くるくるまわる
「最後のデートをしよう」
「そうだね」
そう言い出したのは僕のほうからだった。
理由は分からない。自身が別れを切り出したすぐ後にポツリと口から出してしまった。
僕が運転する車内での会話はほぼない。その代わりにオーディオから流れてくる音楽が妙に悲しいほど暖かい。彼女の好きな曲。
フレデリック・ショパンの仔犬のワルツ。
まわる。
まわる。
くるくるまわる。
彼女の口から時々、「あー」とか「んー」と呼吸のような声が聞こえてきて、それが彼女との距離を示してるようで寂しく思ってしまう。
昔はよく笑う快活な女性だったろうか。僕ももっと気さくな男だったはずだ。
彼女を駄目にしたのは僕で、僕を駄目にしたのも彼女。
「俺達ってさ、傍にいないほうがいいんだよ。お互いが駄目になる、きっと」
「…そうだね」
重々しいドアが開かれて、つい、来てしまったのはいつかの海原。
彼女と初めて出会って、初めて恋して、初めてキスした場所。
ここにはいろんな処女が詰まっていた。
どうしてここに来たのだろうか、何のために、何故。
ふいに僕の瞳から雫が零れた。
あぁ、そうか。
僕は…きっと心のどこかでもう一度彼女とやり直したかっただけだったんだ。
水平線に半分覗く夕日が綺麗で、儚くて、僕のくすんだ心を映し出してくれているようだった。
「また、一からやり直さないか?」
「…そう、だね」
僕らの人生は、くるくるまわって…また初めの位置に戻ってくる。
今から、
――初めてのデートをしよう。
最後までお読みくださってありがとうございます。
一応短編のつもりで書いたのですが…友人にこれ詩じゃないのか、と注意を受けてしまった作品だったりします。
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