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探偵・刹那原くんの場合

作者:Ceez

 俺は刹那原(せつなはら) 智紀(ともき)。天神高校2年生の16歳。
 職業探偵である。

 …………はぁ……。


 その日は2年に進級したばかりの始業式の日。
 校長や教頭の退屈な演説会の始業式を聞くこともなく、その後のHR(ホームルーム)5分前に俺は規定の教室へ到着した。

 特に気負いすることもなく「おっはろー!」と新しいクラスメートたちの交流の場と化した教室の空気を、扉を開けた音が中断する。見慣れた顔と見慣れない生徒たちが興味津々な視線を俺に向けてくる。

 その中から慌てた様子で飛び出して来た女生徒が俺の腕にしがみついた。

「と、智紀くん大丈夫だったの!?」
「まあ、見ての通り怪我はない。と思うな」
「お前の自己診断は当てにならねえから彼女が心配してんだろうが」

 スマホについさっき入ったばかりの最新ニュースを表示し、俺に見えるように突き出してくる男子生徒が嫌みたっぷりに言う。悪気はないはずだ、たぶん。

「遅刻な上に服装が乱れてますよ、刹那原くん。一花、いつも通りに。放っておくと彼は1日中このままですからね」
「あ、うん。恭子ちゃん」

 キツい眼差しに眼鏡を掛けた女生徒が俺の乱れた服装を注意する。
 別に俺も好き好んでワイシャツの胸元を開けたり、ネクタイを首に掛けるだけにしたわけではない。朝はちゃんとしていたのだ。

「智紀くん少ししゃがんで?」
「お、おう。いつもサンキューな」

 俺の肩の高さまでしかない身長で甲斐甲斐しくシャツのボタンを留め、ネクタイを結び直してくれる女子の名は春花月一花(はるはなつきいちか)
 腰まで伸ばした黒髪に、可憐というか可愛い容姿は誰もが認めるところだ。【財閥の後継者】にして俺の婚約者(フィアンセ)の肩書きも持っている。俺の世話をする姿をみたクラスメートの反応には敵意や嫉妬などは含まれて無い。
 どちらかというと微笑ましく見守る雰囲気だ。

「アナタはもう少し自覚をもって、家を早めに出て来れないのですか? そうすれば遅刻なんてことにはならないでしょう」
「いや、早めに出た結果がコレなんだけどな……」

 俺に説教くさく注意をして一花をけしかけてきた女生徒は氷山崎恭子こおりやまざききょうこ
 去年のクラスメートにして委員長兼風紀委員の女傑だ。
 【教師】たらんとする姿勢は冷たさを含むが、面倒見が良いところは皆に慕われている。

「あいっ変わらずお前は騒動に愛されてるよなあ! 俺もこんな記事にされてみたいもんだぜ!」
「お前だってスポーツ誌を賑わせてんだろーが」

 『お手柄高校生。バスジャック犯を捕縛!』という見出しとぼやけたバスの写真入りの記事。犯人の男に馬乗りになるブレザー服姿の学生の写真――おそらくバスの乗客が撮ったんだろう――が掲載されたネットニュースを掲げた友人、大大和耕介(おおやまとこうすけ)

 194センチという背丈に肩幅の広い体つきの巨漢が俺の背中を叩こうとするのを、ギリギリで避ける。【柔道家】として鍛えられた奴の一撃を喰らえば、2〜3日は青あざが出来ること請け合いである。

「これでよしっと。はい、いつものカッコいい智紀くんだよ」

 一連の騒動でボサボサになった頭髪に櫛まで入れてくれた一花が、最後に軽くネクタイを調整してポンと肩を叩く。耕介やクラスメートからニヤニヤと意味深な視線を向けられた俺は「どうやって言い逃れるか?」と思案する。

「はい、みんな。チャイム1分前です。席に着いて!」

 だが俺が口を開くより先に氷山崎が放った鶴の一声で、「はーい」と皆が動き始める。
 まだ委員決めをやっていないというのに、彼女の行動には感謝するしかない。しかし耕介が離れる前に「あとで詳細聞かせろよ」と残して行った捨てセリフに頭が痛くなる。

 正直に言おう。俺は何もしていない。――と言っても誰も信じてくれないのだが……。


 俺は転生者である。前世ではごくごく平凡な人生をのらりくらりと歩み、零細企業のサラリーマンで可もなく不可もない業績でやっていた。
 最期はイマイチ思い出せないが、真っ白な空間で走馬灯が流れる中「波乱万丈な人生が送りたかった」などと願ってしまったのが原因だろう。そして生まれ変わって今に至る訳だ。

 転生と聞けば退屈な人生から一転、剣と魔法のファンタジー世界で華々しい活躍を経て、ハーレム万歳! ウハウハ万歳! と言った人生を歩んでいると諸君は思われるだろう。

 確かに間違いはない。
 世界中の美人美女とお知り合いにはなれるし、権力者の知り合いも多い。

 しかしそんな方々との交流は微々たるものである。
 俺の人生の副産物と言ってもいい。
 俺の今までの16年という人生のほぼ90%には騒動しかないのである。

 それは何故かと聞かれれば、この俺が持っている称号【探偵】に由来する。この称号というのが曲者なのだ。

 この世界の人間は誰もが5歳になったら神殿で神様から職業適性の診断を受ける。
 俺も最初その神殿を見たときは目を疑ったが、冗談でもなく本物だった。

 科学技術も文化レベルも前世と大差ない世界なのだが、高層ビル群の中にギリシャの観光地のような神殿がドーンと建っているのである。
 そこで判明した俺の職業適性は【探偵】という訳だ。

