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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第六の部 姿を現す異物

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第五十三話 もはや見た目には諦めました

三人称でクロエサイドのお話。
 
 それから四日後、C・Bランクの冒険者を合わせて三十人が集結し、目的地の付近にある駅へと列車で向かっていた。

 普段は家族連れや商人、観光客で賑わう客室は荒々しい雰囲気をまとった冒険者達で埋まっていた。荒々しいとは表現したが、それは見てくれに限った話で、冒険者達は特別に興奮しているわけでも、逆に暗いわけでもない。ただ、レイドという珍しい依頼に小さな緊張を抱いているのが何割か。もう何割かは逆に慣れているのか落ち着いた様子。そして最後の数割は、精神を研ぎ澄ませているかのように静まりかえっていた。

 さて、特例で今回の依頼に参加することになったクロエといえば。

「ふうぅぅ…………見た目さえ我慢すれば非常に落ち着く味でござるな」

 持ち込んだ水筒の中身を注いだカップを極力見ないようにしながら、クロエは故郷で親しんだ味に近いスープを啜っていた。

 なお、クロエの言葉と味から想像できるとおりに、水筒の中身はダンシャクバッタのスープである。依頼を承諾した直後、彼女は自らダンシャクバッタの狩猟依頼をこなしていたのだ。レイドの出発日である今日まで預かってもらい、朝市に食堂を訪れて保温性の高い水筒のなかにダンシャクバッタのスープを詰めてもらったのだ。

 味が気に入っただけではなく、栄養補給も兼ねてである。見た目さえ我慢すればこれ以上のスープはないのである。

「…………改めて見れば、誰も彼もなかなかの使い手達でござるな」

 カップに注がれた分のスープを飲み干してから、クロエは今回のレイドで共に戦うことになる冒険者達を見渡した。

 Bランクの冒険者は言うに及ばず、Cランクの者もギルドが実績を評価した上で許可が出された者に限定されている。つまり、Cランクの中では上位の実力を誇る腕利きばかりなのだ。

「むぅ…………好機に目が眩んだ、とは言いたくないでござるが。場違い感がするでござるよ」

 男性に比べて圧倒的に少ないが、女性の冒険者もちらほらと見かける。それらから滲み出す雰囲気に気圧されるように、クロエの耳と尻尾がしゅんと垂れていた。果たして、己の実力はあれらと肩を並べるに足るのか、不安で仕方がない。

 ーーーークロエは大きな勘違いをしていた。

 話は大きく戻り、貴族の坊ちゃんと起こした決闘。

 あの時クロエは坊ちゃんの実力を『軽く見積もってもCランク』と評価した。その判定に間違いはないのだが、その現場を見届け役として観察していたリーディアルの中では『Cランクの最上位レベル』という評価が付け加えられていたのだ。

 当たり前の話だがCランクの冒険者達の中でも実力の優劣はある。Cランクに昇格したての冒険者よりも、同じランクで長期間活動を続けている者の方が遙かに実力者である。DからCへも大きな壁であるが、CからB以降への昇格はそれよりも遙かに高い壁がそびえ立つ。それだけに、数年からあるいは十年近くもCランクに留まり続ける者も数多い。中には昇格を諦めた者や、Bランクの困難な依頼を拒んであえてCランクに甘んじている者もいる。

 それらの者をギルドを総括する立場のリーディアルが下した評価だけあり、坊ちゃんの実力は紛れもない本物だったのだ。

 実のところ、坊ちゃんは精神、教養の面でいろいろと致命的ではあったが、武芸に限っていうのならば『天才』と呼んでも不相応でない才能を秘めていた。術式こそ扱えなかったが、豊富な魔力を持ち、そうでありながらも優秀な魔力親和性を誇っていた。もっとも、精神が未熟だったために、カンナの揺さぶりに冷静な判断力を失い、実力の半分も発揮できずに敗北を喫したのであるが。そしてさらにいえば、確かにCランクの最上位に匹敵する実力なのは間違いなかったが、坊ちゃんに肩を持つ気は微塵もなかったリーディアルはその付加的な評価を口に出そうとはしなかったのである。

 さて、そんな輩と真面目に正面からぶつかり、互角以上の戦いを繰り広げたクロエが弱いはずがない。クロエが己の実力を過小評価するのは、同郷の黒狼族、それも同時期に冒険者になった若者達が軒並みに優れており、彼女はそれに一歩遅れていたからだ。特に、同じ雷属性の適性を持つ者は既にAランクに到達している。そのコンプレックスが、己の実力を判断する上での阻害になってしまっているのだった。

