最終話 明日へ
『具合はどうじゃ?新一君』
博士からの電話だった。
「ああ、もう平気だよ」
『しかし心配じゃのー…誘拐犯はまだ捕まっておらんのじゃろ?』
「心配すんなって!それならきっと…」
「おーい、コナン!」
上の自宅から小五郎の呼び声が聞こえた。
「あっ、おっちゃんが呼んでる。じゃあな博士!」
コナンはがしゃんと電話を切って階段を上がっていった。
「何?おじさん」
「何?じゃねぇ!危ねーから、犯人が捕まるまでは大人しくしてろ」
「…」
コナンは顎の下に手を当てて考え込む。
蘭が首を傾げて聞いた。
「コナン君?どうしたの?」
「ねぇ、蘭姉ちゃん。実は…倉庫の床に、2億円の在処を示す暗号が彫ってあったんだ」
「「!!」」
蘭と小五郎は同時に目を丸くした。
「…なんてあったんだ!?」
小五郎が身を乗り出して聞く。
「【 ouen(office) ni(oku) 】。これってきっと、ループだよね?」
「どういうことなの?」
蘭は不思議そうにしていた。
「タネが解れば簡単さ!ループ…つまり繰り返して読むんだ。括弧の中は別にして考えると…」
コナンは自分の手帳に文字を書き始め、蘭達に見せる。
「ローマ字にして読んでみてよ」
コナンの手にしている手帳にはこう書かれていた。
【 ouenouen office ninioku 】
「おうえのうえんおふぃすににおく…そっか!【おうえ農園事務所に2億】ね!」
蘭は自分の拳をぽんと叩いた。
しかし小五郎は手帳を睨みながら呟く。
「けどなぁ…おうえなんて農園、あったけかぁ?」
それに対して、コナンは横から顔を覗かせて言った。
「おうえって、漢字はどうやって書くの?」
「そりゃー…尾っぽの【尾】に上下の【上】で…いや、もしかしたら【お植え】か…」
「へぇ〜!もし尾上って書くんなら、おがみとも読めるね!!」
コナンはあどけなく笑う。
「それなら、尾上とも読めるし…」
「おいおい…尾上農園っていったら、お前が怪我した頃に農薬とか化学肥料で問題になった…」
「えっ?」
(じゃあ…強盗の目的は…!俺の推理が正しければ…犯人はその農園の人間か、農園に大きく関わっている人間だ!)
コナンは目つきを尖らせる。
「兎に角、目暮警部に連絡だ」
小五郎は電話に手を伸ばした。
★
―翌日
強殺犯及び誘拐犯はめでたく逮捕された。
容疑者の男二人は意外にものん気に本社で働いていたが、警察の顔を見るなり顔色を変えて発狂したのですぐにお縄になった。
強奪した2億円も無事に事務所の床下から見つかり、札番号も一致した。
どうやら時効が明けたら手を付けるつもりだったらしい。
「よかったね!犯人捕まって」
蘭はコナンに微笑む。
「う…うん!」
コナンは蘭と目を合わさずに言った。
「あ、そうだ。私も大事なこと忘れてた!」
「え?」
「コナン君…」
蘭は背中を曲げてコナンの目線に合わせる。
「ごめんね、あの時怒鳴っちゃって」
「蘭…」
コナンはフッと顔を上げた。
「ボクも…ごめんなさい」
自然と言葉が出た。
「じゃあ、はい!仲直りの握手」
蘭はコナンに手を差し伸べる。
コナンはにっこり笑ってその手を取った。
★
―2ヶ月後
「蘭ちゃ〜ん!元気してはる?」
「様子見に来たで〜」
毛利探偵事務所には威勢の良い大阪弁が響いた。
「和葉ちゃん!服部君も…どうしたの?」
蘭が驚きながらも嬉しそうに聞いた。
「どうしたのって…蘭ちゃんが手術受けられるって聞いて、平次と飛んで来たんよ!」
「せや!予定よりうんと早う受けられるんやろ?」
平次が身を乗り出して言う。
「そうなの。傷口の状態がすごく良いみたいで!」
その時事務所のドアが開いた。
「ただいまー!」
帰ってきたのは博士の家に出掛けていたコナンだった。
「あれ?平次兄ちゃんに和葉姉ちゃん」
コナンはきょとんとして聞く。
「久し振りやな〜コナン君」
そう言う和葉の横で、平次は冷や汗をかいてぎこちなく言った。
「お、お…う。元気しとっ…たか?」
「うん!あ、そうだこれ…おじさん!」
コナンは手にしていた紙袋を持って小五郎のもとへ走った。
紙袋の中は、博士からの預かり物なのだろう。
「コナン君も…元気になってよかった」
蘭がコナンの後姿を微笑ましく見つめる。
「さよか…」
(オレにはまだ…ホンマの元気には見えへんけどな…)
平次もそんなことを思いながら、コナンを見つめた。
「それでいつなん?手術…」
和葉が蘭に聞いた。
「それが…もう今日から一晩入院して、明日なの。手術」
蘭は申し訳なさそうに言った。
「えー!ほんならえらい大変な時に来てしもたんやな、あたしら!ごめんな、蘭ちゃん」
「いいのいいの!逆に嬉しかったよ?」
そう言って首を振る蘭に、小五郎が言った。
「蘭、そろそろ行くぞ」
「蘭ちゃん、いってらっしゃい!またな!」
和葉は蘭の両手をぎゅっと握った。
「うん…!」
「ボウズはどないするん?」
平次が蘭に聞いた。
「後で博士の家に行くように言ってあるから、大丈夫よ」
そう言って蘭は外へ向かおうとした。
「蘭姉ちゃん」
すると、後からコナンの声に呼び止められた。
蘭は静かに振り向く。
「蘭姉ちゃん…頑張ってね!!」
コナンは目一杯の笑顔でそう言った。
それに対し、蘭も目一杯の笑顔で答えた。
「…ありがと!!」
その様子を眺めていた平次はフッと笑って、小さく言った。
「…いや、もう…大丈夫みたいやな…」
果てなく続く道を行く僕ら
向かい風の時も嵐の夜も
僕らのことを何かが呼ぶから
まだ見ぬ明日へと走って行くよ
明日へ/作詞:富岡 博志
‐END‐ |