挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第一章 始まりは罰ゲーム

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/36

8 神崎くん家へお見舞いに・3

 翌日。授業が終わると、私は通学カバンを引っつかみ、レイカ達への「バイバイ」もそこそこにダッシュで神崎くん家へ向かった。

 今日もお粥とポカリ、フルーツゼリーをコンビニで買って、商店街を抜ける。昨日一度来たし、ほとんど一本道だから迷うことはない。まっすぐ神崎くんの住むマンションに辿り着いた。

 エレベーターで2階に上がり、203号室のインターホンを押す。

 今日は、起きていたみたいで、ぶっきらぼうな「はい」という声が返ってきたので、「ナナだよ~! お見舞いに来たよ♡」と答えると、神崎くんはやっぱり無言だったけど、すぐに玄関の扉を開けてくれた。目が合わない。ふふ。照れてる?

 昨日と同じでジャージとTシャツで、頭には寝癖がついている。

 玄関のご両親の写真に密かに挨拶してから、お部屋に上がらせてもらう。神崎くんの後についてお部屋に入りながら、私は口を開いた。

「熱は? 病院には行けた?」

「ああ。今朝近所の病院に行ってきた。熱も下がった。わざわざ来てもらって申し訳ない」

「いいよいいよ。気にしないで。それより、良かったあ。顔色良くなったね。もう起きてて平気なの?」

「ああ。明日には学校に行けそうだ」

「良かったじゃん! あ、起きてて大丈夫そうなんだったら、ノート写す?」

 私は通学カバンの中から今日もらったプリントの類を神崎くんに渡しながら、ノートも取り出した。

「ああ。悪い。助かる」

「ううん、いいのいいの。結構進んだんだよー。えっと、数Aはねえ……」

 ノートをパラパラとめくって、昨日、今日でとったページを開いて渡すと、神崎くんは真面目な表情でそれを見始めた。

 いつも図書室では、神崎くんに一方的に教えてもらうばっかりだから、病欠したせいとは言え、神崎くんに教える立場となり、私は得意げになってしまった。神崎くんは、私の拙い教え方を黙って聞いてくれたけど、もしかしたら、予習してたんじゃないかな? だって、ほとんど教科書を一度読んだだけで理解してしまうんだもの。

 昨日やった教科でいま教科書を持ってない教科もあるけど、とりあえずいま見せてあげられる教科と出てる宿題を全部教えてあげたら、もう17時になっていた。

「お腹減った? またお粥買って来たんだけど、食べる? 作ったげるね♡」

 にっこりと微笑むと、神崎くんは、無表情で目をそらし、頷いた。ふふ。照れてる照れてる。可愛い♡

「悪い。まだ全部写せてないから、頼んでもいいか」

「まかせて♡」

 私はご機嫌で座っていたベッドから立ち上がると、廊下にある小さなキッチンに向かった。片手鍋にレトルトのお粥を入れて、温め始める。

 それにしても、と私は流しの上に備え付けられている食器棚の中を覗いた。本当にちゃんとしている。男子の部屋なのに、こんなに調味料が揃っているなんて。私はそのうちのひとつに、茶色くて干からびたお花みたいなものの入った袋を見つけ、手にとった。

「神崎くん、これ何? 八角?」

 袋に書いてある文字を読み、袋を振りながら神崎くんに見せると、神崎くんは気付いてこちらを振り向いた。

「ああ。中華料理とかに使う香辛料で、この前豚の角煮を作ったときに使った余りだ」

「豚の角煮!? 神崎くん、豚の角煮なんて作れるの!?」

「ああ。大体のものは自分で作れる」

「へええ! すごい! 調味料とか冷蔵庫に食材いっぱい詰まってるから、料理するとは思ってたけど、そこまで本格的に作れるなんて、すごいね!」

「いや、そんな大層なもんでもないが、料理は好きだ」

 神崎くんは謙遜したけど、八角なんて謎香辛料を使って料理するなんて、なかなかすごいと思うな! なんか、美味しそうじゃない? 私は八角を元あった場所に戻して、お茶碗に卵を割り入れた。

「へえ~。そうなんだあ。いいなあ。豚の角煮! 私も食べてみたい! そうだ。今度作ってよ!」

「――別に良いけど」

「本当!? わーい! 楽しみにしてるね!」

 私はご機嫌でお鍋に溶き卵を流し入れ、ひとまぜして火をとめた。綺麗なお茶碗にお粥をついで、今日は冷蔵庫にあった梅干をのせる。スプーンを添えて、机に向かう神崎くんに手渡した。

「はい! 出来たよ! 少し元気になってきてるから、梅干添えてみたよ♡ どうぞ!」

 私がご機嫌のあまりにっこり微笑むと、神崎くんは目をそらして、お粥を受け取ると、じっとお粥を見つめた。そして、おずおずと口を開く。

「相田さんは、『シュウカヘイゲツ』だ」

「え? シュウカ? なんて言ったの?」

 すると、神崎くんはみるみる真っ赤に染まった。耳まで真っ赤になって、俯いたまま顔をあげようとしない。

「いや、いい。忘れてくれ」

 消え入りそうな声でそう言うと、一心不乱にお粥を食べ始めた。

 え? なに? 確か「シュウカヘイゲツ」って聞こえたけど。目が合わないし、あ、耳がぴくぴく動いてる。てことは、照れてる?

「ええ! 何なに!? 気になる! どういう意味? 教えてよ!」

 私は神崎くんをツンツンつついてみたけど、神崎くんは頑なに口を割ろうとしない。結局、お粥を全部食べ終わってお薬を飲み終わっても、ノートを全部写し終えても、帰る時間になっても、教えてくれなかった。

 なんなのよ! 自分から言い出しておいて。神崎くんらしいと言えばらしいかもしれないけどさ。

「じゃあ、また明日? 元気だったら学校でね」

「ああ。色々とありがとう」

 ああ、また。そんな優しい顔する。いつも無表情だから、ギャップがすごい。これは、キュンとしちゃったの、認めるしかないかも。ふふ。可愛い♡

 バイバイと手を降ると、ゆっくりと扉が閉まった。

 エレベーターを待っている間、私は早速スマフォを取り出し、Google検索を開始する。
もちろん、「シュウカヘイゲツ」と入力し、すぐに検索ボタンを押した。

 検索結果の一番上に表示された漢字ペディアを開く。


『羞花閉月シュウカヘイゲツ 非常に美しい女性のたとえ。あまりの美しさに花をはじらわせ、月も隠れてしまう意。〔参考〕「羞月閉花・閉月羞花」ともいう。』


 え?

 私は一気に顔が熱くなり、ギュウっと心臓を掴まれたみたいに苦しくなってしまった。エレベーターの扉が開いたけど、動けなくて両手で心臓のあたりを抑えた。

 男子達から「可愛い」と言われ慣れてる私だけど、こんな風に褒められたのは、初めてだ。なんか、ふつうに「可愛い」って言われるより嬉しい気がする。それも、あの照れ屋の神崎くんが言った言葉とは思えない。

 閉まってしまったエレベーターを慌てて開き、最後に203号室を一度振り返り、私はようやくエレベーターに乗り込んだ。

 すごい、びっくりした。びっくりして、まだドキドキしてる。

 こんなの、不意打ちもいいところだよ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