第三十九話:ルナティックの襲撃
空は雲ひとつない快晴、とても澄んだ綺麗な空だった。
――しかし、それは数十分前の話。
「……何なのよ……これ……」
今の空は、血のような赤。大好きな青空はすっかり飲み込まれてしまっていた。
あちこちであがった炎が空に映し出されているのだ。
なぜ?どうしてこんなことになってるの?
悪夢としか言いようのないこの状況に誰かが答えてくれるはずもない疑問をぶつける。
「何で…こんな……」
これが本当の悪夢なら早く覚めてほしかった。…しかし、これは紛れもない現実。
――邪悪な何かに操られたとしか思えない“探検隊”が、トレジャータウンの平穏をぶち壊していた。
数十分前、キザキの森を後にした私達はトレジャータウンに向かって歩を進めていた。ギルドのみんなにすべてを話すと決意して。
私は歩きながらふと空を見上げる。
とても澄んだ青い空。降り注ぐ日の光の下で、柔らかな草原に寝転んだらさぞ気持ちがいいだろう。
私はこんな青空が大好きだ。そしてだからこそ、守りたいと想う。
星の停止を迎えればすべては灰色に染まり、すべての時は停止する。…それだけは、絶対にさせない。
再度自分の使命を確認すると、私は歩くスピードを上げた。
「あっ、待ってよヒナタ!」
突然早くなった私にカズキはあわてて走りよってくる。
少し臆病だけど、私の大切なパートナー……。
「どうしたの?急に速くなって。」
「別にどうもしないわよ。早くみんなに会いたいと思っただけ。」
「そっか!僕もだよ!じゃあ早く行こう。」
今度はカズキが歩くスピードを上げる。
私はクスリと笑うと、その後を追った。
しばらく歩き、トレジャータウンも間近に迫ってきた頃…。
「ん?なんかトレジャータウンのほうが騒がしいね。」
「ええ…。」
トレジャータウンは確かに賑やかな所だが、今聞こえてくるこれは町の喧騒というよりも……
「これって…悲鳴!?」
誰かの叫び声や猛烈な破壊音、よく見ればトレジャータウンの上空は赤く染まり、炎があがっていることがわかった。
「急ぐわよ!カズキ!」
「うん!」
……そして話は冒頭に戻る。
トレジャータウンの被害は大きかった。
私達が着いた時にはすでにほとんどの施設が破壊されており、暴れまわってる探検隊を抑えようとギルドの弟子達が戦っている。町の住人の姿は見えなかった。
「ん?おお!ヒナタにカズキじゃねぇか!?」
「え?…スカイさん!?」
暴れまわる探検隊達の合間を潜り抜けて一匹のウィンディ――スカイが走ってきた。
スカイは嬉しそうに顔をほころばせながら私とカズキの肩を叩く。
……痛いんですけど。
「あの一つ目と一緒に消えちまった時はどうしようと思ったが、とにかく無事でよかったぜ!
……だが、今は感動の再会は後回しだ。それどころじゃねぇ…。」
「スカイさん、いったい何があったんですか!?」
「タウンを拠点に活動してる探検隊が急に襲ってきやがった。おそらくこいつは――ルナティックの仕業だ!」
探検隊がいきなり襲ってきた!?でも、ルナティックの仕業ってことは、みんな操られてるってこと?
確かに暴れている探検隊は目が紅く染まり、正気じゃないことは明白だ。
でも、こんなにたくさんの探検隊を操るなんて、相当な実力者ね。
「トレジャータウンの住人達はどこにいるの?」
「ギルドに避難させた!プクリンとルナちゃんが護ってるから心配ないぜ!」
「そう、よかったぁ…。」
カズキはほっと胸をなでおろす。とりあえず住人は無事なわけだ。
しかし、状況は最悪。早く鎮めなければ!
