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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第二章 夏休みとキスと三角形

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4 帰り際

 神崎くんのバイトが17時からだから、昨日と一緒で16時で勉強会はお開きとなる。

「ありがとうダイチくん! また月曜日もよろしくね!」

 素足にユニセックスっぽいスポーツサンダルを履いて、ヒロカちゃんが玄関で笑顔を振りまいた。

「ああ。あんまり根詰め過ぎんなよ」

 神崎くんが頷くと、ヒロカちゃんは玄関を出て手を振った。私もミュールを履いて、神崎くんを振り返る。

「じゃあ、また月曜日。バイト頑張ってね」

 無理やりに笑顔を作ると、神崎くんは思いついたように口を開いた。

「相田さんだけ、ちょっと待って」

「え?」

「ずるい! ヒロカだけ仲間外れにするつもり!?」

 たちまち憤慨するヒロカちゃん。だけど、神崎くんは首を横に振った。

「相田さんに用があるんだ。ヒロカは帰って」

「ええええ!」

「いいから。じゃあな」

 神崎くんはヒロカちゃんを玄関から押し出すと扉を閉めて鍵をかけてしまった。

 思いもかけず、神崎くんと二人きりになる。

 神崎くんはため息をつくと、私に苦笑いをした。

「ごめんな。あいつ、うるさくて」

「えっ。ううん。えっと、元気があるね」

 戸惑ってしどろもどろになりながら答えると、神崎くんは「元気があり過ぎるのも考えものだ」と言って苦い顔で頭をかいた。

 狭い玄関で二人きり。身体がくっつきそうな程近くに立っている。私はいきなり心臓がドキドキと脈を打ち始めたことに気づいた。息をするのも緊張する。

 身構えて鞄を持つ手に力が入った。神崎くんの視線を感じる。目と目が合った。

 用って、まさかキス!?

 きゃー! 急にどうしたの神崎くん!

 私は恥ずかしくなって、思わず目を閉じた。

「ごめん、ちょっと待っててね」

「へ!?」

 私が思わず目を開けた時には、キッチンも兼ねられた短い廊下を渡る神崎くんの背中が見えた。

 あ。そりゃそっか。いきなり積極的になる訳ないもんね。びっくりした。でも、いますごいチャンスだったのにな。

 部屋に戻ってすぐに取って返して来た神崎くんは、その手に一冊の本を握っていた。

「これ。新しく買った星空の写真集なんだが、すごく良いんだ。見てると癒されるから、よかったら貸すよ」

「え? あ、ありがとう」

 思わず受け取る。一本の木を中心に、同心円状に連なる星の軌跡が撮された写真が表紙の写真集だった。

「綺麗――けど、なんでいきなり」

「相田さん、今日元気なかったから」

「え?」

 気付いてくれてたんだ。

「ありがとう」

 へら、と笑うと、神崎くんが心配そうに見つめて来た。

「大丈夫? 何があったか知らないけど、俺でよかったら話聞くよ」

 どうしよう。ヒロカちゃんが言ってたことは、本当? 聞きたいけど、聞くのが怖い。それに、なんでキスしてくれないの? なんて恥ずかしくて聞けないし。

 頭の中を疑問符が駆け巡ったけど、どれひとつ怖くて言葉にすることが出来なかった。結果、曖昧に笑って場を濁す。

「ううん。大丈夫! ちょっと疲れちゃっただけ。ありがとうね」

 へら、と笑うと、心配そうに神崎くんは頭をかいた。

「そうか」

「うん」

「――駅まで送るよ」

 急に思いついたように言った神崎くんに、私は慌てて首を振る。

「いいよ! もうすぐバイトなんだし! 晩ご飯食べるんでしょ? 悪いよ!」

「菓子パンをかじるだけだから問題ない」

「いいよ! 悪いよ! ゆっくり食べて! じゃ、帰るね!」

「――そうか。悪いな。またLINEする」

「うん♡」

 私は笑顔で玄関扉をくぐった。小さく手を振り、扉を閉める。

 最後に、思いがけなく充電できた。少しだけ心が軽くなったのは良いけど、ヒロカちゃんショックは私に計り知れないダメージを与えている。

 思わずため息がこぼれた。

 エレベーターに乗り込みながら、私は昨日今日であった出来事をぐるぐると反芻していた。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

「ねえ、お兄ちゃん」

「なに?」

 夜、お風呂上がり、私はお兄ちゃんに声をかけた。美容師になるため専門学校に通っているお兄ちゃんは、時間があれば練習がてら私の髪のお手入れをしてくれる。今日もその約束をしていたから、お兄ちゃんはリビングにヘアオイルとドライヤーを用意して待っていてくれた。

 ソファの定位置に私が座ると、お兄ちゃんはアルガンオイル、ホホバオイル、アーモンドオイルがブレンドされたヘアオイルを私の濡れたままの髪につけてくれる。オイルの良い香りが辺りに漂う。毛先になじませてくれているお兄ちゃんに、私は尋ねた。

「ねえ、お兄ちゃんがキスしたいと思うのってどんな時?」

「は? どんなって、そりゃ可愛いなあって思ったか、好きだなって思った時か、あとは正直ムラムラした時もそう思うな。――ていうか、なんだ、また襲われたのか? ナナが嫌がってるのに待てないような男はクズだから切って良いって言ってるだろ。心配すんな。俺がまた、きっぱり別れさせてやるからな!」

 急にいきいきとし始めたお兄ちゃんに、私は慌てて否定した。

「違うよ! 神崎くんはそんなことしないもん。逆だよ。してくれないから悩んでるんじゃん! なんで神崎くんはキスしてくれないんだと思う? ナナのこと好きじゃないのかな? 男目線から見てどう思う?」

 するとお兄ちゃんは、驚いた後困惑したように唸った。

「どう思うって言われてもな。俺はその神崎を知らんからなんとも言えないけど……単に照れてるんじゃないかあ? シャイなんだろ? まだ高1だし嫌われると思って勇気が出ないのかもな。何しろナナは美少女過ぎるからな。可愛すぎて手が出せないんだよ」

「ええ。それは見方が身内びいき過ぎない?」

 私が若干引いて眉をしかめると、お兄ちゃんは勢いづいて断言した。

「そんなことはない! 俺はナナ以上に可愛い子を見たことないぞ」

「げえ。それは気持ち悪いよお兄ちゃん。お兄ちゃんの周り綺麗な人ばっかりなのに。だいたい、自分もナナと似たような顔してるくせにさ」

「ああ。だから俺もモテ過ぎて困ってる」

 私は呆れてため息をこぼした。

「お兄ちゃんって、シスコンとナルシストがなかったら完璧だったのに、すごい残念だよね」

「まあな! 自覚はしてる」

 ガハハと笑ったお兄ちゃんが、ドライヤーをかけ始めたので、そこで話は中断された。何気なく見つめていたテレビ画面の中で、人気女優と人気俳優がキスをしていた。

 ドラマのヒーローは、いまヒロインを可愛いと思ったか、好きだと思ったか、ムラムラしたのか、あるいはその全部か、強引に抱き寄せて唇を奪った。ドラマではいつも、こんなに簡単にキスしてるのに、神崎くんは付き合って3ヶ月にもなるのに、ナナにそういう気持ちにならないのかなあ。

 ヒロカちゃんとはしたのに?

 ううん。そのことを考えるのはやめよう。嘘かもしれないし。どっちにしろ、過去のことだし。いまはナナが彼女だもん。

 でも、自信、なくすなあ。
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