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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第二章 夏休みとキスと三角形

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11 涙

 インターホンを鳴らすと、少し間が空いた後、慌てた様子の神崎くんが扉から顔を出した。

「相田さん、どうしたの?」

「遊びに来ちゃった♡」

 にっこりと微笑むと、神崎くんはあからさまに目線をそらした。耳がぴくぴくしている。

 これは、意識してくれてる?

 よかった。私だけドキドキして、神崎くんは普通だったら雰囲気作るの大変だもんね。

 半ば強引に部屋に入る。ベッドが二つ並んでいる。ベッドカバーは白。その上に帯状の紺のベッドライナー。奥の窓辺には、景色を楽しめるように小さな丸テーブルと、椅子が二脚。ベッドの脇に神崎くんと田辺くんの荷物がそれぞれ置いてあった。

 どこを見回しても、田辺くんが置いて行ったというコンドームは見当たらなかった。さっき慌ててたのは、きっとそれをどこかに隠したからだよね。私はそれを想像したらおかしくて、少し笑った。
神崎くんは冷蔵庫を開けると、オレンジの缶ジュースを渡してくれた。

「ありがと」

「いや」

 プルタブを開けると空気が抜ける音がした。神崎くんが椅子に腰掛けてジュースをあおると、喉仏が上下して、ドキリとした。慌てて目線をそらして、あえてベッドに腰掛けると、ジュースを一口飲んだ。

「美味しい」

「普通のジュースだよ」

「そうだけどさ。美味しいんだもん」

 だって、ご飯残したから、お腹減ってるんだもん。私は思わず、夢中になって一気に飲み干してしまった。神崎くんは、私がジュースを飲み干すのを待って、口を開いた。

「相田さん、今日は残念だったね。せっかく海に来たのに体調悪いみたいで。晩飯も残してたみたいだけど、具合まだ悪いの?」

「え? あ、ううん。そんなことないよ。平気平気!」

 私は取り繕うように(かぶり)を振った。まさか、お腹の減り過ぎで体調崩したなんて、格好悪くて言えない。

「そうかな。心配だから、早く部屋に帰って寝た方が良いんじゃない? 明日もし元気になったら、俺のことは気にせず、相田さんは残って海を満喫して来たらいいよ」

「へ? やだな。私も神崎くんと一緒に帰るよ。初めからその予定だったし」

「けど、せっかく来たのに。俺はバイトだから残ることは出来ないけど。皆も夕方まで残るみたいだし、俺なんかに付き合うことないよ」

 付き合うことない、という単語に無駄に反応して、イラっとしてしまった。他意はないとわかってはいるはずなのに、なんかむかついてしまった。

「神崎くんだから、付き合いたいんだよ!」

 あ、やば。いまの言い方、可愛くなかった。

 神崎くんは、驚いた顔をして、私を見た。

「――ごめん」

「あ……こっちこそ、キツイ言い方してごめん。けど、一緒にいたいんだもん。夏休み入ってから、全然二人きりになれてないし」

 つい、本音が出てしまった。そう、夏休みに入ってから、ヒロカちゃんも一緒の勉強会でしか会えてないから、二人きりの時間は勉強会前後にあるかないかの数分と、電話で話している時だけになってしまっていた。

 もっと言うと、一学期の最後はずっと絶交状態だったから、ここ一ヶ月以上、ほとんどまともに二人の時間が作れていない。付き合いたての頃は、放課後毎日、二人きりの勉強会をしていたのに。

 でも、こうなったのも、自分が悪いって分かってるし、神崎くんがバイトばかりしている理由も知ってるから、何も言えないでいた。

 けど、正直に言うと、寂しい。

 しかも、ヒロカちゃんの登場で、私のストレスも限界に来ていた。電話やLINEだけじゃ足りない。もっと、神崎くんと一緒の時間が欲しかった。

「確かに、俺バイト外せないから、なかなか時間合わなかったからね。ごめん。悪いとは思ってるんだけど、やっぱり念のために稼げる時に稼いでおきたいから――」

「ね、神崎くん。ぎゅってして?」

「へ!?」

 前後の脈絡なく、思い切って言葉にしてみたら、神崎くんには急だったみたいで、すっごく驚かれた。硬直して、凝視された。

「いいから! ぎゅってしてくれたら、バイトで忙しいの我慢するから!」

 私は駄々っ子のように言って、床にジュースの缶を置くと、両手を神崎くんに向けて広げた。

「はい」

「――はいって……。相田さん、どうしたの急に」

「急にじゃないもん! いいから! はい!」

 一度上下に腕を振って催促した。神崎くんは、戸惑いながらも、ジュースの缶を白い丸テーブルに置くと、立ち上がって、私の座るベッドの傍に近づいた。

 私もそれに合わせて立ち上がり、改めて神崎くんに向けて両手を広げると、神崎くんはそっと私を抱きしめた。壊れ物でも扱うみたいに、慎重でぎこちない抱擁だった。私は自分から腕を伸ばして、ぎゅっと神崎くんに抱きついた。ほっぺたを、神崎くんの肩に押し付けた。

