花屑 プロローグ1 跳ぶ形PDFで表示縦書き表示RDF


本編まで少しお話がありますが、読み飛ばしても大丈夫です。

花屑 プロローグ1 跳ぶ形
作:霧香 陸徒


某施設内運動場

「位置について・・・よーい・・・」

 パンっ!

 火薬の破裂音と共に、一斉に飛び出す私と歓声。

 何を考えるでもなく、ただ前に進む為に足を前に出す。右、左、右、左、右、左と交互に。

 私の両隣に必死の形相で走っている者達が居た。 

 私は一瞬左右を確認すると、踏み切る足に全力を込める。

 タンっ!

 そんな音が聞こえたかもしれない。

 次の瞬間、横目で見える景色に誰も居なくなった。


 振り返ると、驚いたような顔をしている走者が二人。 完全に出し抜いた。


 私は誰よりも早く、その胸にゴールテープを絡ませた。



「ちょっと〜手加減してたでしょ〜?」

 肩を上下させながら先程隣に走っていた者で名前は忘れた。 

 ・・・ゼッケンに「久々知 智亜子」と書いてあるのが見えた。

「・・・薄情者〜! 今ゼッケン見たでしょ!? クラスメイトの名前ぐらい覚えてなさいよ!」

 ククチ チアコ。 確かクラスで「ちゃーこ」と呼ばれているのが耳に残っている気がした。

「・・・・・・・・・・・・ごめん」

「だあああーーーーーーーー!! 何よその間は!? アンタってマイペース過ぎるのよ! それに言葉が少なすぎ! 今のはどっちの「ごめん」なのよ!? 手加減した方!? 名前の方!?」

 ちゃーこは私の鼻先に人差し指を押し付けながら激昂している。 鼻先から彼女の指の硬さが伝わる。 彼女の手は人を殴るのに適した硬さがある。

 ・・・私達のクラスは「戦争屋」の候補生が集まるクラスだった。

 私は射撃手で、彼女は格闘術のエキスパートだ。

「・・・・・・・・・・・・名前を忘れてごめん」

「よりにもよってそっちかぁオイっ!? おかーさんは芽衣をそんな薄情な子に育てた記憶はないわよ!」

「め・・・い?」

「ちょ・・・自分の名前さえ忘れたの? 何? 運動しすぎて脳に酸素いかなくなっちゃった? もしかしたらとぉぉぉってもヤバイ状況だったりするの? 実は私の後ろに緑色の筋肉質の男が「大きくなれよ〜」とか言いながら歯を光らせてたりするのが見える!? イッちゃってる!?」

 接近戦が主な彼女はその性格も攻撃的というかアグレッシブな勢いがあった。 それとは対照的に私は冷静な射撃手として彼女の目を見ながら首をかしげる。

「・・・・・・気は確か? 智亜子?」

「不思議そうに小首を傾げるなぁ〜〜! あぁ可愛いわねっ!? じゃなくて! アンタを心配してるのに逆に聞き返すなーーー!」

「・・・問題ない。 生命活動は維持してる。 それと、手加減じゃない。 私はそんなに器用じゃない」

「射撃手が言っていい台詞じゃないでしょそれ・・・」

 長距離の攻撃を得意とする私だけど、それは正確な射撃が出来るという意味では決して無い。 ただ、直接的に相手に傷を負わせるのが嫌なだけだ。 他の者はどうか知らないが、私は好きで此処に居るわけでは無いからだ。

「生き方が不器用なのはホントなの。 メーちゃんもちゃーこも軍隊向きじゃないの」

 そこに遅れてやって来たもう一人のクラスメイトの・・・「樟葉 菜乃クズハ ナノ」(ゼッケンを見た)。 彼女は実戦が得意じゃないらしいが、頭脳明晰で、私達のチームリーダーだった。

「なんでよ? 芽衣は分かるけど私まで?」

 ちゃーこはクズハナノに食って掛かった。 どうやら気に入らなかったらしい。 ちなみにナノに愛称は特に無いが、隊の中で「スクラップドフラワー」などや「魔王」などとか呼ばれているらしい。  何が魔王なのかは知りたいとは思わなかったが。

「・・・報告書には書いてなかったけどぉ。 貴女この前の作戦の時に敵を逃がしたでしょう?」

 魔王の口調が急にとても冷たくなった。 氷の微笑とはこういうものなのだろうか? そんな顔を向けられてちゃーこは顔を青くして後ずさった。

「え・・・と・・・あ、あれはな? ええと・・・武士の情けっていうか・・あ〜・・・ええとナノさん怒ってます?」

「いいえ〜? 私はただの1個隊隊長ですからそんな些細な事は咎めたりしませんよ〜?」

 嘘だ。 魔王の顔には「叩き殺す」と書いてある。 事情は詳しく知らないがちゃーこは相手が自分と同じが、それより優れているような相手が居ると「ライバル」として認識してしまうらしい。 この前の作戦の時には「見所のある相手」だったらしく、見逃したらしい。

