18 帰省。両親。
―――ヴィ・リヤスティ領 首都ミラ・バ・ケッソ
今は夏季休暇と言うことで俺達は帰省している。
何と言うか……リーンが俺のいない間に好き放題やったのだろう。
しかも俺の名前で。
首都ミラ・バ・ケッソは何故か文明が地球超えた感じすらする。
白い建物がたくさん立ち並び、マンションなども建っている。
お掃除ロボみたいのも動いてるし……空中に浮かぶディスプレイはなんだろうか?
そもそも、国民の平和を願ってるみたいな俺のプロモーション……撮った覚えすらないんだが?
一体半年で何があったのだろうか?
となりではミラとテファが茫然としている。
「あ、ウィディス様だ!」
声がした方を向くと、子供が俺の方を指さしていた。まあ、これも信頼を勝ち取る方法か。
俺は軽くほほ笑んでやる。
「「「ウィディス様!?」」」
は? 近くにいる奴らが一斉にコチラを向く。
「ウィディス様、これをどうぞ。私が開発したお菓子でございます」
「あ、ああ。ありがとう」
手に渡されたのは、あれだ。ケンタッキーで売っているメープルシロップを付けたよくわからないやつ。
てか、開発班何でこんなところ居るんだよ!?
「ウィディス様、コレもどうぞ。ミラ様もティファニア様も」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ありがとうございますね」
次は牛丼? てか俺が経営してるミラ野屋の店長かよ。
「ウィディス様こちらを」
「ミラ様とティファニア様のご洋服を」
「ウィディス様」
わらわらと集まってくる人たち。皆それぞれ品物を持っているが……。
「静まれ!」
俺は大声で叫ぶ。
その声に反応し、皆とまる。
「まず、非公式の訪問に対する歓迎に礼を言おう。ありがとう」
俺は周りを見つめながら言葉を続ける。
「しかし、ここは首都である。皆が集まって通りを邪魔すると、他の民が迷惑するだろう。気持ちは嬉しいが、それは皆が誠心誠意働き得た品物だ。それをもらうことは私には出来ない。既に領主としてそれ相応の税金はもらっているのだからな。これ以上もらえば他の領主と同じ独裁制になってしまう。私に献上するくらいならばその品を売り、より自分の幸せを掴んでくれた方が私は嬉しい。では、自分の仕事に戻るといい」
俺の言葉に、皆が一斉に頭を下げ、自分の店に戻ってゆく。
何故か泣いてる奴もいたがわけがわからない。
「ご主人様ー、今のを直訳するとどうなりますか?」
ミラが下から俺を見つめ、声をかけてくる。
「ん? これ以上荷物が増えると邪魔だから勝手に売ってろ。ほしい物は自分で買うからいらねーよ。だ」
「はあー……。ご主人様は罪作りなお人です」
民を操るのは必要だぞ?
「さて。ミラとテファ。どこか行きたい場所があるか?」
「あ、わたしがいいですか?」
テファが隣で手を上げる。
「いいぞ?」
「水族館って場所に行ってみたいですね。行ったことが無いので」
そう言えば俺もないな……。
「んじゃー、行くか。場所わかるか?」
「はい! バッリチです!」
テファの手にはミラ・バ・ケッソ観光ガイドと言う本が。
さっきもらったのかな?
「では、ついてきて下さい!」
うきうきしながら小走りするテファを追ってついていく。
―――水族館
「わー、これが水族館ですか。ご主人様! あれ! あれ食べたいです!」
「黙れミラ。此処のは食べちゃだめだ!」
ミラが指さしたのはひときわ大きな水槽。中にはクジラが泳いでいた。
「ぶー。何のために泳がせてるんですか?」
いやいや、鑑賞だろ!?