 神崎くんの匂いがした。

 胸がぎゅっとして、くらくらする。

 背中にそっと添えられた神崎くんの手が、私の心臓を掴んでいるんじゃないかと思った。

 とにかく、ハグまで出来た。なにげに、神崎くんとは初めてのハグ。ハグだけで、こんなに息がつまるほどドキドキしたのは初めてだ。ぎゅっとしがみついてる神崎くんの背中が固くて、男の子なんだな、と思った。

 次はどうするんだっけ。

 私は、押し付けていたほっぺたを神崎くんの肩から離して、神崎くんの顔を窺った。

 神崎くんは、真っ赤な顔で私を見つめてくれた。

 神崎くんの瞳の中に、ナナの顔が映っているのが見えそうな程、至近距離に顔があって、胸のドキドキがもう限界だった。顔が熱い。

 私はそっと瞼を下ろした。

 目尻から、つーっと、涙がこぼれたのがわかった。

「わ、ごめん。嫌だった? 俺なんか変なとこ触っちゃったかな」

 急に慌てた神崎くんが、私の両肩を掴んでばっと引き剥がした。

「ちがくて! これは、ドキドキしすぎただけ!」

 慌てて否定して、涙を拭うと、神崎くんはホッとしたように溜息をつくと、ドサリとベッドに腰を下ろした。

「急に泣くから、焦った――」

「ご、ごめんね。もう泣かないから、さ。続きしよ!」

 私は慌てて神崎くんの隣に腰を下ろした。こうしてベッドに横になって座るのは、いつかのお見舞いの時以来。

「続き!? 続きって、そんな。しないよ。今日はもうおしまい!」

「えええ!?」

 なんでえ!? いま、すっごく良い雰囲気だったのにっ!

「やだやだ! チュウしようよ!」

 思わず本音がダダ漏れる。むしろ、もっと先までする気満々でこの部屋に来たのだ。キスすらできずに終わったら、せっかくここまでセッティングしてくれたレイカ達に申し訳が立たない。

「しない!」

「えええ!? しようよ!」

「だから、しないって」

「なんでえ!?」

「なんでって、こんなこと、焦ってする必要ないだろ! 相田さんは慣れてるのかもしれないけど、俺はこういうことは心の準備が――」

 私は、思わず神崎くんの頬をひっぱたいていた。

 乾いた音が部屋に響いた。

 叩いた右手がじんじんした。神崎くんは驚いた顔でこちらを見た。

「慣れてるって何! 確かに、ナナは元彼が数人いたけど、えっちだってしたことないし、キスだって数えるくらいしかしてないもん! そんなビッチみたいに言わないで!」

 悩殺作戦なんて計画していた自分のことは棚に上げて、私は思いっきり切れて噛み付いていた。神崎くんに、遊び人みたいに思われることだけは嫌だ。えっちだって、別に誰とでもしたいって訳じゃない。神崎くんとだから、しても良いと思ったんだ。

「キスくらい、してくれたっていいじゃん。慣れてないみたいに言っといて、神崎くんだって、ヒロカちゃんとキスしたくせに!」

「え?」

 神崎くんは、驚いて目を見開いた。

「――なんでそんなこと知って?」

「っ! 否定してよ! ばか!」

 ヒロカちゃんの嘘じゃないの!? なんで認めちゃうの!? 否定しないの!? じゃあ、キスしたことあるヒロカちゃんのために勉強見てあげてたの? どうしてナナに会わせたの?

 ナナのこと、すきじゃないの?

「――もういい! 帰る!」

 踵を返した時、私がさっき床に置いたジュースの缶を蹴ってしまい、それが倒れたカランという音が響いた。

「相田さんっ!? 待って!」

 神崎くんが制止する声が聞こえたけど、頭がいっぱいいっぱいだった私は、それを振り切って部屋を後にした。

 神崎くんは、怒って出て行った私の後を、追って来てはくれなかった。

 なんで?

 ナナ、怒って帰っちゃってるんだよ? なんで引き止めてくれないの?

 今度は、悔しくて、悲しくて、そんな自分でも訳のわからない気持ちが台風みたいに渦巻いてきて、涙が出た。ホテルの廊下をずんずんと歩きながら、それを、両手で拭う。

 なんで? 神崎くん、ナナのこと、すきじゃないの?
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