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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

短編

欲の矛先

作者:速水 流
 宇宙空間内での対ウィルス生命体戦。宇宙海賊“イグゼルド”のオペレーター達の声が味方へ飛ぶ。
『母体周辺敵影残り8! 母体のコアの破壊を提案します!』
『作戦区域不明反応無し。パラディン、ガイア、両機作戦最終フェーズへ』
『シルフ、クロウは周辺外の殲滅を続けて、……ああもうシルフはスピード出し過ぎだってば!』
 白い近接人型機体“パラディン”を駆るロジェは、次々と送られるデータに眼を通しつつ群れてくる人間目線ではグロテスクな――強いて言うならば竜に似た――小型生命体を電磁ブレードで両断し移動する。その先は小型生命体を量産している腹部と言える様な部分が異様に肥大し波打っている――やはり竜に似ている――母体と横に並ぶ位置。
「再生能力の高いウロヴォロス型ウィルス……アッシュ!」
『分かってるっての! 手筈通りにってな!』
 楽しそうな少女の声。その少女が駆る青い銃撃人型機体“ガイア”はパラディンの斜め上に位置を取り、ロングバレルのビームライフルを母体に向けた。
 オペレーターが、ガイアの状況を伝える。
『ガイア、母体のロックオンを確認。ウロヴォス型ウィルス抗体プログラム構築100パーセント。発射、10秒前』
「パラディン了解。ブレード出力80パーセント、充填開始」
『あ、敵影接近開始しました!』
 オペレーターの言う通り、母体に銃口が向けられているのに気付いてか小型生命体がパラディンとガイアに向かい動き出す。
「迎撃……いや……」
 パラディンは前方へ進む。敢えて出力を抑えたブレードを構え、牙を剥くそれの口へ深々と突き刺し、縦に裂く。他方から他のモノが襲い掛かるが、後方からのミサイルが命中し吹き飛ばした。
『よっし命中! ついでに発射!!』
 ミサイルでパラディンを護ったガイアは、続けざまにビームを撃つ。同時にパラディンが小型生命体を斬り捨てつつ、ビームを追う様にして母体との距離を詰めた。

 ビームは母体の腹部に直撃し、激しい衝撃を生む。まるで力業で捩じ込むかの様に母体の醜い身体を削っていった。
『思ってたより硬いな……出力上げるぞ!』
 搭乗者の判断によりビームの力はすぐに増す。身体を抉り、表層を抉り、内部を抉り、遂に貫通した。
 ビームが止んだそこには大きな穴が空いている。しかしその穴の真ん中に、硬質だが収縮を繰り返す1メートル弱の赤黒い物体が残っていた。
『コアの露出確認! ロジェさん!』
 言われるまでもなくパラディンは動く。身体の再生を始めようとするそのコアにブレードを突き刺し、充填していたエネルギーを爆発させた。
 一瞬の動きを止めた後コアは砕け散り、残っていた身体と小型生命体は霧散する。それと同じ瞬間にパラディンはその場十数メートル程距離を取った。
『母体消滅確認、区域内チェック後両機離脱を、……空間断裂確認! パラディン頭上3メートル!』
「なっ……!?」
 パラディンのレーダーに反応は何も無い。だがすぐにレーダーが上書きされ、オペレーターの言葉通りの事が起きていると眼で判断した。
 迎撃をと、すぐに体勢を整えるが断裂した空間から牙を剥き出しにした母体に似た形の中型生命体が現れる方が速い。
『させるかよ!』
 ガイアは、即座の判断で宇宙空間用の抗ウィルス弾丸を込めた銃を構えた素早く狙いを定める。そして引金を引くだけだが、それよりも速くレーザー敵の身体を貫き爆散させた。
『な……誰だ?』
 ガイアからの疑問の声。送られた味方の位置とレーザーの射角から、味方による攻撃ではないのは明らか。
 すぐにオペレーターが声を張った。
『作戦区域13―B―N地点にてステルス解除確認! コレは……』
 パラディンは指定された地点を画面に映し、眼を見開く。
『反連邦戦艦プルート首領機……ハデス!!』
「……冥王ハデス……!」
 画面内に居る黒の人型機体は構えていた銃を降ろし、沈黙のまま空間に溶け込む様にして姿を消した。
『ハデス、ステルス状態へ移行……反応確認出来ません』
『作戦区域内に他の反応はありませんが……』
 “眼”の情報を失い戦場が判断に困惑する中、イグゼルド艦長デルムッドの通信が送られる。
『パラディン、ガイア、両機は艦に戻れ。他の奴等は作戦区域内チェックだ。ハデスは気にしなくていい、恐らく離脱済みだ』
 確証の無い確信の言葉。ロジェは通信を返す。
「パラディン了解、帰投する」
『ガイアも了解っと』
 ガイアが移動を始めた直後にパラディンも続く。
 少し、後ろ髪を引かれながら戦闘が終わった宇宙空間を進んだ。

