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本音を言えない私にダサ眼鏡の彼氏ができました。 作者:みりん

第一章 始まりは罰ゲーム

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10 神崎くんコンタクト化計画

 図書室に着くと、神崎くんはいつもの席で英語の教科書を開いていた。明日の授業の範囲を訳しているところみたいだった。

 私は、黙って神崎くんの隣に座ると、同じく英語の教科書を出した。でも、全然勉強を始める気にはなれない。

 隣の神崎くんは、勉強に集中していて、全然こっちを気にしてくれない。私はイライラした気持ちを押し込めて笑顔を作ると、神崎くんの肩をトントンと叩いた。

 神崎くんが振り返る。そのほっぺたに、私の人差し指が刺さった。

「きゃー♡ ひっかかった!」

 憮然とする神崎君がおかしくて、私はくすくすと笑った。

「なに?」

 神崎くんがぶっきらぼうに尋ねてくる。でも、もう全然怖くない。神崎くんが優しい人だって知ってるから。

「神崎くんの眼鏡って、分厚いよね。目悪いの?」

 私が首を傾げると、神崎くんは不思議そうに頷いた。そりゃ、自分でも唐突だと思うよ。今更だと思うよ。でも気にしない。

「ああ。これが無いと何も見えない」

「ええ~? ナナもかけてみたい! 眼鏡! 貸して貸して!」

 手を出して微笑むと、神崎くんは若干驚いた顔をしたけれど、黙って眼鏡を外して私に渡してくれた。私は受け取った神崎くんのダサ眼鏡をかけてみる。度が強すぎて世界が歪んで見えた。

「わー! ほんとだー! すごい世界がぐにゃるー」

 きゃっきゃとテンションを上げて眼鏡で遊んだ後、そこで初めて気づいたかのように、私は神崎くんの顔を見た。

「あれ? 神崎くん、眼鏡外した方がカッコイイ! すごい! 大発見! 神崎くん、明日からコンタクトにしなよ! 絶対、その方がいいよ!」

 驚く神崎くんの前髪をかき分けて、おでこを出す。そして、目を合わせてにっこりと微笑んだ。必殺、ぶりっ子スマイルだ。

「それに、おでこ出した方がカッコイイ! 髪も切ってみたら? イメチェンしなよ! ね? 夏だし、さっぱりした方がいいと思うなあ」

 神崎くんは驚いた顔のまま真っ赤に染まった。耳がぴくぴくと動いている。神崎くんは私から眼鏡を取り返すと、前髪を戻して眼鏡をかけた元のスタイルに戻り、英語の教科書に目線を固定させたまま、怒ったように短く答えた。

「いやだ」

「ええ!? なんで!?」

「なんでって――コンタクトも髪を切るのも金がかかる」

「でもでも! 髪は男子なら1000円カットとかもあるし、コンタクトは1デイじゃなくて2ウィークとか、1年くらい使えるソフトレンズとかにしたら長く使えるよ!?」

 神崎くんはこの地味で野暮ったい見た目さえなんとかしたら、絶対モテると思う。なんたって、中間考査で1位の成績をとった人だから。小学生じゃないんだから、頭が良い人の良さにも女子は皆気づいているはず。女子の見る目が変われば、男子の見る目も変わるから、そうすれば、もうさっきみたいに馬鹿にされたりすることも無くなるはずなんだ。

 必死に食い下がる私の剣幕を不審に思ったのか、神崎くんは訝しげに眉根を寄せた。

「相田さん、どうしたの? なんでいきなりそんなこと言い出すんだ?」

 静かに問いただされて、私は言葉に詰まった。

 なんでこんなこと言い出したかなんて、そんなこと、神崎くんに言えるはずがない。神崎くんがダサいからバカにされてる、なんて。それが悔しいから、なんとかしてほしい、なんて。そんな身も蓋もないこと、言えないよ。

 ていうか、ナナが可愛くお願いしてるんだから、言うこと聞いてよ。神崎くんのためでもあるんだよ!