「テファを見てみろ! あそこでちゃんと涎を……テファ?」
じっと水槽の中を見ていたが、俺に気づき慌てだす。
「え? え? 違いますよ? これマグロですよね? おいしそうなんて思っていませんよ!?」
慌てて手と首をぶんぶんと振る。
「いや、お前が刺身を好きなのは知ってるけどさ。どうせ屋敷に行けば嫌でも食べれるんだから鑑賞用まで食おうと思うな」
「だから違うんですってばーー!」
俺の腕を掴みぶんぶんと振るが落ち着いてほしい。
「あ、ご主人様! わたしあれほしいです! かわいいです!」
ミラが反対の腕を掴んで俺を引っ張る。指さしている方向にはペンギンが居た。
やっと普通に見る気になったのか。
「わー、いいですねコレ。ん? この柵邪魔ですね。壊しましょ――」
「アホかっ! どんな迷惑客だよお前!?」
手でねじ切ろうとするミラの頭を殴って止める。
「な、何するんですか!? この領の物はわたしの物! わたしの物はわたしも含めてご主人様の物ですよ! ってわけで――」
「黙れニート! おまえは遊んでるだけで何もしてないだろが!? 養ってもらってるだけでもありがたく思え」
「だから、わたしはご主人様の物って言ったじゃないですか!?」
つまり、働かない代わりに養え。代わりに所有物にしていいよ? って舐めた考えしてるのかコイツ。
こいつ、俺に捨てられたら戦争以外で使い物にならないな。
「まー、でもペンギンか……。それくらいならいいかもしれん。確か未開拓地の北部に生息してた奴だよなコイツら。こんど屋敷に連れてこよう。設備作ればなんとかなるだろう」
「本当ですか!?」
目をキラキラと輝かせながらこちらを見つめてくるミラ。
「ペンギンなんてかわいいものだろうが!? お前が連れてくる猛獣に比べたらな! お前のせいで屋敷の庭の一角が動物園だ! なんで屋敷のプールにイルカまで放し飼いにしてあるんだよ!? 挙句に連れてくるだけ連れてきて世話しねーし!」
本当コイツの性格には参る。勝手にいなくなって、戻ってくるといつのまにか生き物が増えているのだ。今ではペガサスやユニコーンも20匹くらいいる。
「じっとこっち見てるんですよー、すがるように。だから連れてきて上げたんです!」
いやいや。俺は一回お前を追って見たことあるよ。息絶えそうになって、殺さないでくれとお前を見る動物を。それを懐かれてると勘違いしているのはお前くらいだ。しかも、怖くて素直に言うことを聞く動物達を、わたしが大好きなんですね。とかよく言える。
そしてテファに視線を移し……。
「そろそろ飯行くか……? テファが涎垂らしてマグロ見てるし。何れガラスぶち破って食べそうだ」
「そうですねー、わたしもペンギンがいればそれでいいです。あ、いい場所がありますよ?」
「んじゃ、そこでいいや。テファー、飯行くから戻ってこい」
「あ、はい! ごはん! お腹すきました!」
そんなの見ればわかるっつの。
―――焼き肉
「見てください! 此処はわたしが経営しているお店!『死神の釜』です!」
目の前にはきらびやかな見た目の店が在った。
成金丸出しだ。
の割に人が少ししかいない。
確か、うちの系列で唯一大きな赤字が出ている店がこの名前だったような。
ミラが経営してたのか……。
「入ってください! 此処はすごいですからね! 一応貴族専門店です!」
ミラが走って中に入って行くので、俺とテファも後を追う。
数十分後。
「おい。これはなんだ?」
「何って焼き肉ですよ?」
確かに焼き肉だが、ミラも焼き肉好きだしな。
だがな――
「何で肉が一枚1キロくらいでスライスされてるんだよ!?」
ありえないだろ!? それが10枚くらい積み上がった皿が三枚、目の前に置かれている。
「よくぞ聞いてくれました! これは、普段平民には手が出せないような最上級の部分を使っているんです! あまりとれない部分なので、コレ一枚300エキューくらいします! 一皿3000エキューですね! いつも残って使用人のまかないにもなっています! あたっいたっ」
俺はミラの頭を何回も叩く。
「ほんとバカ! お前はもうなんてアホなの!? 日本円にしたら一枚300万だぞボケ!?」
「日本ってなんですか!? あ、地球のですね。金額の多さがわかりませんが」
エキューでわかれぼけ!?
他の領だと一年の年収家族四人で150エキューだからなっ!?
俺がいなかったらこんな店一週間で潰れる!
「よし。わかった。この店潰すように申請しておく」
「待って下さいよーそれだけはー……あ、お肉焼けた」
「絶対潰すっ!」
「ひほいっ!」
食べながら文句を言うミラを無視して宣言する。
うむ。確かに柔らかいしうまい。だが、これは屋敷で少量がいいな。
こんな食えん。ってミラ!?
大前どんだけ食うのはえーんだよ!? 三皿ともお前のだったのかよ!
焼けるのを待つ間に生の肉食うって原始人か!
