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第三十五話完成です。
第三十五話:四天王リヒトの実力

私はこの状況を理解するのに数秒かかった。
いや、私だけじゃない。この場にいるすべてのポケモンがそうだったろう。
突然乱入してきて私達を助けてくれた、謎のポケモン。

「……誰?」

ほとんどのポケモンはそう感じただろう。
私の記憶の中には、グラエナの知り合いなどいない。……記憶喪失で忘れているだけかもしれないが。
そんな中、正体に気づいたものがいた。――ウィン、そしてレイだ。

「…あなたは確か、ハイド、ですね?
ずっと監視していたのもあなたでしょう?」

「何が狙いだ。お前達の目的は俺達を葬ることだろう。
何を企んでいる?」

…ウィンとレイの反応でわかった。
こいつら――ルナティックだ!
ルナティックは過去の世界からウィン達を消すために未来へやってきた悪の組織だ。
立場的に言えば、ヨノワールと似ているかもしれない。
一方強い口調で言われたハイドは、

「ひぃ…べ、別に何も企んでないよぅ~!」

前脚で顔を隠してびくびくしながら答えた。
レイはさらに何か言おうとしたが、ハイドの隣の存在が動いたのに気づき、動きを止めた。

「………………」

ハイドの隣にいたのは、黒いフードつきのマントを纏った小さなポケモン。ちょうどサンと同じくらいだ。
そのポケモンは左手を腰にあて、もう片方の手をマントの中へ入れる。
体制を低くし、まるで居合い斬りのような構えになった。
そして、小さく呟くように一言……

「氷牙の壱…“刹那”!」

ヒュッ、という風切り音とともにマントのポケモンのが視界から消えた。
あわてて辺りを見回してみると……

「い、いつのまに……」

私達の背後。つまりヨノワールとヤミラミがいるその真ん中にそのポケモンはいた。
不思議なことにヨノワール達は行動を起こさない。

「……………」

不思議な点はもう一つ。
その手には先程はなかった澄んだ碧い刀身の剣が握られていた。
氷のように透き通ったその剣をそのポケモンはゆっくりとマントにしまう。

キンッ

剣が鞘に収まった音が聞こえる。
剣の長さはそのポケモンの身長より少し長く、絶対にマントのなかに収まるはずはないのだが……
そんな疑問に気付けないほどのことが、まさに今起こった。

「ぐは……っ!?」

呻き声をあげたのはヨノワール。
ヨノワールは前のめりになって倒れた。
そして、それをきっかけにして、ヤミラミ達もバタバタと倒れていく。

「こ、これは……いったい、なにが起こったの…?」

まさに一瞬――“刹那”の出来事。
たった一匹でこれだけの数を倒すなんて……

「……あなたは……いったい何者ですか?」

普段滅多に動じないウィンが声を震わせて聞いた。
しかし、マントのポケモンは答えない。
その代わりに――

「この方は、ルナティックが誇る四天王!
『七星剣の操り手』、リヒトさんだ!!」

マントのポケモン――リヒトに気をとられ、まったく注目されていなかったハイドが、私達の前に回り込んで答えてくれた。
それを聞いたリヒトは、またマントのなかに右手をいれ、しかし無造作に剣を引きぬいた。
今度は碧ではなく紅の刀身。ゆらゆらと揺れる乱れ刃がまるで炎のように見える。
先程の剣――氷牙よりも少し大きなそれを片手で振り上げ、まだのこっていたハイドの分身めがけて振り下ろした。

ズバッ!

ハイドの分身は一瞬で両断された。
切り口に火がつき、燃えながら分身は跡形も無く消えてしまった。

「…貴様もこうなりたくなかったら、二度とその肩書きを口にするな。」

声は静かだが、その威圧感はディアルガをも凌駕するかもしれない。
ハイドは声も出ないのか、コクコクと必死に首を縦に振った。

「……どういう、ことですか……?貴方達の目的は……」

「少し待て。」

ウィンの言葉をさえぎって、リヒトは私達に背を向ける。
フードに隠れたその目が見つめるのは――闇のディアルガ。
ディアルガはヨノワールがやられたのにもかかわらず、怒りや悲しみの表情は無かった。
――本当に人形のようだ。

「神もこうなってしまってはただの道化だな。…目障りだ。」

リヒトは言いながらマントから剣を取り出す。
今度はピンク色の二本の剣。その色はセレビィの身体の色に似ている。
先の二本の剣よりはだいぶ短く、細いが、神秘的な感を漂わせていた。
リヒトは二本を顔の前でクロスさせる。

