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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第一章 始まりは罰ゲーム

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12 私の本音

 月曜日、憂鬱な気持ちで学校に行くと、神崎くんの席に女子が数人集まっていた。

 今までには考えられないことだった。

 女子に囲まれてチヤホヤされている神崎くんの顔を遠くから(うかが)って、私は驚いた。

 いつもの、あのダサ眼鏡がない。

 それだけじゃない。野暮ったかった長い前髪も短く整えられていて、雑誌のモデルみたいなカッコいいソフトモヒカンになっていた。

「神崎くん、可愛い~!」

「どうしたの? イメチェン?」

 今まで見向きもしなかったのに、手のひらを返したように黄色い声で神崎くんを取り囲むクラスメイト達に、私は呆然とした。

 無表情で「ああ」と頷いている神崎くんの仕草が可愛いって知ってたのは、私だけだったはずなのに。

「その髪型、超似合ってるよー! 神崎くんって、実はカッコよかったんだねー♡ 今まで気付かなかったー♡」

 くねくねしながらそう言って、肩にボディタッチなんかしてる。あれは、ガチで狙いに行ってる時の動きだ。やだ。やめてよ! 神崎くんは、ナナの彼氏なんだからね!

 ナナの彼氏だよね?

 まだ、はっきり別れようって言われてないもんね?

 でも、いまあの子達と神崎くんの間に割って入って、神崎くんに邪険に扱われたら? 「もう別れよう」ってトドメの一言を言われちゃったら? 自信がない。

 怖い――!

 その時、神崎くんと目が合った。

「あ――」

 私は、思わずふいと目をそらした。そのまま、自分の席について背を向けた。

 神崎くんから、逃げた。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 一度目をそらしてしまったから、次も怖くて目を合わせられなかった。

 そのまま目も合わせられないまま、言葉も交わせないまま、時間ばかりが過ぎた。もちろん、LINEだってない。

 翌週の木曜日から始まる期末考査を前に、勉強に追われる日々を過ごすことで、私は神崎くんのことを忘れようとした。勉強になんて全然集中出来なかったけど。

 そうして、散々な結果になった期末考査も終わり、神崎くんが髪を切ってから三週間が経った。三週間も言葉を交わしていないなんて、これはもう自然消滅したと考えて良いと思う。

 終業式は三日後の金曜日だ。

 土曜日になれば、約束の夏休みが来てしまう。そうじゃなくても、もうレイカからは神崎くんと別れろと言われてしまった。そんな約束にこだわっているのは、もはや私だけだ。

 お昼休み、いつものようにお弁当を広げながら、ヤエが心配そうに言った。

「ナナ大丈夫? 神崎のこと、本気になってたんだね。からかってごめん」

「ううん。良いの。もう終わったことだし」

 私がへらへらと笑うと、ヤエは困ったように微笑んだ。ミサミサはしみじみとした調子で口を開いた。

「それにしても、神崎ってダサ眼鏡とったら超イケメンだったんだねえ。私びっくりした」

「あ、それ私も思った。急に女子からの人気も上がって、先週神崎隣のクラスの女子から屋上に呼び出されたらしいよ。フッたらしいけど」

 ヤエの情報に私はどきりとする。そっか、告白されたけど、ふったんだ。期待しても良いのかな。ううん。あんな酷いことしたのに、私にそんな資格ない。

 突然、レイカが思いついたように言い放つ。

「ナナがダメになったら、私も神崎にちょっかいかけてみよっかな。あいつ、見た目可愛くなったし、押せば何でも言うこと聞いてくれそうだし」

 にやりと笑ったレイカの言葉に、私は思わず笑いで返した。

「やだ、レイカ! 冗談やめてよー! レイカにはケイゴさんっていう彼氏がいるじゃん!」

「ケイゴ? あいつは今お仕置き中で口きいてあげないことにしてるから。だから私いま欲求不満なのよ」

 物騒な顔で怪しく笑ったレイカ。やだ、だからって何で神崎くんにちょっかいかけようとするの! それに、神崎くんは何でも言うこと聞いてくれそうに見えて、実は頑固なところがあるから、言いなりになんて出来ないと思う。

 けど、相手がレイカだったらどうだろう。レイカは美人だし、ケイゴさんみたいに気の強い女の子が好きな人にはものすごくモテるのだ。それに、面倒見が良いところもある。神崎くんも、もしかしたらコロっとハマっちゃうかもしれない。

 さすがに冗談だよね?