「とにかく今は暴れている探検隊達を止めなくちゃ!」
「もちろんそのつもりだぜ!…倒さねぇで気絶させるっつうのはだいぶ骨が折れるけどな。」
大群を相手にする場合、こちらが少数なほど不利になる。しかも相手は探検隊のため倒すわけには行かない。倒さずに気絶させるとなると、相手の体力を考えて手加減しなければならない。
目隠しで迷宮を抜けろといっているようなものだ。
しかし、やるしかない。私達は分かれて行動した。
「眠り粉!」
私は緑色の粉をばら撒く。それに触れたポケモン達はたちまちのうちに眠ってしまった。
状態異常にする技はこういうときに役に立つ。覚えていてよかった。
襲いくる探検隊をあらかた眠らせると、加勢しようとカズキのほうを見る。しかしその必要はなかった。
カズキは煙幕で牽制しながら、的確に相手の急所を捉え、ほぼ一撃でダウンさせている。
カズキの知識はクレスントが来てから格段にあがっていた。特にウィンはポケモンの弱点に関することはほとんど知っていて、多少知識がある私も驚かされたものだ。
暇な時にちょくちょく聞いていたのが役に立ったわね。
「そっちも終わったか?次行くぞ!」
方が着いたらしいスカイが大声を上げる。
私とカズキは頷くとトレジャータウンの奥へと向かっていった。
カクレオン商店の前に背中合わせで戦っているブラッキーとポリゴンがいた。ガランとアランだ。
「ガラン!アラン!大丈夫か!?」
「ああ、問題ない!…ってヒナタにカズキ!?無事だったのか!?」
ちらちらと横目で見ていたガランは私達の姿を確認するとガバッ、と振り返る。
それを見て周りの探検隊が襲ってきたが、スカイが突風を発生させ、一瞬で気絶させてしまった。
「ガランさん。アランさん。無事に帰ってきましたよ。」
「よかった!ずっと心配してたんだぜ!」
「無事で何よりだ。」
ガランとアランはそれぞれの感想を述べる。スカイも含め、全員元ルナティックだが、心の優しいポケモンばかりだった。
先程スカイが吹っ飛ばしたので最後だったらしく、襲い来るポケモンはもういなかった。
「そういえば、ウィンはどうした?レイもサンもあの日から姿が見えないからお前等の後を追ったのかと思ってたが。」
「それは……」
私はこれまでのことを話した。
スカイはそれを聞くとひどく驚いた顔をした。
「リヒトの奴が……」
スカイは呟くと俯いて黙ってしまう。
「……ウィンは私達のために一匹で残ったんです。たった一匹で……」
私はいまさらながら後悔する。
なぜあの時黙って帰ってきてしまったんだろう。いくらウィンが強くてもリヒトはその上を行くということは、目の前で見せ付けられていたのに……。
ただただリヒトに恐怖して、ウィンなら絶対に負けない!って勝手に結論づけて――
私は…とんだ臆病者だ。
知らずの内に下がっていた顔を上げるのが怖い。
スカイやイクリプスの二匹がこれを聞いて、私を怒り責めるのも、悲しみ慰めるのも――すべてが、怖い……
「……ッ!?」
ぽろり、と一雫の涙がこぼれ落ちる。
ウィン、ごめんなさい……どうか、無事でいて……。
「ヒナタ……。ウィンは大丈夫だよ!元気出して?」
カズキが優しく言うが、私にはそんな慰めはもはや意味をなさない。
私は悲しみの底にいた。
「……ヒナタ、本当にリヒトだったのか?」
「……え?」
「そいつは本当にリヒトだったのか、って言ってるんだ。」
思いがけない質問にきょとんとする。人違いならぬ、ポケ違いとでもいいたいのだろうか?
