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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第三の部 調和を乱す者

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第二十三話 やるきを出した途端に忙しくなるとちょっと損した気分になる法則

今作初めてのまじめな戦闘。
 と、意気込んではみたのだが、早くもそれを後悔する羽目になった。

 渓谷に突入してからしばらくして、ビリッときました嫌な予感。

「アガット、馬車を止めてくれ」

 俺は今まさに肌に触れた感覚に従い、御者をしていたアガットに言う。俺の突然の言葉に、アガットは少し呆けてから眉間に皺を寄せた。

「は? 急に何を言っているんだ貴様は」
「いいから早く」
「なぜ俺が貴様の命令を聞かなければならんのだ!」

 ここで彼の好感度を上げてこなかったのが裏目に出たか。声を荒げる彼の反応に、内心の苛立ちを隠せず舌打ち。アガットの目端がさらにつり上がるが、彼の機嫌を取るつもりは無い。俺が言っても聞かないなら、上司に頼むだけだ。

「ランドのおっさん」
「…………アガット、彼の言うとおりにしろ」
「ランドさんッ、ですがッ」
「いいから、早くしろ」

 俺の表情から本気を悟ったランドが命じると、アガットは憮然としながらも馬車を引く馬の手綱を引いた。

「カンナ、何か感じたのか?」

 この面子の中では俺を一番よく知るレアルだ。すぐにこちらの事情を察してくれた。彼女の問いに俺は頷いて肯定。馬車の外に降り、進行方向の離れた地点に目を向けた。

 今通っている道の両端は切り立った崖が立ち塞がっている。そして見据えるその先には、大きな岩が幾つも隆起している。俺はそのうちの一つに視線を凝らす。

「全く、なんなのだ貴様はッ。好き勝手な事をしおって! ランドさんも、何でこのような輩の言うことを聞くのですかッ」

 一人でヒートアップしている野郎の言葉は無視し、俺はさらに意識を『そこ』へと集中する。

 そして。

「先手ーーーーー」 

 パンッと両手の平を会わせ、それを開けば氷の大槍が作り出される。俺はそれを逆手に持つと、いつかアガットに対してやってのけたように大きく踏み込む。

「ーーーー必勝ってなぁッッ!!」

 気合いとともに全力投射。精霊の力を借りた投げ槍は、俺の狙った大岩の一つに命中し、その付近を派手に吹き飛ばした。

 俺の突然の行動に驚いていた他の面々だが、俺が槍で吹き飛ばした地点から現れた「もの」の存在にさらに驚愕する。

 吹き飛んだ岩の瓦礫だが、宙を舞うのはそれだけではなかった。五つほどの、緑色をした人型の何かが姿を現したのだ。『燻り出された』の方が正しいか。

 RPGでお馴染みの『ゴブリン』だ。霊山の麓を出発してから何度か出くわしている。人間よりも一回り小柄で、武器や防具を扱う最低限の知能を有した人型魔獣の一種。知っての通り、だいたいが質より量で攻めるタイプの雑魚魔獣である。ただ、雑魚とは言え魔獣の一種ではあり、戦闘の素人であればさすがに手に負えない程度の強さは持っている。

「ほぉぅれ、もう一丁ぉぅ!」

 続けて投げ槍二発目を投擲。別の岩に着弾すると、同じように瓦礫と共に新たなゴブリンどもがぼろぼろと吹き飛んだ。

「ゴブリンが・・・・待ち伏せをッ?」
「何も驚くことはあるまい。一個体の能力が低いゴブリンだ。その程度の知恵を働かせるぐらいはあるだろうさ」

 驚愕からの一声を発するアガット。対してレアルは俺の行動に僅かに目を見開くだけですぐさま立ち直る。さすがはレアルだ。そう、まだまだ終わりではない。

 ここからが始まりだ。

「おっさんッ! アガットッ! えっと…………あともう一人ッ!」

 非常に失礼だが、最後の従者さんの名前を覚えていなかった。

「今からやっこさんらが団体様で到着だ! 備えろッ!」

 俺が護衛衆に叫ぶのを皮切りにしたかのように、前方の他の岩群の影から、まるで台所に出現する黒い悪魔の如くにわらわらとゴブリンの集団が這いだしてきた。その数、十や二十では足りないほど。馬車がすれ違える程度の広さを持った谷間の道に、緑色が溢れかえっている。ぶっちゃけキモい。せめてもの救いはゴブリンの色が『黒』で無いことか。