 私は不安を押し殺して笑顔を作った。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 終業式の前日の夜、神崎くんから久しぶりにLINEがあった。

 それだけで泣きそうになりながら、慌ててメッセージを読む。

『話がある。明日、終業式が終わったら中庭に来てくれ』

 中庭。私が神崎くんに告白した場所だ。――嘘の告白をした場所。話って、なんだろう。別れ話かな。自然消滅でも良いこの状況だけど、真面目で律儀なところのある神崎くんのことだから、わざわざ別れ話をするためだけに呼び出すことも、十分に考えられる。

 嫌だ。別れたくない。

 だけど、逃げてても仕方ない。

 私は震える指で返事を返した。

『わかった。必ず行きます』

 絵文字も使わない、色気も素っ気もない文章を男子に送るのも、初めてだ。神崎くんといると、初めてのことばっかり増えるな。

 そう。フラれるのも、初めてだ。いつも、ナナがフる側だったのに。いつもキスが嫌だったとか、何もしないって言ったのに襲われたりが嫌だったりで一方的にフってきた。

 でも、フラれるのが、拒絶されるのがこんなに辛いなんて、知らなかった。今までの彼氏達にも、もっと優しくしてあげてれば良かった。呼び出して、友達かお兄ちゃんに一方的にお別れを告げてもらうみたいなやり方をして来たけど、それって、される側の立場になったら最悪の別れ方だと思う。いま気づいたよ。けど、時間は戻らない。

 罰ゲームを言い渡されなければ、神崎くんと付き合おうなんて思わなかったと思う。たぶん、視界にも入ってなかったと思う。だから、神崎くんのこと、こんなに好きになれたのは、レイカ達が罰ゲームを命じてくれたおかげ。

 皮肉だ。それが神崎くんを傷つけて、私が嫌われることになった原因なのに、それがなければ始まらなかった恋なんて。そんなの、うまくいく訳ないじゃん。

 それなのに、神崎くんと一緒にいられた時間が大事だって未だに思ってて、好きになれて良かった、なんて思ってるなんて。私って、どうしようもないバカなのかもしれない。

 そんなことばかりずっと考えていたから、その夜はなかなか眠れなかった。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 私は教室を飛び出すと、急いで中庭を目指した。

 神崎くんを中庭に待たせている。

 終業式が終わり、教室でのショートホームルームも終え解散となったのに、私を含めた数人の期末考査赤点組は強制参加の夏休みの補習についての連絡事項があったため、教室に残されてしまったからだ。

 神崎くんはもちろん赤点なんて採らないので、先に教室を出て行ってしまった。ずいぶん待たせてしまった。だって、担任のお説教が長かったんだもん。赤点採ったナナが悪いのはわかってるってば。

 駆け足で中庭に出ると、神崎くんが待っている背中が見えた。髪をサッパリと切って、眼鏡もやめた爽やかな神崎くん。と、あれ? 誰かいる。一緒にいるのは……レイカ!?

 なんでレイカが神崎くんと一緒にいるの?

 レイカも成績良いから、もちろん補習なんて受ける必要もなく、先に教室を出ていたのは知っていたけど。

 しかも、神崎くんと何かを話しているレイカは、すごくご機嫌で満面の笑顔だ。

 まさか、ちょっかいかけるとか言ってたの、あれ本気だったの!?

 慌てて駆け寄ろうとしたら、レイカが神崎くんに抱きついた。抱きついて、こっちを見てきた。レイカと目が合う。レイカは、私の反応を面白がるように笑っている。

 頭の中で何かがキレた気がした。

 気づいたときには、私は叫んでいた。

「だめー! 触らないで!」

 走り寄って、神崎くんとレイカの間に割って入り、抱き合う二人を引き剥がした。上がる息を整えながら、神崎くんを守るようにしてレイカを睨みつける。

「神崎くんは、まだナナの彼氏なんだから! いくら友達のレイカにだって、絶対ゆずれないよ!」

 すると、レイカはおもむろに吹き出した。そして、お腹を抱えて笑い出す。

「ひー! おっかしい。ね、ダサ眼鏡。いまのナナの反応見た!? 言った通りそのまんまだったでしょ!?」

「だからって、何もここまですることないだろう」

「良いの良いの。この子どうせこうでもされなきゃ本音なんて言えやしないんだから。顔に全部書いてある癖に笑って誤魔化そうとばっかりするからイライラして試しちゃった。でも、私の言った通りだったでしょ。ダサ眼鏡の心配するようなことは無いって分かったことだし、ぐちぐち悩むのはやめなさい。ここまでしてあげたんだから、あとは二人でなんとかするのよ」

 え? 何の話?

