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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第五の部 異端者の日常

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第四十八話 平気で近接武器を投げつける人だって人並みには悩むのです

いろいろあって更新が遅れました。
 
 レアルが去っていった後、俺たちは少し遅めの朝食を取ってからギルドに向かった。起きて早々に濃いイベントが発生したために、不幸中の幸いーーというのも変だが、クロエとの間に妙な空気が漂うことなく、気さくに接することができた。

 ただ、今朝の一件を機に、俺は自身の心の内を考えさせられていた。

 ーーーーまだ知り合って日も浅いが、俺はクロエのことを憎からず思っているのだろう。既に肉体関係を持っているのだから当たり前だ。ただ、それが恋愛感情に直結しているかと問われれば、素直に答えられない。仲間意識は確固として存在しているのだが、恋人になりたいのか?と聞かれると首を傾げてしまう。不誠実かもしれないが、本音だから仕方がない。

 恩返しの一環として始まった肉体関係だが、そこに含まれるクロエの小さな恋愛の感情を察せないほどに俺だって鈍くはない。普段にしても、彼女は随分と俺を慕ってくれている。恐らく、恋人関係を結びたいと申し出ればすんなりと承諾してくれるかも、という安易な予想もあったりする。

 だけれども、クロエとの恋人関係の光景を想像する度に、どうしてもレアルの顔が脳裏にチラツく。彼女との性的な関係を想像するのをあれだけ忌避していながら、にも関わらずだ。

(だいたい、立場が違いすぎるだろうが)

 明言こそしていないが、レアルは恐らく貴族かそれに近しい立場だ。ベクトは己のことを『貴族』だと言っていたし、それを配下にするのだからそれなりに高い地位にいると予想ができる。

 対して俺は、名も知られていない辺境からきた田舎者。その設定が無くとも、異世界からきた一般人だ。これが有月の奴だったらいろいろと釣り合いが取れていそうだが、無能な俺ではさすがに無理がある。

(・・・・言い訳しかならばねぇな)

 これが恋愛に対してまるで経験のない男の限界だな。

 そもそも、俺は今のところ現実世界に帰るつもりで行動しているのだ。この世界の住人と恋愛関係に至った場合、未来には確実な別れが待っている。あるいは俺が現実世界に戻るのを諦めるか、恋人にこの世界を諦めて俺と一緒に現実世界に来てもらうのかの選択が必要だ。

 大前提に、これまでの考えは俺の告白が受け入れられる前提だ。レアルは相手にされないとして、クロエにしたって前向きに考えすぎだ。多少の好意は抱いてもらってるだろうが、やはり知り合ってからの時間が短すぎる。『命の恩人』という吊り橋効果の最たるパターンから生じた好意が、今後の行動で俺に愛想を尽かす可能性は非常に高い。普段の行いからしてあまり人に誉められないからな、俺は。

 そうこうと悩んでいるうちに、いつの間にかギルドの前にまで到着した。俺は結論がでない心の内側に蓋をして建物の内部に入った。

 受付でもはやお馴染みの職員さんに声をかけるとすぐに婆さんの部屋に通された。

「昨日の今日でどたばたして悪いねぇ」
「問題ない。それより、婆さんってレアルと知り合いだったんだな」
「知り合いって言うかねぇ・・・・本人から聞いてないのかい?」
「え? 知り合いなんじゃねぇの?」
「・・・・なるほど、詳しくは聞いてないみたいだね。ま、これはあたしの口より本人から聞いた方がいいだろうさね。とりあえず座りな」

 俺とクロエは昨日と同じく、来客用のソファーに腰を下ろし、婆さんも同じく対面に座った。

「改めて、昨日はいろいろとご苦労だったね。無事に勝てたようで何よりだ」
「結局あの後、坊ちゃんはどうなったのでござるか?」

 事後の処理はすべてギルドの方に任せておいたので、俺たちが帰った後の顛末は当然ながら知らない。特にあのつぶれた鼻の顛末が気になる。

「坊ちゃんの鼻は治癒術で無事に治ったよ。・・・・そう残念そうな顔をしないでほしいね。そこらへんの保障は決闘の前口上でしっかりと宣言しておいただろうさ」

 ちっ、あのイケメンフェイスは復活か。

「とりあえず、自分から決闘を申し出た立場上、不満はたらたらだったが一応は負けに納得させたよ。以後にこの件を理由にあんた等にちょっかい出すことはないだろうさ」
「本当に納得したのでござろうか?」
「心配になるのは仕方がないだろうね。ま、一応は念のために坊ちゃんの実家ーー公爵家に手紙を出しておいたよ。言ってなかったかもしれないが、あの坊ちゃんは馬鹿だが公爵当人と跡取りの長男は誠実な人柄だ。事の次第がそっちに伝われば、さすがに坊ちゃんの方に家の方から厳重注意が下されるさ」
「そうでござるか・・・・ならよかったでござる。これで安心して借金返済に勤しむことができるでござるよ」

