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Garden of Clockwork 作者:ぬいばり

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「えーと……これで良いですかね」

「はい、大丈夫です。これで1個人2パーティ編成のレイドとなります。今回はよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ」

 丁寧な挨拶をした彼……魔王という"魔族"の男性の後ろでは、9人のメンバーがそわそわとした顔で控えていた。
 全員、覚えている。
 いや、つい数時間前に覚えた。

 右からマーブル、烏丸、キリエ、からくる、旗魚、シャルロット、諫早、ヌン、いっこ。
 こうやって並んで観察すると、なかなかに面白い。
 "魔族"である魔王を筆頭に、犬獣人、狐獣人、エルフ、ドワーフ……様々な種族が並ぶ。
 良いな、これは。

「……さて。じゃあ、行きます」

「行きましょう」

 魔王の合図で、俺たちは歩んだ。
 俺たちは、歪んだ結界の中へと踏み入った。

 ボスエリアへ、踏み入った。





 彼らと出会ったのは、センチネル・ハウンド・アルファを討伐した直後のことだった。

 おそらくは音からここを察知した彼らは、見知った顔だった。
 俺は彼らの顔を知っていて、彼らは俺の顔を知らなかった。
 いや、動画では見たことがあったらしいが、こうやって目の前で見るのは確実にはじめてだろう。
 ともかく、だから彼らは俺の姿を見て、揃ってひどく驚いた顔をしたものだった。

 彼らは俺の付近で溶けて消えていくアルファの死体を見て、まず話をしようと接触してきた。
 即座に話し合いをする場を設けることとなった。
 騒げる状況ではなく、代表者として魔王と名乗るプレイヤーと俺が対話を行う。
 また、向こうの残りのメンバーは話を静聴しつつ、周囲の警戒をすることとなった。

「ツユさん、でよろしいですか?」

「ええ、それで。別に呼び捨てでもいいですけど。はじめまして魔王さん。どうぞよろしく」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします」

 不遜な名前だったが、丁寧な物腰の男性である。
 いや、まぁただのハンドルネームなんですけど。
 けれど本名からもじるという手段しか知らない俺からすれば、これは結構驚きだった。
 彼は一通りの挨拶をこなすと、すぐに本題に入る。

「ツユさんは単独でフィールドリーダーとその付属品を討伐したと」

「……ああ、なるほど。アルファとオメガのこともご存知で」

「ええ、つい昨日エンカウントし、戦闘を行いました」

「あ、てことはボスエリアのことも?」

「はい。この先ですね。確認しています」

 やはり、あの色の違うエリアはボスエリアだったらしい。
 彼は続ける。

「しかし確認しただけです。私たちのパーティはフィールドリーダーとの戦闘でいくつかの欠員を出してしまいまして、エリアの確認後はすぐに撤退することを選択しました」

「へえん……良い判断だと思います、それ」

「はは。ツユさん、ソロに挑むわりには慎重なプレイングをしているようで。参考にしています」

 楽しそうに、彼は大げさな笑い方をした。
 冗談はいける口らしい。

「それで、相談があるのですが」

「はぁ、なんでしょうか」

「ツユさん、よければ今からのボス戦闘に参加して頂けないでしょうか」

「……はい?」

 彼は、笑った表情を保ちながら。
 しかし真剣な声で、そう言った。

 彼は続ける。

「いえ、これは結構単純な話でして、実はボスエリア——昼間のうちは足を踏み入ることができないような仕組みになっているようです。β版では、東と南に関しては侵入可能だったようですが、少なくとも現在確認した北のボスエリアは夜間でないと侵入不可となります。また、私たちが二人の犠牲を出してしまったフィールドリーダー戦を、あなたはソロでそれどころかほぼ討伐してみせた。私たちは自信がないのです。夜間戦闘で戦果を出す自信がない。今回のボス戦で勝てる自信を欠いています。あなたがいるだけで、単純な勝率、こちらの士気、それらが共に向上します」

