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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第二章 夏休みとキスと三角形

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6 神崎くんに電話

 レイカがケイゴさんにホテルの予約を命じた翌日の日曜日、夜10時を回った頃、私は自室のベッドに腰掛けて、スマフォを握り締めていた。電話の履歴ページに表示される「神崎ダイチ」の文字を見つめて深呼吸をする。

 今日の夕方、レイカから連絡があった。

「とれたわ、ホテル。予定通り、14日の月曜日、皆で海に行くわよ!」

 そんなメッセージがグループLINEに送られて来た。果たして、ケイゴさんは、この繁忙期の真夏に、ビーチサイドのホテルを予約することに成功したらしい。しかも、命じられた翌日には任務を果たしてしまった。さすがだ。レイカが彼氏にするだけのことはある。

 という訳で、私はいまスマフォを握り締めている。

 皆で海に行かない? と誘うだけだったら、こんなに緊張しないはずだった。一泊二日で海に行かない? と誘うのは、考えただけで赤面してしまう。おまけに、考え過ぎとかじゃなくて、ホテルの一室に二人きりになって一晩を過ごし、さらにキスもして来ない草食で下心のないあの純粋な神崎くんをその気にさせるよう、誘惑しようとまで計画しているのだ。

 ふつう、こういう悩みを抱えるのは、ケイゴさんみたいな男の子の方なんじゃないのかな? と思う。女子から誘うなんて、ガッツキ過ぎだと思われないかな、とここへ来て心配になってくる。

 でも、事態はそんな状況じゃない。

 ヒロカちゃんに負けられない。

 そのためにできる、手っ取り早くて最強のカードなのだから、使わない手はない。とにかく覚悟を決めたのだ。

 断られませんように……!

 私はこういう時だけ、どこのどなたともしれない神様にお願いをする。なかば儀式的に念じると、意を決して画面をタップした。

 左耳にスマフォを押し当てて、数秒。コール音が途切れ、神崎くんの少しかすれた低音が耳に届いた。

「もしもし」

「あっ神崎くん。いま、大丈夫?」

「ああ。平気だけど。どうしたの? 明日のことで何かあった?」

 不思議そうに尋ねた神崎くんに、私は言葉を探した。

「あのね、14日の月曜日と15日の火曜日って、予定空いてる?」

「14、15? 確か15の夕方からシフト入ってたと思うけど。14は休みのはずだ。ヒロカにもっと勉強会したいと言われてて、どうするか迷ってたところなんだ」

 げ。ヒロカちゃん、4日間も勉強見てもらっておいて、まだ要求するなんて、なかなか図々しいな。受験なのを盾にとって。しかも、先手を取られた。危なかった。

 私は慌てて口を開く。

「あ、あのね! 皆で海に行かない!?」

 思わず声が上ずりそうになるけど、驚く神崎くんの声を聞き、少し落ち着きを取り戻す。

「海?」

「そう、海! レイカ達に誘われたんだけどね、神崎くんも一緒にどう? って。レイカの彼氏のケイゴさんがレンタカー借りて海まで運転してくれるから、参加者は交通費もただで良いって言ってくれてるし。ホテルもね、1万1851円で予約とれたから! 写真見たんだけど、外観も内装も地中海風で小奇麗な感じでね。山側の部屋でオーシャンビューっていう訳にはいかなかったんだけどね。でもビーチまで徒歩1分らしいの! 夜はフルコースと朝バイキングの2食ついてるし、あ、海鮮料理は嫌い?」

「いや、海鮮は好きだ」

「でしょ!? よかった! じゃあ行こうよ! ヤエがね、ビーチボール持ってきてくれるって言ってたから、皆でビーチバレーしようよ! 15の夕方からバイトだったら、朝食べたら海には入らず、私達だけ早めに抜けさせてもらって、帰りは一緒に電車で帰ろ! ちょっとバタバタだけど、お昼の間休憩できるから、バイトもなんとかなると思うの! ね、ね、行こう? 皆で海、行こう?」

 必死過ぎて、ちょっと勢いよくしゃべりすぎたかな。私は、神崎くんの言葉を待つ。何を言われても、絶対連れて行く気満々で身構えた。

「驚いたな。いきなりだね」

「うん、ごめんね。私も急だとは思うんだけど、昨日レイカ達と会った時にね、誘われたの。せっかくだから、海行きたいねって」

 嘘じゃない。

「海か。でも、俺なんかが行っていいの? その、メンバー的に。澤田さん達ってことは、橋本さんと難波さんも来るってこと? あ、あと運転手として澤田さんの彼氏か。俺だけ部外者じゃないか?」

