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純愛花。禁愛花。秘愛花。
作:天城 百於馨


 【季節はずれのひまわり】


夏の海に行きたかった

二人で海岸沿いの砂浜を手を繋いで歩くだけでいいから

誰もいない砂浜を二人きりで歩きたかった

何がしたいわけでもなく

ただ  傍にいたかった

音は波音だけでいい

言葉はいらない

欲しかったのはあなたとの時間

「来年は夏に来ようね?」

私は言った

でも  それはなくなった




夏の終わりの海岸沿いを歩き

秋の公園を散歩して

その年の冬が終わる前に



この恋は終わった




翌年の春は風が冷たかった

それが急に気候が変わったように暑くなり

季節外れのヒマワリが咲いた

私はかわいいヒマワリの形が好きだった

そして夏を予感した瞬間



涙が零れた……



あなたと夏の海へ行き  

手を繋いで海岸沿いの砂浜を歩きたかった

あなたと別れた翌年の夏

夏の過ごし方が分からなくなった

今年もあなたといられると思ってたから

何を与えればよかったの?

傍にいるだけでは足りなかったの?

あなたは無言の返事だった

それがあなたの答え

分かり合えるのは言葉ではなく

求めて来たのは私の身体

「大切にしている女はすぐには抱けない」

そう信じていた 

でも そうではなかった

それは私ではなかったの?





目が合うだけでも恥ずかしかった夏が

手を繋いだだけでも受かれて日記に書き込んでいた夏が

秋頃には冷めて行き

冬には触れ合うこともできなくなり



その恋は終わっていた





春の訪れを待った

冬の寒さで凍り付いてしまった寂しさを

暖かな陽気でゆっくりと溶かしたかった

春はなかなか訪れず

哀しみだけで死んでしまいたかった

桜の開花も訪れず

凍り付いてしまった寂しさはどんどん脆く崩れて行った



分かり合えなかった自分を責め

身体をすぐに求めて来た彼を軽蔑し

彼を好きだった自分に失望した



桜の開花予想は当たらず

寂しさは凍り付いたままだった

この凍り付いた寂しさはいつ溶かされるのだろう


春は どこ?



『見付けた』


道端に春を


見付けた


季節外れのヒマワリが咲いていた

私はかわいいヒマワリの形が好き

そして夏を予感した瞬間




涙が零れた……




夏の海へ行きたかった

二人で手を繋いで  海岸沿いの砂浜を歩きたかった







 【Ordinaly world】


あれは遠い過去のような気がしていた  
今でもあの頃聴いていた歌を聴けば  当時の記憶が瞼の裏に浮かんでくるけれど  
目を開けたとき  君はそこにいない  
かといってそれは  ぼくがその過去を引きずって生きているからじゃない
あれは  ぼくにとって愛しい過去だったから
時々思い出す  尊い過去だったからなんだ


意識的に会わないことにしていたわけじゃなかったけど
ぼくたちが再会することは今までずっとなかった
それがこうして時を重ねてから再会することで  まるでひとつの奇跡を生んだかのように
強い感動を与えてくれた 


君と同じ世界観を共有した日々は  過去の出来事になっても
色褪せた写真のように  いつまでも大切に保管しておきたかった
それがこの時  塗り替えられてしまった 
君のその唇から紡がれた言葉は  白紙に真っ黒なインクを零したように  
ぼくの心に別の色を浸透させていき 
ぼくはそれをスロー映像でも見ているように  その瞬間がゆっくりと感じられた 


君の告白の言葉があまりに繊細すぎて  あまりに純粋すぎて  
嘘偽りがないことが  痛いほど伝わってきた 
それを感じるほど  ぼくは答えることができなくなった

ぼくは  二人で築き上げたあの世界を  
ぼくたちの  普通の世界を壊したくなかった
君との  友情を壊したくなかった

だけど

この純粋な愛をどうすれば “間違い” だと否定することができる?
どうやったら拒絶することができる? 
この大切な友を  ぼくは傷付けたくないと思った


残された道はなんだろう? 
考えてみる


ぼくは恋愛というものがよく分からない  

確かな愛は過去に一人きりだ

信じられるのは上辺だけの求愛ではなかった

自分が本当は何を欲しているのかさえ分からない 

今だに恋愛をしてみようという気もおこらない 


こんなぼくは恋愛に臆病なだけなのかもしれない
植え付けられた偽せ物の男女関係の記憶に  
トラウマを抱えた不利をしているだけなのかもしれない 
それを理由に  恋愛によって自分が一切傷付かないよう  
回避しているだけなのかもしれない 


