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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第七の部 望まれぬ再会

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第七十話 フラグは既に建っているーーあと事情説明

予定では次のお話あたりで第六部は区切りがつきます
 目を覚ましたら、そこは戦場の硬い土の上ではなく、柔らかいベッドの上だった。

「あら、気が付いたの?」

 しばらく『ぼぅ』っとしていると、ベッドのある部屋の前を通りかかったナース姿(異世界にもあった!?)のお姉さんが入ってきた。

「…………ここは?」
「ドラクニルの帝立病院よ。ちょっと待っててね。今先生を呼んでくるから」

 白衣の天使は小走りに部屋を出ていった。先生は呼ばなくて良いからもっと愛の看病をお願いします、と呆けた思考で考えたのはお約束か。あ、でもここでエロい女医さんがきてくれたら大歓迎だな。しかし、ナースなお姉さんが連れてきたのは、普通のオッサンだ。色気のかけらも無い。気落ちしつつもオレは彼から一通りの事情説明を受けた。

 鉱山での戦闘が終結した後、レアルと幾つかの会話を交わした俺だったがそれが限界。気を緩めた瞬間、精霊術の酷使による反動で俺の意識は消失した。俺を担いでいたクロエは大いに慌てたが、逆にレアルは俺が気絶した要因を直ぐに察した。彼女の前では何度も気絶しているしな。確実に一日以上は目を覚まさないのを確信していたレアルは俺一人を早々にドラクニルへ戻し、帝国の中でもっとも水準の高い病院に運び込ませたのだ。

「特に目立った外傷もないし、治療の必要も無いね。ただ念のために、今日だけは安静にして貰うよ」

 簡単な診察と問診を終えた医者は退室していった。説明を聞いた俺は起こしていた上体を、ベッドの上にぼふりと倒した。

 病院に入院するなどいつぶりだろうか。

 確か、近所のヤクザな事務所を相手にしたときだろう。

 原因は有月を発端にする、ある暴走族との大抗争である。最初は名指しで因縁を付けられていたが、時が経つにつれてヒートアップ。ついには族トップの背後に付いていたヤクザが出張ってきたのだ。俺だけではなく無関係な人達に被害が出かけてブチ切れた俺たちは、そのヤクザのさらには『上』にある組に話を付け、後顧の憂いを絶ってから問題のヤクザの事務所を『爆破』したのだ。怪我人は出たが死者が出ない程度の配慮は俺にもあり、どうにか事件は終結したのである。

 無論、事務所を爆破されたヤクザは報復に出ようとしたが、たかが族の抗争から発展した諍いに、未成年に拠点を完全に破壊されて面目丸潰れ。さらに虎の威を狩る狐の『虎』に等しい上位組織とは既に話を付けており、結局ヤクザも暴走族も立場的にも物理的にも潰れることとなった。

 まぁあの後、俺に対して潰れたヤクザが属していた組織の総本山からスカウトがきたのは流石に参った。なかなかに仁義溢れる男らしい人達だったが、堅気をやめるつもりはないので丁重にお断りしたが。

(アレが中学で一番最後に大きかった事件だよなぁ)

 有月を発端とする数々の厄介事の中で、アレほどに大規模で派手な終結の仕方は無い。なお、入院の原因は火傷だ。近所のスーパーで安売りしていた花火を大量に買い込み、それを彩菜監修のもとにイジって『爆弾』を作ったのだ。や、カッコ付けてヤクザの事務所を背後に「俺たちに手を出したら、こうなる」と映画みたいな台詞を吐いたが、火薬の量を間違え事務所を爆破したときにその余波に巻き込まれたのだ。