―――他の街。
俺達は領内の首都以外の場所に来ている。
首都は比較的金持ちの家が多い。最初から俺の領に住んでいた人がほとんどだ。
そして、他は後から移住してきた奴らが多い。
って言っても、貧乏かと言うとそうでもない。ちゃんと仕事も与えているので、普通に生活は出来ているだろう。兵士もちゃんと巡回しているしな。
「あ、兄さんあれ見てください。兄さんに似てますねー」
む? 俺に似てるって未来の俺か?
「本当です。ご主人様が年取ったらああなりそうですね」
ミラとテファの視線を追ってみると……おー、確かに俺は将来……え?
「あれ? どうしましたかご主人様? 似てて驚きましたか?」
「兄さん?」
俺が固まっているのに気付いたのか、二人が声をかけてきた。
俺の視線の先にはさっきの似てる人。
男と女、男の子が楽しそうにしている。一般的な家庭だろう。
俺はその40台くらいの夫婦の顔に見覚えがあった。
「ウィディス・ラ・リバルスティン・ヴィ・リヤスティの名において命じる! 兵士達はあの家族を捕えろ!」
俺の叫びに一瞬にして兵士がそちらに走る。やはり、プログラム受けてると反応が早いな。
「ご、ご主人様!? 似てるからっていきなり捕縛ですか!」
「兄さん!?」
他の市民達が皆何事かとこちらを向いている。
この領に置いて俺の顔を知らない奴が居ても、俺の名と腕輪を知らない奴はいないだろう。
皆驚きに目を見開く。領主がこんな子供だからか? まあ、それはいい。
俺は兵士にとらえられた夫婦と子供に近づく。子供は6歳くらいだろうか?
「りょ、領主様!? わ、私達は何もしておりません!」
その言葉を無視し、ミラとテファに話す。
「ミラ、テファ。こいつは俺に似すぎている。何でかわかるか?」
「んー、確かに似てますよね。そりゃもう兄ですか? ってくらいに……え?」
「普通に成長したらいつかこうなるかもです……ん?」
ミラとテファは何か感づいたようだな。
「前に話したよな。俺が捨てられたって」
次の瞬間、ミラとテファが夫婦の喉にブレードを突き付ける。
子供が大声で泣き出すが、わずらわしいな。
「兵士、口をふさげ。命令だ」
「ハッ!」
兵士が子供の口を布でしばりつける。
その後に、俺は夫婦に話しかける。
「なあ、貴様。何もしてないとはよく言えたな? 生まれた瞬間に子供を捨てた夫婦がよくそんなことを言えたものだなー、“父親と母親”さん」
「「「なっ!?」」」
兵士や、あちらこちらで声が上がる。
夫婦も今気付いたようだった。
兵士は俺の父親とのことで、離そうか迷っているようだが、
「離すなよお前ら。俺はコイツのことなんて両親だと思っていない」
「は、ハッ!」
別に今更親がどうこうとかはいい。むしろいらない。
ただ、生まれたばかりの俺を森に捨てたのはムカツク。多分、じーちゃんに拾われなかったら確実に俺は死んでいた。
「お、お前テリアかっ!?」
「テリア? 俺は名前すら与えられずに捨てられたんだぞ? 一体いつそんな名前付けられた?」
「覚えていないかもしれないが――」
「忘れるわけがないだろう? その鼻の上のホクロも、頬に出来た傷も。名前すら付けてもらっていないこともな。じゃなかったら何故俺が一目でお前達が両親だとわかる? 俺は特別でな、あの時の記憶も残ってるんだよ」
「なっ!?」
にしても――俺は視線を少し下にずらす。
うち領の指輪から、社員の父親に、領民の母親と子供ねー。
「ふむ。別に捨てたならばそれはそれでよかった。だがな、何故俺の領にいる? 普通捨てたら一生顔を合わせたくないと思うだろう? これだけ顔が似てるんだ。なんとなく領主が俺だってわかっていただろう? なあ?」
俺は目を細めて捨てた男を見つめる。
「そ、それは……」
「それは……?」
「この領なら平民でも幸せに暮らせると噂が……妻の腹には子供もいた」
「子供ねー、捨てられた子供が言うのもなんだが、都合よすぎないか? 俺のことは捨てて、そっちのガキは捨てた子供の領で幸せに育つ。ありえないありえねーよ」
そこまで口を瞑っていたミラが口を開く。
「ご主人様。殺しますか? さすがにこれは親としても人間としてもダメでしょう。いっそ殺した方がいいです」