「自分では名乗ってなかったけど、一緒にいたハイドが『七星剣の操り手、リヒト様』て言ってたから間違いないと思います。」
「四天王のあいつまで来てたのか……。」
スカイはなぜか嬉しそうに顔をほころばせる。
その笑みの意味がわからず、私は首を傾げた。
「ヒナタ、安心しろ。ウィンは絶対無事だぜ!」
「え…ええっ!?それってどういうこと!?」
驚きの声を上げる私にスカイはニコニコ顔で答える。
「リヒトは俺の親友だからな!」
またしても驚く。いつのまにか出ていた涙はもう止まっていた。
「リヒトはスカイの初めての友達なんだ。」
「前はよく一緒に行動していた……と聞いている。」
「へぇ……」
スカイが元ルナティックだということはウィンから聞いていたが、そこまでは知らなかった。
「スカイさんがリヒトと友達だったなんて……」
「…でも、何でウィンが無事だって言い切れるの?」
いくら友達といっても今は敵同士。それだけでウィンが無事だとは言えないのではないだろうか?
「そりゃあ、ダチだからってのもあるが――
そもそも俺がルナティックを抜けたのは、リヒトのおかげなんだぜ?」
「……そんな話し聞いてないぞ?」
「そりゃそうだ。言ってないからな!」
アランの突っ込みを爽やかに返すスカイ。
アランはため息を吐いて黙った。
「俺が組織の本当の目的を知れたのもリヒトが手伝ってくれたからだ。
リヒトはルナティックのことをよく思ってなかったからな、俺と考えが一致したんだ。」
「だからお前に情報を流したのか。」
「そういうこった。」
ええと……整理すると、リヒトはスカイさんの友達で、ルナティックのことをよく思っていなかったから、考えが一致したスカイさんに情報を流した…でいいのよね?
じゃあ、何でリヒトはあの時襲ってきたんだろう?スカイと同じなら自分も裏切ってくればいいのに……
「(いや、それじゃあダメなのか…。)」
私は首を振って考えを改める。
リヒトは四天王だっていってた。それが地位の高いことは大体わかる。
地位が高いと確かに情報は手に入りやすいけど、その分自ら動く機会が減るからそれでスカイさんに託したんだ。
それに四天王であるリヒトまで裏切ったら、それを押さえるために他の四天王も動き出してしまう。
だからリヒトはルナティックにいるんだ。影でウィン達を助けるために。
「(……でも、それだけじゃない気がする。)」
これは本当に勘に過ぎない、けど、何かが引っかかる。
元の世界に送られる寸前に聞こえた声
『……絶対に、死ぬなよ』
…あの時は誰の声かわからなかったけど、よくよく考えればあの場に残っていたのはウィンとリヒト、そしてセレビィの三匹だけ。
声の調子からセレビィでないのはわかるし、ウィンはこんな言葉遣いはしない…。
――と言うことは、あの時の声は……
「…ナタ…ねぇ、ヒナタってば!」
「うぇ!?」
「どうしたのヒナタ?急に黙り込んで。」
どうやらすっかり自分の世界に入っていたらしい。
私は心配そうに顔を覗き込んでいるカズキに、なんでもない、と返す。
「まあ、とにかくだ!」
スカイが急に大声を上げる。
私を見ていたカズキも驚いて振り返った。
「ウィンのことは心配すんな!絶対無事だって、俺が保証する!
今は星の停止を食い止めるのが先だ。早速ギルドの連中に……」
「そうはさせませんよ。」
『!?』
突如として響いた声。慌てて振り返ると、そこにいたのは――
「ごきげんよう、皆さん。四天王ルエルの命により、あなた方を抹殺しにきました。」
「テメェは…シェイド!」
――紫色の魔女のような帽子をかぶったポケモン――ムウマージだった。
というわけで、ちょっとオリジナルはいります。
ヒナタ
「どんなオリジナルよ!よりにもよってトレジャータウンを襲うなんて!」
まあまあ押さえて押さえて。
ルナティックの目的を考えると、こういう展開が浮かんだから。
オリジナルということで、またグダグダ文になりそうですが、よかったら見てくださいね。
では
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