挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第三章 薔薇のネックレス

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

34/36

6 告白

 マンションのエレベーターが登るスピードももどかしく感じられる程、私はじれていた。ダイチの部屋の前に着く。インターホンを押した。やっぱりというか、応答はない。

 LINEにお見舞いに行くと書いて送ったけれど、既読もつかない。電話してみたけれど、電源が入っていないとアナウンスされてしまった。

 私は何度もインターホンを鳴らし、ドアを叩いて、大声で何度か呼びかけた。

「ダイチー! いるんでしょ? 開けて!」

 けれど、一切物音がしない。私は不安になった。不在なのかな? でも、学校を休んで、他にどこに行くんだろう? バイト? でも、バイトはいつも18時くらいからだから、まだ時間じゃないはず。

 扉の前であんまり騒ぐのも、ご近所迷惑になるだろうし……。そう考えると、私は扉を叩くのを躊躇してしまった。

 LINEに、ドアの前で待ってるとメッセージを送り、私はダイチが気づいてくれるまで待つことにした。ドアにもたれて座り込む。

 曇天から、涙のような冷たい雨が降り始めた。

 私は待った。

 しんと静まり返った扉の前で、ただ待った。

 3時間経った。時間は19時を回った。そろそろ帰らないとお兄ちゃんに心配されてしまう。私は家族LINEに帰宅が遅くなると連絡を入れた。このままだと晩ご飯抜きになってしまうけれど、仕方がない。ダイチが気づいてくれるまで、もう少しこのまま粘ろう。

 そう決めて、膝を抱えた。

 しとしとと降り続く雨のせいか、9月にしては少し肌寒い。

 ダイチ、どうしちゃったんだろう。まさか、やっぱりバイト先にいるのかな。入れ違っちゃったとか?

 私がぐるぐる考えていると、急に背中を預けていたドアが開いた。

「きゃ」

「わあ!」

 両手を床について、転ぶのを免れた私は、驚いて振り返った。

「――ナナ! あ、いや、相田さん。なんでこんなところに……」

 驚いた顔をしているのは、ダイチも一緒だった。髪の毛はボサボサで、ダサ眼鏡をかけた、黒いTシャツ、黒いアンクルスキニーの全身真っ黒なダイチが目を見開いて私を見ていた。

 私は慌てて制服のスカートを払いながら立ち上がった。

「LINE見てないの? お見舞い行くって連絡したよ」

「見てない。電源切ったまま放置してたから。寝てたし……いまコンビニに飯買いに行こうとして。――ごめん。いつから待ってたの?」

「それは気にしないで! 私が好きで待ってただけだから。でも、ここじゃ寒いから、とにかく中に入れてよ」

 私は、制止するダイチの声を無視して、部屋にずかずかと上がり込んだ。

 今までクーラーがついていたのか、部屋の中もたいして暖かくなかったけれど、ダイチの家の匂いがして、私は不思議とくつろいだ気持ちになった。

 さっきまで地べたに座っていたので、ベッドに腰掛けるのもはばかられて、私は手持ち無沙汰に振り返った。

 すると、部屋の入口のところで立ち尽くすダイチと目が合った。

「――悪いけど、帰って。もう俺たち別れたんだし。付き合ってもいない男の部屋に上がり込むなんて、非常識だよ」

 ダイチは、珍しくイライラしているようだった。それを隠そうともしない。私も、ダイチのその言葉にむっとして、思わず喧嘩腰で返答してしまった。

「いや! 帰らない。ダイチが明日学校行くって約束してくれるまで帰らない!」

「はあ!?」

「心配したんだよ! 見たとこ元気そうだけど、三日も学校休むなんて!」

「――俺の勝手だろ。相田さんには関係ない」

「関係なくないよ! 彼氏がこんなことになって、心配しない彼女なんていないよ。ダイチが学校来てくれないとナナ寂しい」

「もう別れた!」

「別れてない! 認めてないって言った!」

 きっと睨むと、ダイチは何か言い返そうとしたけれど、私はそれに先んじて口を開いた。

「嫌がらせのことなら心配しないで。実行犯は委員長だったの。丸高くんに命令されてやってたんだって。委員長、丸高くん達に影でいじめられてたんだって。でももう、二度と嫌がらせしないよう約束したから! だから、ダイチは安心して。大丈夫だから! だから、私達が別れる必要もないでしょ?」

