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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第二章 夏休みとキスと三角形

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12 ヒロカちゃんからの呼び出し

 涙を拭いぬぐい、ミサミサがいるホテルの自分の部屋に戻る途中、エレベーターを待っている時だった。

『ごめん、皆。失敗しちゃった』

 私はグループLINEにそれだけ送ると、次になんて送るか書きあぐねていた。

 そのとき、スマフォの着信音が鳴った。音切るの忘れてた。あのまま上手くいってたら、スマフォに邪魔されていたかもしれない。神崎くんのいる部屋から怒って出てきてしまった今、そんなこともう心配する意味もないけれど。

 着信音の正体は、SMSのメッセージだった。

「二人きりで話があります。今日パラソルを置いた辺りで待ってます。ヒロカ」

 ヒロカちゃんから!?

 私は目を疑った。なんでヒロカちゃんが私の電話番号を知ってるんだろう。連絡先なんか交換した覚えないのに。誰かから聞いたのかな。

 でも、わざわざ私に話しがあるなんて、絶対に神崎くんのことについてに決まってる。

 受けてたってやろうじゃない。ちょうど今、予定が空いたばかりだし。私も、話がある。

 ヤケクソ気味な気持ちで、エレベーターの階下へ降りる逆三角のボタンを連打した。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 ホテルを飛び出すと、真夏だというのに、潮風の独特の香りがして、肌寒かった。オフショルのワンピースで肩が出てるせいかもしれない。ビーチまでは徒歩1分。ロビーを出てすぐ、道路を挟んだ向かい側には太平洋が一望できた。打ち寄せる波が白砂をもてあそんでは引いていく。

 ホテルの照明が届く範囲を過ぎた途端、辺りがものすごく暗いことに気づいた。月はまだ出ていない。昼間の晴天が嘘のように、どんよりとした雲が空を覆っていた。

 話があるのは良いけど、何もこんな夜に外に呼び出すなんてヒロカちゃんは何考えてるんだろう。一人だったら絶対出歩かない。けど、そんなところにヒロカちゃんをずっと待たせとく訳にもいかない。とにかく、会ってから、場所を移そう。

 私はサンダルで砂浜を踏みしめながら、ヒロカちゃんの姿を探した。

 あの時、ヒロカちゃんはこう言った。

『調子に乗ってるみたいだから教えておいてあげるけど、ダイチくんはあんたのこと好きだから告白OKした訳じゃないからね。ダイチくんは、彼女が欲しかっただけで、相手は誰でもよかったんだよ』

 どういう意味なのか、もっと詳しく話を聞いとけば良かった。

 どうして神崎くんがそんな風に思ったのか、それを何故ヒロカちゃんが知ってるのか、聞いておけば良かった。

 神崎くんは、ヒロカちゃんに恋愛の相談もしてるの? そして、ヒロカちゃんに私のこと、そんな風に話したの?

 だとしたら、神崎くんは、自分では気付いてなくても、ヒロカちゃんのことが好きなのかもしれない。

 だから、私にキスする気が起きないのかもしれない。

 私のこと可愛いとも思わないし、好きだとも思わないし、ムラムラもしない。だから、キスしようとも思わない。それは、心の奥底ではヒロカちゃんを好きだから。辻褄が合う。

 この憶測が、もし本当だとしたら、私はすっごく傷つく。

 今まで怖くて考えないようにしてきたけど、だから、悩殺作戦みたいな極端な行動に打って出てしまったけど、でも、それは間違いだった。

 神崎くんに遊び人みたいに思われるんじゃ、意味がない。えっちがしたかった訳じゃない。

 ただ、神崎くんに、好きになって欲しかっただけなのに。

 間違えた。失敗した。

 今度は、間違えないように、もう一回、ヒロカちゃんと話すところからやり直すんだ。

 まだ終わってないはず。

 もし、神崎くんが心の奥底ではヒロカちゃんのこと好きだったとしても、いまの彼女はナナだから。だから、振り向いてもらえるように、まだ頑張っても許されるはず。今はそう思えるけど、もし本当にそうだったらどうしよう。怖い。きっと途方に暮れると思う。頑張るって言ってもどうしたら良いか分からない。

 けど、とにかく、怖くても、もうこれ以上、逃げてちゃダメだ。

 逃げたから、喧嘩しちゃったんだ。受け止めなきゃ。

 神崎くんの本当の気持ちが知りたい……!

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 そのとき、前方に人影が動いた。距離が近い。

 思考が自分の内側を向いていたから、気づくのが遅れた。やばい。どう見ても、この影の形は男の人だ。

「すーげえ、可愛いね、あんた。俺と遊ぼうよ」

 サーっと血の気が引いた私は、とっさに反転して走って逃げようとしたけど、男が私の腕を掴む方が早かった。

「だーめ。そんなエロい格好して、男漁りに来たんだろ? 今日は俺にしとけよ。損はさせねえからさー」

 お酒の臭いがした。酔っ払いだった。暗くて歳はよく分からないけど、30くらいだと思った。

 男は、私を背後から抱きすくめた。

 瞬間、私は片足を後ろに引いて、さっと腰を落とすと、右脇で男の右腕を挟んで押さえ、身体を勢いよく回転させて、左肘を男のみぞおちに叩き込んだ。

「っぐ!」

 男がひるんだ隙に、男のホールドから脱出した。

 やった! 護身術成功!

