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マッチョorバトルあり恋愛系

どっせいどっせい!から始まる恋




 とある大国の王城、その最上階に程近いバルコニーで、一人の少年が物憂げなため息を吐いていた。
 腰まで届く艶めかしいストロベリーブロンド、輝く海のような麗しきターコイズブルーの瞳、肌は雪さえ恥らうほど白く、生来の病弱さに由来するほっそりと頼りなげな肢体はそよ風にも遊ばれる。
 天使もかくやという絶世の美貌を携えし彼の正体は、何を隠そう、この国の若き第三王子である。
 成人とみなされる十四の年の頃をようやく過ぎたばかりのビスクドーレ王子は、あまりにも脆い身体事情に加えて、過去、実際に数多の男を意図せず惑わせてきた傾国の容姿を隠すようにして、なかば幽閉じみた日々を送っていた。

 しかし、彼の憂いの元凶は、そのような今更すぎる現実に対するものではない。
 先の日、ビスクドーレはおよそ身分違いの子爵令嬢に叶わぬ恋をしてしまったのだ。


 それは、仮にも王の血を引く者として欠席の許されぬ成人の儀を迎えた日のこと。
 民衆の歓声にめまいを起こしながらも、儀式自体は無事に務め終えたのだが、その後の祝賀会において貴族たちの挨拶を受け続ける内に、彼の少ない体力がついに限界に達してしまう。
 父王より許可を得た上で会を中座し、護衛兵数人を引き連れ自室へ戻ることにしたビスクドーレ。
 その道中、中庭に面した回廊にさしかかったところで、突如として植え込みの影から頭部を覆面で隠した、いかにも怪しい人間たちが姿を現した。

 素早く王子を背に庇い、不審な集団へ相対する護衛兵。
 しかし、彼らは味方に紛れ込んでいた一人の裏切り者に背後から強襲され、残らず昏倒してしまう。
 ここまで一分と経過していない辺り、なかなか鮮やかな犯行である。

 裏切り兵は倒れた元仲間たちには目もくれず、興奮した様子で舌なめずりしながら、脅え震える王子へと手を伸ばした。
 覆面たちは、回廊に散り辺りを見張る者、獲物を逃がさぬよう囲い込む者、脱出路を確保する者など、それぞれの役割を明確に統率のとれた動きを見せている。
 彼らはビスクドーレの美に惑わされし男たち、その中でも強引に我が物とせんとする高貴な犯罪者の手の者だった。
 このまま拐かされようものなら、様々な恥辱を受けたのち、ほどなく死を迎えた暁には永遠の美を体現した剥製として密かに愛でられることになるだろう。
 ちなみに、裏切り兵に関しては、王子を手に入れた貴族のおこぼれを狙っていた。
 日々護衛として接する中で、成長と共にいや増す彼の色香にじわじわと狂ってしまったのだ。

 まさに絶体絶命。
 あまりの恐怖から声を上げることすらままならぬビスクドーレは、残酷な現実から逃避するように、ただ固く固く目を瞑った。
 その時である。

「ッどっせぇーーーーーい!!」
『グワーーーッ!?』

 今にも王子の腕を掴まんとしていた裏切り兵一名と、回廊を見張っていた覆面のうち二名が、猛スピードで突進してきた真紅の巨大な物体と衝突し、轢き飛ばされた。
 ボーリングのピンもさながらに、勢いよく錐揉みしながら宙を舞った彼らは、一人は壁に、一人は柱に、一人は中庭の花壇に突き刺さり気絶する。
 真紅の巨大な物体は、突然のことに呆ける王子のすぐ傍らで、ゴゴンと石床を破壊しかねない力強さで足を止めた。
 ザワめく侵入者たち。
 すっぽりとビスクドーレを隠してしまった巨大な肉壁は、彼らを鋭く睨みつけながら、どこから聴こえるのかと辺りを見回したくなるほど似合わない可憐な色の人語を響かせる。

「まったく、めでたき日になんとも無粋な輩が紛れていたものですこと。
 ……御不浄帰りに迷うなど、(わたくし)らしからぬ失態を演じてしまったのも、いわゆる天の采配というものですわね」

