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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第四の部 意図せぬ退場者

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第三十一話 ケモフサ属性までありましたとさ

所持金がヤバい
 
 ーーーーや、びっくりした。
 何に驚いたって? クロエが一切の迷いを見せずに短刀を己の胸に突き刺したからだ。並の神経の持ち主なら、己の体を傷つけるときは僅かに躊躇する。自殺を心に決意したとして、いざ崖の上で踏み切ろうとしても少しは惑う。
 なのに彼女はそれが無かった。
『理性』が『本能』をねじ伏せやがった。
 時が凍り付いたかのように、場にいる誰もが動かなかった。
 そしてーーーー。

「…………え?」

 最初に声を上げたのは、己の心臓に刃を突き立てた『クロエ』だった。逆手に握り、胸を深々と貫いた短刀は、柄の辺りまで埋没している。仮に心臓を狙っていなくとも致命傷に等しい一刺。

 けれども、クロエの体からは血の一滴も流れていない。

 我が身に起こった矛盾に混乱する中、クロエは恐る恐ると短剣を己の肉体から引き抜いた。

 ーーーーまぁ、そもそも引き抜くほどの『物』は存在していないが。

 この場にいる俺以外の全員が目を見開き氷の短刀を凝視する。クロエの手の内にある短刀の刃先が、まるで最初からそうであったかのように存在していなかったからだ。

 種明かしをすれば、俺が作った短刀の刀身はハッタリだ。指を軽く切って切れ味を証明した時点では紛れもない本物だったが、その直後に短刀を構成する氷の精霊に命じたのだ。内容は『刀身部分の強度を徹底的に弱める』ことだ。視線をクロエの膝元に戻せば、氷の欠片が散らばっている。刀身の成れの果て。焼き菓子程しかない強度の刀身は、彼女の胸に到達した時点で崩壊したのだ。

 クロエは刀身のない短刀と俺の顔を、狐に化かされとばかりに交互に見比べる。その表情に、俺は何とも可笑しく笑ってしまった。

「や、アンタの覚悟は痛いほどに分かった。試すような真似をして悪かったな、すまない」

 声を出して笑った後、俺は謝罪を込めて頭を下げた。

 ようやく俺の申し出が一種の『試し』であったのを理解したのか、クロエがあわてて両手をパタパタとふる。

「お、おやめください。むしろ、拙者としてはこれで我が身の潔白を表明できただけでも御の字でござる。決して貴方様に頭を下げられるほどではないでござるよ」

 覚悟を決めた時とはまるで違う、表情豊かなクロエ。

「…………まったく、驚かせるなカンナ。すこし心臓に悪いぞ」
「ハッタリってのは、身内から騙すのが鉄則だ。けど、これで彼女の無実が証明された。少なくとも、俺たちに害は及ぼさないだろうさ」

 生死を分かつ状況は人間の本性が如実に現れる。ケジメの為に命を掛けられる程の胆力の持ち主なら、俺たちを騙しはしないだろう。

「アレほどの短時間で氷を精製してかつ、一瞬で強度の調整まで。本当に摩訶不思議な術式だわ。そもそも、目の前で何度も披露されて術式の欠片も把握できないってどーなのよ。そろそろ魔術士としての自信を失いそうよ私は」

 ファイマはぶつぶつと呟きながらここではない遠くを見ている。『コレ』はそもそも魔術視点では説明不可能なのだが、満足に説明できる自信もないのでスルーする。

「さて、無実の証明もばっちり出来たわけなんだが・・・・」

 現状の懸念をスッキリは出来た。なので、俺はいよいよこの件の根っこについて訪ねた。

「単刀直入に聞くが。アンタにファイマの暗殺を命じた奴は誰だ? あるいは、拘束術式の宝石を埋め込んだ奴って聞いた方が正しいか?」
「…………申し訳ない。答えたいのは山々でござるが、その辺りの事は全く覚えていないのでござるよ。気が付いたときには既に『声』に操られていた、としか答えようがないでござる」

 すまなそうに肩を落として語るクロエに、ファイマがフォローする。

「おそらく、黒幕の手掛かりになるような洗脳前後の記憶は精神系魔術式で消去されたんだと思う。そのことに関しては私たちが事前に話を聞いているわ」
「魔術で記憶って消せるのか?」
「高位の魔術士なら可能ね。ただ、宝石に施されていた術式と同じようにかなり尖った分野だから、扱える魔術士は限られているわ。でも、少ないとは言えある程度の人数はいるから、それだけで犯人の特定は不可能ね」
「ついでに言えば、彼女の記憶がまともに残っている最後の日付は、今現在よりも半年位前だそうだ。場所はユルフィリアの城下町。けれども、具体的な日付や記憶を失った起点は思い出せないらしい」
「重ね重ね、我が身の事ながらお役に立てず申し訳ないでござる」
「アンタの責任じゃねぇよ。悪いのはアンタを操っていた腐れ外道だ。こちらとしてはけが人こそ出たが運良く死者零だしな」
「…………寛大なお心、誠に感謝するでござる」