 ほっと胸をなで下ろすクロエ。事の発端の一因は自分であるために、自責の念に駆られていたのだ。一応の終結にそれが解消した。

 もしかしたら、昨晩に求められたのは、戦いの興奮や酔いだけではなく、その不安もあったのかもしれないな。

「っとまぁ、そんな次第だ。あたしから伝えたかったのは以上だ。手間をとらせて悪かったね」
「いえいえ、こちらこそでござるよ。いろいろと便宜を図っていただいて感謝するでござる」
「冒険者あっての冒険者ギルドだ。馬鹿のせいで有能な人材が流出するのはこっちからしても死活問題だからね。なにも善意だけってわけじゃないさ」
「それでもいろいろと助けてもらった事実は変わらないさ。礼ぐらいは言わせて欲しい」

 俺とクロエは感謝の念を抱きながら婆さんに頭を下げた。

「・・・・改めてそう言われると照れるねぇ」

 婆さんは頬を掻いてから笑ったのだった。



 レアルと話し合った互いの連絡手段を婆さんに聞いたところ、快く承諾してくれた。以後はあの職員さんに手紙を渡せばそこから婆さんを経由してレアルに届けてくれる事となった。人の繋がりとは大事だ、と再確認させられたな。

 ーーーーや、その後に知り合った人間の素性を聞かされて頭を悩ませたのは言うまでもない。

 後に襲いかかる盛大な悩みを現時点では知る由もなく、目下の懸念が解消された俺たちは今度こそ冒険者として勤しむ事ができる。

 美味しい魔獣達が俺を待っている! 

 ・・・・このフレーズだと危険きわまりない人間だな。

 ギルドの玄関ロビーでクロエと別れ、俺は受付の方に向かった。

 気になっているのは件の坊ちゃんがクロエに護衛の依頼を頼んだ際に狩りに行った『イワトサカトカゲ』である。こちらもツノウサギと並ぶ準高級食材らしく、一般家庭ではちょっとしたごちそう扱いだそうだ。

 職員さんにイワトサカトカゲの狩猟依頼がまだ残っていないかを聞こうとしたが、ふと気になる点が一つ。

「そういえば、職員さんの名前ってなんて言うんですか?」
「・・・・そうですね、リーディアル様との関係を考えれば、以降も顔を合わせることになるでしょうから」

 小さく考える素振りを見せたのは、恐らく『純粋な疑問』以外の理由で名前を聞こうとする輩が多いからだ。ギルドの玄関先を担当するだけあって、受付職員のほとんどが女性でなおかつ顔立ちも綺麗な人が多い。中には受付職員を『職員』としてではなく『女性』として声をかける軟派もいるのだろう。

 ギルドに訪れてから一番顔を合わせている職員さんはシナディさんという名前だそうだ。仕事のできるOLっぽい雰囲気がある。

 軽い自己紹介を終えた俺は早速にイワトサカトカゲの狩猟依頼が残っていないかをシナディさんに聞いた。彼女は書類の束を取り出すとぱらぱらとメクり、ある一点でその動きを止めた。

「どうやら今朝に新しく追加された分がありますね。内容は食用に適した保存状態でのイワトサカトカゲの狩猟です。必要個数は四匹です」

 狩猟目的のトカゲの絵が描かれた依頼状を取り出す。

「確か、近場の生息地はドラクニルから駅一つ離れた場所の付近にある岩場ですよね?」
「カンナさんはまだ冒険者になったばかりなので説明しておきますね。冒険者は依頼の関係上、魔導列車での移動が必要になる場合があります。そのとき、ギルドが発行する券があれば列車を無料、あるいは格安で利用することができます」

