飛べ飛べ、何処までも。
春の風をその身に受けて。
フライフライ、ダンディライオン。
「はよ、教室もどれ」
一体何回目のセリフだろうか?もう、その言葉を喋るのも面倒だ。
「そーゆーあんたもさっさと授業受ければ?」
俺の横で“同級生”もとい“幼馴染”が言う。
……美人だが勿体ねえな。いろんな意味で。
……まぁ、「授業受けろ」なんて言われたら反論のしようがない訳で、此方は黙ってしまう。
つーか、俺は一体どんだけ屋上にいるんだ?たしか、昼休みから此処にいて、五限をサボって、今六限の最中だから……
「二時間弱……すっげぇ」
思わず感嘆の声が出る。
「なにが?水島」
どうやら、俺の独り言が聞こえたようだ。
「なにがって?そりゃあんたが此処で何をするでもなくボーっと空を見ている時間だよ」
溜め息を吐きながら俺も空を見上げる。
何が面白いんだろうか?確かに綺麗な空だが何の変化も無くすぐに飽きてしまう。
すぐに俺が飽きてしまっても横では木村が未だに飽きることなく空を眺めている。
「なぁ……」
「なに?」
「楽しいか?これ」
空を見上げながら質問をする。
「うん」
返ってきた言葉はたったの一言だった。
「何処が?」
「解からないの?」
なぜか憐れむ様な顔でこちらを見てくる。
……えっ?俺なにか変な質問した?大抵の人が疑問に想う事じゃないの?
そんな1+1=何って冗談で質問したら相手が本気で悩んでいるてそいつを憐れむような眼でこっちを見るな。
「はぁ、仕方ないなぁ」
溜め息を吐きながら木村はおもむろに口を開く。……ちょっとむかつく。
「空はね、ただのキャンバスよ。私はそのキャンバスに色々と絵を描いて楽しんでんの」
「………?」
はい?いやっ全く解からん。
「あ〜、解かりやすく言ってやるよ。水島君」
完璧に馬鹿にするような口調だ。
「絵を描いてるってのは、色々と想像しているって事。まぁ、さっきまでは国語教師のてっぺん禿げの松村が、なぜ最近は髪で頑張って頭皮を隠しだしたのか。とか、なぜ白髪混じりだったのに、黒に染められているのはなぜなんだろうって所だよ」
空を見上げながら木村は喋る。
今、この瞬間にも木村は何かを想像しているのだろうか?
「ねぇ、水島」
「あ?」
突然、木村から喋りかけられる。
「風に吹かれたタンポポの行き着く先を知ってる?」
突然だ。突然すぎる。だが、俺はその質問にも律儀に答える。
「……地面」
俺はボソッと答える。我ながらかなり現実的な答えだ。ははっ、笑えるなぁ。
「現実的過ぎか?」
多少苦笑いしながら返答を求める。
「いや、良いんじゃない?」
しかし、返って来たのは予想とは違った物だった。
「はっ?」
思わず聞き返す。
「いや、だからさ、その地面って考え方。確かに地面に行き着くってのは凄く現実的かも知れないけど、それは見方を変えたら命の巡りを表していて、季節が巡る毎に、花が咲き、その花が綿毛になり、風に吹かれて飛び、その種が芽を出し、また花が咲くそして、綿毛が飛ばされる。そして、その種からまた花が咲く。ねっ?そう考えたら綺麗なもんしゃない?」
確かに……つーか、普通タンポポでそこまで考えるか?
「はっはっはっ、そこまで想像を巡らせるから、脳の老化が遅くなりボケ防止になるのだよ。水島君」
此方の心を読んだ上におちょくる様な口調で返してきやがった。
「うっわー、その口調むかつく。お偉い教授かっての」
無駄な事と解かりながらも取り敢えず文句をたれる。
キーンコーンカーンコーン……
どうやら六限も終わったようだ。
ってことは……
「さっ……三時間」
もう……呆れた声しか出ない。
そこでふと疑問に想う。
「お前だったら何て答えるんだ?」
そう訊くと、木村は真剣に考え込む。勿論空を眺めながら。すろと、突然顔をさげる。
「川だ」
ポツリと、その一言だけを木村は呟く。
「はっ?川?」
「うん。川」
しっかりと木村は頷く。
「なんで?」
その質問に、木村は空を眺めながら語りだした。
「川ってさ、水が流れるじゃん。風に乗った綿毛は、その水の流れに乗りもっと遠くの……風では運べないような遠い所にその花を咲かせるんだ」
木村は俺に説明している今、この瞬間もキャンバスに絵を描いてるのだろうか?タンポポが川の流れに乗り、全然違う場所に花を咲かせる風景を。
確かに綺麗だ。凄い発想かもしれない。だが、現実主義者的にはその発想には、一つだけ欠点がある。
「おいっ……木村……」
「ん?なに?」
どうかした?と言う顔で木村はこちらを見てくる。
「その考えだと、遠くに行っている内に種は腐っちまうぞ」
「………」
「………」
二人の間に変な沈黙が流れる。
おもむろに、木村は口を開く。
「やっぱり、現実主義者は駄目だね」
溜め息を吐きながら、木村はやれやれと言ったポーズをとる。
「うるせえよ。今すぐ全国の現実主義者の皆様に謝りやがれ」
「………すみません」
「最初の間が気になったが取り敢えずよろしい」
俺がそう言って締めくくると、木村はまた空を眺めている。
――もう止めとけ
と、言おうと思ったが意外と真剣な表情で考え込んでいる木村の顔を見るとそんな事を言うのが野暮ったく思えてきたのでやめた。
まぁ、確かに面白いかもしれない。たまに、本当に暇な時だが、こんな風に想像に耽るのも良いかもしれない。
そう思い、空を見上げる。
何処から飛んできたのか、タンポポの綿毛が一つ眼の前に舞い降りた。
……屋上って考えもあるんだな。
少しだけ、顔が綻ぶのが自分でも解かる。
さて、何を考えようかな。
俺もキャンバスに絵を描くとしますか。
三十分後……
「なぁ……もう帰ろうぜ」
「もうちょっと……」
一時間後……
「おーいっ、帰るぞー」
「待って……あと少し」
二時間後……
「日が暮れるぞ。いい加減にしろよ」
もう、うんざりして来たぞ。
「良いじゃん。暗くなってきたら手ぇ繋いで帰れば良いし」
微笑を浮かべて木村は言う。
此処だけを聴いたら、どこぞのバカップルの様な会話だ。だが、その手は喰わん。なぜなら………
「何が悲しくて“野郎同士”で手ぇ繋いで帰らなきゃいけねえんだよ」
溜め息を吐きながら言い捨てる。
……ん?どうした?ディスプレイの前の皆さん。
あぁ、木村は女じゃねえぞ。男だ。
本名:木村祐一。芸能界でキム兄の愛称で親しまれている若くて美人な奥さんを貰った芸人と同姓同名だ。
まぁ、顔は女顔だがな。
まぁ、そんな事はどうでも良い。速く帰らなくては。何か、何かないのか!?
皆さんに尋ねます。この状況を打開させてくれる案を持っている方、教えてっ!!! |