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わたし達のデリバティブ・ウォーズ 作者:摩利支天之火
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521.啓介婆ちゃん、タクシーを拾う

さて、一方、高速道路上のカーチェイスと襲撃をなんとかやり過ごした沖場(おきば)年頭(ねんとう)達一行であるが、ほうほうのていで、高速道路から一般道に降り立つことに成功した。

身体は、車のクラッシュの影響で節々が痛む状況である。

「痛ててて」

全員が痛みを身体のどこかに覚えている。
別に打撲したとか、怪我をしたとか言うのではない。
自動車事故ではよくあることだが、実はそれは筋肉痛なのだ。
自己の瞬間に、人間は無意識に自分の身体守ろうと、全身の筋肉に力を込める。
普段、鍛えている人間であっても、鍛えていない部分の筋肉は必ず存在する。
高速道路での横転と衝突に備えで、全員が反射的かつ無意識的に全身の筋肉を力を瞬時に加えていたのだ。
そんな訳で、沖場(おきば)ですら、腹筋の近くに筋肉痛を感じていた。

「ううーーーん」

抱きかかえるようにして連れ出した古橋あずさの意識が、今にも戻りそうである。
意識が戻るのは良いのだが、その後わがまま放題をいわれるかと思うと、このままずっと気絶していて欲しいと思う沖場(おきば)であった。

「おっ、ラッキー、ラッキー、タクシーが来た」

良太おばちゃんが、やってきたタクシーを目ざとく見つけた。
そして、大きく手を上げる。

こんな片田舎で、よくもまあタイミングよくタクシーが来るもんだと思う沖場(おきば)であったが、いまはそんなことを考えている時ではない。

キキキーーーッ。

タクシーの方も、こんなところで客を拾うとは思ってもいなかったのだろう。
少し行き過ぎてから、そのタクシーは止まった。

直ぐにタクシーの側に駆け寄ったのは、啓介婆ちゃんだった。
啓介婆ちゃんは、自分の変装姿の事も忘れているみたいである。

「悪い、近くのJR駅まで乗せてくれるか?」

窓を開けた運転手に、啓介婆ちゃんは息せき切って尋ねた。

「え、駅までか・・・そんなことより、どうしたんだよ婆ちゃん。ボロボロじゃあないか」

車窓から首を突き出した運転手は、驚きながら啓介婆ちゃんに聞き返す。
それもそうである。
啓介の地味なワンピースがあちらこちら破れている。
続けてタクシーに向かってきた沖場(おきば)たちを見て、運転手は更に目を丸くした。

「な、なんだ、あんたら、上の高速の事故にでも巻き込まれたのか?」

立体交差になっている高速道路の上からは、さかんにパトカーや救急車のサイレンが聞こえてくる。
しかも、あちらこちらで黒煙が上がっているのだ。

「ああ、そうだ・・・そうなんですよお。でも、急いで駅にいかなあいかんとです」

言葉の途中で、自分の設定を思い出した啓介は、老婆の口調に戻っている。

「俺なんかより、救急車呼んだ方か良くないか? あの娘さん、気絶かなんかしているんだろう?それとも、まさか死んでいるんじゃ・・・」

運転手が言ったのは、年頭(ねんとう)に抱きかかえられている古橋あずさのことである。
あずさは、お姫様抱っこで、年頭(ねんとう)に抱きかかえられぐったりとしている。
白い顔が、更に血の気を失い、真っ青に近くなっている。
面倒ごとに巻き込まれたくない運転手であれば、警戒してけっして止まらないような一行の姿であった。
しかし、この運転手は、どうやら人が好いらしく、さっと後部座席のドアを開けた。
それに、全員が奇跡的に出血していないこともよかったのだろう。
何しろ、出血していれば、後で座席のシートの清掃でその車の売り上げはがくんと減少してしまうからだ。

「おっ、すまないねえ」

啓介が、しめたという顔つきで、開いたドアを手で押さえながら、全員が乗るのに手を貸した。
後部座席は沖場(おきば)年頭(ねんとう)、そして古橋あずさの3人、前の助手席には、啓介婆ちゃんがさっさと乗り込む。

「ちょっ、ちょっ、おいらはどうすんだよ」

乗り遅れた良太おばちゃんが抗議するが、定員いっぱいに乗り込んだタクシーに、もう一人が乗り込む余裕はない。
というより、乗り込んだら道交法違反である。
タクシーの運転手がそれを許可するはずもなかった。

「わりいな、良太、徒歩で帰ってこいや」

平然と良太に告げて啓介はタクシーのドアを閉めた。

「お客さん、お連れの人はよろしいので・・・」

流石にタクシーの運転手は気を利かせて、無線でもう一台タクシーを呼ぼうとするが、良太婆ちゃんは手を振って言った。

「ええんじゃ、ええんじゃ。たまには運動のために歩かせるのも必要じゃ」
「はあ、そんなもんですかね」

運転手は、なんだか釈然としない顔つきで車を発車させる。

「ええと、近くのJRの駅まででしたっけ?」
「ああ、そうじゃよ」
「ここから一番近くというと、水郡線の常陸太田になりますが、それでいいですかね」

ここいらへんの地理は、全員があまり詳しくない。
運転手がそこだと言うのなら、そこなんだろう。
全員が頷いた。

タクシーは、田んぼとはたけと里山と民家といった、典型的な日本的景色の中を快調に進んでいった。
実にのどかな風景だ。
近年の少子高齢化の影響なのか、外に出ている人影もまばらだし、たまに外にいる人は、一様に恒例の爺様婆様ばかりである。

「ところで、いったい、何があったんですか?」

好奇心からなのだろうか、タクシーの運転手が質問をしてきた。

「高速道路で事故があったようですけど、みなさんは、それに巻き込まれたんですよね。どんな事故だったんですか」

ルームミラーで後部座席を探るように運転手は尋ねてきた。

「ああ、車十台以上の多重事故だ。相当にけが人やら死人やらが出ているみたいだ」

年頭(ねんとう)が、捜査していたスマホから顔も上げずにそう答えた。

「本当に、病院に行かなくてもいいんですか?そこのお嬢さん、本当に大丈夫でしょうね。死んでいないでしょうね」
「死んでいないさ。気絶しているたけだ。ちなみに、わたしは医者だ。必要な治療は、もう終えた」

運転手との会話が面倒くさくなったのか、年頭(ねんとう)がぶっきらぼうに答える。
それにしても、医者だという言葉は、ミエミエすぎるほど取って付けたような嘘だった。

「そうですか、そうですか。まあ、人、それぞれに事情があるんでしょうから、細かなことは聞きませんがね」

年頭(ねんとう)の言葉に、不穏なものを感じたのか、運転手きハンドルを握り直して前を見た。

「常陸太田までは、どれくらいかかる?」

年頭(ねんとう)が運転手に尋ねた。
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