 元彼達に襲われること数回目で、お兄ちゃんが教えてくれた護身術が役に立った。

 私は一目散に逃げ出す。

「てめえ! ざけんなよ!」

 不意をつかれた男は逆上して追いかけて来た。酔っ払いの癖に、走るのが速い。私はサンダルがパカパカして走りにくい。(かかと)にベルトのあるサンダルを履いてくれば良かった。ううん、ヒロカちゃんに危ないから別の場所に来てと言えばよかった。ビーチに降りた時から危ないって思ってたのに。後悔しても遅い。

 あっと思った時には、砂に足をとられて転んでいた。

 全身を強かに打つ。膝が擦り剥けたかもしれない。痛い。けど、そんな場合じゃない。私は慌てて起き上がろうとしたけど、それよりも、酔っ払い男が私の足首を掴む方が先だった。

「面倒かけさすんじゃねえよ。優しくしてやんねえぞ」

 怖い。どうしよう。声が出ない。

 男に馬乗りにされて、肩を掴まれて、顔を仰向かされた。唇を奪われたら、噛みちぎってやる。きっと睨みつけたら、男は下卑た笑いを浮かべた。

「いいねえ。嫌がる女を無理やりっていうのも、好きだぜ」

 男はそう言うと、私の耳を舐めた。死ね! 全身が総毛立ち、悪寒で吐きそうになりながら、私は必死に抵抗して暴れた。けど、酔っ払いの癖に力が強い。それとも私がご飯食べてないせいで力が出ないのか。脚を封じられているから、股間を蹴ることも出来ない。どうしよう。どうしよう、やばい。嫌だ。怖い。怖い。どうしよう。

 このまま、こんな気持ち悪いおっさんに初めてを奪われるの? 嫌だ。嫌だ。初めては神崎くんがいい。怖い。男の酒臭い息が、首筋にかかる。怖い。声が出ない。

 助けて。助けて、神崎くん――!

 刹那、男の頭が吹っ飛んだ。

 私の身体の上から忽然と消えた男の頭と胴体は、私の横の砂浜に転がっていた。私が事態を把握した時には、男は誰か別の男の人に思い切りお腹を何度も蹴られている最中だった。

「――神崎くん……」

 酔っ払い男を蹴り飛ばしているのは、神崎くんだった。

 何度目か蹴りを食らわされた酔っ払い男は、捨て台詞を吐きながら逃げていった。神崎くんは追わなかった。振り返って、私を見た。

「相田さん!」

 半身を起こして呆けていた私に駆け寄ると、片膝をついて両肩を掴んた。

「大丈夫!?」

「あ……うん。ちょっと耳舐められたけど、それだけ。私、こういうの慣れてるから、護身術でやっつけたんだけど。今日はちょっと手ごわかった。最後までされたらどうしようかと思って、怖かった」

 話してるうちに涙がこみ上げて来て、また泣いてしまった。

「ごめん……!」

 神崎くんが、ぎゅっと抱きしめてくれた。頭を撫でてくれた。

「ごめん、さっき俺が引き止めてれば、こんなことにはならなかったのに。大丈夫な訳ないよな。でも、無事で良かった……」

 ほっと溜息をついた神崎くんの胸で私は泣いた。

 神崎くんの早鐘を打つ心音と温もりが、私を安心させた。

 神崎くん、助けてくれた……。ナナのこと、心配してくれた?

 私は、そのとき、ふともう一人すすり泣く声を聞いた。不審に思って顔を上げると、傍にヒロカちゃんがいた。

 目が合うと、ヒロカちゃんは、破裂したみたいに声を上げて泣き出した。

「ごめん……なさい! こんなことに、なると、思わなくて! ヒロカ、昼間ナナさん達がジロ兄と、夜の計画のこと、話してるの聞いちゃって。邪魔しようって、思っただけで! それだけで! こんな酷いことになるなんて、思ってなくて! ごめんなさい! ごめん、なさい!」

「――ヒロカちゃん……」

「だからって、夜中に女子が一人でうろついていたらどうなるかくらい、考えたらわかるだろ!」

「だって、だって……!」

 神崎くんが怒鳴ると、ヒロカちゃんは赤ちゃんが泣くみたいに酷くしゃくり上げた。

「いいよ、神崎くん。ヒロカちゃん。――私こそ、ごめんね」

 私は離してくれない神崎くんの腕の中で、しばらく波音とヒロカちゃんの慟哭を聞いていた。
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