 乱入肉壁の正体、それは目に痛いド派手な真紅のドレスを纏った女……マルタ=バーサック子爵令嬢だった。
 ちなみに、身長182センチ、体重145キロという縦にも横にも大きな彼女は、現在婚約者募集中の花の十六歳である。
 若き年齢に見合わぬ貫禄を携えた彼女は、淑女らしからぬどっしりとした仁王立ちで覆面たちに対峙していた。

 予定外の人物の介入があったというのに、未だ招かれざる者たちがその場を立ち去る気配はない。
 たった一人、それもブクブクと太りきった女が増えたところで障害にもならぬとタカを括っているのだ。
 先ほどのような不意打ちでさえなければ、イノシシのように正面から突進するだけの体当たりなど恐れるものではない、というのが襲撃者たちの共通認識だった。
 あれだけの動きを見せながら、彼女が微塵も息を乱していないという恐るべき事実には、誰一人気付かぬまま。

 張り詰める空気を破り、ビスクドーレを逃さぬよう取り囲んでいた者のうち、三名が同時に駆ける。
 一人が女の注意を引きつけ、その隙にもう一人が彼女を攻撃、最後の一人が王子を確保する手筈だ。
 鋭い走りで、彼らは瞬く間にマルタへ肉薄する。

「淑女に無断で触れようなどと、少々不埒がすぎましてよ」

 けれど、あくまで平静を崩さぬ彼女は、目前に迫る襲撃者らを睥睨(へいげい)し、大きく鼻を鳴らした。
 そして……。

「どッッッせい!!」
『アバーーーッ!?』

 目にも止まらぬ早業で繰り出したる怒涛の張り手が襲撃者たちを天高く打ち上げる。
 彼女の攻撃の瞬間を視認できた者はいなかった。
 およそ理解の及ばぬ衝撃の出来事を前に、唖然と空に散る彼らを追って視線を上げた覆面数名が、次の瞬間、声もなく地に伏していく。
 もちろん、隙ありと見た令嬢の無情極まる殴る蹴るなどの暴行によるものである。
 彼女が王子の元を離れたことで、即座に目的を達さんと向かう者もあったが、マルタは中庭に生える背の高い木を一本殴り折って武器とし、これを素早く振り回して彼らを一掃した。

「どっ! せい!」
『アイエエエエエッ!?』

 そう、マルタ=バーサック子爵令嬢は豪腕かつ機敏な百貫デブだったのだ。

「どっせいどっせいどっせいどっせいどっせぇぇえええええい!!」
「あべしッ!?」
「ひでぶーッ!?」
「たわばーーッ!?」
「うわらばーーーッ!?」
「あわびゅーーーーッ!?」

 それから、彼女が十数名の侵入者をすべて倒し尽くすまで、ほんの五分とかからなかったというのだから、どこまでも恐るべき横綱、いや、淑女である。
 中庭の一角に無造作に積み上げた覆面たちを背に、口元に手をかざして高笑いするマルタ。

「おぉーっほっほっほ!
 バーサック家の護身術は世界一ィィィイイイイイ!!」

 およそ護身にとどまる戦闘力ではなかったが、そこでツッコミを入れられるような正気の者はすでに一人もいなかった。
 なかなか激しい動きを繰り返していたにもかかわらず、彼女のドレスや装飾品、髪の毛一本に到るまで、一切の乱れは見られない。
 もはや、令嬢どころか人間という枠にすら収まるか怪しい肉塊である。

 と、そんな彼女の元へ、おずおずと近寄る小柄な影がひとつ。

「も、もし……」

 肩を縮めて潤む瞳で見上げてくるのは、深窓の第三王子だ。

「まぁ、ビスクドーレ殿下。
 ご無事でようございました。お怪我はございませんか」

 マルタは素早くカテーシーを披露してから令嬢らしい微笑みを浮かべた。
 その対比はさながらオークキングと儚げ美少女といった風情だ。

「えっ……あ、は、はい。あ、貴女のおかげで……」

 初めて目にした巨肉生物を前に緊張しているのか、ビスクドーレの声は拙く震えている。
 小動物さながらの庇護欲をそそる姿に、雌オーク、いや、マルタも母性本能を刺激されてか、自然と笑みが深まった。

