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魔人探偵脳噛ネウロ 信【しんじる】
作:文月


 「…退屈だ…」
自分と死体あかねしかいない魔界探偵事務所。
 

 「こんな日に限って謎の気配が皆無とは…。」
呪われた机トロイに座りながら、誰とも無く呟くネウロ。そんな様子をあかねはじっと見守る事しか出来ない。話すことも出来ないし、話せたとしても話すことがないからだ。



コンコン。

静かな部屋に響くノックの音。あかねはびくっとして壁紙の内側に入る。
ネウロは謎の気配を感じなくても、一応助手モードで接しなければならない。

 「はいどうぞ!」
難しい顔つきをしていたネウロの表情も一変。爽やか明るく好青年。そんな印象を常に人前では保っているのだから、しょうがないのだが。机から降りるのと同時にその人は入ってきた。


 「…今日は君だけなんだね。」
入ってきたのは笹塚刑事。よく事件で世話になる刑事である。



 「おや、笹塚刑事!今日は、いかがなされたんですか?」




 「いや…特に君等に予定は無かったんだが。あのチンピラに用があるんだ。」
チンピラとは吾代のこと。ちなみに二人は犬猿の仲。

  
 「彼はいませんよ!どうかなさったんですか?」


 「あいつ今度は街中で騒ぎ起こしたらしくてな…一応事情聴取だ。」


 「そうですか。伝えておきますんで!」
ニコニコと笑いながらもネウロは心の中で舌打ち。



 「それと…あんたにも聞きたい事があってさ。」

 「ボクですか?」





 「アンタ…。それ本当のアンタじゃねぇよな。本当の自分を押さえ込んでる気がする。」








 「何をおっしゃいますか笹塚刑事♪僕は元々こんな感じですよ?」

ヤコが聞いていたら、絶対突っ込みを入れるであろう言葉。だが肝心のヤコは学校で丁度学食を食べている時間。


 「嘘つけ。ま、言いたくなければ言わなくていーよ。俺にはあんまかんけーねーし。じゃぁな。」





 「ククク…なるほど…人間もなかなか鋭いな…。こんな事はX以来・・・だな。」


帰ろうとする笹塚にかけられた全然違うトーンの声。
バッと後ろを振り向くとそこにはこの世の物とも思えないような化け物。

かろうじてそれがさっきまでいた助手だとわかるのは少しだけ出ている髪の毛だけ。

 「何…なんだ…? …お前は…。」


 「あまり正体はばらしたくは無かったが…せっかく協力してくれるのだ。

 …知っての通り我輩の名は脳噛ネウロ。

だが貴様等人間と違うのは我輩は魔人だという事だ。

謎を主食として生きる魔人。それが…我輩だ。」

そう言ってふっと彼が消えたかと思うと目の前に現れ、今度はこう言った。



 「…恐れるか、我輩を。」
ブゥンと虫の羽音のような音がして、ネウロは元の姿に戻った。だが、いつもの爽やかな笑顔ではない。口の端はにやりとゆがめられ、怪しげな笑みを浮かべている。

 「いや…。あまり。」
笹塚の返事は至って冷静だった。

 「つーか、なんか少し予想の範囲内かな…。あんたがいつもヤコちゃんと戯れてんの見て、あー、なんか変な奴だなと思っていた。」

表情を変えずに煙草の煙をふぅと吐き出す。

 「それにあんたが俺に本当の姿を見せてくれたのはあんたが俺を信用してくれてる証拠だろ。
別にそう考えると怖くも何ともないさ。」



 「フン…。人間風情が一丁前にえらい口を叩くではないか。」



 「でもその人間風情のおかげで、あんた飯を食えるんだろ?じゃ、俺あんま時間ねーから。チンピラにはきちんと伝えといてくれよ?」
そう言うと笹塚はドアの向こうに消えていった。

 「笹塚…か。奴隷くらいの価値にはなるかも知れんな…。

なるほど…。人間も捨てたもんじゃないな。」
そう言ってクスリと笑うと窓に近寄って下を覗く。案の定、笹塚と彼の部下石垣がパトカーに乗って去っていく。笹塚はその間一度もこちらを見なかった。

 「ネウロ?笹塚さんが来てたけど、何かあったの?」
振り向くと、ドアの向こうからヤコが入って来ていた。そういえば今日は半日だとか言っていたか。


 「ゴミには、関係のないことだ。…ん?」
ネウロの前髪がほんの少し浮き上がる。謎の気配を察知した証拠だ。

 「行くぞ、ヤコ。謎の気配だ。」

 「えぇ〜?今来たばかりなんだけど…。」

 「つべこべ言うな。」
事務所の階段を下り、謎の気配のする方へと歩を進める。



あの刑事はきっと、このことは誰にも言わないだろう。そして、いつも通り現場で謎解きの手伝いをしてくれる。


なぜかネウロには、そんな確信があった。
人間の世界へと降り立った魔人には、人間の心の中が分からない。揺れ動く感情、人の強い思い。
それでも今日だけは、ネウロは笹塚の事を心から信じることは出来た。

その日が初めてヤコ以外の人間を信頼した日だった。


短くてすいません…。初めての短編小説です。
ネウロ大好きなもので…。書いてみました。













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