第六十三話:迷子ポケモン
私達は目の前で敵意をむき出しにしているポケモン達に対し、もはや話し合いは不可能と判断し戦うことにした。
私はフシギダネだからタイプ相性的に有利だが、ここが暗い洞窟の中であり、彼らにとってはホームグラウンドであること。そして、単純に数で負けていることから、結果的に不安要素の方が上回ることになるため油断はできない。
私はゴローンに向かって突進するカズキの後ろにつくと、走りながらマジカルリーフを放った!
イノシシのようにがむしゃらに突っ込んでくるヒノアラシを返り討ちにしようと目論んでいたゴローンは、標的の背後から放たれた攻撃を防げるはずもなく一撃のもとに倒れた。
「ヒナタ!?」
「振り返らないで!まだ終わってないわよ!」
カズキも背後からの支援に驚いたのかこちらを振り向こうとするが、私は叱責するとともにツルの鞭で隣にいたもう一体のゴローンを突き飛ばす。
ここは相手の住み慣れた場所。一瞬の油断が命取りになる!
「う、うん!よぉーし、火炎放射ぁ!」
放たれた炎は辺りを明るく照らしながらドンファン達に襲いかかる。
一瞬顔をしかめたドンファン達だったが、すぐに体制を建て直し猛スピードで転がってきた!
「くっ、ツルの鞭!」
私は攻撃後で隙だらけのカズキを狙うドンファン達にツルを伸ばすが、転がるの回転によってはじかれてしまう。
これは、まずい!
「う、うわぁ!!」
「かまいたち!」
直撃は避けられないと悟ったカズキが悲鳴を上げた矢先、突如飛来した真空の刃がドンファン達を襲い、転がるの威力をものともせずに吹き飛ばした。
思わず振り向いたそこには、ニッと牙を見せて笑うソルトの姿。しかしすぐさま振り返ると、自身の毒牙を突き立てようとしていたハブネークに振り向きざまにシャドークローを浴びせる。
どうやら威力は高いらしく、腹を上にして伸びてしまった。
「油断するなよ?」
そう言って戦闘を再開するアブソルは、今までともに行動してきたソルトとは別人なんじゃないかと疑いたくなるほど頼りがいがある存在だった。
と、わずかの間見入ってしまったが、今が戦闘中だったことを思い出し慌てて体制を立て直す。
先ほどのかまいたちでノックアウトされたドンファン達でこちらは最後だったので、私達は反対方向へ駈け出したナエトル達の方へ加勢に加わろうと走り出す。
「は、ハッパカッター!!」
迫りくるタテトプスに向かって放たれたそれは顔面に直撃したが、その名につくように盾のように固い皮膚に弾かれ、その勢いを止めることはできない。
立て続けに放たれるハッパカッターをものともせずにアイアンヘッドの構えで突っ込んでくるタテトプスに泣きそうな顔を浮かべるナエトル。
「カズキ!」
「うん!煙幕!」
暗い洞窟よりさらに光度の低い煙が広がり、タテトプスの視界を奪う。そして、私はそれと同時にツルを伸ばすとナエトルの体をこちらへと引き寄せた。
「ッ!?」
視界が奪われてもなお突進してきたタテトプスは煙の外にいるであろうナエトルに向かって一直線に向かっていたが、煙幕の先に待っていたのはナエトルではなく味方であるズガイドスだった。
当然お互いによけられるはずもなく正面衝突。頭の固いもの同士大した怪我はしなかったようだが、脳に加わる刺激は相当なものだったらしく、頭の上に星を浮かべながら気絶していた。
「あ、ありがとう!」
「どういたしまして。」
小さな作戦の成功とナエトルの救出に成功し笑みを浮かべる。
しかし、だからこそ一瞬ではあるが気が緩み、暗闇から襲ってくるゴルバットに気付くのがわずかに遅れてしまった。
「しまっ――!?」
「体当たりぃ!!」
と、私の横を走り抜け勢いをつけたナエトルは、その威力を殺さぬようにジャンプしゴルバットに突進した。
ゴルバットの方もまさか気づかれるとは思っていなかったらしく、不意打ちをカウンターされる形で撃墜されてしまった。
「油断大敵、だよ?」
「あ、ありがとう……」
……ダメだ。暗い場所にいるせいかいつもより隙が大きくなってる。
思わず頭を抱えたくなるが、今はそれどころではない。早く終わらせないと!
そう思い、今度はピカチュウ達の方へと視線を向ける。しかし、その光景はもはや私達の助けなど必要ないと感じるものだった。
「氷牙の弐…“銀の雨”!」
リヒトが七星剣の一本である氷牙を一振りすると、その軌跡から冷気が溢れ空気中の水分を氷の針へと変えていく。そして、次の一振りで何百、何千という数の銀の針が一斉に放たれた!