「それは重畳。けれど、気が高ぶって痛みを感じていない可能性も考えられますわ。
 差し出がましいようですが、早急に医師にかかることをお奨めいたします」
「あっ、え、いえ、元より待機させております、ので、その、一日、自室の傍ら、に。
 ですので、ご、ご心配には、及びません。はい」

 虚弱体質の軟禁王子が太陽の下で民衆の前に晒されようというのだから、当然といえば当然の処置だった。
 むしろ、ここまで倒れず立っている事実が奇跡といっても過言ではない。
 それほどに、ビスクドーレはか弱かった。

「左様ですか。
 殿下は本日とても奮励していらっしゃいましたものね」
「そ、そのような……私は……」

 マルタの相槌を受け、王子は眉を八の字にして俯いてしまう。

「殿下?」
「この身は、私は、本当に脆弱で……王族の一員でありながら、満足に義務を果たすこともできず、挙句、このような問題ばかり、起こし……一体、なぜ、私は……何のために……」

 独り言のように呟きながら、ビスクドーレは胸の前で祈る形に両手を握り震わせる。
 己さえ存在しなければ余人が狂うこともなく、無益に傷付く兵もいなかったはずだと、彼は無才に不相応な自身の出生を悔やんだ。

 教育を施せば半ばで必ず発作を起こす王子を、教師役たちは冷え切った目で見下ろしていた。
 あくまで予備の王位継承者でしかない彼を政治の駒としようにも、いつ死するとも分からぬ、血を継がせることすら困難と断じられた者などを送り出せば、どれほどの亀裂が入るものか想像に難くない。
 高価な薬を湯水のように消費するばかりの、唯一の見目さえ災厄を引き込む要因となる人形王子を、まともな人間が欲するわけもなかった。
 早々に国の足手まといが没することを内心で望む者すら、貴族の中には存在する。
 彼の境遇に対し同情的な人間も多いが、なお悪意の声は大きく、完全に封じることは不可能だった。

 そういった背景で、ビスクドーレには貧弱な己というものに対し、根深いコンプレックスがあったのだ。
 だが……。

「んまぁー、いやですわ……罪の所在は悪事を働く者にあるのです。
 殿下が気に病む道理などございませんわ。
 それに、義務というのであれば、本日立派に儀を果たしていらっしゃったではないですか。
 今日この日を迎えるために、殿下は健康であることが当たり前の者よりも、ずっと多くの努力を必要とされたはずです。
 日々、ご病気と闘っておられる貴方様は、とても強い御方ですわ。
 どうぞ、その努力を、ご自身を、誇ってさしあげてくださいませ」
「………………強い……私が?」
「えぇ、もちろん。
 生まれ持った恵みに気付くこともなく漠然と時を過ごすばかりの者と、(つね)懸命でいらっしゃる殿下とでは、比ぶべくもないでしょう。
 不利な御身体で他を恨むでもなく、むしろ慈悲深くお育ちのビスクドーレ殿下であればこそ、陛下やのちの王太子殿下の治世において良き助けとなりうるのですわ。
 我ら臣下が跪くに相応しい、敬うに値する立派な御方でございます」

 マルタがあまりにあっけらかんと虚弱王子を肯定するセリフを放つもので、ビスクドーレは咄嗟に理解が及ばず、息さえ止めて固まってしまった。
 あからさまな世辞であれば流しようもあるが、元から持ち合わせていた考えをそのままを漏らしただけといった風情の彼女の言葉を疑う余地などありはしない。
 仕方がないと、身体が弱いのだからと、そんな慰めであれば何千何万と受けてきた王子だ。
 だからこそ、彼を欠陥品として、観賞用の人形としてではなく、一人の王族として認めるようなマルタのその発言は、十四歳の少年の心に強く深く響いていた。
 震える唇で息を吐き出し、じわじわと目尻を赤くするビスクドーレ。