 二度と手製爆弾など作るか、と心に決めた事件であった。

 そんな若気の至り(現時点でもまだ未成年だが)に思いを馳せていると、覚えのある気配が近づいてきた。

「目が覚めたようだな、カンナ」

 姿を現したレアルに、俺は片手を上げて応えた。姿はあのビキニアーマーモドキではなく、見慣れた軽鎧だった。魅惑の谷間が隠れてしまったのが残念だ。

「よぉ。騎士団とかの仕事とかはいいのか?」

 事後処理とか、報告書とかあるだろう。たかが三日で自由に動き回れないと思うのだが。

「君が起きたら直ぐに私のところに連絡が来るように話を付けていたんだ。細かい書類作業は副団長に任せてきた。処理が滞ることはないだろう」

 押しつけてきた、の間違いでなかろうか。

「改めて礼を言わせてくれ。野営地で警備を担当していた者達から話は聞かせて貰った。君が居合わせなかったら騎士団や冒険者達に相当数の被害が出ていただろう。これらを未然に防げたのは君のおかげだ。ありがとう」
「成り行きだ。報酬はきっちり請求させて貰うぞ」
「事後承諾だが、『柄』の件も含め、ギルドを通して支払わせて貰う。安心してくれ」
「ただ働きは御免だからな」
「十分に心得ているさ」

 ここで物語の主人公なら「当然の事をしたまで」とか言いそうだが、生憎と俺はそれよりも損得勘定が頭に出てくる。貸し借りの精算を念頭に置く辺り、つくづく自分が『勇者』に不向きなのだと自覚できた。

 ただ、俺の欲に満ちた要求にレアルの表情から嫌悪の色は見えない。初めから俺の言葉を予想していたのだろう。そして俺も、そんな彼女の答え方を初めから予想していたように、自然と笑みがこぼれた。

 下手な遠慮のない、この無遠慮なやり取りに、不思議と安らぐ。

 ーーーー今なら、聞いても良いかも知れない。

「なぁレアル。いい加減に教えちゃくれねぇか。おまえさんがこの国でどんな立場にあるのかをな」
「…………ああ、今日はそのつもりで来た。いい加減に、隠すのも心苦しくなって来ていたところだ」

 幻竜騎士団を率いていた人物ーー『竜剣』レグルス。

 最早正体は分かり切ってはいたが、改めて彼女の口から聞かせてほしかった。

「帝国軍特殊遊撃部隊『幻竜騎士団』。その団長が私、レアル・ファルベールだ」
「遊撃部隊?」
「決まった役割のない部隊ーー言い換えれば、軍内部での『何でも屋』だな。今回のように魔獣の討伐に赴いたり、手が足りない部隊の補佐に回ったりとな」
「へぇ…………。またなんであんな妙なコスプレなんぞしてたんだ?」
「こすぷれーーとやらは意味不明だが『妙な』とはあの鎧姿か。立場的に素性が露見すると色々と動きにくくなるのでな。対外的に『男』で通せるように部隊を率いるときには常にあの姿でいるのだよ。団員の殆どや軍の上層部は私の正体は知っているが」

 ディアガル軍は実力主義であり、腕さえあれば男女差別は無い。事実、女性の軍人もそれなりに所属しているらしい。それでも、女性が率いる一部隊は希であり何かと目立つ。性別的に目立つよりは格好の面で目立つ方がまだ動きやすいのだと。

 そこで作られたのが、全身鎧姿の『レグルス』だ。

 防御力もさることながら、あの鎧には声を男性のものに変換し、特徴的な長耳を誤魔化す特殊な魔術式が組み込まれているのだ。おかげで、事情を知らない殆どの者はレグルスを『男性』だと思いこんでいる。

「そーいや、幻竜騎士団のトップは元冒険者だって聞いてたが。…………もしかしてそのときも正体を隠してたのか?」
「まぁ、な。それはまた少し別の事情があるがな。四年前までは冒険者として活動していたのだよ」

 言葉を濁したレアルに俺は追求しなかった。言う通りに、また別に面倒な話なのだろう。

「ふぅん。『竜剣』ってのは?」
「冒険者はAランクに到達すると、『二つ名』を与えられる仕来りがある。君も見た支援術式『ドラゴニック・レイジ』とあの大剣を愛用していることろから付けられた名だよ」

 確かに『ドラゴニック・レイジ』を発動したレアルが背負っていた気配は、魂を揺さぶるような圧倒感があった。まだ出会ったことはないがなるほど、『竜』という存在を彷彿させるには十分すぎるだろう。