 あのまま何も備えずに道なりに進んでいれば、ゴブリン達の包囲網ど真ん中に突っ込むところだった。魔獣の波状が一方向からに限られただけでも僥倖か。

「な、なんて数なの…………」 

 大量なゴブリンの数を目に、ファイマの声におびえの色が混じった。ゴブリンは見たことあっても、あそこまでの量は初めて目にしたのかもしれない。

 俺も初めてといえば初めてだが、現実世界で魔獣ではなく人間の大集団に追いかけ回された経験か、案外落ちついている。

「お嬢様は馬車の中で待機していてください。いざという時のために、いつでも術式の展開できるようにはお願いしますッ」

 鋭いランドの指示に従い、ファイマは馬車の中に引っ込む。ただ、荷台に乗る直前に、俺に気遣いの表情を向ける。

「…………気を付けてね」
「あいよ」

 不安顔の彼女ににへらと笑ってから俺は表情を引き締め、改めて前方のゴブリン集団を見据えた。

 いの一番に動き出したのはレアルだ。

「カンナ」
「突っ込むかい?」
「私にはそれしかできん。君は討ち漏らしを頼む」
「心得た」

 それだけの会話でレアルは力強く頷くと、右手を剣の柄に添え、敵集団に向けて駆けだした。

「お、おい。彼女は何をッ」

 迷わずに駆けだした彼女を後目にアガットが声を上げる。

「あれだけの数だ。後手に回ってりゃぁ、単体戦力ではこちらが有利とは言え数に押し潰される。先手をとって流れをこっちに引き込まないと危ない」
「だからといって、彼女一人だけを行かせるのかッ」
「本人が大丈夫だと思ったから行ったんだろうさ」

 ドガンっとそんな音が聞こえた気がした。ゴブリン集団の先頭に接触したレアルが、背中の剣を抜刀するのと同時に一薙。五、六匹の魔獣が体を胴体部から水平に両断されながら宙を舞った。何度見せられても豪快な太刀筋である。

「な?」

 彼女は全身を鎧で固めた重装甲兵ですら吹き飛ばすのだ。それよりも明らかに軽くモロい相手など、まとめて数十が掛かってきたところで揺るぎはしない。

「…………普段の立ち振る舞いから想像はできたが、まさかあれ程とは。我々が近くにいれば彼女は十分に力を発揮できんだろう」

 ランドが感嘆の呟きを漏らす中、レアルは再度剣を振るい、一撃目と同じようにゴブリンを肉片に変えていく。ランドの言うとおり、下手に近くで戦っていたら、彼女の攻撃で巻き添えを喰らう可能性が出てくる。

「行ったぞカンナッ!」

 レアルの剣は彼女の身の丈ほどの刀身を持つ。それだけに間合いも広大だが、谷間の道をすべてカバーするほどではない。レアルの薙払いから逃れ、隙間を縫って彼女の後方へと抜け出すと、我先にと俺たちの方へと突撃してくる。

 ここで、最近練習してきた氷手裏剣のお披露目だ。腕を振るい、生み出した鋭い氷の円板を投げ放つ。氷手裏剣はゴブリン達の頭や胴に深々と突き刺さり、バタバタと地面に転がった。

「この短時間で魔術をッ」

 さっきから驚きすぎだなアガット君。君はファイマが街で襲われていた時、俺が精霊術を使っていたのを見たはずだが。ん? そういや彼って魔術使えないんじゃなかったっけ? 確か剣術オンリーの前衛職だったとファイマから聞いてたはずだが。使えないだけで魔力自体は感じ取れるのかもしれないな。まぁ、精霊術は魔力を一切使わないので、この際魔力感知の有無はどうでもいい。

「詮索は後だ。出鼻は挫いたからな。アンタ等は馬車に近づいてきた奴らを片づけてくれ」

 とりあえず、レアルには命中しないよう精霊に願いつつ、氷手裏剣を投げまくり、彼女が討ち漏らしたゴブリンをどんどん撃退していく。俺の精神力が続く限り精霊術は使用可能だ。氷手裏剣を作る程度なら殆ど精神力消費せずに済む。残弾を気にせずに攻撃を連射できるのは有り難い。

 いささか数が多すぎるので氷手裏剣でも討ち漏らした数体のゴブリンは、アガットとランド、あと名前を覚えていない従者の一人に処理を任せる。相手は連携も何もなく、殆ど単体で攻めてくるようなものだ。ランド達の腕があれば、よほどの油断がない限り安全に対処できる。

 しかし、本当に数が多いな。もう五十ぐらいのゴブリンを葬っているが、敵の勢いが衰える気配が無いな。どこにこれだけの数が潜んでいたのか。もしかしたら、ここら近辺に生息していたゴブリンがこの場所に集まっているのかとさえ思える。