「……今回は、相性がよかっただけだと思いますけどね、俺は」

「それでも、あなたが現状で最も高い位置にいることは変わりません」

 種族、職業レベルは推定でも7以上。
 ボスの最速討伐、初の裏ルート開拓。
 夜間の戦闘手段の確立。
 さらには、夜間戦闘の難易度を格段に下げるであろう指南書の著書。

 信頼するには十分な実績である、と彼は言う。

「えー、パーティってたしか5人ですよね」

「そうなります」

「となれば、1個人2パーティのレイドってことなんでしょうかね」

「そうなりますね」

「経験値、俺にだけ多く行き過ぎませんかね、それは」

「ええ、そうなるでしょう」

 魔王は相変わらず笑顔を崩さなかった。

「ですが、経験値なんてものが一体何を優先するのでしょう。パーティ内の揉め事を心配しているのならば、それには及びません。私たちは"できるだけはやくこの異常事象を回収する"ために尽力するプレイヤーで組織された2つのパーティで構成されたレイドです。攻略が進むこと以上の何も求めません。むしろ、あなたとの協力関係が築けるのであれば、私は自分の全財産さえ差し出してみせましょう。どうか、信頼して頂けませんか?」





 ……まぁ、あそこまで言われると、こちらとしては折れるしかないわけで。

 もちろん、最初からソロでボスを討伐できるなんて思っちゃいない。
 もしボスエリアと出会ったなら、一応は挑むつもりだったが、おそらくはリベンジが必要になるだろうと想定していた。
 一度で勝てるとは思わず、確実に観察が必要だと感じた。
 さすがに、そこまで自惚れているわけではなかった。

 まぁつまり、これは好都合な事態ではあったのだ。
 俺の精神が追いついていないというだけで、パニクっていたというだけで、ありがたい話。

 コミュ障だからなぁ。
 こんな大人数で行動することなんて、慣れているわけがなかった。

「じゃあ、俺はとりあえず、状況次第ではありますが奥に走ります」

「ええ、お願いします。遊撃ができる人が増えるだけで、こちらはかなり楽になりますから」

 ヘイト稼ぎ、ぜひ暴れ回ってくれることを期待しています。
 そう言って魔王は言葉を締めた。

 歩む。

 すでに一度見たことのある歪んだ結界。
 やはり見ていると気持ちが悪くなってしまうような禍々しさがある。
 まるで蜃気楼のようだ、と思う。

 踏み入る。

 視界が歪む。

 黒く染まる。

 この感覚は、慣れるのに時間がかかりそうだなぁ、と。
 漠然と思った。


「……へえ。良い広さだ」

 青鐘廃坑のボスエリアも広かった。
 だが、ここはそれ以上に広い。

 光源は増えるだろう。
 決して一つではないだろう。
 どうやら攻略組の彼らは設置式の光源アイテムまで持ってきているらしく、広い範囲が照らされるだろう。

 だが、それでも。
 この広さならば、必ず闇が生じる。
 助かるな。
 とても、助かる。

 そして、ボスは……これかぁ。

——————

ミュータント・ハウンド・マザー/???
エリアボス/北イライ森林
???/???/???
スキル/???

——————

 体高でさえ3m以上、体長ならばそれ以上。
 それだけならば巨大な灰色の狼だろう。

 しかし、それだけ、ではなかった。
 胴体のいくらかの範囲からは細く赤黒い触手の集合が無数に伸び、特に腹部は全域が触手に塗れている。

 そして、その腹部からは今ですら何かが産み落とされている。

 俺はそれを知っていた。
 いや、似たようなものを知っていた。
 彼らも知っているはずだ。

 マザー。
 その符号が意味する"母"を、俺と彼らは、きっと理解した。

「これは、なんというか……」

「俺は、わりと予想外ですねぇ。考えればたしかに辻褄は合いますけど」

「そうですね。私も同意見です」

 魔王と軽く言葉を交わしてリラックス。
 そして、俺はすでに駆け出していた。

 ゆっくりと動き出すマザーを置いて——俺は産み落とされた子を蹴飛ばす。

「っ! あれに続け!」

「「「「はいッ!!」」」」

 さて、蹴飛ばされた子狼の視線はしっかりとこちらを向いている。
 ヘイトは稼いだ。
 まずは、これでいい。
 俺がまずやるべきことは、攻略組に"対大型単体狩猟"に専念させることだ。