 ーーーー久しく見ていないあの竜は癒し系です。

「それとリーディアル様との関係も気になっているだろうから教えておこう。彼女と私は、私が冒険者時代だったころに師弟関係にあった。今でも何かと縁があり、恥ずかしい話だが世話になっている」
「あのババア…………」

 知り合いって範疇を軽く越えているだろうが。あの婆さんのことだ、真実を知ったときの俺の反応を想像して面白がっていたのだろう。

「あの御方を『そんな風』に呼べる人間は、この国でも君だけだろうな。『師匠』に対しては皇帝すら一目置いているのだが」

 …………ちょっと待ってほしい。元Aランク冒険者のお師匠様?

 俺の顔が引きつっているのを見て、レアルは「本当にあの人は」と嘆息し苦笑しながら言った。

「リーディアル様は『千刃』の異名を持つ元Sランク冒険者であり、冒険者ギルド・ドラクニル支部の現ギルドマスターだ」
「はぁッッ!? Sランクッッッッ!?」

 それなりどころか(支部だが)一組織の頂点でしかもSランク。人外レベルであるAランクをさらに上回る超越者達じゃねぇか!? 

 レアルが元Aランクというのは納得だが、婆さんのSランクには俺も驚くしかなかった。

 やっべぇよ。元Sランク冒険者の前でかなり失礼なこと考えてたよ。口にもしてたよ。今更ながらに俺は冷や汗を掻いた。

「はぁ…………。師匠はそんな細かいことは気にされない御方だ。本当に失礼があればそもそも何度も君に会おうとはしない。むしろ気に入られている証拠だろう」
「…………それはそれで嫌だな」
「言わんとするところは何となく分かるが、諦めろ」

 どうやら婆さんの問題児(?)ぶりは師弟時代にも経験があるようだ。レアルの同情に俺は複雑な心境になった。

 元々、レアルが冒険者ギルドに登録したのは、師匠であるリーディアルの元で実力を付けるためだったのだ。目標であるAランクに到達し、ある程度の経験を積んだら冒険者を引退し、軍に入るつもりだったらしい。元Aランク冒険者であり、Sランクのお墨付きもある実力の折り紙付き。彼女は直ぐに軍の内部でも頭角を現し、騎士に任命されて一部隊を率いる地位についたのだ。

 ついでに、副団長である団長と同じく全身鎧姿であったダインの中身は、予想通りに宿屋で会ったベクトであった。貴族主義云々を除けば非常に優秀な人材であり、武官としても文官としても有能だとか。秀才なイケメンは爆発すればいいのに。

「…………さて、身の上話はこのぐらいにしておこうか」

 和やかな雰囲気を霧散させると、レアルの表情が真剣味を帯びた。

 お見舞いに来た、というだけでは無いらしい。予想はしてたが。

「君が鉱山の洞窟内で見た事実を説明してほしい。洞窟内を見聞しようにも岩盤が崩落して進入不可能になってしまったのでな」
「…………や、悪い。それ俺が原因だわ」

 申し訳なく頭を掻くと、レアルは苦言することなく頷いた。

「事情があるのは十分に察している。責めるつもりはないさ。だが、だからといって事態の究明の為に捨て置いていい問題でもない」
「オーケーだ。とりあえず、主観にはなるが説明する」

 俺は洞窟の内部で目撃した出来事。謎の魔術士に六本剣の女剣士。巨大な召喚術式。そしてそのどれもに『異様な気配』が通っていたこと。どうにか召喚術式を破壊し、六本剣の女剣士を撃退するのが限度だったということを伝えた。

「六本剣の女剣士だと…………?」

 心当たりがあるらしいレアルは顎に手を当てた。

「知ってるのか?」
「…………確か元Aランク冒険者に『天剣』の二つ名を持つ六本の剣を操る女性がいた、と聞いたことがある」
「『いた』ってぇのは過去系かい?」
「数年前から行方を眩ましており、冒険者としての活動は現在行っていないらしい。ただーーーー」
「ただ?」

