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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第三章 薔薇のネックレス

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1 文化祭の出し物は?

 ロングホームルームが始まり、文化祭実行委員の来光くんが教壇に立った。

 暗めの茶髪で背の高い来光くんは白いチョークを握り締め、黒板の右端にデカデカと「文化祭の出し物について」と書いて振り返った。そして、ひとつ咳払いをすると、輝くような笑顔で口を開く。

「それでは、今から文化祭の出し物を決めたいと思います! 皆、何やりたいかどんどんアイディア出してくれ!」

 来光くんは、一学期のはじめに委員を決めた時から、自ら立候補して文化祭実行委員になり、「俺文化祭楽しみ!」と事あるごとに言っていた。何でも、うちの高校に決めたのも、中学生の時に学校見学に文化祭に来たことがきっかけだったらしい。この逸話はクラスの全員が知っている。一番最初のホームルームでの自己紹介のときに話していたからだ。

 それだけあって、来光くんは張り切って燃えていた。

 対するクラスの皆は、一瞬静まり返った。皆、互いの出方を窺って尻込みしているのがわかる。

 クラスの出し物かー。私は何がしたいだろう? 特に思い浮かばない。皆が決めたのをそれなりに手伝って、普通に楽しめたらそれでいいかな。それでも、独特のそわそわした空気が、私をわくわくした気持ちにさせていた。

 レイカは、無難に喫茶店か休憩所が良いと言ってたから、そうなったらいいな。レイカはサッカー部のマネージャーの仕事があるから、放課後準備に参加出来ない。だから、当日の当番だけ手伝えばそれで良い出し物が良いんだって。ヤエもチア部の練習があるし、ミサミサも彼氏とジャズバンドの練習があるから放課後の準備に参加するのは面倒なんだって。

 私も、放課後はダイチとの勉強会を優先したいから、準備が大変な出し物は嫌だな。例えば、お化け屋敷とか、合唱とか。

 そんなことを考えつつ、皆の様子を窺っていたら、丸高くんが手を挙げた。

「じゃ、丸高!」

 来光くんが笑顔で丸高くんの名前を親しげに呼んだ。丸高くんと来光くんは、お互いクラスの上位カーストなので仲がいいみたい。

 私はこの丸高くんが苦手だ。バスケ部で女子にも人気のある丸高くんが、一学期私に告白してくれたことを、私はもちろん覚えている。好意を持ってくれたのが嫌だったんじゃない。私が告白を断った時の反応が最悪だったからだ。突如、豹変して愛想が消え去ったのは、まだ我慢できても、私の彼氏のダイチのことを馬鹿にしたことは許せない。

 丸高くんは、あの時の冷たい態度が嘘のように明るく大きな声で叫んだ。

「お化け屋敷で!」

 げ。さっき、お化け屋敷は嫌だって思ったばっかりなのに。やっぱり丸高くんとは、とことんそりが合わないらしい。でも、来光くんは上機嫌だ。

「いいねえ! お化け屋敷! 文化祭と言えばお化け屋敷だよな!」

 そう言いながら、黒板に「お化け屋敷」と書き込む。振り返り、笑顔で「他に何か意見はないか?」と問いかけた。

 すると、すかさずミサミサが挙手する。

「はい。難波さん」

「はーい。喫茶店が良いと思いまーす」

「喫茶店ね! 了解。喫茶店も文化祭にはお約束だよな!」

 来光くんは、これまた上機嫌で黒板に向かい、「きっ茶店」と書いた。「おい、喫茶店くらい漢字で書けよ!」と来光くんの相棒の男子が茶々を入れると、来光くんは「うるせー」と言って顔を赤らめたので皆笑った。

 それからしばらく、皆でもじもじした時間を過ごした。一向に手が挙がる気配がない。それもそのはず。うちのクラスの女子はスクールカーストトップの女王様レイカに逆らえる雰囲気じゃないし、意見を言ったミサミサがレイカの取り巻きだという事は周知の事実だ。丸高くんも男子のカーストトップだから、男子達は丸高くんに気兼ねして自分の意見を言おうとしない。