 この場を支配する気配の大半は、俺たちに向かって殺到するゴブリン達のそれだ。低い知能でありながら、人間に対する紛れもない破壊衝動を抱き、蹂躙せんとする意志が感じられる。それこそ、自らの命を省みる事すら度外視した行動だ。これは、大なり小なりこれまで遭遇してきた魔獣とほぼ変わらない。

 であるのに、それらの殺意とは別種の気持ち悪さが、背筋を這い寄ってくる。真夏の暑い日に風邪を引いたらこんな感じだろうか。あの覆面達の襲撃や、ゴブリンの待ち伏せで感じた気配とは別種だ。

 寒気を感じていた俺だが、それとはまたさらに別の気配を察知。

「っと、こりゃまずい。アガット、おっさん、ちょっとここ任せた」
「おい、さっきから貴様は勝手が過ぎーーーー」

 イケメンの台詞をサラッと聞き流し、俺は足下から斜め上後方に向け、直径一メートルほどの氷柱を作り、それに足を乗せた。ついでに足裏に氷を張り付けて氷柱と合体、滑り落ちないように固定すると氷柱の長さを一気に伸ばす。結果として、俺の体は真後ろの馬車を飛び越えて反対側に飛び出る。これで、回り込むより早く移動できる。なぜこんな妙な移動手段を取ったかと言えば。

「かっ、来やがったか狼藉者共ッ」

 いましたよ。覆面で顔を覆った暗殺者が四つ、馬車の後方から迫っていた。俺たちが前方の魔獣達の対応に追われている最中に、後方から音もなく忍び寄りファイマを暗殺するつもりだったか。この状況を狙ったのか、この状況を好機と見たのかは定かでない。けれども、奴らの不意打ちは俺が奴らの存在に気が付いた時点で失敗だ。 

 馬車を完全に越えた辺りで氷柱と足裏の合体を解除、俺の体は地上四メートルぐらいの高さで自由になる。続けて今回は大斧ではなく氷の大剣を生み出し、着地するのと同時に切っ先を地面に突き刺した。

 イメージするのは、霊山でやり合ったアイスゴーレムとの戦闘。あの時に見た光景を、いまこの場に再現するッ!

「貫けェッ」

 気迫と共に、俺が剣を突き刺した地点から氷の剣山が突き出る。大地を食い破り、波となって迫り来る覆面共に襲いかかった。四人の内三人は剣山の波に飲み込まれ、体を貫かれた。一番後方で走っていた奴だけはギリギリのタイミングで逃れた。

「逃がしたかい…………だったら、もう一発ーーーーあ…………」

 再び地面に剣を突き刺そうと立ち上がろうとして、俺は愕然とした。

「足がしびれてうごけねぇ…………」

 そりゃそうだよ。いくら精霊術って便利な技があっても、それを扱う俺自身は普通の男子高校生だ。建物の二階か三階かぐらいの高さから飛び降りたら普通はこうなる。間違っても、剣の一振りでボウリングのピンよろしく敵集団を吹き飛ばせるようなエルフ耳巨乳美女と同等の身体能力は持ち合わせていない。

 半ば自爆で俺が身動きが取れない隙に、まだ無事な覆面が剣山を迂回し再び馬車に接近してくる。剣山での攻撃を諦めた俺は、氷手裏剣に攻撃を切り替えたが、なんと覆面は飛来してくる氷の刃を手持ちのナイフですべてはじき返した。銃の弾丸とまでは行かないが、弓矢ぐらいの速度はあったはずだぞ。

 そうこうしている内に、覆面が馬車に急接近。逆手に取ったナイフを構え、ファイマのいる荷台ではなくそれを守る俺へと走り寄る。そこで俺は己の失敗を悟る。氷手裏剣を投げるのではなく、斧を作って迎撃の準備をしておくべきだった。覆面が迫る中、現時点で俺の手元は空だ。新たに氷の武器を生み出すにしろ、僅かながらにタイムラグが生じる。辛うじて足の痺れを脱し、立ち上がるのが精一杯。

 俺の眼前でナイフの一閃が走る。俺はやむなく両腕に装備した手甲でそれを迎え撃つ。金属同士の擦過に火花が散る。ナイフという得物の性質上、重さはないがその分素早い。一息つく余裕無く繰り出されるナイフの連続攻撃を、刃が肌に触れるギリギリの所で手甲で弾いていく。レアルほどの重さはなくだが手加減もない、殺意に満ちたナイフ捌きが精霊術を使う余裕すら削り取る。