 少し口ごもってから、レアルは難しい顔になる。

「ーーーー相当に荒くれだったらしくてな。Sランクにも届かんとする実力者だったらしいが、それ以上に問題が多かったようだ。彼女に『潰された』将来有望な冒険者は両手では数え切れないほどいたと」
「…………それって物理的に? 精神的に?」
「両方の意味でだ」

 相手にしなくて良かった、と俺は心の底からほっとした。ランクで言えばレアルと同等の実力者でしかも戦闘狂いのケがあったと。それと正面からぶつかって勝てるはずがない。

「事が事だ。ギルドの方に問い合わせて『天剣』の情報を当たってみよう。守秘義務があるだろうが重大犯罪に関わっている可能性がある以上、出し惜しみは無いだろう」
「俺の証言だけでギルドに話が通るか?」
「私がリーディアル様を経由すれば何とかなる」
「頼りになる伝手だこと」

 ギルドと国って確か政治的な繋がりを持たない別組織だよな。癒着問題とかとか大丈夫かね。

 ーーーー目、付けられてないよね?

 いやいやいや。顔見たのあの一瞬だったし。俺は某ヘタレイケメンと違って主人公補正持っていないし。うん、大丈夫。

 大丈夫…………だよな? 超巨大氷砲弾で潰したし。

 純度百パーセントの殺意とそれを制御しうる理性を宿した瞳を思い出しそうになり、俺は頭を振った。

「野営地も含む人為的な魔獣召喚に加えて、行方不明だった『天剣』の関与。しかも『例の気配』が絡んでると来ている、キナ臭さが一気に増したな。頭が痛くなるような問題だよ、まったく」

『例の気配』は俺の主観でのみ感じ取れている。『あの』腹黒姫と渓谷で遭遇した炎使い。『天剣』とやらに怪しげな魔術士。どれもが繋がっているはずなのに、それを証明する手立てが一つもないのだ。

「一国の王女に「あなたは犯罪に関わっていますか?」なんて聞ける訳ないしなぁ」
「不敬罪どころか下手したら国際問題に発展するぞ」
「そのぐらい、俺だって分からぁな」

 現状、打つ手なし。結局、地道な捜査しか手段がなさそうである。


 さらに話を煮詰めようかというところで、部屋の外から床を力強く蹴る音が響いてきた。「院内では走らないでください!」というナースさんのお叱りをものともせず、この部屋の前で音が止まると『ズバンッ』と扉が破られる勢いで開かれた。

 果たして室内に飛び込んできたのは。

「か、カンナ氏ぃぃぃぃぃぃッ」
「おお、クロエ。おはーーーーぐもぉぁッッ!?」

 おはようで正しいのかは不明だが声を掛けようとして。だが半泣き気味に叫び声を上げながら突撃してきたクロエに言葉半ばで抱きしめられて中断させられる。レアルほどではないがそれでも豊満過ぎる胸に呼吸器官を圧迫された。

 あ、なんか既視感あるなこれ。

「拙者、拙者ッ、心の底から心配したでござるよぉぉぉッ! 気がついて良かったでござるぅぅぅぅぅッ」

 心配してくれたのは非常に嬉しいのだが、乳拘束を解除してくれ。俺の後頭部を固定する腕をタシタシ叩くが、感極まっているクロエには聞こえていない。頭を包み込む感触は極上だが、このままでは本当の『極楽浄土』に昇天してしまう。

「…………いい加減にしろクロエ。そのままだとカンナが死ぬぞ」

 見かねたレアルが強引に引き剥がしたところでクロエは我に返り、酸欠で頭がくらくらになる俺に顔を真っ赤にして頭を下げた。

「も、ももも申し訳ないでござる…………」
「次からはもっと手加減してもらえると助かる」

 できれば、胸の感触を楽しめる程度の力加減でお願いします。

    
カンナは火事が起これば、火の元を爆薬で吹き飛ばして鎮火するタイプです。

ブクマが三百人を突破しました。ありがとうございます。
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