第五十八話:リヒトVSピカチュウ
「おれと、バトルしろ。」
「……はぁ?」
リヒトの思わぬ発言に目を丸くするもすぐに反論するピカチュウ。
「なんでワタシがそんなことしなくちゃならないのよ?」
「それは………」
口ごもるリヒト。困ったような表情を見せるリヒトも珍しい。
しかし、なんでいきなりバトルしようだなんて……?
「……今の実力を見極めたいんだ。頼む。」
「実力、ねぇ……」
ポリポリと頬を掻きながら困ったように表情をゆがませる。
――そういえば、ピカチュウさん達って探検隊なんだよね……?
私の心に好奇心の種が生まれる。リヒトがどういうつもりか知らないけど、ピカチュウさんの実力は見てみたいかも。
「いいんじゃないですか?バトルには交流を深めるという意味もありますし。」
「え?うーん、確かにそうだけど……」
いつの間にやら口についた言葉。無意識に手助けしてしまったようだ。
ちらりとこちらを見たリヒトが一瞬口元をゆるませるのが見えた気がする。
「……まあ、別にいっか。いいよ、バトル。」
「ではついて来い。この先だ。」
そう言って私達に背を向けるとスタスタと歩いて行ってしまう。私達はそのあとを足早に追いかけた。
行き着いたのは、昨晩通った草原の近く。昨日は金色の絨毯を敷き詰めたような神秘的な光景だったが、今は夕日ではなく太陽の日差しを浴びてキラキラ輝いて見える。
優しく吹き抜ける風に耳を躍らせながら前に出るピカチュウ。その目の前には、マントを靡かせながらたたずむリヒトの姿。
「来たか。では、始めるか。」
「望むところよ。言っとくけど、ワタシ強いからね?」
「実力を確かめるには好都合だ。」
二匹の間にバチバチと火花が散るのが見えるようだ。お互いやる気満々である。
私達は邪魔にならないように少し離れた場所にある岩の上に腰を下ろした。
「ねぇ、ピカチュウって強いの?」
「もっちろんだよ!」
カズキが何気なく聞いた質問にナエトルは二つ返事で答えた。
「ボク、前に宝物を盗られちゃったことがあってね。その時一緒に取り返してくれたのがピカチュウだったんだぁ。それがきっかけでボク達は探検隊を結成したんだよ!」
「そうなんだ。僕と一緒だね!」
「え?」
「僕も同じように宝物を盗まれちゃって、ヒナタが一緒に取り返してくれたんだ。ヒナタは臆病だった僕に勇気をくれたんだよ!」
「カズキもそうなんだ。なんだかボク達、似た者同士だね!」
「そうだねっ!」
――なんだか二匹で盛り上がっている。バトルのこと忘れてるんじゃないかなぁ?
蚊帳の外状態になった私はいつの間にか始まっていたバトルに視線を移す。ちなみにセイジは村で待っているそうだ。まあ、リヒトのことあんなに嫌ってたからねぇ。
「電光石火!」
「アイアンテール!」
突っ込んでくるリヒトをすんでのところでかわしカウンターを決めるピカチュウ。しかし決定打にはならず、リヒトの頬をかすめるだけにとどまった。
「やるな。」
「言ったでしょ?強いって。」
今のところ互角の戦いを見せる二匹。リヒトの強さを知っていた私は驚きを隠せなかった。
二匹とも冷静に状況を見極めて技を繰り出してる。でも、ちょっと気になることがあるのよね……
私の視線の先にいるのはリヒト。フードは取っているものの全身をすっぽりと隠せるほどのマントを纏っていて動きにくかったりしないのだろうか?普通素早さが半減しちゃいそうだけど……。さっきのアイアンテールだってマントのせいでかわしきれなかったように見えるし。
それに――
「(なんで、剣を使わないんだろう?)」
私が見てきた限り、リヒトは戦うときいつも剣を構えていた。でも、今は純粋な技のみで戦っている。一体どうしたのだろうか?