 様子の変わった王子に、マルタはハッと何かに気付いたように真っ赤な(べに)で彩られた食物搬入口にごんぶとの指肉を当てた。

「あらっ、まぁっ。
 (わたくし)ったら、身分も弁えず無粋な差し出口をきいておりましたわ。
 ごめんあそばせ」

 子爵令嬢ごときが王族に対するには、あまりに過ぎた態度であったと謝意を示せば、そんな彼女へ、ビスクドーレは即座に首を横に振ってみせる。

「いいえ、いいえ。
 むしろ、そ、そのようにおっしゃっていただいたのは、初めてで……ですから、なにやら、こう、面映く……。
 貴女が無礼を働いたなどと、そのような、あの、むしろ、私としては、もう少し……い、いえ」

 チラチラと潤む瞳で無意識に上目遣いを駆使している彼は、世界中の美姫を並べてなお裸足で逃げ出すであろう驚きの吸引力を発していた。
 もし、目の前に立っていたのが男性であれば、王子の菊……いや、秘花はとうの昔に散らされていたことだろう。
 まさに幽閉も致し方なしの、とんだ傾国美少年である。
 ただし、神経すら肉に埋もれきっているらしいマルタには、愛らしい御方だと感じた程度で、そう大きな効果はなかったのだが……。

「もう少し……なんでございましょう?」
「ひぇっ。わっ、い、いいえ、それは、お忘れいただきたくっ。
 王子である私がみだりに下位の者の前で望みを口にすれば、それは命令となってしまう。
 身分を笠に着て、貴女を困らせたいわけではないのですっ」
「……まぁ。(わたくし)にご配慮くださった故の沈黙ですのね。
 ありがとう存じます。殿下は本当にお優しくあらせられる」
「いえ、そんな。わ、私は、ただ……」
『ビスクドーレ殿下! ご無事ですか!』

 か細い彼の言葉は、ようやく異変を感知し駆けつけた警備兵たちの声によりかき消された。
 当然、すぐに王子は彼らの守護の元、自室へと戻され、一見して不審な立場のマルタは事情聴取で別室に連れられていく。


 特殊な事情を持つ二人の数奇で珍奇な邂逅は、こうして至極あっさりと幕を閉じたのである。



~~~~~~~~~~



 それから数日。
 バルコニーの柱に片手を添え独白する美しき第三王子。

「私を守るために立ち回ってくださった、あの時のマルタ様の凛々しさときたら……」

 頬を紅潮させ、とろりと表情を緩ませて熱い息を吐くビスクドーレは、発禁ものの淫靡な艶かしさを携えていた。

「はぁ……お会いしたい……マルタ様……。
 心もお身体も堂々としたあの御方のことを想うと、私、私は……あぁ……」

 呼吸を乱し、華奢な肉体を自らの細腕で抱きしめながら、過日の記憶に悶える美少年。
 第三王子と子爵令嬢という身分格差と誰しもを魅了するであろうマルタ自身の価値を考えれば、胸を焦がす感情も諦めるよりほかはないのだと、ビスクドーレは誰に言われるでもなく理解していた。
 前半はともかく後半部分はまったく王子の主観によるもので実際の男性評とはかなり異なるのだが、幽閉生活を送る彼に現状を把握する術もない。

 理性で踏みとどまろうとしながら、それでも、ビスクドーレが彼女のことを思い出さぬ日はなかった。



~~~~~~~~~~



 更に後日、第三王子を襲撃者から身を挺して守った事実を認められたマルタは、その功績を讃え、王より直に褒賞を賜る運びとなる。
 食欲はともかく物欲の薄い彼女は、見合いの連敗により自力での婚姻を諦めつつあったことから、そこで夫となる者の紹介を見返りとして求めた。

「っその縁、私と結ぶのでは適いませんか!?」

 それがまさか、王が抑揚に頷き意を示そうとした瞬間、その場に同席していたビスクドーレが唐突に前方に躍り出、跪く肉塊に必死な様子で求婚を始めようなどとは、天におわす尊き神々さえ予想だにしない出来事であったに違いない。
 なぜなら、当の彼本人でさえ、反射的に声を上げてしまった己の所業に内心ひどく狼狽えていたのだから。

