第三十八話:夜明けの想い
真夜中。ジュプトルはふと目を覚ました。
「……?カズキがいないな…。」
隣で寝ていたはずのカズキの姿が見えない。周りを見回してみるが、視界に入るのは静かな海と相棒の寝顔だけ。
その寝顔にジュプトルは目を細める。とても穏やかな顔だった。
ジュプトルはヒナタを起こさないようにそっと立ち上がった。もしかしたら外にいるのかもしれない。
ジュプトルが外に出ると、崖の先で海のほうを見ているカズキの姿があった。
「あ、ジュプトル。」
気づいたカズキが顔を向ける。
ジュプトルはカズキに歩み寄った。
「どうした?眠れないのか?」
「ううん。ちょっと、考え事を、ね。」
カズキは視線をジュプトルから海へと戻す。
声こそ落ち着いているが、その瞳は不安に揺れていた。
「未来のことか?」
「うん……。正直、この世界を救えるかどうか不安でいっぱいなんだ…。
以前の僕なら、逃げ出していたかもしれない。でもね……」
カズキは大切な宝物――遺跡の欠片を取り出す。
「これは遺跡の欠片。僕の宝物だよ。
この欠片を取り返したことが、僕とヒナタが探検隊になるきっかけだったんだ。この欠片が、すべての始まりだったんだよ。」
カズキは欠片を遠い目で見つめる。
「ヒナタは臆病だった僕に勇気をくれた。ヒナタと一緒ならどんな困難も乗り越えて行ける、そんな気がするんだ。
だから、僕は逃げない。最後まで絶対に諦めない。」
「……なんとなく、わかる気がするな。その気持ち…。
あいつには……ヒナタには、そう思わせる何かがあるんだ。」
大して運動神経がいいわけではないが、とても頭が切れて、どんな状況でも次々に作戦を考える。
弱い人間でありながら、仲間のためなら自分の身を犠牲にするのも厭わない。
――そんな奴。
「あっ!見てよジュプトル!」
東の空からだんだんとお日様が顔を出してきた。
その光はあまりにも眩しく、だが、背けたいとは思わなかった。
「……綺麗だな。」
「そうだね…。
ずっと未来にいたせいかな?夜が明けるのがこんなにも新鮮に感じるとは思わなかったよ。」
日が昇り、そして沈んでいく……。
当たり前のことだけど、その“当たり前”が、実はもの凄く大切なものだったんだね……
「俺は暗黒の未来世界しか知らなかったから、この世界に来て初めて太陽を見て衝撃を受けた。
そして、だからこそ、暗黒の未来を変えなくてはと、強く想ったんだ。」
この決意は、何者にも折ることのできない鋼の決意。
ジュルトルの強さを改めて知るのだった。
「――あいつは…幸せ者だな。」
「え?」
「お前のような、友達がいて。」
「ジュプトル……」
ジュプトルの表情は、嬉しいような、悔しいような、とても複雑な顔だった。
しかしそんな表情は一瞬で、すぐにまた元の顔に戻った。
昇りきった朝日を見つめ、ジュプトルは言う。
「……もう朝だ。そろそろ出発するか。」
「そうだね……。ヒナタを起こさなきゃ。」
朝日に背を向け、二匹は中へと戻っていった。
目を覚ますと、すでに二匹は起きていた。
いつも私より先に起きたためしがないカズキが起きていることに少々驚くが、とりあえず今日の行動について話し始めた。
「さてと、時の歯車を取りに行くわけだが――。
まず最初にどこのときの歯車を狙うか、だな。」
「ここから一番近いのだと……地底の湖だね。」
地図を広げながら言うカズキ。
確かに距離的には近いが、少し問題がある。
「あそこには時の歯車の番人――エムリットがいる。エムリットは事情を知らないから、戦闘になってしまうんじゃないかしら?」
「そうだな。そこで俺はここがいいと思うんだが。」
ジュプトルが示したのは、トレジャータウンから北東に位置する森――キザキの森と呼ばれるところだった。
「ここはユクシーやエムリットのように時の歯車を守る番人がいない。
少し距離はあるが、ここならスムーズにいけるだろう。」
ここは無駄な戦闘をするより確実にいったほうがいい。
ジュプトルの意見に頷き、私達はキザキの森へと向かうのだった。
キザキの森に到着すると、いったん休憩してから森の中へ入った。
ジュプトルが言うには、前来たときと何か少し様子が違うらしい。…それが何なのかはわからないけれど。
この森のポケモンは総合的にレベルが高かった。
私の苦手なエスパータイプのポケモンが多く、さらに特性“貰い火”を持つポケモンもいて、私達にとってはちょっと難関のダンジョンだった。
それでもジュプトルの力を借り、何とか奥地まで到達する。
「大丈夫?カズキ。」
「うん。平気だよ。ヒナタは?」
「私も大丈夫。」
お互いを気づかいながら先へ進むと、辺りの木々に違和感を覚えた。