「そろそろ決めるよっ。十万ボルト!」
「ならばこっちも十万ボルトだ!」
お互いの体から高圧の電気が迸り、一筋の電撃が放出される。それは二匹の間で衝突し、激しい閃光を辺りにまき散らした。が、それも一瞬で終わる。
「くっ……」
リヒトの電撃が徐々に押され始めると、それはやがてリヒトの元に押し返されピカチュウの電撃が直撃した。電気タイプ故ダメージは軽いものの、昨晩ムゲンに会いに行くために起伏の激しい修行の山に登り、ムゲンが去った後もずっと練習を重ねていたリヒトにとっては少々痛手かもしれない。
一方ピカチュウは簡単に押し返せたことに訝しげな表情を浮かべるが、今はバトル中だと割り切ると距離を詰めてアイアンテールを仕掛けた。
「くっ、電光石火!」
電撃を受けながらも何とか回避するリヒト。荒い呼吸で疲れているのがうかがえる。
「一か八か、かみなり!」
ある程度の距離をとって切り返すと、体中の電気をかき集めほっぺたの電気袋から放出した。
それを見てピカチュウも応戦しようと構える。が、しかし――
クイッ
ピカチュウめがけて放たれたかみなりは途中で進路を変えまったく別の方向に飛んで行ってしまう。
そして、その先には――
「へ……?」
――バチバチバチィ!
「あばばばばば!?!?」
「なんでボクまでぇ!!?」
不運にもそこには楽しそうに話しているカズキとナエトルがいた。かみなりの直撃を受けた二匹はプスプスと黒い煙を上げながら仰向けに倒れこむ。
「だ、大丈夫?」
少し離れていたせいか難を逃れた私は二匹の顔を覗き込む。
うーん、ちょっと焦げてるけど大丈夫、よね?
「ヒナタ!怪我はないか?」
と、そこへ文字通り飛んできたリヒトが私の体をペタペタ触ってきた。
あの、リヒト……?
「わ、私は大丈夫だけど、カズキとナエトルが……」
「よかった。怪我はないようだな。」
……二匹のことはスルーですか。私のことを心配してくれてるのは嬉しいけど、ちょっと酷いような。
「ねぇ、ちょっと。」
と、バトルが中断されたのが不満だったのか、ピカチュウが歩み寄ってきた。
それを見たリヒトはすぐさま立ち上がりピカチュウの前に立つ。
「すまない。さっそく続きを……」
「もしかして、手加減してる?」
リヒトの言葉を遮り強い口調で迫るピカチュウ。それを聞いたリヒトはわずかに目を見開くと、その視線をピカチュウから外す。
「……いや。」
「まさかあんなので本気なんて言わないよね?十万ボルトがあんな弱いわけないじゃない。電気ショック並みよ?」
「…………」
「それにかみなりだって軌道が安定してないし、威力も普通のかみなりより低い。ワタシを馬鹿にしてるの?」
「ち、違う!おれは……」
黙り込むリヒト。その様子を見て、ピカチュウの頭にある考えが浮かんだ。。
「……もしかして、電気容量が少ないんじゃない?」
「……ああ。」
「やっぱり。」
そっぽを向いて答えるリヒトを見て、ピカチュウは腰に手を当てふぅと息をつく。
「そんなんでよく探検隊やってられたわね?」
「……おれは探検隊じゃない。」
「え?」
「いや、なんでもないですよ!はい!」
リヒトのつぶやきに慌てて割って入る。
うぅ、まだ言い訳考えてないんだから探検隊ってことにしておいてよ……
ちらりとリヒトを見やるとしゅんと肩を落とした。
「……頼みがある。」
「え?」
ピカチュウが私の行動に訝しげな表情を浮かべる中、リヒトの声で視線がそちらに移った。
「おれを、鍛えてくれないか?」
『……はい?』
今、なんて言った……?
「貴様の言うとおり、おれは技をまともに使えない。だが、おれは何としても技を使えるようにならなければならない。」
「……なんで?」
「……悪いがそれは言えない。だが、どうか頼む。」
「うーん、どうしよっかなぁ~。」
頬をポリポリと掻きながら思案するピカチュウ。
それにしても、技が使えないなんて初めて知ったわ。特に電気技の威力が低いみたいだけど、ピカチュウさんはどうする気なのかしら?
「うーん、まあ、鍛えてあげてもいいけど……」
「本当か!?」
「でも、鍛えるからには手加減しないからね?」
「手加減など無用だ。感謝する。」
「どういたしまして。」
うーん、なんだか凄いことになってきたような……。
半黒焦げ状態のカズキとナエトルにオレンの実で応急処置をしつつ、内心で苦笑していた。
だんだんとリヒトのキャラがおかしくなってきてるような気がするw
リヒト
「おい。」
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