「他に何か意見はありませんかー? なければ、多数決で決めたいと思います!」

 来光くんが問いかけると、皆はざわめいた。「いいよー」とか、「えー」とか。すると、レイカがおもむろに口を開いた。

「私、お化け屋敷になんて決まっても、準備手伝えないわよ。サッカー部優先だから。あと一ヶ月しかないのに、そんな大変そうな事無理よ」

 きっぱりと断じたレイカに対し、女子達が口々に頷き合って同意を示した。

「そう言うなよ、澤田さん。それをやり切るから楽しいんだろー」

 丸高くんが「なあ!」と呼びかけると、何人かの男子が頷き、同意を示した。

 クラスは、完全ではないにしろ、男子対女子で意見が分かれてしまった。このままでは、どちらに決まってもクラスの半数の反感を買ってしまいそうな雰囲気だ。

「えーと、じゃあ、両方のいいとこ取りで、お化け喫茶も俺の一存で案に加えて、多数決で決めまーす!」

 来光くんが、高らかに宣言すると、クラスは沸いた。「どうするー?」という近くの席同士での意見交換が素早く行われ、すぐに多数決が行われた。

 結果、半数以上の日和見票が「お化け喫茶」に流れ、うちのクラスの出し物は「お化け喫茶」に決まった。

 来光くんは、満足げに頷くと、黒板を消し、改めて右端に「お化けきっさ」と書くと、お化け喫茶で出す食事の内容をどうするかについて議題を移した。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 結局、うちのクラスの出し物は、お化けのコスプレをした店員がパンケーキとジュースを出す「お化け喫茶」になった。普通の喫茶店よりも内装をそれっぽくしなければいけない分準備は大変だけど、本格的なお化け屋敷を作る程ではない。

 クラスの反発も少ない、文化祭実行委員・来光くんの名采配だった。

 私とダイチはその日の放課後、久しぶりの図書館での勉強会の帰りに、どんなお化けにコスプレするか話し合ったりした。ダイチは、コスプレなんて恥ずかしいから、学ランに馬のマスクでもかぶるよ、と言うので、私は笑った。

 ダサ眼鏡を外して、流行りの髪型にしたダイチは、一見目のくらむようなイケメンなのに、話してみるとマイペースで照れ屋なところは付き合い始めた頃から変わっていない。

 私はどうしようかな?

 魔女か、ドラキュラガールか、白い浴衣着て幽霊とかもいいかなあ? でも私茶髪だから、幽霊になるなら黒髪のかつらかぶらないとダメだよね。今度、ドンキに行ってコスプレ衣装売り場見て来よう。ハロウィンも近いから、売り場が充実してると思うんだよね。レイカ達はどうするんだろう? わー、楽しみになってきた!

 そんな風に浮かれていた私は、翌日学校に来て、ダイチの席の周りに人が集まっているのを見て驚いた。え、なになに?

「ひっでー。こんなこと、よくやるよな」

 誰かが呟くのを不審に思いながら、私も人垣に近づき、何があるのか見てみると、ダイチの机にマジックででかでかと「死ね」と書かれていたのだった。

「え――。なにこれ……」

 呆然としていると、集まっていたクラスメイト達がざわめいた。見ると、教室の入口からこの席の持ち主、ダイチが入って来たところだった。

 自分の席に人だかりが出来ているのを不審に思ったのか、ダイチは足早に席にやってきた。そして、それを見た。マジックではっきりと書かれた悪意の文字を。

「――」

 いつも無表情の神崎くんだけど、さすがに驚いたのか、一瞬固まった。

「朝来たらこうなってたんだぜ。ひでーな」

 クラスの男子がそう言って慰めた。ダイチは、どうリアクションして良いのか困った様子で、でも特に取り乱す様子もなく、ただ黙って机に書かれた悪意の文字を見つめていた。

 どうしよう。誰がこんなことを? ダイチになんて声をかければ?

 私も思考停止でおろおろと固まっていると、委員長くんが慌てた様子でやってきた。眼鏡で背が低くて、温和な性格のうちのクラスの学級委員長。

「用務員さんからシンナーもらって来たよ。これで消せるよ」

 手にはラッカーうすめ液と書かれた缶とボロ雑巾を持っていた。うすめ液を雑巾に染みこませ、机をこすると、マジックで書かれた文字は徐々に薄まって見えなくなっていった。

「委員長、ありがとう……!」

 私が思わずお礼を言うと、委員長は顔を真っ赤にして照れた。

「いや、そんな」

「さすがソーダイ! お前実は使えたんだな!」

 ソーダイというのは、委員長の苗字が早稲田だからという理由でついたあだ名だった。委員長は、クラスの元気の良い男子達からはソーダイと呼ばれているらしかった。ちなみに私とその周りの女子達は委員長と呼ぶこが多い。

 バシバシと背中を叩かれて、委員長はヘラヘラと笑った。

「ありがとう、早稲田くん」

 ダイチがお礼を言うと、委員長は首を振って笑った。

 でも、誰がこんな酷いことを。委員長がすぐに消してくれたから良かったけど、でもダイチの机にそんな文字が書かれたという事実は消えない。

 文化祭でわくわくとしていた気持ちが、一瞬で弾けて消えてしまった。
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