5.
いつまでも起きない奴に俺はどうしていいかわからず、焦点も曖昧なまま辺りを見回すと、いつの間にか奴の部屋には画材道具と簡単な家具しかなかった。 黒い絵の具の空チューブだけがあちらこちらに転がっている。
薄っすらと明るい窓の傍には、恐らく奴の故郷の風景か。 丘に佇む女の子を描いた絵が何枚か飾られていた。青いスカートが目を引く。
俺は記憶するでも忘れるでもなく、奴がいつも大事そうにしていたスケッチブックをめくった。 俺がいた。一枚を除いて全てに俺がいた。
ったく、悪魔の使者と呼ばれた俺の絵ばっかり描くから、全然売れないんだよ。
実際、俺は奴の絵が売れているところを見た事がなかった。
瞬間、俺の身体の芯を何かが駆け抜け、心臓に突き当たった。
ま…まさか…。
俺の奴との記憶の点が紡がれ出し、今ひとつの線となって奴の死に結びついた。
俺の絵だから売れなかった…
俺がいたから皆が寄り付かなかった…
俺が奴の食事の邪魔をした…
俺が来たから奴は二人分の食事を…
俺さえいなければ奴は死なずに済んだんだ…
俺が…俺が奴を殺したんだ…
自己嫌悪は涙となって溢れ出した。
俺は奴の身体に寄り添ってみたが、いつも布団に招き入れる大きな腕は俺の身体を包まなかった。
謝りたい。届かなくてもいいから謝りたい。
声を挙げて奴を呼んだ。名前なんて知らなかったが声の限り奴を呼んだ。
何度も触れて、何度も舐めて、何度も引っ掻いて、何度も噛んだ。
でも奴に温もりは戻らなかった。大好きな微笑みも、ついぞ俺に向けられることはなかった。 |