 ファイマの暗殺を企てた犯人に直接繋がる情報は手に入れられなかったが、これ以上は詮索しても仕方がない。ただ、ファイマの補足が正しいとするのならば、黒幕はしょぼい木っ端貴族などではなく、腕を持った魔術士を囲い込める力を持っている。あるいはその魔術士自身か。どちらにせよ、軽々しく尻尾を出さない程には狡猾だ。

「そもそも、なんでアンタを操って刺客にしようと考えたんだ? 別にワザワザ手間を掛けて誰かを操るより、最初から『本職』に頼んだ方がよほど確実だろう」

 率直な疑問が飛び出る。

「おそらく、それは拙者自身が答えでござろう」

 クロエは人差し指と中指を立て、己の額にかざす。

「術式…………解除」

 魔力の流れがクロエの周囲に流れた。そういえば、彼女に身近で触れたとき妙な感覚が合ったのを今更ながら思い出す。

 ほのかな光を放つ魔力が彼女を覆ったかと思うと、それはすぐに消滅した。派手な効果や音は殆ど起こらず、術式の発動が気のせいと錯覚する程

 しかし、クロエの『身』には一見して直前とは明らかに隔絶とした変化が起こっていた。 

 ヒョコリと、存在を主張するようにクロエの『耳』が動く。

 レアルの長耳も時折ピクピクと動くが、アレとはベクトルがまるで違う。というか、耳が生えている位置も違う。

 ーーーーケモフサ様が降臨なさった。

 人間の丸っこい耳ではない。獣の持つそれと全く同じ形を持った耳が、クロエの頭上から二つ、ニョッキリと生えていた。耳の裏にも髪と同じ漆黒の毛並みが揃っており、フサフサしている。

「うぬぅ…………やはり人族用のズボンだと窮屈でござるな」

 クロエが己の臀部を振り返りながら身じろぎすると、ズボンと肌の隙間からまたもニョッキリと漆黒のケモフサな尻尾が姿を現した。

「その髪の色と耳の形。・・・・クロエさん、あなたはもしかして『黒狼族』の獣人なの?」
「そうでござる。改めまして。拙者はここより遠く離れた島国『ヒノイズル』出身、黒狼族のクロエと申すでござるよ」
「ヒノイズルの黒狼族…………なるほど、手駒にしたい理由は分かった」

 ファイマは合点が言ったように頷く。俺とレアルは理解できず、疑問に首を傾げると、ファイマが説明をしてくれた。

「ごめんなさい、一人で納得しちゃったわ。ヒノイズルって言うのは多重民族国家の島国よ。それで黒狼族っていうのは代々その国の盟主を影ながら守護してきた獣人の一族なの。彼らは他の獣人よりも遙かに優れた身体能力と魔力の才能があるのよ」

「それだけでは無いでござる。黒狼の戦士は『ブシ』や『シノビ』と呼ばれており、一度仕えると心に決めた主君への忠誠心は鋼の如しでござる。黒狼の者を配下に加えるだけで、その者は名君と称されることもあるでござる」

 胸を張り自慢げなクロエ。ついでに豊かな胸が窮屈そうに薄い上着を押し上げている。脱いだらたぶん服は伸び伸び状態になってるな。

「黒狼族の強さは獣人族の中でトップクラス。その戦闘力を狙われて、彼女は洗脳されたんでしょうね」
「そうではないかと…………。今の術は一族に伝わる変化の魔術でござる。黒髪に狼獣人の特徴は一部の者には有名でござるからな。時折こうやって隠しているのでござるよ」

 にしても、ブシとシノビーー明らかに『武士』と『忍び』って書くな。幻想世界での神秘をまたも発見してしまった。ヒノイズルって国は日本の江戸時代かそれ前後の文化だろうな。その内、中華フリークとか、アメリカンとか出てきそうだ。

「ちなみに、ブシは主君に忠誠を誓うのと同時に、己の生き様に誇りを持っているでござる。それを自ら汚すような事があれば、腹を割いて自害するでござるよ」
「切腹まであるんかいッ!」

 究極の根性試しみたいな自害方法まで似なくていいんじゃね?