 ざわめく謁見の間の中で、困惑した視線を向けることによって王に発言の許しを得たマルタは、王子よりも幾分か落ち着き払った声でこう告げた。

「望まれての婚姻が可能であるならば、それに勝るものはございません」

 キングオーク、いや、マルタは、突然のことに驚きはしたが、愛らしく純真なビスクドーレ王子が相手であれば、どのような形であれ深く情を育み良き夫婦となれるだろうと考え、周囲に前向きな姿勢を見せつけたのである。
 が、いくら幽閉に近い扱いを受けていようと、事は王位継承権を持つ男児の婚姻問題だ。
 当然ながら、即座に出せる結論などあるはずもなく、後日、上流貴族の集う最高朝議に先送りする形で、その場は治められた。


 さて、常日頃、病弱な王子を金食い虫の役立たずと蔑む者も、いざ誰かの手に渡るとなれば途端に惜しく思えるようで、子爵令嬢というけして高くはないマルタの身分もあって、議題と上がった当初、ビスクドーレの恋の成就は困難を極めていた。
 が、やがて王子求婚の噂が巡り、身も心も大きなマルタを慕う多くの淑女たちの暗躍によって、彼女はさる大侯爵家の養女としての位を得、妻や娘に頭の上がらない夫たちの奮闘により、半年という時を経て、見事、二人の婚約は果たされたのである。

「古今、良い行いは自らに返るとは申しますが……あのお話は(まこと)でしたのねぇ」
「あぁ、マルタ様……やはり貴女は素晴らしい……」
「まぁ。殿下の人徳なくば、おそらく、ここまでのご助力は得られませんでしたわ」

 笑みを交し合う、ビア樽と聖少女。



 その後、正式に夫婦と相成った彼らは、妻が夫を腕に抱えて歩くなど、男女が完全に逆転した睦まじさを周囲が呆れるほどに見せ付けていた。
 やがて、王子の病弱さから難しいとされていた子に、可愛らしくも豪腕な娘にも恵まれ、彼ら家族は夫であり父であるビスクドーレが二十七年という短い生涯を閉じるまで、どこまでも深くあたたかな愛情に包まれた幸福の日々を送っていたのだという。





 おわり。
その後のおまけ~夫没後の母娘の会話~

「早いものねぇ、貴女がもう成人の儀を迎える齢だなんて……。
 出会った頃のビスクドーレ様を思い出しますわ」
「……お母様、ずっとお聞きしたかったことがあります」
「何かしら」
「その……なぜお母様はお父様との婚姻を承諾されたのですか?」
「ええ?」
「お父様はずっとご病気で、長く生きられないことは知っていらしたのでしょう?」
「……そうですね」
「皆が羨む王子妃の立場だって、お母様は面倒がっておられる……。
 本来は子爵家の娘であったお母様が、なぜ床に臥せてばかりのお父様に……無用な苦労を負うことが分かりきっていた男性に嫁ぐことを決意されたのですか。
 どこにお母様の利があったというのです」
「……貴女の目には、(わたくし)が義務であの方に添うているように見えていた?」
「いいえ。愛し合う夫婦に見えました」
「では、そういうことですよ。
 世界中どんな国を探したって、ビスクドーレ様ほど(わたくし)を愛してくださる方はいらっしゃいませんでした。
 当時、夫からの求婚を受けて、初めて男性から真実愛を乞われて、(わたくし)は本当に嬉しかったのです。
 僅か十と数年ばかりの夫婦生活ではありましたが、利というならば、(わたくし)は一生分の幸福を彼から与えられました。
 貴女という愛し子にも恵まれて、これ以上望むものなどありはしませんよ」
「……はい。あの、お母様、変なことをお尋ねして、申し訳ありませんでした」
「良いのですよ。貴女にも、いずれ素敵な旦那様が現れることを願います」
「きっと、お父様みたいに愛情深い人を探してみせますわ」
「まぁ、ほほほ。それは楽しみだこと」



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