御庭番、青年記縦書き表示RDF


※この作品は、前作『御庭番、少年記』の続編です。誠に勝手ながら、続きを書いてしまいました。尚、前作を見なければ本作を読めない、というわけではありません。多少読みにくいでしょうが、十分お楽しみ頂けます。
御庭番、青年記
作:麗蘭


「頭!!大変です!!!」
「ふぁ〜…。いったい何事だ」
齢二三を数えた御庭番衆頭・萱楽は、いつものように、江戸城内仕の事場で筆記仕事をしていた。
とは言っても、ほとんど寝ていただけなのだが…
その安眠を邪魔され、萱楽は乱れた長髪と着物のまま、不機嫌そうに欠伸を一つした。まったく、これで頭が務まるとは思えないが…
しかし、彼の部下はそれどころではないらしく、慌ただしくその言葉を告げた。
「菊様が……、拐われました……」
「あ、そーか、そー…………は…?」
萱楽の動作が止まる。
「だからっ……、奥様が拐われました!!!」
「……はあぁぁぁあ――!!!!????」
「ぃ゛っ…!!ででででで!!!」
萱楽は部下の首を思いっきり絞める。

――こうして、事は始まった――


萱楽は御庭番衆の頭 に就任後、江戸の団子屋の娘・お菊と結婚した。
何しろ御庭番の頭だ。なかなかの収入が入る。 そのため住居は江戸で高額地帯に出来た、小さな家になっていた。
「ちょと待て!!な、ん、で、菊が拐われた!!!早く答えろ」
「く…、首…」
「首?……あ、すまん」
萱楽はようやく彼の首から手を離す。
すると、彼は幾度も酸素を出入りさせ、ほとんど肩で息をさせる。かなりの赤面だ。
「そんなん知りませんよ……。今、御庭番衆を片っ端からかり出し、総出で捜索をしています」
彼は一旦息を整える。
「拐った者の名はわかりかねますが、先程この城に、矢文が届きまして」
「矢文?」
萱楽が眉を寄せる。
「はい。これです」
彼は懐から一枚の紙を取りだし、萱楽に授けた。
萱楽はそれを受け取ると、静かに熟読した。
そして、顔を上げ、静かに呟く。
「光國公か――…!!」
「頭!?」
萱楽は、手紙を投げ捨て、駆けて行った。

“三年前、貴殿は我が最大の願望を壊した事、覚えているだろうか。貴殿の願望、御庭番衆頭を、辞退しろ。さもなくば、女の命は、わかっているな……”



「此処か……」
あの後、萱楽は江戸城にある密書を片っ端から調べあげ、光國の居場所を探り出した。 あのような事を書く者は、獄中の芝田を除き、光國公より他にはいない。
「光國公…!!いるんだろ……?」
暫く、中からは何も聞こえてこなかった。
「……入れ」
低い、野太い声だった。
着物ごしに懐刀を確認すると、眼をすっと細め、小屋の扉を慎重に開いた。
その表情は、仕事をさぼるいつもの表情ではなく、何かを秘めた、本物の頭の表情だった。
扉を開けると、そこには気品だった三年前とうってかわり、痩せこけ皺だらけの光國公がいた。
そしてその隣には――…
「菊!!!」
「止まれ!!!」
前に出ようとした萱楽を、光國公は大声で静止させた。 菊はまだ息はありそだったが、ぐったりと息苦しそうに、床に横たわっていた。
「三年前、わたしは将軍という最高地位を目前に、江戸から追放された。ならば!!」
光國公が盛大に音を立たせてその場に立つ。
「お前も、頭の座を辞退しろ。そうせれば女は必ず返そう」
光國公は勝ち誇ったように満足気に笑みを見せる。
「辞めるな?かし…」
しかし、光國公の言葉が終える前に、萱楽は光國公の後ろに周りこんだ。まるで迅速のように……
「な……?」
萱楽は光國公が後ろを向く前に、素早く光國公の腕を掴み、背中に蹴りを入れる。
「お前がいくら怨もうと、俺に挑もうなど二生早い」
無造作に結われた長髪が、萱楽の背で跳ねる。
萱楽の蹴りは今回も大当たりし、光國公はすぐに気絶した。
その後はというと――…


「頭!!仕事!!!」
「萱楽!買い出し!!」
御庭番と菊が、萱楽にぐいぐい迫る。
「あ、いや……」
流石の萱楽もたじたじだ。この間の彼とは似ても似つかない。
「あ〜〜、また今度!!!」
萱楽は、お決まりの笑みを見せ、俊足ともいえる足取りで、その場から逃げ去った。
「「コラ!!!萱楽!!!」」
「はいぃぃ〜〜」









――半蔵様、江戸は、御庭番衆は、今日も平和です――


ここまで読んで頂き、誠に有り難う御座います。感想などがありましたら、是非とも書き込んで下さい。本日は御覧頂き、誠に有り難う御座いました。













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