§§§

 戦闘イグゼルドの格納庫で機体から降りたロジェに、先に降りていたガイアのパイロットである灰髪の少年の様な少女・アッシュが駆け寄る。
「ロジェ、大丈夫だったか?」
「ああ、間一髪だったな。ハデスが現れずとも、アッシュが何とかしてくれていたのだろうが」
「勿論っ、俺の射撃は百発百中だからな」
 得意気な少女だったが、すぐに疑問を口にした。
「しっかし何だったんだろうな。プルートってイマイチよく分かんねェ」
「本当に、その通りだな……。とりあえずデルムッド殿の所に行こうか」
「おー」
 整備が始まった機体に背を向け2人は格納庫を後にする。

§§§

 パイロットスーツから私服に着替え訪れたのは艦長室。そこにはオペレーターの1人である両腕機械の副艦長と、煙草を蒸かす艦長デルムッドが居た。
「失礼致します、ロジェ、アッシュ帰投致しました」
「相変わらずお堅いねェ」
「身に付いた習慣ですので」
「プラス、お前さんが真面目だなっと」
 茶化すデルムッドに副艦長が冷たい声で呟く。
「この真面目が数パーセントでもあれば……」
「副艦長には優しさがあれば嬉しいねー」
 辛辣な言葉にめげない彼は、2人をソファーに座らせた。そしてわざわざ自分でお茶を入れ渡し、アッシュにはついでにおやつ袋も渡す。
「ご苦労だったな。パラディンとガイアの連携データを重視した作戦だったが、やっぱりお前等相性が良いんだな」
 労うと早速クッキーを食べ始めたアッシュが平らな胸を張る。
「ハデスが来てなくても俺が何とか出来てたもん。でさオッサン、結局ハデスって何しに来てたわけ?」
「いい加減艦長って呼ぼうな、アッシュ。そんでハデスだが……何の声明も無いからな、気紛れじゃねェかと」
「気紛れでロジェを助けたって事か?」
「この世には色んな奴が居るんだよ」
 大雑把な説明にアッシュが冷たい眼を向け、その様子にロジェが失笑した。
 そこへ副艦長が告げる。
「艦長、2番艦……ジョシュアから通信です。恐らく回収した脱出ポッドについてか……」
 説明を終える前に、画面に小さな女の子――但し三十路――が映し出された。
『スネイプケイルだヨ! スネイプケイル! 貰ってイイ!?』
『ハカセ邪魔です!』
『ジョシュおやつ欲しイ!』
『ジョシュアです! 後で作りますから作業してください!』
 画面を占領していたハカセは退かされ、漸く通信主である青年助手・ジョシュアが現れる。少し疲れている様に見えるのは気のせいではないだろう。
「天才相手にご苦労さんだァ。で、そっちはどうよ」
『はい、艦長の読み通り違法船でした。立ち入り禁止である小惑星で高純度エネルギー結晶体である“スネイプケイル”を大量に掘り出し、闇ルートに流す為移動していた所……エネルギー目当てで巣食っていたウロヴォロスが船を“捕食対象”と見なし侵食を始めたようです。ああ、パラディンが空間断裂を感知出来なかったのは、コアを破壊した際にウロヴォロスが取り込んだスネイプケイルのエネルギー波で一時的なジャミング状態に陥ったみたいですね。
 で、話を戻しまして……その結果、乗組員42名の内29人が腹の中。船のシステムはハッキングされ、喰われ、命からがら持てるだけのスネイプケイルを持って逃げたそうです。盗人根性というか商売根性というか……』
 呆れ果てているジョシュア、後ろでハカセが“求ム、スネイプケイル”と書かれたパネルを掲げているが見て見ぬフリをしている。