 話を戻す。

 水筒に納められた紫色の味噌味スープで、周囲との場違いな空気感(本人の誤解だが)を誤魔化しながら列車に揺られること半日ほど。列車は目的地付近の駅に無事に到着した。

 近辺に町や村は存在しないのだが、代わりに天然資源の鉱山がいくつか存在しており、この駅はそれらから発掘した鉱石などを貨物車両に積載し、国内外へ運搬する為の中継地点なのだ。今回、ゴブリンが大規模な集落を作っているのもその鉱山の一つである。もっともそこはまだ未開拓地であったのだが、偶然にも素材採取の依頼で訪れた冒険者がゴブリンの相当な数に遭遇し、何とか逃げおおせた末にギルドに報告したのが切っ掛けだ。その後迅速な調査の末、ゴブリンの異常発生と上位個体が確認されたのが事の次第であった。

 冒険者達は列車から降りるなり、件の鉱山へと出発した。もっとも、本日中に鉱山へ侵攻する訳ではなく、その手前に建設された野営で一晩を過ごす予定だ。日は既に傾き始め、今から鉱山に到着する頃には夜に突入してしまう。よって、手前で一晩を過ごし、早朝にゴブリンの討伐という手筈となっている。

 なお、野営を建設しているのは、今回のレイドで合同作戦を行う帝国軍だ。事前調査と野営の設置のために、二日ほど前から既に現地入りしていたのだ。

 野営地への移動中に、冒険者達の会話が聞こえた。ドラクニルに来て日の浅いクロエは顔見知りもおらずに、自然と誰かの会話に聞き耳を立てる形になる。

「今回の作戦にはあの『竜剣』が参加するらしいな」
「確か、元Sランク冒険者の弟子で、ドラクニルのギルド内では最年少でAランクに到達した天才、だっけか? だが、奴はもう冒険者は廃業したって聞くが」
「それだけだとちょいと情報が古いな。やっこさんはその後、帝国軍に入って活躍中だって話だ。今はこれから合流する騎士団の団長を務めてる」
「なるほどねぇ。推定Bランクの上位個体はその『竜剣』が相手してくれるってのか。そりゃ心強いね」
「露払いとはいえ立派な仕事だからな。ここでしっかりと成果を上げれば確実に実績を積める」

 ーーーー竜剣か…………。

 クロエの狼耳にもその名は届いたことがある。二十歳を前にAランク到達したという快挙は、ディアガル帝国内のみならず国外にまで轟きヒノイズルにまで響いていた。もっともそれ以上に、ヒノイズル内のギルドからも二十歳前のAランク到達者が現れたときは騒然となったがそれは置いておく。

 空が夕焼けに染まり、地平線の先から夜が迫ってきた頃、冒険者一行は予定通りに帝国軍が設営した野営地に到着した。

「よぉし、今日はここで一夜を明かす。各自に用意された場所で休憩を取ってくれ。一時間後に作戦会議を行うのでそのつもりで頼む!」

 一行のリーダーを任されたBランクの冒険者が後ろに続いていた他の者達に大声で呼びかけた。

「念のために言っておくが、問題を起こしてくれるなよ! 職業柄、軍人とは肌が合わない奴もいるだろうが、ここでいちいちもめ事を起こすようならBランクを目指せないと思ってくれ! では一時解散!」

 最後に注意を述べると、冒険者達はぞろぞろと野営地の内部に入っていった。自由を好む気質が多い冒険者と規律によって統制された意識の差はトラブルの原因になる。ここで下手なトラブルでも起こせば、将来的にはBへ昇格するための試験でも不合格である。

 一時間の小休止を経ると、集合を知らせる笛の音が野営地に響いた。他の冒険者とともにクロエは野営地の中央部にある大きく開けた広場へと向かった。

 野営地に配置された帝国軍の数は二百前後。その全てが集合できるほど広場は広くないので、集まったのは冒険者が三十名と、隊長格の二十と少し。

 集合した冒険者と帝国軍隊長らの前方には、Bランク冒険者ーー先ほどに注意事項を叫んだ青年と、帝国軍の指揮官が並んでいた。これから明日に向けての作戦を説明するのだ。

(あれが竜剣…………でござるかな?)

