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53.エピローグ

 スコットヤード王国第一王子ヴィンゼントは、今日もローダンの邸宅にいる。

 ヴィンゼントは勝ち誇った顔つきで眼下の騒動を見ていた。

 

 しかし、次第に人が減っていく様子を見て、怪訝そうな顔に変わっていく。


「おい、何があった? なぜ人が減っていく」


 その質問には家来たちも答えることができず、お互い顔を見あうばかりである。


 それが判明したのは数時間後のこと。

 新聞の号外が配られ、詳細が明らかになった。


 バンクオブブリトンでの大演説。

 それによって人心が落ち着いた。

 

 それらが事細かに書かれてあった。


「そんなことがありえるわけがない。ブリトンのいち銀行にそんな大量のスコットヤードポンドがあるわけがあるか!」


 ヴィンゼントは即座に看破した。

 奥にある袋に金貨など入ってなどいないと。


「愚民どもめ。なぜその程度のことがわからん」

「彼らがヴィンゼント様ほど学があるわけがございません」


 執事がそう慰める。

 ヴィンゼントはブリトンの民をひとしきり罵ったあと、続きを読む。


 その先にはスコットヤードのスパイが捕まったことが書かれていた。

 今回の件はスコットヤードの流言工作であったと、明らかになってしまったのだ。


「大失態ではないか。せめてもの救いは、あ奴が死んだことで情報がブリトンに漏れないことのみだな」

「あの者は立派な密偵の頭でございました」

「父上に報告して、スパイ網の再編をせねばならん」


 下っ端のほうはつかまったが、たいした情報など与えていない。

 ただ、多少なりともいる顔を知っている者は脱出させる必要がある。


 他国の任務に従事させるほかあるまい。

 ヴィンゼントの言葉を受け、一人が報告に向った。


「しかしこれでは計画が……」

「騒動は収まっても、根本的問題は解決していません。通貨レートもすぐ元通りとはならないでしょう。奴らに借金を返すあてはないかと」

「それでも思ったより時間がかかるな。仕方あるまい」


 ヴィンゼントは苛立たしげに足を揺すった。

 昨日から一転してこんなことになって、高ぶったものを沈めるのに苦労していた。


 奴隷でもいたぶるか。

 ヴィンゼントはそんなことを考えた。


 その後しばらくして、屋敷に一人の男が訪れた。

 ブレアム商会のロジャー・ブレアムである。


「今はそんな気分ではない」

「世紀の逸品が手に入ったとのことですが……」

「世紀の逸品なら最近手に入ったばかりだ。しかも多数」


 そうは言いながらも、ヴィンゼントはロジャーを中に入れることを許した。

 ブリトン有数の大商会の会長が、そこまで言う品がなんなのか気になったのだ。


「お許しいただきありがとうございます」

「世辞はいらん。本題に入れ」

「はい、実は今朝ほど冒険者がマジックアイテムを売り込みに来ましてな。それがこれまでにないアイテムでして」


 商人が最初に売り込むのは当然スコットヤードであろう。

 金があるものに売り込んだほうが高い値段で買ってくれる可能性が高い。


 そこで断られたら他所に行く、という流れになる。

 現状だとブリトンポンドの価値が下がっているので、なおさらだ。


「商品はこちらの指輪になります」


 それはダイヤモンドの指輪。

 だが、マジックアイテムである以上、真価はその付与効果にある。


「こちらはなんと。全能力15%上昇効果がございます。いやはや。今までは10%が最高でございますれば、これはすばらしい品かと」


 ロジャーの言葉にヴィンゼントは驚き、思わず立ち上がる。

 ロジャーはその驚きを好意的に受け止めた。

 商品のアピールに成功したのだと。


 だがそれは違った。

 ヴィンゼントは指輪をはめ、効果を確認すると、激怒してロジャーに詰め寄った。


「貴様! これをどこで手に入れた?」


 予想外の反応にロジャーはうろたえる。


「さ、先ほど言ったように冒険者が持ち込んで来たのです」

「エドガー!」


 ヴィンゼントに呼ばれた勇者エドガーは自分がはめていたネックレスを取る。

 そしてヴィンゼントに手渡した。


「これは昨日グラーゴに売り込まれたマジックアイテム。全ステータスが12%上昇する」

 

 その説明だけでロジャーはすべてを諒解する。


「いや、我々はそんなつもりでは!」


 15%上がるマジックアイテムは、12%上がるマジックアイテムの価値を暴落させる。

 つまりそれを買い取ったスコットヤードが大損したことになるのだ。


「わかっている。こんなふざけたことをしているのは別の奴だ」


 このアイテムを売り込んだ人物。

 もしくはその裏にいる者。


 ヴィンゼントに問われ、ロジャーはその風貌を説明する。


「簡単に特定できるほどの情報とは思えませんが、調査はさせましょう」


 執事がそう答えて部屋をあとにした。


「スコットヤードをコケにした報いは必ず受けさせてやるぞ!」


 ヴィンゼントは怒りに任せてその指輪を床にたたきつけたのであった。




****  ****




 俺がバンクオブブリトンを出て歩き始めると、はなれたところから声をかけられた。


「アシュタール!」


 振り返ると、いつもの4人がこちらに走ってきていた。


 彼女らは俺の前まで来るとそこで止ま――らない。

 ちょっ。


 そのまま飛びつかれ、俺はもみくちゃにされた。

 主に馬鹿力の戦士、ジェミーに。


「なんなんだ一体」

「ここで演説したのってお前だよな? 噂を聞いて来たんだよ。ちょうどいいタイミングで出てきやがったな」


 ジェミーの答えではいまいちよくわからない。


「おかげで覚悟が無駄になりました」


 ティライザは完全武装していた。いや、4人ともであるが。

 どうやら暗黒神殿に挑むつもりだったようだ。


 それはかなり無謀なこと。

 出発する前に騒動が解決したと聞いたのだろう。

 それで中止にしてここにやってきたといったところか。


「一体どうやったの?」


 ユーフィリアが興味津々に聞いてくる。

 俺は辺りを見渡す。


 人はまばらではあるが、どこで誰が聞き耳を立てているかわからない。

 おおっぴらには言えないこともある。


「さすがにここで話すことではないかな。今度説明するよ」


 ユーフィリアも「そうね」と納得したあと、満面の笑顔になる。


「とにかく。本当にありがとう」

「言っただろ。俺は俺のやりたいようにやるって。だからそんな気にしなくて――」


 俺の言葉を遮って、ユーフィリアは俺を抱きしめた。


「ううん。これはどうしても言いたいの。本当にありがとう」


 それだけ追い詰められていたということかもしれない。

 ならば俺が言うことは――


「dくぉうdふぇmヴで(訳:どういたしまして)」


 俺は答えたたあと、顔を引くつかせた。

 どうやら思ったより動揺していたらしい。


「この程度でそうなるようじゃ。そっち方面はまだまだ修行不足のようですね」


 ティライザが両手をあげてあからさまにため息をつく。

 ただ顔はにやけていた。

 

 ジェミーもアイリスも笑っていた。

 まだこの国の問題が解決したわけではない。


 だが、今くらいは笑いあっていてもいいと思った。

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