 軍人としては失格だが、武人としては熱い女だった。

 私にもその気持ちは分からなくも無いけど、作戦外でやってほしい。

「あぅ・・・あぅ・・・あぅ・・・」

 ・・・・・・

 見てなかったけど、考え事をしている間にちゃーこがズタボロになっていた。 魔王は手をパンパンと叩いて涼しい顔をしている。   私刑は終わったようだ。

 魔王はそうして私にも何か言いたそうな顔をするが、すぐに溜息をついて何も言わなかった。

「・・・・・・まお・・・隊長。 何か?」

「・・・今なんていいかけましたの? まぁ、それはいいとして、メーちゃんはそのままでいいなの」

 柔らかい微笑を湛えて手を左右に振る魔・・・ナノ隊長。 私にも軍人としてでは無く、人間的に致命的な欠点があるのだけど、それを言ってくれない。 自覚はしているが、どうにもならないと達観しているのかもしれない。

「私達みたいな戦争屋は確かに相手を殲滅する事だけを考えるべきなの。 だけど、貴女のような考えを無くしてしまうのはとても悲しい事だと思うしね」

「・・・・・・私は正しいのですか?」

「うーん・・・。 ちゃーこと同じように相手を逃がすのは頂けないけど、相手を無力化してって所は良いと思うの。 だって別に人殺しをするだけが作戦じゃないの。 肩や足を打ち抜かれてもその人はその後生活は出来るのだし・・・。 貴女は相手の羽までもぐ様なことだけはしない。 そうすればまた飛ぶ事も出来るからでしょう?」

「・・・・・・買いかぶりすぎ。 私はそんな聖人では無いつもり。 ただ、臆病なだけ・・・」

「・・・どうであれ、結果はそうなの。 だから、立場的には褒めてあげられないけど、個人的には好きなの」

「隊長・・・・・・」

 私は戦争孤児で、行く当ても無かったから・・・。 でも、生きる為にこの隊に居るだけで・・・、そして、生きる為に相手を傷つけて生きながらえているのだ。

 ナノ隊長の言うような事は無いと思う。

 だけど・・・。 跳ぶ事が出来なくなった鳥の惨めさは知っているつもりだから・・・。 今は隊長の言葉にうなずいておこう。

「了解しました。 隊長」

「よろしい♪」

 嬉しそうにナノ隊長は額に手を当てて敬礼した。 私もそれに習って敬礼する。

「・・・・・・・・・なんか私と扱い違くないぃ?」

 ヨロヨロと立ち上がり、ちゃーこは不満そうに頬を膨らませていた。

 彼女は普段から鍛錬しているので打たれ強いハズだが、それでも足に来ているのかガクガクと震えていた。 それにしても、逆にそれだけの者を一瞬で葬り去る隊・・・魔王の恐ろしさを再確認してしまう。

「あら?? もう起きたの? ちゃーこは相変わらずしぶといなの・・・・・・覚悟」

「うわ・・・ちょ・・・・!? アンタさっきなんか綺麗な事言ってなかったぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 魔王の姿が一瞬ブレたかと思うとカメラのフラッシュをたかれたように辺りが一瞬光った。

 ・・・・・・

 1.05秒。

 ちゃーこが立っていた時間である。


 その同じ座標に先程より酷いボロ雑巾のようなものが「落ちていた」が、それが言及してはならないらしい。


「次また作戦があったら、今度こそ相手を殺してしまうかもしれない」

 ズタボロの物体から目をそらして私は無意識に呟いていた。 

 それを聞きとがめてナノ隊長は言った。

「そうね。 でも、これだけは覚えていてなの。 貴女が飛べなくなるような事にはならないでね?」

 私はその言葉にコクンと頷いた。

 私も相手を傷つけたくないと思う気持ち以上に、誰も傷つかせたくない。ちゃーこも隊長も、それ以外の私を此処に居させてくれる人達も。

 それを守る為にはいつか相手を殺してしまうかもしれない。

 だけど、そうしてしまって私は飛べるんだろうか?

 どんな形で居れるのか・・・。

 
 そんな気持ちを抱えたまま私は銃口を相手に向け続ける。

 
 パン!

 何処かで「競技用ピストル」が鳴った。

 その音に驚いて近くの木に止まっていた小鳥が数羽飛び立った。


「鳥よ・・・飛べ・・・私の射程に届かない空まで・・・」


 戦乱の世に安息の場所は無いかもしれないが、空だけはいつまでも変わらない姿でそこにあった。

 「飛ぶ事が出来るなら」いつまでも変わらないと、深呼吸して一息つく。


 そんな「跳ぶ形」を思い浮かべながら、私は宿舎へと駆けて行った。














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