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カンナのカンナ 異端召喚者はシナリオブレイカー 作者:ナカノムラアヤスケ

第一の部 狂い出す世界

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第二話 凍死一歩手前で山越え完遂

バトルはまだ先。
 休憩を小刻みに入れつつ計四時間の飛行を終え、レアルは山脈を一つ越した麓で竜を下ろした。

「ご苦労様。お陰で助かった。ゆっくり休んでくれ」

 レアルは竜の顎をくすぐってからねぎらいの言葉をかけ、数歩下がった。キュイキュイと別れの挨拶らしい鳴き声をあげると、足下に出現した陣から発生する光に包まれた。躯全体が光に覆われ、竜の姿が見えなくなると、徐々に光は輝きを失い、光が完全に消失すると竜の姿も地面に浮かんでいた陣も同じく消えていた。レアルが竜を呼び出すときとは逆の順繰りだ。最初に見せられたときは度肝を抜かれた。

 契約を交わしたモノを手元に呼び出す召喚魔術だそうだ。

 そう、このファンタジーな世界には例に漏れずファンタジーの代名詞とも言うべき『魔術』が存在するのだ。そしてその原動力である『魔力』はこの世界の人々にとって、俺たちの世界での『電気』と同等に身近に存在するエネルギーらしい。

「へっくしょい」

 ガチガチに冷えた躯を両腕で抱きながら俺はクシャミをまき散らした。今越えた山の標高が高いの何のって。上の方なんか雲を貫通してるぞ? そんな高々度を学生服で越えたんだぞ? 寒いなんてもんじゃない。幸いだったのは、制服が長袖のガクランだったくらいか。気休め程度だ。

「おっとすまん」

 軽く宙に印を切ると、レアルの指先に火がともる。それを正面にかざすと火は指先から分離し、空中で火力をまして炎となった。

「ああ……癒される」

 物理的な温もりに、涙がこぼれそうになる。

「あれだけの高度を飛ぶ場合、普段は防寒具を着るのだが、今回は緊急時だったから火属性の魔術で代用したんだが…………無理があったか?」

 竜が徐々に飛行の高度を上げていく過程で、防寒対策としてレアルが火属性魔術を俺らの周囲に展開したのだが、完全ではなかった。風が至るところから吹き抜けてきて、気が遠くなるほどに寒かった。彼女は己の力量不足に申し訳なさそうな顔をするが。

「属性魔術は必要最低限にしか修得してなかったのだ。寒い思いをさせてすまなかった」
「アレがなかったら確実に凍死してた自信あるね、俺は」

 意識が飛んでいたらそのまま昇天していたかもしれん。そうすると異世界にいる俺はどんな天国に召されるのだろうか。

 というか、レアルさんはあまり寒そうでないね?
「属性魔術は苦手だが、付与系統の魔術は得意でな。対冷魔術を自分にかけていたのだ。防御系の魔術は得意なんだ」

 さよけ。

「さて、ここまでくれば数日は大丈夫だろう。我々が城からこの山を越えるまで、どれだけ軽く見積もっても三日は掛かる」
「追っ手の方も竜とかでとんでくるんじゃ?」
「だとしても、この山を越えられるほどの竜はそうはいない。少し自慢だが、私の契約した竜は、竜種の中では上位に入る。その分、飛行限界高度も速度もかなりある」
「あの癒し系が?」
「あの癒し系が、だ。さっきも言ったが、あの竜はあまり人になつかない種族だ。人種は問わず、滅多なことでは契約できん」

 つまり、滅多に出来ない契約をしたレアルはすごい人なのだろう。感心すると、俺の視線に気が付いたレアルは頬を若干赤らめた。

「ま、まぁ滅多に出来ないとはいえ、出来ないわけではない。私など足下に霞むほどに大物と契約したものもいるにはいる」

 照れ隠しのためか、己よりも格上の相手を押そうとする。妙に落ち着かない手振りに、凛々しい印象のレアルが可愛らしく見えてくる。

「は、話を戻そう。とにかく、仮に追っ手が来ていても、付近の村で一泊する分には問題ないはずだ。竜種は飛行速度はあるが人を乗せての継続飛行はあまり得意ではない。今回のように持って四時間が限度」


 エンジンのギアと同じか。速度は出ないがパワーが出る低速と、速度は出るがパワーがない高速の違い。
「それにそろそろ日も暮れる。どちらにせよどこかで一泊はしなければならない」

 付近にある村は、山を越えた時点で小さく民家の集落が見えたので位置は分かっている。村付近に竜を着地させなかったのは、人目に付くのを避ける為。魔術自体はポピュラーだが、召喚術系統はかなりレアな部類にはいるとか。というか、竜自体が珍しいので、どうしても注目を浴びてしまうのだ。

「…………目立つならその耳も目立つんじゃね?」

 ピコピコしている彼女の長い耳を指さす。

「それは問題ない。これの形はエルフのモノと変わらん。私は母方がエルフでな、ハーフなのだよ」
 エルフ発言きましたよ。ファンタジーの代名詞第二弾ですよ。二次元大好きな人間にはたまらんでしょうよ。俺も若干オタク入っており、かつ可愛い物好き。耳がピコピコしているのを見ると、触りたくなってきてしまいます。

「エルフなら人族に比べて数は圧倒的に劣るが、いるにはいる。あの城の城下町にも、探せばいるだろう。その程度だ。実際、エルフの旅人が辺境の村を訪れることも珍しくない」
「吟遊詩人的な?」

 俺の知っている創作物に出てくるエルフは、竪琴や笛をたしなんでいるイメージが強い。

「よく知っているな。そうだ、エルフは指先の感覚が鋭く、楽器の扱いに秀でていてな、趣味と旅費稼ぎをかねてよく街で歌っている。私はさすがに扱えないがな」
「つまり、俺たちは旅の傭兵とそのお付きってことか」
「そう振る舞っていた方が無難だろう。付き人扱いで君には悪いかもしれないが」
「平気平気。むしろお世話になりっぱなしでこっちが悪いくらいだ」
「君に助けられた恩は、私にとっては一生モノだ。このぐらいならおやすいご用だよ」

 この異世界に無理矢理呼び出されはしたが、この女性と出会えたことは俺にとっては間違いなく幸運だと思えた。彼女はこう言うが、俺は俺として彼女に報いたいと願った。

 …………このとき、俺とレアルは完全に失念していた。というよりも気づけるはずもなかったかもしれない。

 俺らが竜に乗って越えた山は、この国にとって特別な意味を持つ霊山であったこと。

 レアルの不得意な魔術でのあの簡単な暖で、俺が峠を乗り越えてしまったこと。

 最後に、俺がこの世界に呼び出されてしまった『条件』。

「へっくしッッ! うう…………早く風呂に入りてぇ。ってか、風呂ってあるのか? もしかしたら贅沢な希望?」
「三軒に一つぐらいはある。宿屋ならあって当然だろう」
「うぉおっし。おいしいご飯と風呂があるなら、俺はどこでだって生き延びられるぜ!」
 
癒し系竜はここでいったん出番がなくなります。レアルにとっては頼れる相棒なので後に再登場する予定です。キュイキュイ。

魔術の詳しい説明は後々に。
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