 説明を聞いてから、俺は受注証明書にサインし列車を利用するための券を貰った。

「・・・・ちなみに、イワトサカトカゲって、料理するのに時間って掛かりますか?」
「調理の次第にもよります。最大の特徴である岩のように硬いトサカですが、これをじっくり煮込んで柔らかくし、それを使ったシチューが一番美味しい食べ方ですね。ただ、最低でも半日近くは煮込まないといけないので時間が掛かるでしょう」
「じゃぁ、隣の店に持ち込んでも食べられるのは半日後か翌日かですかね・・・・。あ、シルディさん。Eランクの狩猟で美味しく食べられる魔獣の一覧ってありません?」
「目の付け所が『美味しい』というのが気になりますが・・・・。では、ギルドが販売している魔獣図鑑がありますのでそちらを購入されては? 値段は銅貨五枚です。今後、様々な魔獣狩猟の依頼をこなすのでしたら、魔獣の生態をしっかり把握するのが、冒険者として活動する上で最低限の必要知識ですよ?」

 俺はその場で魔獣図鑑を購入した。まだ詳細を読み解くには時間が掛かるだろうが、最低限Eランクの魔獣とそれ以上の魔獣の把握ぐらいはすぐにできるだろう。万が一高ランクの魔獣と遭遇した場合、即座に逃げ出せるような予備知識は必要だ。雑魚だと思いきや実は超危険な魔獣でした、では冗談にもならない。あるいはクロエに読解の助けをして貰うのもありだな。

「・・・・実はここだけの話、この依頼は昨日に問題を起こした貴族が処理した件の尻拭いなんですよ」

 シナディさんは申し訳なさそうに言った。

 固有名がでなくとも誰の所行かは瞭然だ。

「言うまでもなくあの坊ちゃんですか」
「ええ、あのお坊ちゃんです」

 なんでも、俺が今受けたように食用に狩猟して欲しいとの依頼だったのだが、坊ちゃんの狩猟してきたイワトサカトカゲの死体は余計な損傷が多く見られた。素材を生かすことを考えず、ただ殺すことだけを考えた狩猟だったのだ。結果、四匹の死体を合わせても、どうにか一匹分の食用肉をはぎ取るのが精一杯。結局、依頼主はまたもギルドの方に狩猟の依頼をだし、ギルドの方は謝罪と共に依頼料の格安をもって対処したのである。

「あの坊ちゃんはとことん問題起こしてくれますね・・・・」
「カンナさんも気をつけてください。冒険者としての実績は、依頼の完遂結果だけではなくその課程も重要になってきます。結果ありきで内容が伴わない場合、昇級試験を受けることができなくなる場合がありますから」

 どのような形で依頼を完遂するのか。その辺りの匙加減も冒険者にとって大事な要素の一つなのだ。ただ闇雲に依頼を受けてこなせば良いと、単純には行かない。これらの問題が重なると、試験を受けるための実績に傷が付くほか、同系統の依頼を冒険者が受注希望しても受理されなくなる恐れもある。

「ちなみに。カンナさんが前回請け負った角ウサギの件は、依頼主の方が大変に喜んでいましたよ。角だけではなく肉の方もほとんど綺麗な形で処理がなされていましたので」

 逆に、依頼を最高の形ーーあるいはそれ以上の結果を出せば、依頼実績には加点が成され、通常よりも早く上のランクへの昇級試験が受けられるようになる。や、別に出世昇進には興味がないのでそこまで気にする必要もないか。

 そうして俺はイワトサカトガケ狩猟依頼の受注処理が完了し、ギルドを後にしたのだった。今から列車に乗って狩猟に行けば、遅くとも今日の夜までには帰ってこれるだろう。とすると、イワトサカトカゲの料理を食べられるのは明日の晩ご飯になりそうか。
いろいろとはっちゃけているカンナですが、事が親しい相手になると真面目に考えます。今回はそんな回でした。

ちょくちょく感想文に質問が乗るのですが、カンナとクロエは単純な恋人関係にはなりません。ある意味でもっと濃ゆい関係を結ぶ予定です。


先日に多くの誤字脱字の報告を頂きますました。
心が複雑骨折を起こしましたが、治ればさらに骨太になります。逆にしっかりと読んでいただいているのだと感謝の念でいっぱいでございます。

毎回にちょくちょくとブクマも増加しており、恐悦至極です。

以後も感想文や評価点、誤字脱字の報告は募集しております。
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『カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー』11月7日より発売中です!
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