「胡蝶の壱…“空間転移”。」

クロスさせた剣の前に薄紫色の球体が出現する。
それは膜の様な感じで、薄く、中には何も無かった。

「転移対象、ディアルガ。」

ある程度まで大きくなると、それはふわふわと漂い始め、やがてディアルガを包み込んだ。
ディアルガは出ようと暴れるが、見た目より強固ならしく、ひび一つ入らない。
リヒトは少し間をおいて、言った。

「転移!」

クロスさせていた剣を振りぬく。
球体に包まれていたディアルガはだんだんと揺らいでいき、そして――消えてしまった。

「う…嘘……」

そんなものを見せられては私達はもう絶句するしかない。
何なのよ、こいつ……。ルナティックなのに私達を助けたり、ディアルガを消したり……
敵なの…?それとも、味方なの…?
私はディアルガに感じたものとは違う恐怖を感じた。

「…質問に答える。」

リヒトは二本の剣をしまいながら振り返り、そう言った。
正直私は、恐怖で質問したことすら忘れていた。

「おれ達ルナティックの目的。それは未来に行ったウィン、他数名と、ブラックリストに載ったヒナタ、そしてカズキを抹殺すること。
…あくまで貴様らを抹殺するのはルナティックだ。こんな雑魚共に殺されるのは気に食わない。」

「だから…助けたと?」

「そうだ。」

自分達で受けた依頼は自分の手で、というわけか。確かに私だって、依頼を横取りされたら横取りした相手を邪魔すると思う。
しかし彼のいうことが正しいなら、邪魔者が消えた今、するべきことは一つ。
――ターゲット(私達)の、抹殺――
ヨノワールに処刑されなかったのはいいが、ルナティックはプロの殺し屋だ。
いったいどんな殺され方をするか………
考えただけで戦慄が走った。
が、

「だが……」

次に発せられた言葉に私はキョトンとしてしまった。
“だが”?まだなにかあるの?
リヒトはゆっくりと右手を揚げ――

「おれの目的はウィン、貴様とバトルすることだ。」

ビシッ!とウィンを指差した。
全員の視線がウィンの方を向き、驚きの表情を浮かべる。

「ち、ちょっとリヒトさん!?そんなこと一言も聞いてないですよ!?」

「もしこの申し出を受けてくれるなら、貴様以外の者は見逃してやろう。
……受けるか?」

慌てふためくハイドを無視して、リヒトは勝手に話を進める。

「………もし、受けなかったら?」

「この場で全員を斬り殺す。」

「……………」

なんて条件を出すんだろう。それってつまり、ウィンを置いて行けってことで……

「リヒト…貴様ぁ!」

「待ってください。」

レイが前に出るのをウィンは片手を挙げて制す。

「……僕が残れば…本当にみんなを見逃してくれるのですか?」

「約束は守る。」

「……わかりました。その申し出、受けます。」

僕の使命は、ヒナタさんを守り、平和な未来を取り戻すこと。
命に代えても、ヒナタさんだけは……!
リヒトの力は強大だ。さすがのウィンでも勝てるかどうかはわからない。
リヒトはウィンの返事に頷くと、ディアルガを消し去った双剣――胡蝶を取り出す。

「胡蝶の弐…“時間転移”。」

先程と同じように剣をクロスさせ、膜のようなものでできた球体を出現させる。
ただし、色は薄紫ではなく、群青色だった。

「転移対象、ヒナタ、カズキ、レイ、サン、ジュプトル、ハイド。」

群青色の球体は分裂し、私達を包み込んだ。

「ッ!?ウィン!?」

「ヒナタさん。後は任せましたよ。」

ウィンの表情はどこか悲しげで、しかし、安心したような顔だった。

「転移!」

視界が揺らいでくる。
身体が、だんだんと薄れていき、だが、怖さは感じなかった。

「……絶対に、死ぬなよ。」

「えっ?」

消える寸前にそんな言葉が聞こえた。
だが、その瞬間未来から消えた私には、それが誰の声だったのか、確かめる術は無かった。





「これでやっと二人きりだな。」

ヒナタ達が未来から消えてから数分後。
セレビィを無理やり別の場所に転移させたリヒトは、ウィンとある程度の距離をとって向かい合っていた。

「…これはお礼を言うべきなんでしょうね。
みんなを見逃してくれて、ありがとうございます。」

「おれは自分の目的を果たすために行動したまでだ。礼を言われる筋合いは無い。」

リヒトは胡蝶をしまい、氷牙を取り出す。
その切っ先をウィンに向け、

「これで邪魔者はいなくなった。存分にバトルをしよう。」

「…持てる力すべてを使って、戦います。」

二匹の間に緊張が走る。
先に動き出したのは――リヒトだ!

