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Garden of Clockwork 作者:ぬいばり

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「やぁ、待たせたね」

「あ、いえいえ大丈夫です。おはようございます……って、ツユさんなんか疲れてます?」

「…………」

「えっと、不機嫌?」

「……いや、大丈夫。どっちでもないよ」

 ああ、そう、どちらでもない。
 ただ少々混乱しているだけである。

 カナエに水槽の制作依頼を申請し終えれて丁度良い時刻、未だ気の動転が収まらないままにアリスと合流していた。
 場所は相変わらずブルーベルの転移ポイントで、ここからアリスの案内で"青鐘自警団"の集会所へ赴くことになる。

 昼、太陽が高く昇った時間帯である。
 日に当てられジリジリとすり減っていく体力を、微妙に性能が上がったらしいアクアヒールで補給しつつ、駄弁りながら歩んでいく。
 アリスも納得しているのかしていないのか訝しげな表情を浮かべながら、けれど付き添うようにして足を進めていた。

「自警団の情報、ある?」

「情報ですか……攻略組の何人かが喧嘩を売って負けたのが自警団ですね」

「ああ、その話、騎士団の方じゃかったんだ。そうすると、結構強いのかな」

「リーダーのレベルは"剣闘士"のレベル5でした」

「……二次職っぽいねぇ」

「ぽいですよね」

 まぁ、聞いたことのない職業だから、三次職という可能性も無くはないが。
 だが二次職であれ三次職であれ、単純なレベルでいえば、俺より上ということになる。
 依頼的な面、安全面で考えれば、戦闘に発展させたくない相手ということだ。

 ……個人的な面ではどうか?
 興味や好奇心、戦ってみたいという欲は、無くはない。

「まぁ、ツユさんの方が強いと思いますけどね」

 と、アリスは呟くように言った。

「……それはなんで?単純なプレイヤースキルとかの話?」

「それもありますけど……一番その根拠となりうるには、システム的な"スキル数"ですかね」

 アリスは続ける。

「もしツユさんが一般的なスキル取得数で活動していたら、今頃は考古学者レベル3じゃ済まないでしょうって話ですよ。詳しいステータスは知りませんけど、端から見ても10や15のスキル数じゃ説明がつかない動きしてるじゃないですか。別にプレイヤースキルがどうこうって話じゃなくて——獲得経験値の量から考えれば、実質的にツユさんはもっと上のレベルにいるはずだってことです」

「……なるほどねぇ」

 それはそれは、とても説得力のある分析だった。
 たしかに、そうか。
 最近はそうたくさんスキルが増えることもなかったから、すっかり忘れてしまっていたな。

 俺は、結構な数のスキルを取得していたっけ。

「また新しく、何か取ろうかなぁ」

「……わざわざ増やすんですか?」

「いくらかスキルが統合して、減っちゃったからね」

「いいじゃないですか、レベルが伸びやすくなりますよ」

「……それは、どうなんだろうね。良いことなのかな」

 アリスは訝しげな表情を浮べて目線をこちらにやっていた。

 考える。
 いつも考えていることだが、言葉にする前に、その内容がしっかりと伝わるように、もっとじっくりと考える。
 アリスは慣れたように待っていた。
 俺は歩いて、時間をかけて、言葉をまとめていた。

「……ほら、レベルが上がりすぎるとさ」

「はい」

「一緒に冒険できる対等な仲間が、いなくなってしまうだろう」

「……ふっ」

 言えば、アリスは吹き出すように小さく笑った。
 耐えかねたように、けれどなんというか、許容するようなおおらかな笑顔で、小さく笑った。

「ツユさん、寂しいんですね」

「……そうかもね」

 ……君は結構、核心を突いてくるやつだな。
 まるで俺みたいで、あるいはアサバに通じるものも感じる。

 ああ、嫌いじゃないよ。







 自警団のアジトは、なかなか立派な場所だった。

 ブルーベルの東の城壁近くにある地区、そこに三階建ての大きな集会所がぽつんと1軒立っていて、その横には大きな砂の広場が設けられている。
 なんというか、中学や高校の校庭を彷彿とさせるような……グラウンド?
 それは結構的確な語彙な気がするが、はて、ここで鍛錬やらなんやらと行うのだろうか。