だけど  こんなのは辛すぎる 


どうしても君がぼくを求めるのなら  ぼくはそれを受け入れよう 
だが  これっきりにしよう

そうだ  ぼくたちはもう過去とは状況が違うんだ
君には守るべきものができ
それはけっして壊してはいけないものだ

ぼくたちのことも同じだよ
ぼくたちの普通の世界を壊してはいけないんだ 
一度だけ  一線を越えたら  


普通の世界に戻ろう





ぼくは間違っていたんだろうか 
あれは色褪せた過去として  記憶の中に止どめておくべきだったんだね
君の気持ちを大切にしようとして言ったはずのことが  こんなにも君を狂わせてしまうとは……
ぼくの言ったことは独り善がりな理想論にすぎなかった
口から伝わる愛と唇から伝わる愛の熱が  こんなにも違うなんて思いもしなかった

唇を重ね  目を瞑ると “ぼく” という存在がわからなくなっていた
その熱がぼくの心をじわじわと溶かして行く  
やがて歯止めがきかなくなった君の情熱は  火傷しそうなほど熱く  ぼくに注がれた
ぼくはその未知の世界と現実とを彷徨い続け
抗うことと受け身になることを繰り返す
“これはいけないことなんだ” 常にその意識を頭に置きながら 
その限られた時間に浸っていく 

これが終わる時  ぼくたちは普通の世界に戻ればいい 
自分の気持ちすら分からないくせに  ぼくは自分にそう言い聞かせた

それはあまりに幻想的な時間だった
あの時もこの時も  ぼくは受け身だったからなのかもしれない
それは神聖な時間だった
トラウマの “あれ” とは全くの別物だ
汚れた要素などない  純粋な儀式と言っていいだろう

だが これは “過ち” なんだ…… 
君とぼくにとっては罪なことなんだ
この儀式が終わる時  


ぼくたちは普通の世界に戻らなくてはいけない



ぼくの言動はただ君をいたぶるだけだった
『普通の世界』 その単語が君の愛を撥ね退けていた
ぼくは誰も傷付けたくなかったんだ


ぼくは
傷付きたくなかったんだ

普通の世界に戻ろう


大切な “あの人” を哀しませないために……







 【Secret love】


多分彼女は気付いているよ  女の勘て鋭いんだ 
隠し事をしているときの目の動きとか  嘘を付くときの口癖だとか  
言い当てられてドキリとする
自分も知らない自分の癖まで  いつの間にか知ってたりするんだ
なのに気付かぬふりをして  いつの間にか詮索されていた
知らないほうがいいことなのに  気になったらとことん追及するさがらしい
そこに悪意がないことを祈るだけ  だってこっちはやめられないんだ  
彼女に事実を突き止められても  証拠を突き付け、咎められても
結局やめられそうにない

日常を掻き乱そうとしているわけじゃない
彼女に不満を感じているわけでもない
悪いのは誰かじゃない 
悪いのはタイミングだろう
だからって運命を恨みはしない 
むしろ僕には幸運だった
開き直るの?  そう言われても仕方がない
身勝手だけど どうしても抑えられないんだ
分かってもらえないと思うけど  
抑えることができないいんだ


君はどう思う?

もう きっと結果は見えてるよ
彼女に言われる前に教えてあげたらだめなのか?