 クロエは帝国軍の指揮官らを目をぱちくりさせながら見据えた。ほかの冒険者も少なくない数が同様の反応を見せていた。

 竜剣…………と称せるならば、『剣』が名の由来なのだろう。なるほど、確かに由来に恥じぬ外見だ。『それ』の背中に背負われているのは、見事な装飾の施された鞘に納められた長大な剣。だが、その剣よりも目を引くのはそれを背負う者の容姿だ。

「私が帝国軍騎士団の団長を務めるレグルスだ! 今回の作戦の総指揮官でもある!」

 指揮官を名乗ったその者は、全身を鎧で覆った出で立ちをしていたのだ。先日の決闘騒ぎで、坊ちゃんの護衛は顔だけを露わにした全身甲冑を身に纏っていたが、帝国軍指揮官は顔すらも兜で完全に覆い尽くしておりその表情は伺えなかった。ただ、全身甲冑ではあったが通常の重武装鎧よりもかなり細身な作りをしており、流麗なデザインもあり重厚さよりも俊敏なイメージが受けられた。

 帝国軍の隊長達は見慣れたのか特に何らの反応はなかった。冒険者達の表情から読みとったのか、指揮官ーーレグルスは苦笑気味に言った。 

「冒険者の諸君。此度の依頼を受けていただき感謝する。指揮官の身でありながら素顔を晒せない無礼を許してほしい。生憎と、人様に晒せるような上等な顔では無いのでな。では、具体的な作戦の説明は副官から行ってもらう」

 一言断りを入れると、今度はその少し後ろに控えていた同じく顔を隠した全身甲冑の者が前に出た。

「副官のダインだ。最初に言っておくが、作戦会議などと言ったとしても特に話し合うことは無い。はっきり言って、我が帝国軍と貴様等野蛮な冒険者達が足並みを揃えられるなどと高望みはしていない。今から伝えるのは棲み分けだ」

 上から目線の物言いに、冒険者達が微妙に苛立ちの空気を匂わせると、今度はBランク冒険者が声を上げた。

「落ち着けッ! 軍隊様と合同で作戦つっても連携が取れるなんて誰も思っちゃいないのはおまえ等も同じはずだ! むしろ下手に息を合わせて敵の前でいざこざが起こった方がまずい! だからこそ、最初から別々に動いた方が効率的だって話だ!」

 つまり、大雑把な取り決めだけして後は各自で動けば良い、という作戦ともいえない作戦。必要なのは冒険者と帝国軍がぶつかり合わない程度の、最低限の規律だ。

「元より貴様等を従えられるなどと我々は毛頭思っていない。こちらの邪魔さえしなければ好きにしろ。そちらの方が貴様等も気が楽であろう?」

 そうでござるがもうちょっと言い方がなかろうか? と腹を立てるほどではないが素直に思ったクロエ。どうしてこの国の貴族は上から目線がデフォルトなのだろうか。あの指揮官や副官が貴族とは限らないが、あの物言いは貴族と見て間違いないだろう。

 そこから登場したのは空中に幻想の絵を投影する魔術具。映し出されるのはゴブリンが根城にしている鉱山を上から撮影したような見取り図だ。この手の魔術具は投影される絵のサイズに違いはあれど、似たようなタイプは各国で使用されておりさほど珍しくもない。現実世界でいうならば、会社でのプレゼンテーションに使われるスライドに近い。

 空中に投影された地形を利用した副官の説明は、上から目線は引き続きながらも非常に合理的な内容だった。野蛮だなんだと言いながらも、冒険者を間違いのない戦力と判断しており、それでいて彼らと帝国軍が足を引っ張り合うことなく動けるような配置の仕方だ。副官の物言いに不満はあれど、その作戦に口を挟もうとする者は誰一人としていなかった。

(それに、指揮官殿も副官殿も並ならぬ使い手でござるな。ぱっと見でも側にいるBランク冒険者に劣ってないでござる)

 繰り返しになるが、Aランクは既に人外だがBランクは冒険者としては一流の領域に達している。何気ない仕草や立ち振る舞いに、帝国軍指揮官らの実力が窺い知れる。指揮官なので最前線での戦闘に加わりはしないだろうが、それでも心強い味方が後方に控えている事実だけでも心強い。

(特訓の成果を試すにも良い機会でござるしな)

 敬愛するあの白髪の少年のアイディアから生み出された新たなる魔術。見事に使いこなし、戦果をあげてみせる。

 クロエは耳と尻尾をぴんっと立て、副官の説明を聞きながら気合いを入れるのだった。
クロエさんは紫色のスープにハマりました。
次回からはまたカンナ視点に戻ります。

総合評価点が五百点越えです。ブクマ数もあとちょいで二百に。毎回本当に感謝の限りです。ありがとうございました。以降も感想文や評価点等を募集しております。

9/1 五十二話のゴブリンの発生数の数値を変更しました。軍隊が出張るならちょいと少ないと思ったので。


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