 戸惑う私をよそに、レイカはご機嫌で「じゃあね」と言って私の頭をはたくと去っていってしまった。

「え? あれ? レイカ、行っちゃった?」

 呆然と見送る私に、神崎くんが声をかけてくれた。

「澤田さんは……滅茶苦茶するな。自分から罰を言い出した犯人だと白状した上で、相田さんは悪くないから『別れたら殺す』と言われた」

「ええ!? ころ?」

「ああ。でも、それだと相田さんに迷惑になると言ったら、『それはない』と断言された。――さっきの、あれは、澤田さんの言うように妬いてくれたのか?」

 神崎くんに見つめられているのに気付いて、私は顔が赤くなった。取り乱して叫んでしまったことを思い出して、すごく恥ずかしい。

「だって……レイカが神崎くん格好良くなったから、ちょっかいかけてみようかなって言ってたから」

「心配するな。澤田さんはタイプじゃない」

 神崎くんから食い気味の即答が返ってきた。でも、その返事は引っかかる。

「タイプの女の子に告白されたら、付き合っちゃうの?」

 私は破れかぶれな気持ちで、神崎くんを拗ねた態度で見つめた。神崎くんも私をまっすぐ見つめていた。その表情からは、いつか見たトゲは消えていた。

「そうだな。今、相田さんと付き合ってる」

「あ……うん」

 嬉しくなって、胸がいっぱいになって、私は思わず目を伏せた。久しぶりの神崎くんにドキドキして、目を合わせていられない。髪の毛の先を指先でもてあそびながら、上履きのつま先を見つめた。デコパージュしたピンクのハートもドキドキしている。

 深呼吸して、私は口を開いた。

「私、もう連絡ないまま、このままお別れになっちゃうのかと思ってた」

「うん。正直、俺もそう思ってた。けど、忘れられなかったから。相田さん、俺、相田さんのこと――」

「待って!」

 思わず顔を上げて、神崎くんの言葉を封じた。神崎くんは驚いて固まる。

「待って。私から言わせて。――あのね、正直言って、初めはレイカの雑誌をダメにしちゃったことの罰で、無関係の名前しか知らない神崎くんに嘘の告白をしたの。本当にごめんなさい」

 私が頭を下げると、神崎くんは頷いた。

「うん。それは澤田さんからも聞いた」

「そっか。うん。でもね。神崎くんと一緒にいて、少しずつ神崎くんのことを知っていくうちに、いつの間にか神崎くんのこと、大好きになってた。神崎くんとの放課後勉強会がなくなって、その上罰ゲームのこと聞かれて喧嘩みたいになっちゃって、この何週間か、ずっと寂しかった。だから、今こうしてお話できてることが、とても幸せ」

 神崎くんは、私の話を黙って聞いてくれている。いつも、私のしょうもない話を聞いてくれる神崎くん。その時と同じ感情を読み取りにくいけど、どこか優しい神崎くんの表情。だから私は、安心して本音を言える。

「また連絡くれて、ありがとう。神崎くん、大好きです! 改めて、私と付き合って下さい!」

「もちろん」

 即答が返って来た。その声が優しくて、私は胸のドキドキを抑えることが出来ない。思わずニヘラ、と表情がゆるんでしまう。すると神崎くんは、肩にかけていた通学カバンをゴソゴソと探り始めた。

「寂しい思いしてるなんて気付かなかった。バイトを入れたのは、これを……」

 そう言って取り出したのは、「THE KISS」の白い小さな手提げバッグだった。ずい、と渡されて、戸惑いながらそれを受け取る。

「これ、私に?」

 神崎くんは頷くと、あさっての方向を見ている。耳がぴくぴくと動いているから、照れているみたいだ。

「誕生日プレゼント」

「あ、そう言えば、今日誕生日だった……。忘れてた。開けていい?」

 神崎くんが頷いたので、私は泣きそうになりながらバッグの中を覗いた。白いジュエリーケースが入っている。ドキドキしながらジュエリーケースを開く。

 中には、ゴールドのネックレスが入っていた。白い半透明のシェルで出来た薔薇に、レモンクォーツとピンクサファイアが添えられていて、かなり可愛い。

「わあ……!」

「ジローに教えてもらったブランドだから間違いはないはずだけど……」

 自信なさげに頭をかく神崎くん。

 これを買うためにわざわざバイト増やしてくれたの? しかも、仲直りもしてない状況で、プレゼントを準備してくれてたなんて。無駄になったらどうするか、とか考えなかったの?

 私なんかのために……。

「――ありがとう」

 笑顔を返したら、涙がこぼれてしまった。

 どうしたら良いか分からずおろおろとする神崎くんに、私は抱きついた。神崎くんは、しばらく直立不動で固まっていたけれど、ずいぶんたってから、そっと頭を撫でてくれた。神崎くんらしい。とても優しい、大きな手だった。
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