 普通、探偵というのはボロいビルに事務所を構え、ペット探しに始まり素行や浮気調査を生業とする職業だろう。
 だがこの世界の探偵はレア職業である。
 全世界で20人居るか居ないかという少数職なのだ。
 その活動は安楽椅子に座って事件を推理するのではなく、ゼロが2つ付くスパイ映画ばりに銃弾飛び交う爆発現場でアクションをするものなのだ。

 かく言う俺も職業適性が判明した次の瞬間、列に並んでいた女の子が誘拐されるという事件に遭遇した。
 だが女の子が車に連れ込まれ、逃走する前に犯人をやっつけて彼女を救出したのが俺なのである。

 その誘拐されそうになった女の子というが、春花月一花だ。
 彼女は【財閥の後継者】であるが親父さんからその座を継げば、称号は【総帥】に変化するだろう。
 だが彼女にはきっと隠れ称号として【ヒロイン】が付いてるに違いあるまい。何故ならば彼女と出会ってからこの11年の間に誘拐されること12回。人質になること8回。そのことごとくを俺が結果的に解決し、助け出すことになっている。
 とにかく彼女は事件に巻き込まれるのである。まあ、そのお陰で彼女の親父さんに気に入られ、可愛い彼女をゲット出来たのは僥倖なのかもしれない。
 けど春花月財閥は俺を婿に入れちゃって大丈夫なのだろうか? 俺の持ち込む騒動で屋台骨が傾かないか今から心配である。




「――と言うことになるな」

 連絡事項とクラス委員決めだけでHRは終わった。氷山崎は立候補してその座に収まり、他の委員は後日のHRで決めるとのことだ。

 それが終われば皆が俺の席の周りに集まり、朝の事件の詳細を聞きたがる。
 だから俺は起きた事を正直に告白する。

 話し終えた後は侮蔑や(あざけ)りの言葉もやむなしと思っていた。
 しかし皆はワッと歓声を上げ、俺の行動力を褒め称えるのだ。

「すげーじゃん!」
「さすがは刹那原くん」
「銃を持った相手に臆することのないその行動力すげー」
「我が校期待の星!」

 いや、お前ら俺の話、聞いていたか?

「さすがだぜ智紀! 犯人を見た時から緻密な計算をしていたんだろう! まったくお前らしいぜ!」

 耕介が手放しで賞賛を送ってくる。周りの皆もそれに呼応するように、手拍子と共に「刹那原」コールだ。
 いや正直いたたまれないんで勘弁して貰いたいんだが。今までの人生で聞き入れて貰った事はないので諦めている。

 事の発端はこうだ。
 うちの高校は坂の上に位置しているので、直通の最寄り駅から階段で行くか、バスで敷地内まで行くかに限られる。別に自転車や徒歩でもたどり着けない訳ではないんだが、生徒の大半はそのどちらかを使っている。

 去年の俺は電車通学だったのだが、スリや痴漢はともかく、刃物による傷害事件や加害者ありきのホーム転落事件。自殺する人を止めたのも10件や20件では収まらない。爆弾予告やらその筋の人たちによる銃乱射事件など、はっきり言って異常な数の遭遇率である。
 普通の人はそんなもんに一生に一度遭遇すれば良い方だ。
 そんなこんなで電車通学に辟易した俺は、この春からバス通学に切り替えた。

 その一発目から事件が勃発する【探偵】体質はもう呪いなんじゃなかろーか……。
 うちの最寄りのバス停から学校までは30分。2つ目のバス停より銃を持って覆面をした男が乗ってきたのである。
 男は銃と刃物をこれ見よがしにチラつかせ、乗客をバスの後方に押しやった。そして運転手に警察署に向かうように指示を飛ばした。
 その後に人質たる乗客を観察している最中に、俺と視線が合う。自慢じゃないが 俺は有名人だ。乗客の中にも俺の顔を見て、なんとかしてくれるに違いないと信じていた者もいただろう。
 俺は「前に出ろ」と言う犯人の要求に従い奴の前に出た。
 そして奴が何かを言うより先に持っていたボールペンを落としてわずかな注意を引き、犯人の腹へタックルをかまして床に引き倒すことに成功したのだった。

 ここまで聞けば誰もが勇気ある行動だと感心すると思う。
 ……が、神に誓って言う。俺は何もしていないと。
 ペンだって、学校に着くまでクロスワードでもやろうかと、偶々手に持っていただけだし。落としたのだって、銃を向けられた緊張で震える手からこぼれ落ちただけだ。
 更にペンを落とした時に犯人の銃を持つ手が上がったのにびっくりして一歩下がった。その足でバスの段差に(つまづ)いて犯人に倒れ込んだだけなのだ。
 その際に鳩尾に頭突きを打ち込んだり、辞書入りのバッグで犯人の側頭部を強打したのはただの偶然だ。耕介が言うような、最初から計算して動いた訳じゃない。

 それも込みで正直に告白したのだ。が、耕介は「謙遜するなよ!」と誤解するし、一花は「智紀くんは自分の活躍を控えめに言うもんね」と信じてくれない。

 なんなのこの人たちっ! 
 どんな真実の告白も美談に変えるというフィルターを常時展開しているとでもいうの!?
 勘違い物を目指したものの、失敗に終わった話。
 第三者的な視点も必要なのですが、その辺りがうまく書けなくてお蔵入りしてました。
 でもここまで書いたのだから一応出してみました。
 中途半端な作品を出すな! とお怒りを食らいそう……。

 注:称号とありますが魔王様の世界とはまた別です。

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