「このッ」

 感情任せに反撃したくなるのをぐっと堪える。下手に防御を崩せば、その隙を余さずに刺し貫かれる。やはり、普段から大斧を使う選択は正しい。広い間合いでごり押しするならともかく、至近距離からの技量戦に持ち込まれると途端に襤褸が出る。

「伏せてカンナッ。『エア・ショット』ッ」

 突然の声だったが俺は素直に従い、体勢が崩れるのを覚悟で体を伏せた。直後、俺の身体があった空間を『魔力で出来上がった風』が吹き荒れ、ナイフを振りかぶった覆面を大きく弾き飛ばした。

 背後を見ると、馬車の荷台の背部からファイマが両手を突き出してた。今の風は、彼女が放った魔術だ。馬車の中で待機していたファイマが隙を見て援護してくれたのだ。

「悪い、助かった」
「安心するのは早いわ。不意打ちを気づかれないように速度重視の術式だったから威力は無い。多分気絶もして無いわよッ」

 覆面は数度地面に転がるとすぐさま体勢を立て直す。俺は追い打ちに氷手裏剣を更に投げる。覆面はやはりそれらを弾き返すが、跳びだそうとする勢いは殺せたか。

 相手との距離が離れている内に、大斧を創造しようとするが止める。代わりに、手甲を更に氷で覆い、表面積を拡大した。素早い相手に間合いの大きい武器は対処しづらい。ここいら辺の判断は現実世界で培った、路地裏喧嘩での経験により即座に下せる。こういった場合、攻撃よりも防御を優先すべき場面だと確信する。

 再び覆面がナイフを翻して襲いかかってくるが、防御の範囲が広がったおかげで対処はしやすくなった。かといって楽になったわけではなく、覆面が俺より背後ーーファイマの方へと向かうのを阻止するので手一杯だ。

 ファイマもファイマで、覆面と俺の距離が近すぎて魔術の援護ができない。それを加味して覆面は俺とは離れないように接近戦に徹している。

(きっついなァッ)

 最初の遭遇時、俺は襲いかかってきた覆面の内、三人を撃退した。だが、思い返せばあれは相手にとって『俺』という存在が予想外すぎたが故の結果。半分くらいは運の要素で追い返せたようなものだ。

 言い換えれば、相手がこちらをある程度把握した時点で俺の有利はほぼ消え失せ、一転して劣勢に陥る。刃物を振り回す本職に正面切って勝てるほどに俺は強くない。それは精霊術を使っても同じだ。圧倒的な技量不足と経験の無さが足かせで、精霊術の強みを帳消しにしているのだ。

(けど、自分の無能とは付き合いが長いんでなッ)

 諦めの悪さと生き意地の汚さに、ついでにセコさ定評のある俺だ。天才のように咄嗟に最善の選択は選べないが、逆に時間さえあれば状況を打開する策の一つも思いつく。

 相手の土俵で戦ってやる義理などないと教えてやろう。

 鋭く突き出されるナイフが俺の水平に構えた手甲に命中。そして、相手が得物を引くよりも早く、手甲を覆う氷に注いでいたイメージを文字通りに『爆発』させた。現実世界で言えば『クレイモア地雷』の様なものだ。手甲を覆う氷が粉砕し弾け、その礫が覆面に向けて襲いかかる。この至近距離に、点では無く面をカバーする攻撃に、覆面は避ける間もなく全身に氷の礫を喰らった。

 強引に弾き飛ばされ、覆面の身体が宙に舞う。俺はその身体が地面にたどり着く前に、氷が残っていたもう片方の腕を地面にぶつける。拳の接点より広がる大地に向けて俺は瞬間的に込められる精神を叩き込んだ。手甲の氷が砕け、代わりにそこから俺のイメージが走る。

 いくらかのダメージを喰らった覆面だったが、点よりも面を優先したせいで、吹き飛んだ割に負傷は少なそうだ。軽業士のような見事な空中挙動で体勢を立て直し、両足から地面に着地した。

「ーーーーーッ」

 ところが、見事な着地だったはずの覆面は、まるで足払いを掛けられたかのように転倒した。覆面で表情は伺えずとも、奴の驚愕と混乱が目に見えて伝わった。慌てて手を付いて立ち上がろうにも、その付いた手すら足の時のように見えない何かに払われたかのように空を舞う。