 まぁ、攻略組の傾向は理解していた。
 彼らは、多数を相手にするのが、下手だ。

 ……いや、ここ数日の学習としては十分なのだろう。
 三日前に初めて狼の群れを相手にし、一日前に強力な群れと相対した。
 それでさえ2名の欠員だけで被害を済まし討伐を完遂している以上、能力で言えば有能極まりない。
 きっと、今後は対多数戦闘でもめきめきと能力を増していくことだろう。

 だが、潜在能力は現在能力の優劣に関わりはしないのだ。

 彼らが何に重点を置き、どう動き、どう行動するのか。
 何が得意で何を苦手とするのか。
 俺がやるべきは、彼らの長所を生かし、彼らの短所をサポートすることだ。

——————

ウォンテッド・ハウンド/動物Lv.4
従属物質/???/地上
スキル/???

——————

「まぁ……ほぼセンチネルの方と変わらんね」

 ステータスの見え方的に、という意味で。
 これならいける。
 これだけなら、いける。

 まぁ、これだけだと思うよ。

 闇に逃げ込み、そして身体を翻す。
 正面に、すでにハウンドがいた。
 感情のない眼球で俺を睨み——薙ぎ払われる。

「シャドウスピア!」

 影の針、身体が貫かれる。
 また、砕薙で殴られる。
 飛ばされたところで追いつかれ、蹴り潰される。
 そして溶ける。

 望まれた猟犬か。
 誰が望んだのだろう。
 まぁ、俺は結構、好きだよ。

 録画してるので、ね。

「ああ、もう産んでるじゃんね」

 結構本気で殺しにいって、かなり早く処理できた気がするのだが。
 ペースがはやいな!

 光源のある方向はよく見える。
 巨大な盾を持ったプレイヤーがマザーの攻撃を防ぎ、魔法職が無数の攻撃魔法を飛ばす。
 攻撃の直後、入れ替わるように前衛が出て、打撃を頭部に、斬撃を首に。
 盾に回復魔法がかかり、また入れ替わる。

 なるほど。
 やはり、対単体では慣れているらしい。
 素敵だな。
 攻略組、参考にさせて頂こう。

「……ま、俺ソロなんですけどねぇ」

 盾に攻撃が加えられて入れ替わる瞬間、俺の総攻撃に参加する。
 背後から、すり抜けるように薙ぎを一撃。
 そして、生まれ落ちた瞬間のハウンドを、またも腹の外へと蹴り飛ばした。

「あ、俺が雑魚引き受けますんでマザー全部任せまっす」

「了解!」

 結局、難易度的な、あるいはメタフィクション的な発想をするなら。
 廃坑の裏ルートに比べて難易度が下がっていることは明確だ。

 となれば、俺が雑魚を引き受け続けるだけで、彼らは得意な土俵で戦えるというわけだ。
 とてもシンプルで、良いな。

「あ、それと光源地面付近に下げて。筋肉の動作はファングに似通ってます。上腕あたりの筋肉の浮き上がりはファング以上に確認しやすいでしょう。影で判断してください。動きはリアルよりも大げさなので可能ですそれが出来ない人はここに来るべきではないですね。息のタイミング、眼球の動作も同様です。移動方向は視線と首から探ること。以上!」

「了解、感謝します!」

 まぁ、彼らの指揮能力と把握能力はかなり信頼しているので。
 助言はこれくらいで良いのだろう。
 たぶん、なくたってすら、良い。

 これ、勝てるよ。











『エリアボス:ミュータント・ハウンド・マザーの討伐が確認されました!おめでとうございます!』

『"北イライ森林"の中間ポータルが使用可能になります』

『初撃破ボーナス報酬を獲得しました』

『第二の街"魔導区バーベナ"が解放されます』

『"青鐘の街ブルーベル"、"魔導区バーベナ"を含む全対応施設にギルド登録システムが追加されます』

『その他アップデートが開始されます』

『三時間前後のアップデート時間が発生します』

『善良なる一般人たちへ』

『良い夢を』
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