もう 楽になりたいんだ……




多分彼女は気付いているよ  最近毎晩のようにせがむんだ
おかげで昨晩も寝不足だった  こんな奴に医療行為をやらせていいんだろうか
世も末だ 僕が外科医でなかったことがせめてもの救いだな
今晩、僕は気付かぬふりをして  わざと携帯をリビングに置き忘れる
発信履歴はもちろん君の番号だけ残しておく  ついでに画像も君にする
知られてしまえばお終いなのに  そのほうがずっと楽になれる気がするよ


子供染みたイタズラのようだけど  それとは違う
彼女を遠ざけようとしているけど  嫌いになったのとも違う
僕がしたいのは  彼女に愛想尽かされることなんだ
僕が望んでいるのは  彼女に捨てられることなんだ
嫌いになってくれれば都合が良い
軽蔑するならそれでもいい
だからって卑屈になんかなることはない  こんな男は捨てて正解なんだから
開き直るの?  そう言われても仕方がない
身勝手だけど  もう 自分の気持ちを誤魔化せないんだ
分かりたくないかもしれないけど  もう この気持ちを開放したいんだ


ねえ  君はどう思う?

何か良い別れ方があったら教えてくれ
そろそろ言ってもいい時期だろ?




多分彼女は悟ってしまった  最近あれをせがまなくなったんだ 
引き際をよく心得ている
古来から男は狩りをするものと決まっていた  その習性が今も残っている  
だから逃げる獲物を追いかけて  逆に追いかけられれば逃げて行く
心理学を学んだ者同士だから僕も彼女もそれを知っている
今は厳戒体制に入ったんだ これが嵐の前の静けさってやつだろ?
理屈主義者インテリの彼女は洞察する  でも 知りすぎるのはよくないことかもしれない
計算が苦手な女だったらもっと油断してたよ  僕の出方を監視する眼が痛い  
どうか  彼女が道を誤らないことを祈っているよ


君はどう思う?

君は優しいから彼女を庇うんだね   でも それはどっちの意味なんだ
僕が好きだけど善意のために彼女を庇うのか  それとも僕が好きじゃないから彼女を庇うのか

彼女はもう分かっているよ  
だからもう僕の口から言ってあげたらだめなのか?

君は僕が道を外してるって思ってるだろ?  
そう思われたって仕方がない
開き直るのか? そう言われても言い訳はしない


君になら  全てを委ねてもいいと思っているよ  でも
この気持ちだけは変えられないよ



  



 【蒸留水】


好きな彼女おんなを抱きたかった
性欲に支配された淫らな婦女が オレの身体を無邪気に喰らう
何故笑う? 何がそんなに楽しいんだ?
ほとんど何もしないオレを よくできた玩具のように扱い
慣れた手付き、慣れた腰付き、慣れた舌使いでオレを挑発し続ける


それは 混じり気のない蒸留水にも似た彼女とは無縁の世界
汚染されたこの身体を その蒸留水で癒せるなら
この汚れを洗い流すことができるだろうか?


きっと その蒸留水みずを濁らすだけだろう






好きな彼女おんなを抱けなかった
過剰に感じる婦女の動きが 故障した機械のように見える
何故喜ぶ? 何がそんなに嬉しいんだ?
ほとんど前戯もしないオレを お気に入りの玩具のように愛撫し
慣れた手付き、慣れた腰付き、慣れた舌使いでオレを誘惑し続ける



それは 混じり気のない蒸留水にも似た彼女とは無縁の世界
病んでしまった感覚に その蒸留水を注いだら
この神経をろ過できるだろうか?


きっと 不純物だらけの泥水に変わるだけだろう




それは ただの妄想  彼女はオレを受け入れない
目線の先には彼がいる そういうことには敏感だ
痛いほど感じている
何故だろう 好きになる人は皆オレには振り向かず
別の人を愛している
目線の先には彼がいる そういうことには敏感だ
痛いほど感じている
それなのに何故? 彼は彼女と一定の距離を置き 
ずっと心を閉ざしている


オレのせいだ オレの為に……


分かってる オレだって彼女に伝えたい
伝えて一つに重なりたい
その胸に顔を埋め その刺激で彼女を狂わせたい

しかし駄目だ



オレにとって 彼も大事な人だから……















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