「ファイマァァッッ」
「ーーーーッ、『エア・プレッシャー』ッッ!」

 俺の鋭い声に、背後で魔術を練り上げていたファイマが術式を解放した。俺との距離が離れ、それでいて完全に動きが止まった。まさに千載一遇のチャンスを、ファイマは見事に狙い撃つ。

 動きを止めた覆面の直上に、いつかのアイスゴーレムが現れたときと同じ様な幾何学模様が出現。だが、それとは全く別質の構図と気配だ。次の瞬間、覆面とその周辺の地面が轟音を立てながら大きく陥没した。具体的に何が起こったかは不明だが、まるで幾何学模様から不可視の大槌が振り下ろされたかのようだった。陥没地の中心を見ると、覆面姿の男がピクピクと痙攣しているが、意識は既に無い。

 これで、こちらの方面で動いているのは俺とファイマだけになった。

「今の魔術は?」
「原理は至って単純。あいつの上空に空気を圧縮させて、真下方向に限定解放しただけ。たかが空気とはいえ、超圧縮した空気が一方向に解放された勢いは半端じゃないわ。ただこの魔術、術式も単純だし威力もあるんだけど、座標の固定から空気の圧縮、それから解放までのタイムラグがあるから、相手の動きを完全に止めないとまるで当たらないんだけどね」

 それよりも、とファイマは動かなくなった覆面の、正確にはその周辺の地面に目を向ける。

「さっきのあいつ、不自然に転んだけど、あなた何かした?」
「奴が着地するだろう付近の地面を凍り付かせた。身軽な奴でも、突然地面が氷ったらバランス崩すだろうさ」

 よくよく見れば、陥没した地点とその周囲に、きらきらと光を反射する氷の礫が散乱している。

「…………上位属性の氷魔術をそんなセコいことに使う人見たこと無いわよ」
「何を言う。セコさと小細工は俺の十八番だ」
「オハコ?」
「伝わらねぇのか。得意技って意味だ」
「…………過程がスゴいのに、出される結果が小細工って。実際に効果があったからなおのこと酷いわね」

 そうか? 小細工で大物を倒すのって結構楽しいぞ。

 とにもかくにも、目下の危機は脱したと見て間違いない。馬車前方から伝わってきていた喧噪もいつの間にやら収まっていた。

「カンナ、いなくなったと思ったらこっちにいたのか」
「おおレアル、そっちは終わったの…………ぎゃぁぁッ」

 声の方を振り向けば悲鳴が出ました。何故かって? 銀髪長耳美女が全身真っ赤っかになってこちらに近づいて来たからだよ。ファイマも同じく赤いレアルさんを見て腰を抜かしそうになっている。

「ちょ、おまッ」
「ああ、大丈夫だ。これは全部返り血だ。怪我らしい怪我は無い。かすり傷程度だ」
「だとしても怖いわッ!」

 乾いていない血飛沫が光を反射して非常にグロテスク。本人が普通にしているからより一層異様な光景を演出している。

 あれだけの魔獣の集団を惨殺してたら、全身返り血に染まるのも当たり前だ。アニメやゲームの戦国モノやら無双系ってスタイリッシュなイメージあるけど、リアルな視点だと非常に血みどろな世界だよな。

「で、あっちの方は片付いたのか?」
「とりあえずはな。ただ、従者の一人が負傷した。名前は何だったか?」
「誰が怪我したのかは分かった」

 これで通じてしまう辺りかなり不憫な扱いを受けているな、彼。後でしっかり名前を聞いておこう。

「今はランド殿とアガットで応急処置を行っている。命に別状はないだろう。して、こっちはこっちで忙しかったようだな」

 陥没した地点の中心地にいる覆面、それと氷の剣山に刺さったままの三人に目を向けた。

「…………君も人のことは言えないな。人間が張り付けにされて空中にぶら下がっている光景はなかなかに酷いぞ」
「俺も今そう思った」

 指を鳴らし、精霊術で作ったこの場のすべての氷を粉砕した。固定していた氷も砕け、串刺しになっていた三人は音を立てて地面に落ちる。

 そして、身体に穴を開けられた覆面達を中心に、赤い染みが広がりだした。それは、レアルの身体を染め上げているのと同じ色をしていた。

 そこに命が無いのは、既に知っている。

 今更ながらにーー

 本当に今更ながらに、自分が何をしたかの事実を確認した。

 俺は、人を殺した。
先日、初の感想文を頂きました。ありがとうございます。やるきがぎゅるぎゅるもりもりアップしております。
以降の感想文も絶賛募集中。
ただ、作者は豆腐メンタルなので、誹謗中傷はお控えください。いや本当に。
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