
「こっちこそありがとう。」
「え?」
「ううん、なんでもない。
今日はもう寝ましょ?」
外はもうすっかり暗くなっていた。
「そうだね。おやすみヒナタ。」
「おやすみ。」
これからも、ずっとカズキと一緒にいたい、なんていうのは、過ぎた願いだろうか?
ある森の中で、三匹のポケモンが話していた。
「情報ありがとう。
僕達のために裏切るような行為をさせて、すいません。」
「気にするな。命の恩人のお前達がすることだ。
いくらでも協力するぜ!」
「ありがと。またね。」
三匹は、手短に話すとすぐにその場から離れた。
「次の満月が勝負だ!」
ヒナタ
「探険楽しかったわね!」
カズキ
「うん!でも、宝石を取れなかったのは残念……」
そんなに落ち込まないで、楽しかったんでしょ?
カズキ
「まあね。」
ヒナタ
「それより、最後のあれ、何?」
いずれわかります。もう少し待ってください。
それでは!
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