「氷牙の弐…“銀の雨”!」

リヒトが剣を一振りすると、空気中のの水蒸気が一気に冷やされ、鋭い銀の針となる。
それらをウィンめがけて飛ばしてきた!

「火炎放射!」

ウィンは冷静に炎でそれを焼き尽くした。
その勢いはすさまじく、針の雨を抜けてリヒトに向かう。
リヒトはすぐさま氷牙をしまい、真ん中に柄があり、弓のようにピンと糸が張っている剣――弓剣を取り出す。
リヒトが弦を引き矢を放つ体制をとると、一筋の光の矢が出現した。

「白閃の参…“裂光”!」

一筋の閃光が奔る。
それは火炎放射を打ち貫き、ウィンに直撃した。

「なっ……!?」

何が起こったのかわからなった。
なんだ、今の…?まったく見えなかった……
震える足で倒れないように踏ん張りながら、ウィンは状況を整理する。
リヒトが矢を放とうとしたのは見えた。だが、リヒトが手を放した瞬間矢は消え、自分に衝撃が走った。
つまり、あの矢のスピードは数値で表せるものじゃなくて、もっと速い……
例えるなら…そう、光の速さだろう。

「(強い…強すぎる……。このままじゃ……)」

ウィンは背中から氷塊が滑り降りたような感覚を覚えた。
久しく感じていなかったもの――恐怖だ。

「お前の力はそんなもんじゃないだろう?
本気で来い。おれを失望させるな。」

こんなふらふらな状態。殺そうと思えば殺せたはずだ。
それをしなかったのは…おそらく、バトルを楽しみたいから。
リヒトはバトルがただの殺し合いでないことをわかっている。
バトルは、常に全力を出し、常に集中して行うのが礼儀というものだ。
…プレッシャーのあまり、どうかしてたな。

「……始める前に“持てる力すべてを使って”なんて言っておきながら、こんな無様な戦いをしてしまいまことに申し訳ありませんでした。
今度こそ本気で行かせてもらいます!」

バトルは常に全力全開の真剣勝負。レイさんやセイジ君に、散々聞かされたじゃないか。

「ウィンドモード!!」

ウィンの身体を風が取り巻き、その姿を変化させる。
毛の色が全体的に青みがかり、背中からは青みがかった白い翼が生えた。
――もう迷わない。僕は全力で戦う!

「ようやく本気を見せたか……」

リヒトはその姿にため息を一つ吐く。
ウィンは空へ駆け上がると、その翼を大きく羽ばたかせた。

「“一陣の烈風”」

ウィンの翼から空気の刃が生まれ、リヒトめがけて飛んでいく。
対するリヒトは……

「白閃の参…“裂光”!」

再び光の矢を放った。
空気の刃と光の矢がぶつかり合い、小規模な爆発。威力は互角だ。

「ツバメ返し!」


「くっ!?」


しかし、これを予想していたウィンは、技を放ったと同時にリヒトの背後に回っていた。
小さな呻き声を上げ、リヒトは吹っ飛ばされる。

「これで決めます!」

ウィンは体制を低く構える。
ウィンドモードの体力消費を考えると、長期戦になったら勝ち目は無いのだ。

「“終焉の疾風”」

先程の“裂光”ほど速くはないが、バランスを崩した今なら十分に当てられるはず!
一撃目がリヒトに当たると思った、その時――

「白閃の漆…“降雷塵葬閃”!!」

リヒトは剣を真ん中で分け、二本とし、その切っ先をこちらに向けて突っ込んできた!

ガキンッ!キンッ!キンッ!

ウィンとリヒトがすれ違うたびに剣の擦れ合う音が聞こえる。
リヒトの技はウィンの“終焉の疾風”とまったく同じだった。
もはや第三者には目視できないほどの速さにまでなっている。

「「フィニッシュ!!」」

最後の攻撃を交わし、お互いに背を向けた状態になる。
両者ともそのまま動かず、しばし沈黙が流れる。

「……………くっ……」

バタッ!

耐え切れなくなって倒れたのは――

「おれの勝ちだな。」

――ウィンだった。
ルナティック最強の四天王です!
もちろんボスには勝てませんが……

ヒナタ
「ウィン…大丈夫かしら?」

惜しくも敗れてしまったウィン。
こんな終わらせかたしたらあとが続かないような気がしますが……まあ、頑張ります♪
次回もお楽しみに〜♪