「なんと、カンナ殿はセップクを知って御座ったか。しかし、あの作法はヒノイズル出身の上流階級の者しか知らないはずで御座る。もしかして、血縁者にヒノイズルの貴族が?」
「…………や、ないない。風の噂で聞いただけだから」

 あまりの文化の酷似(悪い意味)に思わずツッコミをしてしまった。俺の本当の事情を知る人間はレアルだけなので、とりあえず誤魔化すしかない。

「ふむ。…………カンナ殿には、純血のヒノイズル人族の特徴は見受けられないでござるしな。拙者の勘違いで御座るか」
「特徴?」
「ヒノイズルの血が濃い人族は、大抵の者が黒髪に黒い瞳を持っているで御座るよ。ほかの人種に関しては外来の者が多いので髪の毛の色は多種多様で御座るが、ヒノイズルは元々人族中心の国。黒狼族はヒノイズル人族と同じく古来より住んでいた獣人であり、ヒノイズル人族の血も混ざっているので御座る。だから黒髪なのでござるよ」

 聞けば聞くほど日本に似ている国だな。人のデフォルトが黒髪なのか。

 ーーーーや、ちょい待て。

「何言ってんだ? 俺の髪だって黒じゃねぇか」
「…………? 何を仰るでござるか? どこに黒髪のお方がこの場にいるので御座るか?」

 や、聞いているのは俺なんですが。え? この見事な純血日本人の毛並みを見て何で首傾げてんの? 染髪なぞに手を出したこと無いし。目もカラーコンタクトなぞ入れずに天然で黒ですが? 

「…………カンナ、コレをよく見ろ」

 難しい顔をしたレアルが背中から剣を引き抜き、俺の目の前に刀身の面を向けた。手入れを怠っていないからか、剣その物が見事なのか、その刀身は鏡の如くに光を反射している。

 そう、まるで鏡のようなのだ。

「……………………白?」

 刀身の面に、鏡写で俺の顔が見えた。

「…………なッ」

 そこに、長年慣れ親しんだ黒は一切存在せず。

「なんじゃこりゃぁああああああああああああああっっ!?」

 純白に染まりあがった髪が代わりに頭に乗っかっていたのだ。

「え、ちょ? えぇッ?」

 慌てて頭上の髪の一房を摘んで延ばすと確かにそれは白かった。

「君が渓谷で謎の男を倒した後、気が付けば髪の色はそうなっていた。おそらく、極限状況に於ける精神への負荷が表面化した結果だろう。さらに言わせて貰えば、目の色も黒から赤に変色している。こちらも理由は同じだろう」
「マジでッ!? え、マジでッッ!?」
「えっと…………うん、マジマジ」

 俺は混乱しながらファイマに確認をとると、彼女は顔をひきつらせながら頷いた。今の俺は傍目から見ても相当に混乱しているのだろう。幻想世界に来てから一番の混乱が今日この瞬間だった。

 や、確かにあの瞬間は完全燃焼してましたけど。まさか我が身で『燃え尽きたぜぇ…………』をやる羽目になるとは思いもしませんでしたよ。

 思い返すと、目が覚めた直後にレアルとファイマが俺に気遣ったのはこの髪の変色もあったのだろう。真っ黒の髪が数分足らずで白になればそれは不安になるだろう。

 現時点で自覚できる体の不調はない。目も赤くなっているっぽいが、視力にも影響はなさそうだ。現実世界で言えば『アルビノ』みたいな容貌になっているのか。元の世界に戻ったときに髪を染めなければならなそうだ。当面に関しては、幻想世界では緑やら青やらのスペシャルヘアカラーが普通にいるので、若白髪が一人増えたところで問題はない。

「…………や、うん。一応は落ち着いた」
「お話から察するに、あなた様の髪は元々黒だったと?」
「おまえさんと同じで黒髪に黒い瞳だったよ。それより、そんなへりくだった呼び方は止めてくれ。カンナで良い」
「ではカンナ氏とお呼びするでござる。拙者もクロエと呼び捨てにしてもらって構わないでござるよ」
「そうかい。じゃ俺はクロエって呼ぶよ」

 俺の髪の毛のアクシデント(イヤな響きだな)で話がかなり脱線したが、ここで元に戻す。

「思い返せば操られていた時のクロエの戦闘力は半端無かったな。そこら辺の雑魚とは段違いだ」

 俺の投げた氷手裏剣を全てたたき落とし、急所を容赦なく狙い打つ技量は(一つの例外を除き)この世界で出会った誰よりも卓越していた。仮に俺が精霊術を会得していなかったら、一分も持たずに殺されていた。アレは路地裏喧嘩の経験など歯牙に掛けない実力だった。

「いえ、拙者などまだまだ未熟でござる。本当の黒狼の一族であるならば、言い方は悪いでござるが、カンナ氏もファイマ氏も生きてはござらんかっただろう」
「…………良かったと素直に安堵して良いか困るな」
「気を使わないでいいでござるよ。操られたのは拙者の過ちであるし、未熟であったからこそカンナ氏が拙者を止めてくれた。感謝はあれど他意は無いでござる」

 口ではそう言いつつ、クロエの表情は若干影が指していた。「未熟」と口にする度に。目が揺れた。あまり触れて欲しくなさそうだし、これ以上追求するのは止めておくか。
 
ケモフサ枠の確保

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