 その苦労を少しは緩和してやろうとデルムッドは指示を出した。
「回収出来たスネイプケイルは徹底的に調べて、異常が無かったら半分くらいは好きにしろ。馬鹿盗人はそうだな……娘っ子に引き渡すか、パパ株が上がるかも」
 グッドなアイディアだと満面の笑顔を見せるが、部下達の反応は冷たい。
「寧ろ下がると思いますけどね」
「宇宙海賊と銀河連邦じゃなァ?」
「ああ、火に油を注ぐ……という言葉が地球にある」
『申し訳ありませんが、副艦長達と同意見です』
 1人も味方が居ない事に挫けそうになるデルムッドだったが、画面に再び笑顔のハカセが大きく映り期待に胸を膨らませた。
『パパ株上昇確率は1パーセント未満だヨ! 天才の演算能力での算出!』
「…………」
 トドメを刺された彼は机に突っ伏す。しかし心配する者は居ない。
 ジョシュアはハカセを抱き上げ退かし、副艦長に伝える。
『では、分かった事は随時纏めて送りますので……』
『ワウワエキスのシュークリーム食べたいヨー、ワウワウワー』
『作りますから静かにしてください。それでは、失礼致します』
 三十路のハカセを宥めながら通信は切られた。そして誰もが思う事を副艦長が呟く。
「どっちが年上なんだか……」
 ロジェとアッシュはその通り過ぎて何も言う事は無い。
 常に冷静は副艦長は立ち上がり、未だ突っ伏している艦長の頭をタブレットの角で殴った。
「いってェ!! 機械で殴んなって言ったろ!!」
 顔を上げ抗議するが、案の定無駄だった。
「じゃあ次は凍らせた豆腐の角で殴りますね。はい、今回の戦闘における利益と損失のシミュレーションです。眼を通しておかないと剣山背中に打ち込みますよ」
「副艦長がドS過ぎて辛い……」
「私は艦長が仕事しなくて辛いです」
 顔面にタブレットを押し付け、副艦長は艦長を全く気にせずお茶を飲む2人に優しい笑みを向ける。
「2人は部屋に戻って休んでください、始末は此方でします」
「そうか、オッサン遂に始末されるのか」
「そうですね、先ずは丸刈りですかね」
 何処から出したのかバリカンを持ち微笑む副艦長、若者は決して逆らってはいけない相手だと改めて己に言い聞かせた。
 そして指示通り部屋を出ようと2人は腰を上げたが、去る前にロジェが副艦長に要望を伝える。
「副艦長、差し支えなければ今回の戦闘データを見せてもらえませんか。1分1秒、作戦区域内外全ての」
 真っ直ぐな彼の眼に、副艦長は不適な笑みを返した。
「君も貪欲な人ですね」
「負けるのが嫌いなだけです」
「奇遇ですね私も負けるのが嫌いです。データは後で君の端末に送っておきましょう、今は身体を休める事です。……アッシュには、艦長が隠してるチョコレートをあげますね」
「ホント!?」
 年相応の少女の反応を見せた彼女の頭を機械の腕が撫でる。上司が咽び泣いているが気にする筈も無い。
「じゃあ楽しみにしてるからなっ。ロジェ、行こうぜ!」
「ああ……それでは失礼します」
 生真面目に姿勢を正したロジェの手をアッシュが引き、2人は出て行った。

