ピルピルとポケットの携帯から電子音が流れる。
画面に表示された相手の名前を見て、眞一はイライラと通話ボタンを押した。
「和泉?いまどこだよ」
『…………』
「和泉?」
『…………』
「もしかして……、迷ったの?」
『違うっ。迷ったんじゃねえ!お前がどこにいるのかわからなくなっただけだ!』
「…………」
あの〜、世間一般的にはそれを迷ったというんですけど……。
眞一はそ思ったが、口には出さない。
代わりに一つため息をついて、こめかみをポリポリとかく。
「わかった、俺がそっち行くよ。どこか分かる?」
『…………』
「……分んねえんだな。じゃ、ナビ使うからいいよ。ちょっと待ってて」
『なっなるべく早く来いよっ』
心なしか泉の声は震えている。
「はいはい」
ピッと通話を切って、携帯の機能を使って和泉の居場所を探す。
その位置を見て、眞一は絶句した。
「……何をどう行ったらここまで反対に行けるんだよ……」
昨日電話したときの自信満々な和泉の声を思い出して、哀しくなってきた。
携帯を開いたまま、ナビの示す通りに進んでいく。
何度も道を曲がり、曲がり、曲がり、曲がって、ようやくそこまでたどり着いた。
電話を切ってから、ゆうに20分はたっている。
きょろきょろとあたりを見回して歩きながら、和泉を探す。――が、見当たらない。
仕方がないので和泉に電話をかける。
ぷるるるる…、ぷるる、ピッ。
すぐに呼び出し音は途切れ、相手とつながった。
「あ、和泉?着いたけどいねーじゃん」
『…っ………』
「和泉?どうした」
「いっ、いるだろここに」
携帯ではない、少し離れた場所から彼の声が聞こえてきて、眞一は慌てて振り返った。
よく見れば、電信柱の影に誰かがいる。
それが和泉だと認めた時、和泉がギュッと抱きついてきた。
「いっ、いず、み?そんなとこで、何して」
「…………」
和泉は胸に顔をうずめたまま何も言わない。
ぎゅうっと腕の力を強くして抱きついてくるだけだった。
「…………はぁ…」
眞一は一つ息をついて彼の頭と背中をポン、ポン、となでてやった。
「……べっ、別に、っく、寂しかっだどか、心細がったとが、一人で知らないとごろで怖かったどがじゃねーがらな。…ひっく」
「…………」
(寂しくて心細くて一人で怖かったのね)
思ったけれど、眞一は言わない。
「はいはい。泣かない泣かない」
「泣いでねえっ!!!」
(泣いてるじゃん)
また思ったけれど、言わない。
「っ大体、お前が悪いんだからなっ。お前が分かりにくい場所で待ち合わせしようなんて言うから……っく」
「昨日自信満々に『行けるっ』て言ってたじゃん」
「……っそ、それは……」
真っ赤な目で見上げていた和泉は、口ごもって顔をまた胸へうずめた。
「……ぉ前が悪いんだ…………」
ぼそぼそと口をとがらせてつぶやいた。
「はいはい」
眞一も和泉をぎゅう、と抱き締めて、背中をなでてやった。
「俺が悪かった。お詫びになんか甘いものおごるから、何でも言って?ちゃんと、一緒に行こう。だから泣くなよ」
なでながらそう言うと、和泉は泣いてねーよ、とぶつぶつ言いながら気持ちよさそうに目を細めて笑って、うん、とうなずいた。
目も鼻もほっぺたも真っ赤にして。
その顔を見て、眞一は、うっとつまった。
そんなことはつゆ知らず、和泉は眞一の腕を引き、パーフェ、ベルギーワッフル、クーレーェプ、など、甘いものを寄せ集めた歌を楽しげに歌っている。
(……ああもう!)
可愛すぎだろこいつ!!なんなんだこの生き物はっ!!!
和泉に引っ張られながら眞一は頭の中で叫んでいた。
|