1月23日。由希は卒業文集の作文が終わっていないため、居残りをしていた。由希のクラス(6年1組)には、他にゴンタ(本名は小野 勇治)とミッツー(本名は光石 和哉)が残っていた。
由希はとても作文なんて書く気には なれなかった。指でシャーペンをくるくる回して遊んでいると、背後で鈍い音がした。
「あっっっっ!・・・いけねっ!」
ゴンタが叫んだ。振り向くと、掃除道具ロッカーの上につんであったダンボールが、すべて落ちていた。
「だからやめとけって言ったのに・・・。」
『しかたがないなー』という顔をしてミッツーが言った。
掃除道具ロッカーの前には、サッカーボールが転がっていた。
どうやら、ゴンタはこれをロッカーに向かって蹴ったらしい。
「お、おい星野。先生にチクるなよ!!」
半分笑いながらゴンタ言った。しかし、ミッツーは青ざめている。
由希は何だかワクワクしてきた。男子と女子が会話をすることは、6年生の間では許されないのだ。
こういう日でないと、男子と話すチャンスなど全くない。
「はいはい、言いませんよ!それより、何か面白いことない?ヒマで死にそう。」
由希はもとから先生に言いつける気なんてなかった。男子はバカのほうが面白いのだ。
4時になったら家に帰れる。それまで遊んでいれば作文は家で書いて来れるのだ。
ゴンタはミッツーを無理矢理引っ張って由希の前に来た。
「ん〜♪じゃあ、コイツの好きな人教えてやるよ。」
「や、・・・やめろっ。バカっ!」
ミッツーの顔が真っ赤になった。ゴンタは、ミッツーの本当に好きな人を知っているらしい。
本人は言ってほしくないようだが、由希は聞きたくてしかたがなかった。
「本当?教えて!」
その一言がミッツーにとどめをさした。
ゴンタが口を開いた瞬間、ミッツーは魂が抜けたような顔をした。
「コイツの好きな人はな、篠宮なんだぜ!」
由希は大笑いした。篠宮 明日実は、6年生でも指折りのモテる女子だ。
でも、それ以上からかったりいじめたらかわいそうだと思ったから、由希は
「大丈夫だよ、ミッツーはスポーツ得意だろぉ?スポーツ万能はモテるんだぞぉ?」
と言った。すると、ミッツーの顔がもとにもどった。
「・・・ぷっ。」
ゴンタが笑った。目は由希を見ていた。
「そのコイツが好きなやつはお前か?」
幼稚じみた笑いだ。
「バーカ!アタシには好きな人がいますよぅだ!」
そう軽くきりかえすと、ゴンタの目が輝いた。
「教えてくれよ!」
幼稚ではなかったが、やんちゃぼうずのような言い方だった。
「やなっこった。誰がアンタなんかに・・・。」
そう言うと、ゴンタが手を合わせて言った。
「じゃあ、どんな人がタイプ?それだったらいいだろ?」
由希はそれくらいならいいと思って、
「勉強ができて、外見が悪くはない人かなぁ〜。それから、やさしい人!」
と言った。これくらいで誰が好きかがわかったら、たいした頭をしているはずだ。
よりによってゴンタのようなバカがわかるはずない。
「ん〜。・・・わかった!まっくんだ!」
まっくん=松林 直紀。頭が良くてすごくまじめ。先生と友好的で、顔は悪くない。母親はハーフ。
由希はびっくりした。図星だったのだ。「勘の鋭いやつ〜!」そう思った。
「ち、ちがう!ちがうよ!」
あわてて言ったから、図星なのがまるわかりだった。
「はは〜ん。図星だな〜。」
ゴンタが意地悪く言った。「バレた〜!」
普通だったらショックなはずなのに、何だかうれしかった。
ゴンタは、何だかフレンドリーな感じがするのだ。
「あ、4時だ。星野、もういいよな?俺達はもう帰るからな。」
ゴンタはそう言うなり、ダンボールを元通りに直し、ランドセルを持って教室から出て行った。
由希は教室に取り残された。
「私もそろそろ帰るかぁ〜。」
由希は大きなのびをして、ランドセルを背負った。窓からゴンタが見えた。ミッツーと一緒だ。
由希は微笑んだ。
「ゴンタ・・・。ちょっと、好きなんだよね・・・。」
振り向いてロッカーを見ると、紅い夕日が教室の後方にあたってきれいだった。
「・・・きれいだなぁ。ゴンタも見たのかな?」
そう言って教室を出た。校舎も紅く染まっていた。
「さっさと帰るか!」
由希は走りだした。
♪由希の日記♪ 『1月23日。ゴンタに好きな人がバレた。なんとなく不思議な感覚がした。』
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