「こ、これって!?」
「入るときに感じた違和感はこれか。」
私の目に飛び込んできたのは、色を失い、灰色に染まった木々。
――暗黒の未来で見たものと同じだった。
「ど、どうして!?確かあの時、ユクシー達は歯車を元の場所に戻すって!」
「だが、ここの時間は止まっている。」
「もしかしたら、元の場所に戻されていないのかな?」
「そうかもしれない。時の歯車があったのはこっちだ。」
ジュプトルに続き、進んでみると、そこには蒼緑色に輝く歯車――時の歯車が浮かんでいた。
しかし、辺りを見回してみてもやはり時間は止まっている。
「風も吹いてないし、木の葉だって固まってる……。
やっぱり時は止まっているのね。」
「でも、時の歯車はちゃんと戻ってるのに、いったいなんで……?」
思案顔をするカズキ。ジュプトルはあごに手を当て考えていた。
「時の歯車を戻しても時が止まっているということは……。
――もしかしたら、“時限の塔”が崩れ始めたのかもしれない。」
「え…それって、つまり……!」
「星の停止に向けて世界が急速に動き出した、ということだ。」
「そんな!まだ一つしか集めてないのに!」
慌てた声で言うカズキ。無理もないだろう。
星の停止を食い止めるために必要な時の歯車は、全部で五つ。それに時限の塔がどこにあるかさえわかっていない。
――時間が、足りない!
「仕方がない、二手に分かれよう。
俺は時の歯車を集める。お前達は“幻の大地”という場所を探してくれ。」
「“幻の大地”?」
「ああ。そこに時限の塔はある。
幻とつくようにどこにあるか検討もつかない。だが、確かに存在するはずだ。」
世界のどこかにある秘境、ってところかしら。…雲を掴むような話ね…。
でも、そんなことは言ってられない。このままでは、世界は星の停止を迎えてしまうのだから!
「情報が少なくてすまないが頼んだぞ。俺はこのまま時の歯車を集めにいく。」
ジュプトルは目の前の時の歯車を取ると、足早に去っていってしまった。
「幻の大地、かぁ……。いったいどこにあるんだろう?」
「そう簡単に行ける所ではないでしょうね。……たとえば、海の向こうとか。」
何気なく呟いた言葉だが、この可能性だってあるのだ。
いまだ発見されていないほどの秘境。むしろ海の向こうでもなければ今頃見つかっているのではないだろうか?
だが、たとえこの推論があっていたとしても海を渡る手段などない。万事休すだ。
しかし、諦めるわけにはいかない。一刻も早く幻の大地の場所を突き止め、時限の塔に時の歯車を収めなければ――星が、止まってしまう。
それだけはなんとしてでも食い止めなければならない。それには、二匹だけでは荷が重すぎる。みんなの協力が必要だ。
話そう、カズキに。これしか手はない。
すべてを伝えよう――ギルドのみんなに。
「どうしたの、ヒナタ?」
考え込んでいたらしく、いつの間にかカズキが私の顔を覗き込むように見つめていた。
私は一度深呼吸をし、カズキをしっかりと見た。
「――カズキ、プクリンのギルドに行こう。」
「…えっ!?な、何で!?確かにみんな心配してるだろうし、僕もみんなに会いたいけど…。
でも、今まで僕達が見てきたことをギルドのみんなに話したとして……みんなは、信じてくれるかな?」
…確かに、未来で起きたことをすべて話したとしてもそう簡単には信じてもらえないだろう。
特にヨノワールはこの世界では有名な探険家。彼はこの世界ではとても尊敬されている。
すぐに信じろ、と言うのは無理がある。
でも……
「私は伝えるべきだと思う。」
「どうして?みんな信じてくれないかもしれないんだよ!?
それでも言うべきなの!?」
「それでも言うべきよ!」
「どうして!?何でそう思うのっ!?」
「みんなの力が必要だからっ!!」
「!……みんなの…力……」
カズキははっ、として静かに呟いた。
今はこれしかない。それに、私はみんなの優しさを知っている。
大丈夫、彼らならきっと信じてくれる。
――私は彼らを信じてる。
「……そっか。そうだよね。幻の大地を探すには僕達だけでなく……みんなの協力が必要だよね。
僕達だけじゃ、とてもじゃないけど間に合わない…。
――わかったよヒナタ。行こう!プクリンのギルドへ!」
「カズキ……。」
「驚かれるのは承知の上だ!でも、みんななら必ずわかってくれる。
みんな優しいポケモンだもん。きっと信じてくれる。」
クスリ、と笑いあう。カズキもみんなを信じてるんだね。
私達はギルドに向かって歩き出した。とても暖かい、自分達の居場所へ……
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