「そんなことないよ! 神崎くんはナナの彼氏だから、部外者じゃない。それに、レイカの方から神崎くんもおいでって誘ってくれたんだよ! だから大丈夫! あんまり喋ったことないかもしれないけど、一緒に海で遊んだら仲良くなるよ! それに、神崎くんの部屋ももうとっちゃったし!」

「勝手に?」

「ごめん! でも、お部屋とれるか分かんなかったから! 昨日思いついて今日お部屋とれたって連絡来たの。隠してたとかじゃないよ」

「そうか」

 そして、神崎くんは唸った。ホテルを勝手に予約したことを怒ってるっていう感じじゃなくて、ただ突然過ぎて困惑しているって感じだった。

 まあ、クラスの派手グループの異性に一人だけ海に誘われたら、困惑しても当然かもしれない。おまけに神崎くんは、人見知りなのかもしれない。あまり仲良くもないグループの中に一人で入っていくのは確かに勇気がいる。たぶん、それが神崎くんのネックになっているんだと思う。

 神崎くん、教室でもいつも一人でいたし。グループ行動とか苦手そう。まあ、それを気に病んでいる風ではなく、堂々としているから、私はそれをすごいなあ強いなあと思うんだけど、レイカ達に言わせればコミュ障なだけらしい。

 とにかく、いま、そんな神崎くんの性格が海旅行計画の障害になっている。

「やっぱ俺、遠慮する。相田さんは楽しんでおいでよ」

「ええ!?」

 そんなあ! それじゃあ、計画が台無しだよ。神崎くんが来てくれないなら、海に行く意味がなくなっちゃう!

「相田さん、女子同士で遊ぶの好きだろ」

「でも、女子だけで海とかプール行くとナンパが面倒だよ」

「……」

 神崎くんは黙った。よし。もうひと押し!

「アウェーになるのを気にして行きたくないって言うなら、神崎くんのお友達も一緒に行くならどう!? そう、例えば、田辺くんとか! 一人くらい人数増えても、きっとホテル取れると思うの! 田辺くんならレイカとも仲良いし、神崎くんが部外者だって気に病む必要もなくなるでしょ!? ねえ、それならどう? 海、行きたくならない?」

 一人増えたらホテルが取れるかどうかは謎だけど、無責任に保証して、私は神崎くんの返事を待った。

 神崎くんは、唸った。そして遂に折れた。

「まあ、ジローも行くなら……」

「わーい! じゃあ、レイカにお部屋取れるかどうか聞いてみるね!」

「わかった」

 よかった。なんとか誘えた。まずは第一関門クリア! 私は胸をなで下ろす。いや、でもまだ油断は出来ないんだった。レイカにもう一人増える了承を得ないといけない。勝手に人数増やしちゃって大丈夫か心配だけど、それにそう都合よくホテルが取れるかどうかもわからないし。そもそも、田辺くんが参加できると決まった訳でもない。

 内心の心配は隠し、神崎くんにホテルやビーチの詳細を伝えた。それから話しは何故か昨日レイカ達と食べたパンケーキの話しなどに脱線し、気づいたら通話時間は1時間を過ぎていた。

 私はレイカに連絡しないといけない事を思い出し、慌てて電話を切る流れになる。その直前に、私は思いついて、口を開いた。

「えへへ。水着、楽しみにしててね」

「えっあ、うん。――いや! えっと、俺の水着、どこにしまったかな。去年のを引越しの荷物に入れた覚えはあるから探しておくよ」

 神崎くんがドギマギしているのがおかしくて、私は少し笑った。神崎くんは、やっぱりこういうことは照れるんだな。それに、スケベ男子なら真っ先に考える女子の水着のことをあんまり考えないみたい。誘惑するには手ごわいけど、正直可愛いと思ってしまう。

「じゃあ、また明日」

「うん。おやすみー♡」

「おやすみ」

 乱暴にならないように、お互いに慎重に電話を切った。

 海行くまでに、水着、買いに行こう。うんと大人っぽいの。

 あと、ちょっと鍛えて引き締めようっと。私は決意する。燃えてきた!

 ――その前に、レイカに電話しなきゃだった。
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