 ダイチは、驚いた顔をした後、ふいと目線をそらした。

「――別に、いじめのことなんて気にしてないって言っただろ。ナナには、俺の気持ちなんて分からない。学校へはそのうち、気が向いたら行くから。もういいだろ。帰って」

 私は驚いた。ダイチの冷たい声に。拒絶に。そんな反応をされるとは思ってもみなくて、混乱した。反射的に拒否するしか出来なかった。

「やだ! ダイチが明日学校来てくれなかったら、ナナ寂しいよ。ナナが寂しいって思う気持ち、ダイチもわかってくれないじゃん。話してよ! 理由(わけ)を話してくれないとナナ馬鹿だからわかんないよ!」

「ナナには関係ないって言ってるだろ!」

「関係なくない! 彼女だもん!」

「別れた!」

「別れたって認めてない!」

 平行線で交わらない言い争いに、お互い一歩もひかず、睨み合っていた。私は悲しくて、瞳に涙をためながら、それでも叫んだ。

「ナナはダイチのことがすきだから! すきだから絶対別れないもん! ダイチがナナのこと嫌いでも、それでも絶対別れてなんかあげないもん!」

 自分でも、何を言ってるのか、もうわからなくなっていた。気持ちが溢れて決壊していた。支離滅裂にダイチがすきだと言い募った。泣いていた。

 ダイチは、顔を歪ませた。

「うるさい」

 気づいたら、ダイチに頭を掴まれて、唇を押し当てられていた。

 唇を食べられて、舌が私の歯列をなぞった。

 動揺して戸惑っているうちに、ベッドに押し倒されていた。ナナの太ももの間に、ダイチの膝が挟まれていて、足が閉じられない。閉じられない足の隙間から、急速に心もとない気持ちが忍び寄って私を満たした。

 ダイチの骨ばった手が、私の太ももを撫でて這い上った。体温が急上昇して、顔が赤面したのがわかった。ダイチの手は、そのまま制服の白い半袖シャツのお腹をまくり上げて直にお腹を触った。

 その間も食べられるみたいなキスは続いていた。息継ぎが難しい。頭がぼうっとしてクラクラしてきた。何も考えられなかった。心臓が血液と一緒に切なさを全身に送り出しているような気がした。

 首元のリボンが外されて、シャツのボタンが開かれた。やっと唇を開放されて、私が鉢の中の金魚みたいに呼吸を繰り返していると、ダイチが私の胸元を見て固まっていることにようやく気づいた。

 私に覆いかぶさっているダイチは、とても悲しそうな顔をしていた。

 私まで悲しくなってしまう。驚きに止まっていた涙が、目尻から思い出したようにこぼれた。

「――なんで、抵抗しないの?」

 ダイチは、低くかすれた声で囁いた。ギターのベースがお腹に響くように、その声は私の下腹を震わせた。

「――だって、ダイチだから」

「俺だから? ナナは俺にこだわるけど、俺なんかのどこがいいの?」

「全部」

 私は泣いた。両手で涙をぬぐいながら、嗚咽をこらえながら。ダイチが、まるで自分には価値がないみたいに、吐き捨てるように問うたのが悲しかった。

「真面目なところも、優しいところもすぐに気づいたし、バイト頑張ったり自炊したりしてるところも、弱音はかないところも、尊敬してるし、そういう自分持ってて大人っぽいところもすき。顔もカッコイイし、相槌を打つ時のああって言う声も優しい笑顔もすき。雰囲気がすき。匂いがすき。一緒にいるとドキドキするし、安心もする。こんな気持ちになったのは生まれて初めてなの。ダイチだけなの」

 止められない涙を流したまま、拭う手の隙間からダイチの顔をのぞき見た。ダイチは、苦しそうな顔をしていた。

「わかってよ! ナナはダイチのことが大好きなの! 大好きなんだもん!」

 叫んだら、その口は再び唇で塞がれた。

「ん」

 ようやく開放されて見上げたダイチの瞳には、涙が滲んでいた。

「なんで誕生日にあげたネックレスなんかまだしてるんだよ。無理やりやって嫌われることも出来ないだろ」

 かすれた声でそう言うと、ダイチはベッドに体重を預けて私を抱きしめた。私も強くダイチの背中に腕を回して抱きしめた。二人の間に距離はなく、お腹とお腹がぴったりと合わさっていた。

「ダイチになら、何されてもきっと嫌いになれないよ」

「――ナナは馬鹿だ」

 私を罵るダイチの声は、耳朶を打ち、心臓を甘く痺れさせた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