ふむ。まあ、それも一理だな。だが、そんなことすら生易しい。
俺は夫婦と子供の指輪に触れる。それだけで、指輪が砕け散る。
「ウィディス・ラ・リバルスティン・ヴィ・リヤスティが命じる。市民権の剥奪。財産の没収。永久に市民権の収得を禁止する。ヴィ・リヤスティ領からの追放を命じる」
「「なっ!?」」
「「「ハッ!」」」
「ま、待ってください領主様! わたし達には子供もいるんです! それに、お腹の中にもう一人赤ちゃんが! いま此処を追い出されたらどうやって生きてゆけば!?」
女の方が俺似すがりつく。
「知らん。その年じゃ無理だと思うが、身売りでもすればいいだろう? 子供子供って、子供を捨てた親のセリフじゃないな。捨てさえしなければ、今の俺の立場はお前達だったものを。だが、既に遅い。此処は俺の領だ。この領は民ならば無条件で移民することが出来る。しかし、お前達は民ではない。俺にとっては犯罪人だ。おい兵士。こいつらの写真を撮って市民権を永久に取れないようにしろ。あとは領から適当に追い出しておけばいい。領内で見つけた場合死刑だ。以上」
「ハッ! では、失礼いたします」
三人は兵士に連れて行かれる。
振り向くと、民達がビクっとする。
「ああ、今の話を聞いていただろう? あれは俺が生まれた瞬間に俺を捨てた屑だ。その後拾われなかったら、今のヴィ・リヤスティ領はない。俺が恨むのも当然だろう? それに殺しはしていない。ヴィ・リヤスティ領に暮らす他の平民には幸せに暮らしてもらいたい。その中にアレは必要ないのだ。仕事に戻っていいぞ」
皆が俺に頭を下げ、散ってゆく。
まあ、子供の時に捨てられたってことで情は稼げるだろう。噂が広まればそれでもいいしな。
民のためってのは嘘だけど。民は金を集める道具だ。
「兄さん、いいのですか?」
テファが心配そうに俺の顔を覗き込む。
「そんな顔をするな。俺は気にしていない。どのみち、金も職もなくて子供が二人じゃ死ぬだろう。あの場で殺さなかったのは俺の信用を下げない為でもある。ま、あの親なら子供も捨てると思うけどな」
さっきいた子供は大丈夫かもしれないが、生まれてくる子供は捨てるだろう。まあ、そこまで生きながらえればだが。
「ん? どうした?」
俺の両腕に二人が抱きつく。
「わたし達は幸せな家庭をつくりましょうねー」
にこにこと俺を見上げるミラ。
「子供には幸せになってほしいですねー」
少し顔を赤らめているテファ。
俺はため息をつく。
「まだ、結婚するとも決まっていないだろうが」
「でも、“まだ”ってことはいつかしますよねー」
ま、そうだな。三万年後にもコイツらは居たしな。
「結局、幸せってのは金なんだな。俺を捨てた時はあんなつらそうだったのに、今では幸せそうにしてやがったよアイツら」
「「そんなことありませんっ!」」
二人が声を合わせて叫ぶ。
「「愛ですっ!」」
愛……ねー。
「あの夫婦も愛し合ってたぞ?」
「「……」」
うん。やっぱ金だ。
「でも……わたしはご主人様と一緒に居たら幸せですしー」
「そうですっ! 愛とお金があればいいんです! 今が幸せってことですね!」
テファが纏めたっぽい。結局金も必要じゃん。
「ちなみに、俺はお前らを愛していないぞ?」
まあ、人間の中では一番大切かもしれないが。
「いーんです! 今は一方的に愛していれば、いつか三万年後のようになりますから!」
ま、それは同感だな。未来の俺は幸せそうだったし。
「んー、じゃ。帰るか?」
「あ、待ってください! ペンギンとってきてから帰りましょう!」
「……水族館のはだめだぞ?」
「大丈夫です! ちょちょっと数万キロ程散歩に出かけるだけですから!」
全然ちょちょっとじゃない。
しかも、もう夕方だし。
「んー、まあいっか。30匹以内だからな? 色々種類あると思うけど各30ってのは無しだから」
「わかってますって。ペンギンが30匹ですよね? あとは、アシカと白クマで我慢します」
ダメだコイツ……なんもわかってねーよ。
そのまま俺達は上空に飛翔し、一気に北極を目指した。
あとで気づいたのだが、リーンに頼めばすぐだっただろう。
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