 なんにせよ、なかなかに素朴で実用的な設計であると、そんな印象だった。

「うわっ……な、なんだよアンタ」

「どうも、こんにちは。自警団の方ですか?」

「あ、あぁ、そうだよ」

 グラウンドの片隅、ベンチに腰をかけて葉巻を吸う男性に声をかけた。
 後ろのアリスとともに小さく頭を下げて挨拶をすれば、彼は驚いたような反応をする。
 というか、怯えたような反応をする。
 反応に関してはとても心外だが、結果オーライと言うべきだろうか。

 ペースは掴めそうだ。

「本当は全員に話をつけた方が良いとは分かっているんですがね、こういうのは、頭が従えば周りも芋づる式についてくると信じなきゃやっていられないでしょう」

「なんだよ……」

「…………」

「な、なんだよ!」

 じろり、とその眼球を謎るように見つめれば、男性は居心地が悪そうにして縮こまる。
 焦ったように声を荒らげて、冷や汗をかく。
 ああ、結構簡単に、崩れるなぁ。

「……そちらの代表者さんと喋りたいんですが、出してもらえます?」

「アンタ、さては神の使いの……」

「……もう一度言った方が良いか?」

「わ、わかったわかった! わかったからちょっと待ってろ!」

 一つ睨んでやると、男性はすぐに集会所の中へと引っ込んでいく。
 彼が外にいてくれて幸いだった。
 関係者以外立ち入り禁止らしいから、ああやって呼び出してやるしかないのである。
 まぁ、それにしても順調に進んでいるとは、思わなくもないが。

「……あの、ツユさん」

「何?」

「平和的に解決するつもりあります?」

「向こうが平和的に来るなら、平和的に行こうと思っているよ」

「戦いたいんですね」

「初めて見る職業だからね」

 アリスは呆れたように苦く笑った。

 ……まぁ、そこまで苛烈に挑発しているわけでもないし。
 向こうが好戦的でない可能性だって普通にあるし、目的の達成のために戦闘が必要にならない可能性も断然ある。
 だから、そう、これは——運が良ければ戦えるってところだ。

「……あ、来た」

「ええ、あの方ですね」

 ——集会所の中から姿を表したのは、2m近い巨大な男であった。

 動きやすさを重視したような革の防具にゴツゴツとした黒いガントレット。
 オールバックに固められた痛んだ金髪に、無精髭のよく似合う白人。
 これはこれは、とても強そうだ。
 とても強そうだが——強そうなだけのただの巨漢、だなぁ。

——————

ベンジャミン/仙人Lv.5/剣闘士Lv.5
属性/???
スキル/???
称号/???

——————

 ……まぁ、称号持ちってところは少々怖いが。
 ああ、そうだな、中々戦いがいのある相手ではないだろうか。
 俺と同じくらいの強さ、なのかな。

「エースっていうより、ジョーカーって感じだなぁ、そいつは」

 と、ベンジャミンというらしい巨漢は、鉄材のように重苦しい声を放った。

「俺たちを傘下に引き入れようってヤツは、アンタか」

「ええ、外までお呼びしてすいませんね、ベンジャミンさん」

「……俺の名前、どこで知ったよ」

「今、ここで」

「……そうかい。神の使いってのは、怖いもんだね」

 彼は大きくため息を吐いて、ベンチに座り込む。
 そして、俺たちにも座るように、手で合図をした。

 また、集会所の中から無数の視線を感じていた。
 彼らは聞き耳を立てて俺たちの会話をじっと監視しているらしく、一言すら声を零さず、ただ黙している。
 どうやら、注目されてしまっているらしいな。

 さて。

「——単刀直入に話をしましょうか。我々と連携して戦ってください」

「それは、何度も断ったねぇ。俺たちには俺たちのやり方があるよ。アンタらがこっちの傘下に降りるってなら、指揮してやらんこともねぇが?」

「ご冗談を。それぞれレベルの違う8000の軍勢を指揮する能力なんて、あなたにはないでしょう」

「……言うね」

「言われましたからね」

 彼は、苦々しく笑った。
 俺は、どうだろう。
 この言い合いは結構楽しくて、笑っている気がする。
 苦々しく笑えているだろうか。
 それとも、アサバが言うように大袈裟に笑っているのだろうか。