氷タイプを苦手とするゴローニャはもちろん、本来冷気には耐性があるダンバルやタテトプスまでその圧倒的な力と数に太刀打ちできず倒れた。
「よっと、アイアンテールッ!」
一方ピカチュウの方も素早い動きで敵を翻弄しつつ、アイアンテールや電光石火を駆使して次々と倒していく。
電気技が効かない相手がいることから本来の力を出し切れていないようにも見えたが、それでも地面タイプを相手にかなりの功績をあげていると言っていい。
どうやらピカチュウだからと言って地面タイプ相手には太刀打ちできないという理屈はこの二人には通用しないようだ。
「これで最後かな?」
最後のあがきとばかりに自爆しようとするゴローニャをアイアンテールで沈めたピカチュウは、増援が来ないことを確認してふぅ、と息をついた。
「みんな無事?」
「うん。」
「平気だよ~。」
みんな疲れた顔をしていたが、目立った怪我もなく全員無事で済んだようだ。
私は座り込むと、カバンからオレンの実を取り出して一口かじった。その瞬間、体にたまっていた疲労感が蒸発していく水のように少しずつ抜けていった。
ダンジョンの探検でもそうだが、やはり回復アイテムは持っていて損がない。ある時は傷薬として患部に塗り、ある時はこうして食べることによって疲れを取ったり空腹を満たしたりできる。長旅においても必須のアイテムと言えよう。
「君達、大丈夫なのだ?」
と、そんな私に声をかけてきたのは他でもない、こうして戦闘する原因となったあの迷子ポケモンだ。
小柄な黄色い体に頭にはVの字に分かれたオレンジ色の耳。透き通るような空色の瞳を持ち、その背からは小さな羽がちょこんと生えていた。
そのポケモンは最初に発見したときのような炎は身にまとっておらず、その羽をパタパタとはばたかせながら私の目の前に降り立つと手を差し伸べてきた。
「ぼくはビクティニのミラ。助けてくれてありがとうなのだ♪」
「い、いえ……」
ビクティニ。聞いたことのない種族だ。今わかることは、声の調子から見てまだ幼い子供だということくらい。
私は曖昧に返事をしながら無垢な笑顔を見せるそのポケモンの手を握った。そして、猛烈な違和感を感じたのはその直後のことだった。
「ッ!?」
彼の手に触れた瞬間、電撃が走ったような衝撃を受けた。いや、正確には電撃なんて言う鋭利なものではない。例えるなら、母が子を抱き上げるかのように優しく、包み込むような感覚。
それは先ほど食べたオレンの実の疲労回復効果に似ているものがあるかもしれない。ただし、その比は等倍ではない。二倍、あるいは三倍、いや、もしかしたらそれ以上かもしれない!
彼が手を放す頃には、先ほど消耗した体力だけでなく、これまで歩いてきた旅路の疲れやルエルによってつけられたわずかに残ってしまった傷痕さえも回復していた。
「これは……」
「ヒナタ、大丈夫か?」
私の挙動を不審に思ったのか、リヒトは警戒した様子でミラを見ながら私の肩に手を置いた。
だが、私はしばらくの間放心状態だった。それほどあの感覚は忘れえぬものだったのだ。
「えへへ。ぼくにはね、勝利に導く力があるんだよ~♪」
「勝利に、導く……?」
わけがわからないといった様子で首を傾げるナエトル。それは他のみんなも同じなのか、ピカチュウやソルト、カズキ、果てはリヒトまで訝しげな表情を浮かべていた。
だが、それを体感した私にはそれがなんなのかなんとなくわかった。手を握る前と後で体の調子が明らかに変わっている。それはつまり、彼が何らかの力を私に与えたということ。すなわちそれが、“勝利に導く力”である。
「あ、助けてくれたついでにぼくのお願いを聞いてほしいのだ!」
と、みんながその力を少しずつ理解し、またその能力に驚きの表情を浮かべ始めた頃、ミラは再び飛翔すると全員が見えるように炎を纏い、この空間を照らし出した。
「ぼく、探検するつもりであちこち飛び回ってたらいつの間にか迷子になっちゃって困ってたのだ。だから、ぼくを仲間のところまで連れて行ってほしいのだ!」
「つまり、こいつの護衛をしながら仲間のところまで送って行け、と。」
面倒事に巻き込まれたと思っているのがだだ漏れのソルトは苦い顔をしていた。
正直なところ、こんな迷子さっさと放置して目的地へと向かいたいのが本音なのだろう。
だが、私はこれでも探検隊。困っているポケモンが目の前にいるのにそれを見過ごすことなんてできない。
「――その仲間って、どこにいるの?」
「場所の名前はわからないのだ。でも、海が見えるところなのだ。」
「海が見えるってことは……」
「この洞窟を抜けて西の方角――方向は同じってわけね。」
そう、ピカチュウが言うように幸か不幸か目指す方角は同じ。それなら、目的地に向かうついでとしてミラの仲間を探すこともできるということだ。
「お、おい、オレ達には大事な任務が――」
「でも、ほっとけるわけないよ!」
「別にコースから大きく外れるわけじゃないんだし、助けてあげましょうよ。」
ソルトが非難の声を上げるも、探検隊が四匹もいるこのパーティでその発言力はあまりに小さすぎた。
リヒトは無言でそれを聞いていたが、私が確認すると頷いてくれた。
結局、ソルトの意見は五対一で却下されることになった。
「それじゃ、まずはここを抜けましょう。早く日の光が見たい……」
「よぉし、れっつごー♪」
迷子ポケモン――ビクティニのミラをパーティに加え、私達は再び歩き出した。
鬼火の正体はビクティニさんでした!
ビクティニの口調ってこんなイメージだと思っているのは僕だけでしょうか?←
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