 見送った後バリカンをテーブルに置いた副艦長が情けない大人の前に立つ。だが顔を上げないデルムッド、なので機械の腕が髪を掴み顔を無理矢理上げさせた。
「むしりますよ」
「勘弁してください……副艦長が俺を苛めるからいけないんです」
「ではワンコイン禿げで手を打ちましょうか」
「マジで勘弁してください。随分機嫌悪いな今日は」
 デルムッドが溜息を吐くと髪を離され、溜息が返される。
「理由は分かっているでしょう」
「まあな、でもカリカリしなさんな、禿げるぞ」
「その時は隊長も道連れです」
「運命共同体ってか、おっかねェ。あと、呼び方が“昔”に戻ってるぞ」
 無意識だったのか指摘された副艦長は口元を押さえた。
 タブレットを置いたデルムッドは、言い表せない感情を表にしている。
「気持ちは分かる、だがどうしようもない、向こうからしたら俺達は元とはいえ連邦の人間である事に変わりないんだ。実際助けられなかった、あと一歩踏み出せていれば助けられた、炎の中に消えていくのを見る事しか出来なかったんだ」
「……“彼女”は、我々を恨んでいるでしょうか」
「そんな事考えても仕方ないだろ、生まれるのは自己満足だけ。スネイプケイルを無事に得る為の行動か、挑発か、個人的な何かか……考察したくても、通信はどうせ徹底的に弾かれるだろうしな。
 確かなのは、アレは強欲が生んだ冥王……それだけだ」
 火が消えかけた煙草を灰皿に置き天井を見上げた。
「嫌だねェ、欲ってのは……無駄だって分かってても求めようとする。盗人根性ならまだしも、過去なら尚更無駄だってのに」
「ですが実際、過去は覆された……あの独特な“雰囲気”に気付いてしまった……だから欲を抱いてしまうのでしょう。本当に愚かですね……愚かだから……」
「わざわざ言うなよ、痛い程分かってる。それに古傷抉って感傷に浸るより、大事な事があるだろ?」
「艦長……」
 新しい煙草に火を点け彼は大人の微笑を見せる。
「1パーセント以下でも可能性は可能性だよな?」
「口にウロヴォロス捩じ込みますよ強欲親父」
「アハハハハハ、眼が怖いです副艦長」

§§§

 黒の戦艦“プルート”、その廊下を部下達から敬礼を受けながら一人で進む眼を隠す仮面を付けマントを羽織った青年に、硬質の肌を持つ部下が報告する。
「首領、回収したスネイプケイルの浄化完了致しました。問題無く使用出来ます」
「半分は粉砕し動力に、残りは保管しておけ。外部からの通信は一切受け取るな、イグゼルドならば尚更。わざわざ苦情を受け付ける必要は無い、ウィルスを駆逐してくれた事は有難いがな……“助けてやった”のだから礼は充分だろう」
「分かりました」
 指示を受けた部下は足早に去った。

 青年も足を進め殺風景な自室に入り、マントを取る事もせずソファーに腰を降ろす。
「……助けてやった、か……」
 呟くと、離れた位置にあったテーブルの上にある小箱が一人でに開いた。その中から何かが浮き上がり、彼の手に収まる。
「……復讐……それとも……」
 それは、欠けた銀河連邦の階級章。見つめる仮面の奥の眼が細められた。
「私は……」
 向けるべき矛先が分からず、階級章を握り締める。
「貴方を……どう見ればいい……」
 “何か”を求めるこの欲の名は一体。

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