9.H
温まり出した雪を転がるように目的の家を捜していると、村の通り向こうに赤い屋根の家が僅かに残る視力に強烈に飛び込んで来た。
確信などなかったが、俺は惹き付けられるように力の入らない足を引きずりながらも駆け出した。 泥だらけになりながらも歩み寄ると、宛名と標札が一致した。
見つけた。この家だ。
俺は勇んでドアを叩こうとするが、まるで力が入らない。 引っ掻こうにも爪なんかとうに失っていた。
ああ…、ここまで来てダメなのか。
俺はもう動けなかった。絶望が砕けかける身体をさらに押し潰す。 もはや全身がただの器のように自分の神経を離れていき、意識が飛んでいこうとするのが自分でもわかる。きっともう戻って来ないことも。
消えかける意識の中、不意にドアが開いたのが見えた。 何故開いたかはわからなかったが、ドアの前に立つ老婆に奴の部屋で見た女の子の面影が朧げに見て取れた。
間違いない。この人だ。
老婆は虚空を見つめて、辺りを窺っている。
「…そんなわけないわね。やっぱり気のせいね」
待て、待ってくれ。
俺は懸命に首を伸ばし手紙を差し出すが、身体が動かず気付いてもらえない。 俺は手放すまいと誓った手紙を一度だけ手放すと、渾身の力で鳴いた。
「あら? まぁまぁ、おチビちゃん。こんなに汚れて一体どうしたのかしら」
老婆は俺の抱き上げた。老婆の腕は、奴のものとは似ても似つかないほど華奢だったが、奴と同じくらい温かかいのが感覚のない身体にもわかった。
それ以降の記憶はない。 |