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ぶきっちょ企画参加作品

手にした武器は、

作者: 山藍摺

遊森謡子様企画の昨年の春のファンタジー短編祭(武器っちょ企画)参加作品になります。閉幕されましたが、参加はまだ可能ということと、すでにアップした作品でも可ということで、お言葉に甘えて。

○短編であること

○ジャンル『ファンタジー』

○テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』




 砂埃が激しく舞う赤茶けた荒野、一人の少女がモンスター数十匹と対峙している。

 少女はとても小柄で、見た目はまだ十代半くらいか。そんな彼女の出で立ちはガンマン。ホルスターに小振りな銃がいくつかぶら下がっており、いつでも抜けるよう体勢でモンスターを睨む。

 対するモンスターは、分類で言えばリビングデッド、動く死体――そのなかでもあまりご飯前に遭遇したくない見た目のゾンビ種が、わらわらと数十匹。知性があるのかわからないが、少女にすぐに襲いかからずに、様子見をしていた――獲物、生き物を見たらすぐに襲いかかることで有名な彼らだというのに。

 両者の距離はおよそ数メートル。いまこの場所は殺気に包まれており、両者ともに臨戦態勢をとり続けていた――そして、続く睨みあいに終止符が打たれた。


「おんどりゃあああー!!」


 ――どびゅっ!どびゅっ!どびゅっ!どびゅっ!

 少女の叫びを皮切りに、攻撃が何十発も何十発も放たれてゆく。小振りな銃から考えられない量が、充填もされることなく。

 そうして、睨みあいが発端の戦いは数瞬の間で終わった。

 ガンマンの少女と雄叫びと、腰に下げていた武器の早打ちで、いとも簡単に。

 ゾンビはすべて、彼女の放つ銃撃の前に地に倒れ――地面に到達する前に、その体はじゅうじゅうと耳障りな音をたてて蒸発していった。ゾンビは皆倒された、余すことなく。 しかし、もくもくと沸き上がり続ける蒸気を前に、少女は別の銃を手に、いつでも放てるよう構えた。


「さすが、勇者様ねぇ」


 まだ晴れない蒸気の向こうから、少女へ向かって、濃い殺気とともに声が放たれた。

 ガンマンの少女の名は、エルルカ・シドリー、選定された今代の勇者。

 先程のモンスターは、魔王側に差し向けられたモンスターだった。


「ゾンビ65匹を倒すのに水鉄砲って、わたしたち魔族側を馬鹿にしてるの、それ?」


 軽い口調とは裏腹に、怒気が殺気に上乗せされた。


「……」


 少女は、黙って前を見つめる。ゆっくり、ゆっくりと水鉄砲の位置を補正し、銃口を過たずに魔族へ向ける。魔族を討つために、少女は前を見据える。

 とても、とてもシリアスに見えるが、しかし。

 ――空気がピンとはりつめたこの場で、魔族に対して勇者が向ける武器が水鉄砲とは、あまりにもしまらなかった。

 それでも、勇者である少女は少しも気にはしない。この武器を手に戦うことへの恥ずかしさと恥じらいとかいう抵抗は、とうの昔に捨てた。

 そんなものを持っていたら戦うのも戦えないと悟ったのは、はたしていつだったか。


「……ぎゃあぎゃあうるさい、黙りぃや、大年増が」「なっ……な、お、大……大年増ですって?」

「勇者の暴言に取り乱し、冷静にならんと、あたふたするだけ。あんたより、さっきらのゾンビの方がまだ賢かったんとちゃうか、おばはん」

「な――っっ!!」


 馬鹿にするのも、と魔族は続けたが、言葉にならなかった。目の前の蒸気がいつのまにか晴れていた。そして水鉄砲の目の前に自分の姿がさらけ出されていることに、いま気づいて。

 こちらを睨む勇者は、にたりと笑って。


「蒸気の向こうのあんたには端から気づいとった。大年増と言われた時点で自分の姿が認められとるて、あんたは気づかんだ。大年増というのも、挑発と気づかんだ――ああ、でもこうして見たら、確かに大のつく年増やなぁ」


 勇者はにたりと、この戦いで初めて笑った。

 カチリ、と乾いた音。続いて、ばしゅっと一発水音が。


「水鉄砲と馬鹿にして、冷静さをかき油断した。それがあんたの命取りやった」


 魔族は、胸に的中した水鉄砲の勢いにおされ後方へ飛ばされる。そこへ、水鉄砲をしまった勇者はしゃべりながら、凄まじい速さで間をつめる。


「勇者が手にした武器は、なにもこれだけや、ない」


 勇者はにたぁりと、さらに笑みを深め。


「来いや聖剣」


 勇者は光輝きだした右手を左腰の横におき、一気に下から上へ降り抜いた。その動作は、とある世界のとある机上で行われる室内スポーツの、バックのスマッシュさながらで。 光輝く軌跡を描くのは、いつのまにか勇者が掴んでいる聖剣で。


「ぎゃあぁぁあーーっっ!!」


 耳をつんざく断末魔とともに魔族は塵となり消えていき、残されたのは勇者のみ。


「あの魔族、これにも最期まで気づいとらんだな」


 ため息をつく勇者の手に握られている聖剣は――


「まさか光輝く聖剣が、これやなんて」


 それは、ハエ叩き。柄が太く長めで。叩く部分も、一回り近く大きい。いくら神様が作りたもうた奇跡の一振りでも、


「ハエ叩きはないわー…」




 ――後の時代、勇者エルルカが使用した武器は笑いをもって伝えられている。勇者エルルカは、聖女印の聖水がジェット並みに噴出する水鉄砲と、今はないオリハルコン製の孫の手、そしてハエ叩きに姿を変えた聖剣ファルシオンを駆使して戦い、その様はいくら格好よくてもしまりがなかったと。初の女性の勇者という史実すらかすむ勢いで、有名な逸話。

 しかしその背景には、魔族がはびこる状況の中、身を守るはずの剣や銃といった武器を持つなと発布された、嘘のような法律『銃刀法』が存在したことは、あまり知られていない。





お楽しみいただけたら幸いです。

マニアックな武器は、はえたたき、水鉄砲でマニアックな武器の使用法は、はえたたきを聖剣として使用、でした。


少し裏話を。

勇者エルルカに仲間はいません。勇者パーティー、存在しません。最初はいましたが、あの笑える武器の数々に笑いが止まらず戦うことすらままならないため、一人になりました。

今代は銃刀法違反になるので(勇者で聖剣なのに)、最初聖剣の姿だったのがアレになりました、悲惨です。アレな姿ですが一応聖剣が姿を変えた形です。

ちなみに使用場面のなかったオリハルコン製孫の手、あんななりですが賢者の石の機能を備えた杖です。回復魔法起動にかかせません。でも笑えるので勇者は使いません(水鉄砲と聖剣は戦闘には欠かせないので嫌々使います)。


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― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。『武器っちょ企画』参加作品ということで、お邪魔させていただきました。 「ハエ叩きはないわー…」 ↑このセルフ突っ込みに哀愁が漂っていて良かったです。ですよね、と深くうなずき…
[一言] はじめまして、こんばんは。 終了に気づかず投稿したアホの子 Taka多可です。 いやー、去年の記事だったとは気がつきませんでしたよ… はえたたき! いや水鉄砲はなんとなくわかります。 …
[良い点] おもしろかったです
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