 心から、笑えているだろうか。

「実際、あなたたちが俺たちの方に降りた方が、効率が良いと思いませんか?」

「思わないねぇ。俺たちからすりゃあ、効率なんて話じゃないのさ。8000人なんて無駄な戦力だ。俺たちだけでどうにかできるんだから、他の手を借りる必要なんてないだろう」

「ああ、なるほど、そういう主張をするわけだ」

 面白いなぁ、と思いつつ。
 淡々と、言葉のやりとりを続けていく。

「しかしね、200や300のネズミたちに足下をウロチョロされんのはこちらとしても邪魔という他ないんですよ」

「……ネズミ、ねぇ」

「ええ、ネズミです。ネズミは言うことを聞いてくれない」

「そうだな、聞くつもりはないよ」

「ああ、それに、ネズミは汚いな。実に汚い。野放しにしていれば、じきに感染症すら招くだろう」

「……何が言いたい?」

「ネズミは——駆除しないと」

 じろり、と彼を見据えた。
 彼も、どこか変わりつつある空気を感じているようだった。
 苦々しい笑顔は消えていた。
 ただ睨んだような目つきで、こちらを見ていた。

「……駆除?」

「ええ、駆除です。だって、邪魔じゃないですか。ただでさえ危ないこの状況で、内部から噛み付かれる可能性のあるネズミを野放しにしていていいわけがない。多分、襲撃イベント時は街の中での戦闘も解禁されるだろうし、200や300なら三時間もあれば掃討できる。ブルーベルは綺麗になるし、危機を乗り切る勝機がさらに増す。素敵なことばかりでしょ?」

「……俺を殺そうって魂胆かい」

「別に、あなたを殺さなくても、良いかな」

 彼の背後、集会所の中から固唾を飲んで視線を向ける大衆たちに、目を向けた。
 なぞるように、舐めるように、目を向けた。
 ぞわりと彼らが後退する音に、悲鳴を喉の奥に呑み込んだような音が聞こえた。
 人間が怯える声が聞こえた。
 生き物が恐怖する音が、聞こえた。

「だって、あなた以外の全員が死ねば自警団はなくなるわけだし、それでも良い。こちらの邪魔にならなければそれで良いんだ。ええ、俺はどっちでも良いですよ。俺は依頼を受けただけだし、正直ブルーベルがどうなろうとどうでも良いし、例えばこれで俺が犯罪者に落ちても、それはそれでプレイスタイルは熟考する余地もまだあるし——そう、PKっていうのも実は興味があったりするんだよな。ただ、あなたたちを説得できれば、俺は報酬が貰える。報酬が貰える方がこちらとしてはおいしいから、できればあなたには部下の命を選んでほしいところだ。俺は最初からそういう話をしているんですよ、ネズミの大将さん」

「……クズが」

「最初は善人たちが来たはずですよ。俺が善人じゃないだけなんだ。善良な一般人たちがクズに頼らなければいけなくなるような、そんな状況を作ってしまった自分たちを、恨んでくれ」

 ああ、なんというか。
 可哀想だなぁ、この人は。

 彼は、この提案を、断るわけにはいかないのだ。
 彼は分かっているはずだから。
 それを断ったとき、プレイヤーが本気で犯罪者に成り下がれることを、彼は理解しているはずだから。

 ……惜しむべきは、互いに譲歩できる段階はとうに逃してしまっているという点だろうな。
 彼は、途中で譲歩すべきだったなぁ。
 ゲームアバターの人生(アカウント)を簡単に放り投げることのできる"プレイヤー"という存在、それらが寛容であるうちに、彼は自分の成したいことを条件の内で獲得するよう努力するべきであった。
 まぁ、だが、こうなってしまっては仕方ない。
 俺と出会ってしまったのだから仕方ない。

 プレイヤーを法で縛れないこの世界、好きなだけ恨んで頂こう。


「ツユさん、実は性格悪いですよね」

 耳元で、小さく笑うようにアリスが言った。

「知らなかった?」

「知ってました」

「だと思ったよ」

 君は、俺のことを熟知しているようだからね。 
 しかし、力任せの説得って、楽だなぁ。
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