 私はイライラがぶり返して来て、カッとなってしまった。

「――もういい。何でもない!」

 私はどう控えめに言ってもキレた声音でそれだけ言うと、ビックリした表情の神崎くんを無視して、英語の教科書に目線を戻した。

 神崎くんは、どうして良いのか分からないようでしばらく逡巡していたけれど、結局何も言わずに勉強に戻ったみたいだった。

゜+o。。o+゜♡゜+o。。o+゜♡゜

 17時になったから、いつも通り私達は図書室を後にした。

 帰り道、いつもなら私の下らない話をして過ごすけど、今日はどうしてもそんな気分になれなかった。黙ってたら、もしかして神崎くんから「イメチェンするよ」って言ってくれるかもしれないと期待しているのかもしれなかった。

 でも、駅が近づくにつれて、段々不安になってくる。沈黙が怖い。神崎くんは、さっきのことどう思ってるんだろう。私が怒ってると思ってるかな。確かに怒ってたんだけど、でも、それは神崎くんがムカつくとかじゃないんだよ。どっちかと言うと、神崎くんをバカにする他の皆の方に怒ってるの。

 丸高くんや、レイカやミサミサ、ヤエに、怒ってるの。

 だって、神崎くんの良さをわかってくれないから。このままだったら、夏休みになったら神崎くんと別れなくちゃいけなくなる。

 神崎くんと別れなかったら、今度はレイカ達と別れなくちゃいけなくなる。どっちか選べってなったら、私は絶対女子をとる。ぼっちは絶対無理だし、私って見た目が派手だし男子にモテるから、女子のグループにハブられたら、すごいイジメに発展するのは目に見えている。

 中一の時は、それで失敗した。親友だと思ってた子が密かに好きだった人から告白されて、知らずに付き合ってしまったのが原因でイジメに発展した。クラスの女子全員から1ヶ月も無視されたし、机に花瓶置かれたり、上靴を隠されたり、下駄箱に虫を入れられたりっていう分かりやすいイジメもあった。あの時はモテるお兄ちゃんが合コンみたいなパーティーを企画してくれたおかげでなんとか女子の輪に戻れたけど、もう二度とあんな目に遭うのは嫌だ。

 でも、だからと言って、神崎くんと別れるのも嫌だ。

 私は、我侭なのかもしれない。

 考え事をしていたら、いつの間にか駅に着いていた。

 すぐに来た電車に慌てて乗り込む。

 神崎くんは二つ目の駅で降りるから、もうすぐお別れだ。ごめんって、さっきは変なこと言ってごめんなさいって、謝らなきゃ。今日した喧嘩は今日中に解決しないと、長引くもんね。

 私が口を開こうとした時、神崎くんが先に口を開いた。

「相田さん、悪いけど来週から放課後の勉強会ナシにしてくれないか」

「ええ!?」

 私は思わず神崎くんの顔を見た。無表情だけど、目はそらさず、私の顔をまっすぐ見ていた。

「なんで……」

「バイトを増やすんだ」

「バイト……」

 そんなにお金困ってたの? 知らなかった。私、なのにコンタクト買えとか、お金使わすようなこと言っちゃったんだ。神崎くんの家の事情知ってたのに。

 それとも、バイトなんて嘘かな?

 ナナがいきなり理不尽にキレたから、ナナのこと嫌いになっちゃったのかな。もう一緒にいたくなくて、だからバイトなんて理由をつけて勉強会を拒否られたのかな。

 嫌だ。放課後の勉強会以外で神崎くんと一緒にいられる時間なんて、ほとんどない。朝のおはようと、帰りのバイバイを言う以外、きっと神崎くんと喋ることも出来なくなる。

 寂しい。もっと一緒にいたい。バイトなんてしないで。

 でも、そんなこと、言えるはずない。

 本当にバイトしなくちゃいけないなら、困らせることになるし、バイトは嘘で嫌われたんだったら、我侭言ったら余計嫌われるだけだ。

 ――怖い。

 私は、こくんと頷いた。

「うん。わかった。……バイト、頑張ってね」

 力なく微笑むと、神崎くんは頷いた。ちょうどその時、神崎くんの降りる駅に着いてしまった。

 神崎くんは降りると、律儀に振り返ってくれる。閉まるドア越しに、私は神崎くんに手を振った。神崎くんは、まっすぐ私を見てきた。なんで? いつもなら、照れて目をそらすのに。なんで今日は照れてくれないの?

 不安で苦しくなる。

 別れ際にこんなに寂しくなるなんて、初めてだ。

 神崎くんとはキスもしてないのに。

 私、神崎くんのこと、いつの間にかこんなに好きになってた。

 罰があたったんだ。罰ゲームなんかで告白して、人の目を気にして神崎くんにあんなこと言ったから。どうしよう。神崎くんに、嫌われちゃった。
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