表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

みんな食べちゃえ!

作者: 元村有

春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品です。

 異世界に勇者として召喚されて早一ヶ月。

 僕は12歳にして早くも人間不信になりかけていた。



 「戦うなんてできない」と怯える僕に「神に使わされたそなたにできないはずもない。私にはそなたの体に満ちる力がわかっておる」と訳知り顔で王様は言った。

 何も分かってない。

 そしてそのまま魔物の群れに放り込まれた。死にかけた。


 「これで分かっただろ、僕には戦うなんて無理なんだ!」と主張する僕に「初陣が恐ろしかったのは分かります。ですがあなたの実力はこれから発揮されるのですよ」と神官は言った。

 されないから。

 そして兵士たちの訓練に放り込まれた。最初の一時間でついていけなくなって倒れた。


 「いい加減にして、僕は戦えないし戦いたくもないんだよ! 早く家に返して!!」とキレる僕に「あんたが戦わなきゃみんな死んじゃうんだから死ぬ気でやってよ!でないと豚の餌にするわよ!!」と王女は怒鳴った。

 関係ないし。

 そして言い返せないまま僕は勇者の武器があると伝えられる森に置き去りにされた。


 そして、武器を手に入れた。



 城へ帰った僕は遠巻きにされつつ王様のもとへ向かう。

 え、行っちゃってもいいの? いいの? 不慮の事故が起こっても知らないよ?

 という僕の言葉に兵士たちは困惑半分、怯え半分という顔をしていた。特に何も知らず僕を出迎えた門番の兵士は腰をぬかしへたり込んでいた。その門番は必死に止めようとしたけれど王様が一刻も早くと急かしているようで結局謁見室まで通されてしまった。

 偉そうにふんぞり返っているアホ王様の横には穏やかな顔をした悪魔神官もいるし、豪奢に着飾った鬼王女もいた。もう僕、本当に知らない。何が起こっても事故だよね事故。

「して勇者よ。そなたは出立前と何ら変わりないように見えるが、手に入れたと言う武器はどこに?」

「ちゃんと変わってます。遠いから分からないだけだと思います」

「ほう、ではもっと近くへ来い。許す」

 王様の言葉にあからさまに嫌そうな顔をする鬼王女、興味深そうな神官、そして慌てる兵士たち。

「えー、でも止めた方がいいですよ。きっと王様たちすごく怖がっちゃう」

「なによ、わたくしたちがそんな臆病ものに見えると言うの?」

「違うの?」

「それは心外ですね。確かにまだ幼いあなたを勇者と呼び魔物と戦わせているのは申し訳なく思いますが、それでも国を守る者としてすべきことだと思うからです。責任ある者として見極めるべきことに対し無闇に怯えたりなどいたしませんよ」

「そうですか? 王様も?」

「無論だ」

 そこまで言うなら僕としては断る筋合いはない。真っ青な顔をしてお待ちください、だと待て、だのと言いつつ僕に近づくことができずにいる兵士たちを無視して一歩、二歩、三歩。

 ――四歩目を踏んだ瞬間、それは動いた。 

 首の後ろで高速で動いたことによる風が起きた。野太い悲鳴と甲高い悲鳴が響き渡る。同時に僕のすぐ背後――パーカーのフード部分が伸びて大きく牙の生えた口を広げ、3人に襲いかかった。



 ところで森に放り込まれた時、僕は召喚された時の服を着ていた。ジーンズにTシャツ、そしてパーカー。どこにでもいる普通の子供の服装だ。

 とはいえ、この世界ではどこにでもいるというわけじゃない。コットン素材のパーカーも、綿100パーセントのTシャツも、ジーンズだってこの世界ではオンリーワンだ。そして、その中でも特にコットン素材のパーカーを森の寄生植物が気に入ったようだった。

 そして、このパーカーに寄生した。



「ちょっと、僕この世界のお金の単位とか分かんないんだけど。ていうか、こんな子供一人で旅に出さないで、せめて荷物持ちの一人くらいつけてよ」

 城門の前で訴えていたら寄生植物(キッシーと名付けた)が僕の気持ちを組んで城門をバリバリと食べ始めた。すると壁の向こう側で押し問答が行われた末、老い先短そうなおじいちゃんが隅のドアからよろよろと現れた。

「え、僕荷物持ちって言ったじゃん。こんなおじいちゃん可哀そうで連れて行けないよ!」

 すると強面のオジサンが悲壮な顔で出てきた。

「勇者様。いつまでお荷物をお持ちできるか分かりませんがお供させていただきます……」

「……そんな泣きそうな顔しないでよ」

 結局その人には一般常識を一通り教えてもらい、必要なものを買いそろえて貰ったところで別れた。

 だって、「私には別れた妻のもとに幼い娘がいるんです、私が仕送りできなくなったら二人が困ることにならないか、それだけが心残りで……」とか言うんだよ!

 結果的に子供一人旅になっちゃったけど、まぁ安全面ではキッシーのおかげで問題なかった。

 なにせキッシーが僕のことを宿主と思っているらしくて僕を襲おうとするやつらは片っ端から食べちゃうからだ。

 旅の途中で知ったことだけど、キッシ―はあの森にしか生息しない究極に雑食な寄生植物にして雑食植物としてその筋では有名らしい。あの森にしか生えない魔力を多く持つ木に寄生し、魔力を吸い取ったり周囲を通る生き物を食べることによって成長するんだって。そのことを教えてくれた植物学者の人は、僕から溢れている魔力を吸収しているんじゃないかって言ってたけど魔力なんて言われても僕にはピンと来ない。まぁ、僕と僕のパーカーと、キッシーがとても相性が良かったということなんだろう。

 うっかりキッシーが人を食べないように人の少ない道を通らないといけなくて、馬車とか馬にも乗れないっていう問題もあったけどキッシーのことが大好きだから問題あっても問題なし! それにキッシーが魔物を近付く端から食べてくれるおかげで僕の旅はとてもスムーズに進んでいる。

 でも、たまーに、化け物め!って襲われることがあるのはイラッと来るかな。



 そういえば最近、パーカーが変わってきた。元々はグレーだったんだけどキッシーが寄生してからはちょっと緑がかってきているし、ウエストくらいの丈だったのに気付けば太股が半分隠れるくらいになってる。そのうちゲームのマントみたいになりそうだ。その頃には魔王に会えるかな。

 魔王を倒せば帰れるっていうの、正直半信半疑だからできるなら話し合ってみたい。けどそれができなければキッシーに食べてもらおう。そしてそれでも帰れなかったら、この世界のすべてをキッシーに食べてもらって僕がこの世界の王様になるっていうのも面白いかもしれない。

 あ、また魔物が襲ってきた。うん、いいよキッシー。

「みんな食べちゃえ!」

武器っちょ企画に参加させていただきました。

考えれば考えるほど寄生植物がマニアックかどうか分からなくなったので、少なくとも一般的ではないはず!と思いきって投稿させていただきました。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 武器っちょ企画作品集から来ました! 召喚された彼は、いい相方を手に入れましたね。 いっそ彼が国を支配すれば、平和になりそうだと思いました。 面白かったです。
[一言] 初めまして、遊森と申します。 このたびは武器っちょ企画にご参加いただき、ありがとうございました! 初めのうち主人公が辛そうだったので、途中から何だかスカッとしました。タイトルもまたピッタリで…
[一言] 読ませていただきました。 おお、パーカーに寄生した食ブツ(?)植物ですか。 いいですね。これ。アイデアの勝利だと思いますよ。 次はもうちょっとひねりを入れてみてはどうでしょうか。でかくなり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